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紡ぐ言葉  作者: 葉桜
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41話

(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「俺は、強くなんてないよ」

 へらりと少しだけ無理したように笑いながら告げた千里の声に、秋良は口を押えた。なんとなく千里の地雷を踏みぬいてしまったような気がしたからだ。思わず出た言葉、何気なく発してしまった言葉。その何気ない秋良の言葉に千里が一瞬表情が固まったのだから。ほんの一瞬だった。それでも秋良は自分の言葉で千里の表情は一瞬以上に感じるほどに固まってしまった。

 仕方がないこともある。秋良は何も知らない。教えてもいないのだから。それでも千里の心を揺さぶるには十分すぎる言葉だった。うまく笑えているか分からなくて、秋良の顔をじっと見つめる。秋良は目をそらすと、頭を下げる。

「ご、ごめん。千里……私……」

「秋良、気にしなくていいんだよ。それになんで謝るの?」

 秋良が頭を下げてきたことに驚きながら千里は「頭上げろって、また変な噂流されちまうよ」、なんて言いながら頭をあげさせる。秋良は申し訳なさそうな顔をしている秋良と目が合う。

「秋良、俺なんかに謝んなくていいんだよ」

 千里は秋良に怒ることができなかった。何も知らない、何も教えていなかった。千里としてはこれからも教えるつもりもないし、知らないままでよかった。如一には口止めをしているし、他に事情を知っている奴にも口止めをしてもらっている。下手に話してほしくないし、知られたくもなかった。如一には話さざるを得なかったし、むしろ話したからこそあの時は救われた。伊織にもあの場では話したが、機会がなければ話すつもりはなかった。千里には、事情が話せるほどにまだ強くなかった。

「でも「大丈夫、傷ついていない。だから気にすんなって」

 秋良の言葉を遮るように千里はにこりと笑いながら口を開く。何も知らない秋良は言葉が詰まる。空気が重くなって、気まずい空気が流れる。どうしようかと思いながら視線を彷徨わせると時計が目に入る。時間的には朝のホームルームが始まる時間だった。このままここにいたら彼女は遅刻しそう。そう思った千里はこの空気を解消するために重たい空気を破壊するために口を開いた。

「秋良、もうホームルームの時間になるから教室戻りな。怪談とか落っこちないように気をつけてな?」

「……うん。じゃあ僕、教室に戻るよ」

「じゃあまた後でな。……あ、そうだ。教室居にくいんなら如一に相談するといいぞ、あいつなら力になってくれるからよ」

「分かった、ありがとね、千里」

「おう、またなー」

 背中を向けて秋良は教室へと戻る。その背中に向かって手をひらひらと振りながら見送る。千里は心の中で秋良に対し、謝罪の言葉を贈る。何も話してあげられない、何も話せないことに対して。

 教室の中はざわざわと少し騒がしい。窓の外を見れば慌てて教室まで走って遅刻を免れようとしている生徒がちらほらと見えるし、慌てることなく教室に向かう生徒も見受けられる。教室は先生が来る直前まで席に座ろうとしない生徒で溢れ散るのか、まだ談笑を続けている。机に突っ伏しながら窓に映る自分の顔を見ると、ひどく情けない顔をしていた。教室の騒がしさに消えるような小さな声で、そっと呟く。

「やっぱり”わたし”は弱いまんまだなあ」

 窓の外では、雨が降り始める。遅刻指導をしていた教師たちも慌てて校舎の中へ戻っている。教室のドアが開き、遊原が入ってきているのが分かる。生徒たちは慌てて自分の席へと戻っていく。

 ホームルームでは何気ない教師からの連絡事項が耳に入る。ほとんどいつも聞き流しているし、何か重要なことがあれば、きっと後で幼馴染が教えてくれるから、なんて思いながら話を聞いている風にしながら前を見つめる。けれど、たった一つの言葉だけがやたらと耳に残って頭にこびりついて離れてくれはしなかった。

「雨で地面が滑りやすくなっていて、事故が起きやすいから気をつけろ」

 どうしてもこの言葉は頭から離れてくれなくて、何か嫌な予感がしてたまらなかった。


 窓の外では雨が強く降り始めていた。この雨ができることならこの嫌な予感や頭のべたべたすべてを拭い去ってくれなんて思うけれども、眺めていると余計にもやもやが増して、べたべた感はぬぐえない。

「……雨、止んでくれねえかな」

 もともとあまり好きじゃなかった雨。ぬれると寒くて、体の体温を奪っていく雨。怪我があるとそこにしみる雨。雨が、嫌いだった。この雨がいつも自分の心を表しているようで、自分の弱さを見せつけられているようで嫌で、仕方がなかった。ただただ、雨がやんでほしい、そう願うほかなかった。


 騒がしい教室から出ると、廊下は蒸し暑くて、じめじめしていた。廊下は蒸し暑いのもあって教室の騒がしさが一層際立つ。教室にいるのもなんとなく嫌でどこに行こうか、なんて頭を悩ませるが考えるのも面倒で頭もなんだか痛みは増しているし、気分が悪いということにして保健室で寝ようと思い、保健室へと足を向けるのだった。

 梅雨が、はじまりを告げたのだった。

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