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紡ぐ言葉  作者: 葉桜
33/45

30話

(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「あーあ、調理実習とか面倒だよなー。てか肉じゃがくらい習わなくても作れるし、今の世の中ネットで調べれば何でも出るんだし、いらなくね?」


「うん、そうなんだけどね?千里、それ言ったら、学校いらなくなるよ」


千里はめんどくさそうにぶつぶつと文句を言いながらエプロンを慣れた手つきでつけ、頭にナプキンをつける。面倒だ、と言いながら伊織の憶えている限りでは少なくとも調理自習だけは一度もさぼっているところを見たことがない。学校休むことは多々あったが、その時もすべて仕事だとわかった今では大変そうだなぁ、というどこか他人事じみたことを思っていた。


「まぁ、そうなんだけどさぁ……家庭科のやる意味が分からない」

「そりゃ、千里は家庭科が出来るからそういえるんだって。僕は別の意味でなければいいのにって……。というかできる人の余裕みたいで腹立ちますね」

千里はいまだにむくれながらぶつぶつと文句を言っている。正直千里のなければいいのにはできるからこその余裕の”なければいいのに“であり、決してできない人の”なければいいのにではない。千里とは逆に伊織は家庭科というのは得意ではない。むしろ出来ない方だ。千里の余裕な無ければいいのに、という言葉は伊織に少しいらつきを持たせる。伊織が真顔で腹が立つ、と伝えると、千里はすぐに手を合わせて謝ってきた。そんな千里にほんの少しだけ笑うと、怒ってない、と告げた。

「はは……、手、切らないように気をつけろよ。怪我するからね。待って伊織ごめん」

「はーい。……嘘!怒ってないよ!……まぁちょっといらってきたのは事実だけどね」

「あはは……」

「伊織ちゃん、いつも日常的に自炊してる人と比べたらできなくて当たり前なんだから落ち込まなくていいんだよぉ!」

「お前はいきなり入ってくるな!」

伊織と話していると、いきなり割って入ってきた楔に千里が全力で突っ込みながら千里は苦笑をこぼす。千里だって特別誰かを目にかけているわけではないのだが、どこか死んでしまったお母さんに似ている伊織に怪我をされるのは嫌だったのもあり、十分に注意をしてから、「やっぱり調理実習無くてもいいわ~」なんて呟いた。今朝見た夢の影響もあるのか、ちょくちょく伊織や他にも同じ班の人で料理が出来ない人が気になっていた。珍しいかもしれないが、うちの高校は調理実習は二クラス合同で行う。グループは出来ない人ばかりが集まらないようにと配慮されて、作られており、千里はいつも伊織達とグループを組まされていた。……と言うか、そうしないと千里が参加しないからなのだが。


仲よさげに今度、あれ作ってみたいとか、あれ食べてみたいとか話している楔と伊織を見て千里は胸がちくりと痛み、唐突に話を蒼に振る。

「蒼だって調理実習なんてダルくね?まぁ、クッキーとかだったんなら嫌がらせと悪意と敬意を込めて神出鬼没な自称王子様とやらに送ってやるけどな」

「まぁまぁ千里ちゃん。千里ちゃんが班の中心になって教えてあげればいいじゃない。でしょ?それからそれやったらほんとうに千里ちゃん怒られるからやめようね……」


にやにやと笑いながら如一に嫌がらせであげることを伝えると、蒼から苦笑交じりに返答が帰ってきた。


「まぁ、そうなんだけどさー」

千里は少し、つまらないとでも言いたげにむっとしながらジャガイモを手に取ると、洗い始める。蒼はその様子を見ながらちらちらと見ていた。それを見て千里は少し苦笑しながら、周りを確認すると、ぱぱっと一瞬で割り振りを決める。6月まで見てきた仲でも、伊織と蒼と翔太は全くと言っても出来ない部類だ。因みに言うと、翔太が先ほどから会話に混ざってきてなかったのは、容易に手間取っていたからだ。今は伊織に手伝って貰ったのか、伊織に対して手を合わせてお礼を言っていた。


「あー……蒼はじゃあ俺と変わってじゃがいも洗っててよ。俺皮剥くから。伊織はにんじん洗っておいて。んで、楔はー……にんじんの皮むいて切っておけよ。お前、どうせ料理できんだろ?」


「「はーい」」

「んー、まぁできるけどねぇ、もし僕が出来なかったらどうするつもりだったの?千里ちゃん」

「そん時はそん時だけど、んなことあり得ないって思ってる」

「ひどいなぁ」


蒼と伊織は仕事を振られると、声をそろえて返事を返す。楔にはいつも伊織のために色々やっていると聞いているし、そもそもいおりは料理が出来ないというのも楔からの情報だった。その点を含めて考えても楔なら料理ぐらい出来るだろ、と言う判断からにんじんの皮むきと切断を命じる。楔は不満そうに口をとがらせていたが、否定も出来ない事だったのでおとなしく伊織が洗い終わったにんじんに手を伸ばすと、手慣れた手つきで皮をむき始める。千里の指令に自分が入ってないことに気がついた翔太は自分の仕事がないことについて指摘をする。


「待って?!俺千里の班なのに仕事無いんだけど?!」


「えー……。翔太はね……分かった、為ネギの皮剥いて洗っておいて」

「なんでそんなに適当なの?!……まぁいいけど」


それを聞いた翔太は少し不満そうにしながらも不器用そうな手つきで、タマネギの皮をむき始める。おとさないかなぁ、とか思いながら見ていたがそれでは自分の作業が進まないと思って千里は目の前に広がったジャガイモに向き直ると、人数分のジャガイモが洗い終わって丁寧に置かれていた。。

