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紡ぐ言葉  作者: 葉桜
37/45

34話

(注)この物語には多少の流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

『王様だーれだ!』

「よっしゃあああああ!!俺様王様!!」

「うるせぇんだよ馬鹿野郎!!にしても……マジかよ如一なのか……」


如一は自分の引いたくじを見るなり、ガッツポーズを決めながら声を上げた。千里は隣にいたので、ダイレクトにその声が耳に届く。耳を抑えながら叫んだ後に、ため息混じりに当たらないことを願いつつ口を開いた。如一はにたぁと卑しい笑みを浮かべながら、王様の命令を下す。

「ふっふっふー!二番は一番に告白!ちなみに一番のやつはちゃんと返事返せよ〜。嘘告かも知れないし、本気かもだしな。断るなら断っていいし、いいよって言った後に告ったやつが断ってもオーケー。二人がOKならそのまんま付き合え」

「うっわ……俺二番じゃん……。一番誰だよ、めんどくせぇから早く終わらせるぞ。つかお前のそれ合コン向きだろ……」

「僕だよぉ、千里ちゃん」


千里はその発言を聞いて面倒くさそうに顔を歪めながら口を開いた。最後には悪態をついて。千里が投げた質問については、楔が自分が一番だと、自白をする。それを見た瞬間千里は目を見開いて、その後に少し焦ったような口ぶりで口を開いた。

「や、やっぱり、さ……断る。やっぱり好きなやつ以外に告白なんて出来ないよ」

「……別にそれでもいいけど、罰ゲーム、まじ告白にさせる」

「……分かった。じゃあ罰ゲームのする相手いねぇからしょうがねぇから一番の楔に告白してやるよ」


如一はいつもと違う千里の態度に若干戸惑いながら、罰ゲームとして本命をあげると、千里は盛大なため息を吐きながらじゃあ楔にする、と言うと、少し呼吸を整えながら、楔のことまっすぐと見据える。

「あ……あのさ。俺、お前の一途で真っ直ぐで案外律儀で計算高いところ、好きだったよ。ずっと前から。付き合わない?」

「気持ちは嬉しいけどぉ、ごめんねぇ。僕伊織ちゃんが好きなんだぁ〜」


1通り千里が告白とやらをすると楔はいつも通りの返し。千里は泣きそうになるのをこらえながら無理やり笑いながら、おどけたふうに口を開く。

「んなの知ってるよ……。てか本気だと思ったわけ?嘘告に決まってんだろー?」

「ちょっ……、千里ちゃん痛いよぉ、千里ちゃん力強いんだから、気をつけてよねぇ!」


千里は誤魔化すかのように楔の背中を軽く叩く。楔の痛い、という言葉にはテメェ嘘ついてるんじゃねぇ、と後で問い詰めるとして、問題は如一だった。

「わー!さっきの千里、本気みたいだった!可愛い〜!」

「如一は後で半殺し決定な。後で覚えておけよ」

「は?!理不尽じゃね?!」


千里は如一に向き直るときっと睨みつける。それに構わず本気みたいだ、と告げる。そんなのは当たり前だ。千里はずっと楔が好きだったのだから。こいつ、後で一発殴らせてくれないなら、今後とある事件の処理してやらねぇーとか思いながら。

「……あー、俺ちょっと用事思い出した。遊原先生に呼ばれてたんだわ。ちょっくら行ってくんねー。あぁ、王様ゲーム大会続けててもいいよー。俺いつ帰ってこれるかわかんねえし、俺抜けるね」

「ちょ……、待ってよ千里ちゃん!」

「ごめんな!」

本気で楔は振っているということを知っているのは辛かった。楔の気持ちを知っているから。余計に、苦しかった。逃げるかのように職員室の方に回って屋上へと向かう。少し遠回りになるかもしれない。それでも良かった。屋上なんてめったに来ない。遅くても、屋上にいるとは考えないだろう。後ろから蒼が話しかけてきていたのは分かっていたが、それを無視して、千里は教室を出ていく。


「あーあ、分かってたけど振られたかー……案外きっついなぁ……。あー……俺結構楔のこと好きだったんだな……。つか、これが失恋ってやつ?苦しいってやつか……。初めて知ったよ、久々だなぁ、自分の感情理解出来たの」

「千里ちゃん……?」

「……!!あ……蒼……。今の見ちゃった?」

「……ううん、でもなんで泣いてるの?」


蒼は若干息切れしながら千里に声をかけた。蒼は千里のあとを追いかけて屋上に来てみたら、気がついた時には、千里が涙を流していた。蒼は気がついていた。あの時、遊原に呼ばれていたのは嘘だ、と。あの場から逃げだすための嘘だと。蒼も適当なことを言って抜けてきたので、あの後のことは知らない。蒼が泣いていたことを告げると千里は心底驚いたかのように目を見開きながら目元にあった雫を拭うと苦笑をこぼした。千里が泣くなんて、蒼もここ数年見てなかったのもあり、少し動揺していた。蒼が少し慌てた様子で千里の近くに駆け寄ると、目元に溜まっていた涙を拭った。

「……え?あ、ホントだ。ごめんね、ありがと、蒼。つーか泣いたのも久しぶりだな。……泣いてるのバレちゃったし、蒼には本当のこと話すよ。俺、楔のこと好きみたいなんだ。……もっと前から気が付いてたけど、自分で思ってたよりも本気で好きみたい。振られちゃって辛いや」

「千里ちゃん……。そっか、辛かったね」

「ううん、諦めきれないけど、これで良かったのかもしれない。いざという時に吹っ切れるから。このことはね、楔にも伊織にも誰にも言わないでほしいの。この気持ちは俺ん中で溜めておきたい」

「……っそっか。辛くなったら言ってね」

「ありがとう、蒼」


千里の言葉を聞いて蒼は胸が締め付けられた。悲しかった。久々に取り戻した自分で理解出来た感情が、苦しいとか、辛い、という感情で。気が付けなかった。いつの間にか千里の思いが楔に向いていたことが。気が付けたなら何かが変わっていたのか────。そう思わざるを得なかった。しかし、蒼が気がついたとしても、おそらくこの結末は変わらなかっただろう。千里自身が叶わぬ恋だと心の奥底から理解してしまっていたから。これならば、蒼が嫌いでも彼女の初恋相手だったならまだよかったのに。そんな思いも虚しく彼女の心は蒼が嫌いで嫌いで仕方がない彼へと向くのだった。

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