36話
(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「マジなんなの、あいつ!」
「おーおー、荒れてんなぁ。大丈夫か?声がデケェんだよ。せっかくの可愛い子ちゃんやってるのが崩れてんぜ」
昼休み。千里は翔太の誘われたとおり、屋上に来ていた。しかし、誘ってきた肝心の翔太はというとどうやら伊織に対する対応やその他諸々ので、来れなくなったらしい。それを楔から聞いた時は肩をすくめた。しかし、この様子を見れば、楔と千里の間に流されている噂は耳に入ってないらしく、楔には土下座して謝ったし、翔太には業間休みに少し時間を作って迷惑をかけかもしれないことを告げてある。翔太は少し溜息を吐いた後に、『お前は悪くないもんなぁ……まぁ、いいや。伊織とは無関係なら』と言っていた。さすが番犬だ、なんてかすかに千里は思ったのは秘密だ。
しかしそれでも気まずいのは変わらない。楔の言葉を聞きながら弁当に入れていたウィンナーを口に入れる。楔の荒れる気持ちもわかるのだが、もう少し声を抑えて欲しい。あれだけ隠している楔の本性がこのままでは学園中に響き渡ってしまう。軽く茶化しを入れながら声が大きいことを伝える。勿論、ジロリと睨まれたわけだが。
「荒れる気持ちもわかるけど、とりあえず落ち着けよ。マジで声でかいからバレんぞ。……噂が嘘だってのを証明するためにいっそのこと伊織に告っちゃえば?」
「あ……そっか、その手があるんだったわ……。そして俺だけの伊織ちゃんにすればいいのか……」
自分で言っておいて胸が苦しくなる。あぁ、言わなければよかった、なんて思う。楔の言葉を聞いて、自分が言った言葉を早くも後悔をした。それでも、千里はこの気持ちには蓋をしないといけない。だから下手くそに笑いながら再び口を開いた。
「……そーだよ、お前噂のせいで頭回ってないんじゃないか?……つうか、俺だけのって……」
「え。だめ?俺だけのにするの。……あの、ありがとな、地雷」
「別にいいって。気にすんなよ。成功することをここで願ってるよ」
うまく笑えているかは自信がない。それでもこの言葉だけは言わないといけない気がして、伊織に告白することを提案するとその手があったかと言わんばかりに顔を上げる。しかし、すごく今更で苦笑を零す。しかし、余計に自分で自分のことが嫌いになる。他人の背中を押してばかりで自分の気持ちには素直になれないのも、嫌われたくないからって協力している風を装っている自分にも。そんな複雑な気持ちを抱えていることは一ミリも知らない楔は少し不安げな顔をしながらこちらを見やりながら口を開く。
「じゃあ地雷、さ。背中押してよ。翔太の時みたいにさ?んでもって振られたらお前に八つ当たりしてやるからな!」
「おーおー、勝手にしろ。……えっと、楔、頑張れよ。俺、応援してるからさ俺、ここで待ってるわ」
楔は千里の言葉を聞くと、先ほどまでの自信がなさげだった背筋を伸ばした。目つきも先程のイライラした瞳がなくなり猫かぶり中の瞳へと戻る。いつ見てもこの演技力はすごいな、なんて思う。
「じゃあ伊織ちゃんに告白してくるねぇ」
「おう、言ってこい」
千里が微笑を浮かべながら軽く手を振りながら見送る。しかし、その途中で楔の足が止まる。
「ん……?どうしたんだよ、楔」
「ね、地雷はさ振られたらマジで慰めてくれるの?翔太の時みたいに……」
「なぁにを今更。あったり前だろ?しょうがないから他にも色々聞いてやるよ」
楔がいきなり立ち止まった事に千里は頭に疑問符を浮かべながら声をかけると、先程のような不安げな声で
質問を投げられる。顔をあげて彼の顔を見れば、いまにも泣きそうな顔の楔が立っていた。その顔を見ると千里は軽く肩をすくめると苦笑しながら口を開いた。その言葉を聞いた楔は少し呆れたような顔をしながら少し、考えを巡らせる。こういうところ、伊織ちゃんに似てる、と。そう思ったのは他にも理由はちゃんとある。千里の何も考えていない、無表情の時の顔はなんとなく伊織の顔に似ているのだ。
「……なんだよ、人の顔をまじまじと見つめて。なんかついてる?」
「いや、お前ってお人好しだなって思ってさ」
「うるせぇよ。俺は別に……そんなんじゃない」
千里は楔の言葉に、一度目を見開くと迷惑そうに苦虫を噛み潰したような顔をしながら不機嫌そうに言うと楔はその顔を見ると小さく笑いながらまた口を開く。
「ははっ……、地雷がいてくれてよかったよ。じゃあ、そろそろほんとに行ってくるね」
「おぅ、早く行ってこい。成功しても失敗しても報告しに戻ってこいよ。ここで待ってたやるよ」
「ん……成功したら自慢してやるから、楽しみにしてろよ。お前ならなんでも言えるし」
「そっか、つーか早くいけよ。昼休み終わっちまうぞ」
「あ、やっば。じゃあ、またあとでね!千里ちゃん」
千里は楔の背中を見送りながら笑みを作り上げる。楔が確実に視界からいなくなったのを確認してから小さな声で呟いた。
「なんでも話せる、ねぇ……。喜んでいいのか、悲しめばいいのかわかんねぇけど、少し、辛いかな」
そう言うが早いか千里はゴロン、と屋上に寝転ぶ。成功すればいいな、成功したらなんて祝おうかな、そんなことを遠くで考えながらそっと目を閉じた。




