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紡ぐ言葉  作者: 葉桜
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39話

(注)この物語には多少の流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

未成年に酒類を故意的に飲ませることも犯罪です。真似はしないでください。

楔は千里に言われたようにリビングのソファーに腰掛ける。すると、ほんの少しだけいつもよりもテンションが低いというか、声のトーンが落ち込んでいる千里がソファーに座っている楔に声をかけた。

「楔、適当に好きなテレビでも見ててよ、夕食作っちゃうから」


へらりと笑いながらそんなことを言うとリモコンホルダーからテレビのリモコンを取り出し、楔に手渡す。楔もそれを受け取ると、適当なチャンネルに合わせて適当に聞き流す。というのも楔は落ち着かないのだ。千里は全く気にしていないようでキッチンで黙々と夕食の用意をしていた。慣れているのだろう。あの過保護な幼なじみのことだ。一人暮らしを始めてすぐの頃はよくこの家にきていたに違いない、そう思わないと違和感があるくらいに平然としていた。


一方千里は少し考え事をしながら夕食を作っていた。考えている内容は食事の量とかそんなことだった。理由はいたって簡単だ。普段千里はあまり食事を取らない。いや、この言い方はあまりふさわしくはないだろう。厳密に言えば、あまり食べられないのだ。ある事件の一件以来、食事を美味しいと思えないのだ。人といるときには食べるようにはしているものの、昼食だって本来ならばあまり食べたくない。なので、この間楔が自分の弁当を半分以上持って行ってくれたときは感謝しか感じなかった。まぁ、その時は卵焼きに酒を入れすぎて自分で食べようと思っていたのに食べられて酔っ払ったのは迷惑極まりなかったが。それでも、あの卵焼きにはそんなに酒が大量に入っていたわけではない。少し入れすぎたかな?ぐらいものだ。

ということは彼は恐ろしく酒に弱いのではないか?という意見にたどり着いた。

「ぁ……これ使えないか?」

というのも、今日は彼に洗いざらい本音を吐かせようと思ったのだ。しかし、多少なりとも恥というものはあるだろうと思い、吐かせ方に少し悩んでいた。しかし、そうと決まれば早い。ちょっと前にあさりの酒蒸しでも、と思って買っていたあさりを取り出し、慣れた手つきで作り始める。いつもより多めに作ることを心掛けながら淡々と無心で料理を作る。


作り始めて、どのくらいが経っただろうか。すでにテレビはバライティー番組になっていたし、楔もつまらなさそうに画面に目を向けていた。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら千里はエプロンを外しながら彼に声をかけた。


「待たせて悪りぃな、楔。飯、食いながら話全部聞いてやるから、こっち来い」

「ん、ありがと。てかお前って意外と料理できるよなぁ……」

「……まぁ、昔色々あったし、できるようにもなるよ。つうか、俺の話はどうでもいいから」


楔に声をかければ気だるげに顔を上げ、お礼の言葉を告げられる。その後に褒められているのかけなされているのかよくわからない言葉に対し、千里は俯きながらできるようにもなる、と口にする。楔にはよく聞こえなかったのか、首を傾げ、その言葉をもう一度聞こうとするが、千里の言葉によって遮られ、一気に自分のことを話す流れになってしまう。楔は少し困ったようにしながら夕食に手を伸ばすと、誤魔化すように口に運んだものの感想を述べる。

「ほら、話した言いように話しなよ、俺は聞いてるから」

「いきなりんなことを言われても……あ、これ美味しい」

「美味しいのは良かったけど……。まぁ、いいか。んー、じゃあ質問。なんで伊織のこと好きになったの?ほらほら、お姉さんに話してみなよ」


千里は料理に関する感想は半分スルーしながらラチがあかないと思ったのか楔に質問を投げかける。楔は千里のお姉さんの言葉に反抗しつつも質問に頬を染め上げると、モソモソと話し始める。

「誰がテメェの弟になんかなるかボケ。……最初、はほんの興味だった。俺ほら顔可愛いじゃん。だから学年を問わずに人気者だったんだよ。顔目的のクソ女に囲まれててその俺の側にいれば女が手に入ると思っていたクソ男にばかり寄ってきて。でも、あの二人は違った。二人だけの世界に入り込んでて、俺のことなんか見えてないみたいだった。それで、なんとなく二人と話してみたくて、その中でも伊織ちゃんと話してみたかった」

「ふぅん、一目惚れ?」

「知るか。まぁ、そこはいいとして知り合った経緯は結構単純。俺がまだ引っ越してきたばっかりの時、家の鍵無くして親も兄貴も家に帰らない日で。だんだん暗くなってくるし、寒いし、怖いし腹も減るしで泣きたくなったときに伊織ちゃんが助けにきてくれたんだよね、大丈夫だよって言いながら、頭も撫でてくれて、家にも泊めてくれたんだよ。そんときにだけど、なんとなくどきっとして……」

「……うん」


彼が彼女に寄せていた想いの年月は長い。初めてあった時から彼はほとんど一目惚れに近い何かを感じていたのだ。


「勿論、この時は恋だなんて思ってなかったし、思いもしなかったんだけど、確信を持ったのは……あの時、かなぁ。今の俺のキャラ、さ伊織ちゃんに好かれたくてやってるんだけど。やっぱりきにくわねぇってやつもいて。まぁ、くだらない嫉妬なんだろうけど。それもずるいんだぜ?一人に対して複数人でさ。けど、そのときに助けに入ってくれたのが伊織ちゃんと翔太だったんだ。ま、あいつは茶々入れが一番だったんだろうけどね。それでも嬉しかった、なぁ。そんときの伊織ちゃんがね、すぅっごくカッコよくて。そのときに初めてあぁ、好きだなぁって自覚したんだ」


千里はただ、黙って楔の言葉を聞いていた。彼の言葉がもうすでに返事を求めているものではなかったから。彼の言葉が核心に迫っていたから。ここで茶々をいれられるほど、馬鹿ではない。

「そんで、2年前のあの事件の時に伊織ちゃん……俺の前でだけ、弱いところ……ううん、それ以上だよ、涙を見せてくれて、その時俺が守らなきゃって思ったのもそうだけど、伊織ちゃんたしかに強いけど、改めて一人の女の子なんだなって自覚して、これはもう結婚しないとって思って

……勢いで抱きしめちゃったし……」

「いや、いきなり思考回路ぶっ飛んだのかよ」

ボフン、と言いそうなぐらい一気に顔を染め上げると顔を伏せながら抱きしめちゃった、というときゃー、なんて可愛らしい女の子の叫び声をあげる。しかし、ここまできて初めてここは突っ込まねばと思ったことはない。一体全体どんな思考回路をしていれば、そんな考えに行き着くのかが理解できなかった。いや、守らなくてはいけない、そう思ったのまでは理解できた。しかし問題はそのあとだった。おかげで程よく回っていたものが一気に冷めていく。楔はといえば、先ほどよりも顔を赤くしてうつ伏せになっていた。

「そ、それにね伊織ちゃんにはいつも助けてもらってばかりだったから今度は俺がお返ししなきゃって思って……そんな時だったから伊織ちゃんの涙がすっごく可愛くて…」


楔の伊織に対するまっすぐなほど一途な気持ちにまた胸がほんの少し痛む。気持ちが離れるどころか、惹かれていく一方でこの恋が冷めることを知らなくて、苦しくなる。いつも通りに振る舞えているか不安に思いながら口を開く。

「おう。んで、告白した時伊織はなんて言ったのさ」

「気持ちは嬉しい、けどきっと僕の好きは楔のいう好きじゃないから僕が分かるまで待っててほしい。そう、言ってた」

「どうせ、お前のことだから、諦めらんねぇよ。それはきっと脈ありなんだからさ、頑張れよ」

ヘラリと笑いながらそういえば、そうなのかなぁ、なんて少し眠たげな彼の声を最後に規則正しい呼吸音が聞こえる。

胸のベタベタ感を消したくて、コーラの缶を開けると舐めるように少しづつ喉に流し込む。しかし、一行に胸のベタつきは拭えなかった。

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