「ねーねー千里ちゃーん。僕ジャガイモ洗い終わって暇だよー」

「えぇー……暇って言われてもなぁ。……。じゃぁ、タマネギ、、切ってみる?」

「うん。猫の手、だよね?」

「そうそう。……じゃぁまかせるから、指切らないでよ」

「任せておいてよ、千里ちゃんに下手な心労はかけないから」


役目を終えた蒼がお父さんが子供にご飯のお手伝いを申し出たときのような態度で、千里に次に何やるかを聞いてくる。千里は他に出来そうなものを探したが、特になさそうだった。蒼だって、そこまで出来ないわけじゃない。逆にあまり得意ではないのは長年の付き合いで知っていた。特に味付けは一番やらせてはいけないのも知っていた。まぁ、そんなのはもっと先の話なのだが。少し悩んだ後に、翔太が皮をむき終わり洗い終わったタマネギが目に入った。気は進まなさそうにタマネギと包丁を持ちながら尋ねる。それに対して蒼は覚束ない手つきで一生懸命切っている蒼が心配なのか千里は手元にあるジャガイモから目をちらちらとそらして、見守りながらジャガイモの皮をするすると剥いてく。


「……もう、千里ちゃんはどれだけ僕を信用してないのさ……。僕のことばっかり気にして僕のことみてたらいたら逆に千里ちゃんが怪我しちゃうでしょ。ほら、ちゃんと手元見て。僕なら大丈夫だから」


そんなことをしながらジャガイモの皮を剥いていたせいか一通り切り終わったときに蒼と目が合ってしまい、蒼は戸惑ったような困ったような複雑な表情をしながら自分の手元を見ろという注意のために口を開く。千里はそれに対して少しだけたじたじにナリながら口を開く。

「蒼のことは信用してるけど……。それでもやっぱり心配なんだよ」

「それでも千里ちゃんが怪我しちゃったら意味ないから。だから千里ちゃんは自分のことに集中!」

「本当の本当に気を付けろよ!」

「わかってるってば!千里ちゃんお母さんみたいだよ」

「お父さんみたいな蒼に言われたくない」

蒼は千里の言い訳のような言葉を聞くと、少しやれやれとしながら、少しお父さんっぽく言い返す。すると千里もそれを知ったか知らずか、おかあさんのように返す。千里からすれば、ただただ心配なだけだった。蒼もそれをわかっていたからこそ千里でも返しやすいよう少しおどけた感じでお母さんみたいだ、そう告げると少しむっとしながら蒼には言われたくない、と告げると、顔を背けて、ジャガイモの皮をむき始める。それを見た蒼は「かわいくないなぁ」と言いながらけらけら笑い、再びたどたどしい手つきで玉ねぎを切り始める。たどたどしいながらも切っていく姿を確認すると千里もほっとしながらジャガイモの皮を再び剥き始める。翔太は手際のいい手元を見つめながら思わず口からこぼれた、という感じの声でつぶやく。


「そういえば千里って性格のわりに料理うまいのって……なんで?」

「よし、翔太ぶっ飛ばされる覚悟はいいか。……一人暮らしだし、それなりにはできるようになっただけだよ」

「は?なんで?!普通にみんなの疑問だと思うんだけど?!俺!……ああ、そうか、そうだよ、な。なんか……ごめん」


その声はしっかりと千里まで届いており、千里は一度不機嫌そうに声を上げてから、一度深く息を吐くと、料理がうまい理由を説明をする。顔を合わせないように顔を逸らしながら。質問への返答は若干濁した答えを返し、それ以降は何を聞かれようと答えない、そういう雰囲気をまといながらジャガイモの皮をむいていく。翔太は偶然とはいえ、千里の家の事情をほんの少しだけ知っている身としては確かにこの質問は不躾だったかもしれない。そう思った翔太は、申し訳なさそうに謝罪を述べると、どこから聞いていたのか蒼が口を挟んだ。


「翔太君、本当君って馬鹿だよね。謝るくらいなら最初から聞かなきゃいいでしょ」

「はっ!?どうゆう意味だよ!だから、その件も含めて悪かったって!」

「どう考えてもそのまんまの意味だよね。とりあえず翔太君はあとでしばくから覚悟しててよね」

「えッ……。ねぇもしかして俺死亡フラグとかいうやつ!?」

「ドンマイじゃん」

「ざまぁ」


千里はけらけらと笑いながら蒼との会話に混ざる。翔太は拗ねたかのようにしながら作業に戻っていく。蒼は落ち込んでいる翔太をからかいながら作業にもっどていくのを確認してから、千里も作業に戻った。千里が皮むきが全て終わり、じゃがいもを切る作業に入ろうとしたときのこと。

「ったぁ……」

蒼の小さなその呟きが聞こえたのは。蒼の声は周りのざわめきに紛れ聞こえにくかったが、千里には蒼のその小さな声がはっきりと聞こえた。蒼はこれでも押さえていた方だった。それでも聞こえてしまうくらい、今の千里は、声に敏感になっていた。千里はジャガイモの皮を切り始めていたことも忘れて、蒼に駆け寄る。昔の、呼び方、”蒼ちゃん“と呼びながら。


「あ……蒼ちゃん、大丈夫?!」

「あ、千里ちゃん……。大げさすぎ。大丈夫だよ、このぐらい。すぐなお「だめ!ほ……保健室!保健室行こうよ……っ!ねっ……?!」


蒼の手を見たからだ。深手でもなければ、重傷というわけでもなかった。普通にただ少しだけ、切ったぐらいの。それでもここまで彼女が過剰な反応する理由は、今朝見た夢と、彼女の過去に理由があるのだが、まだここでは明かすときでは…………ない。

千里は蒼のことを半場無理矢理、家庭科室から連れ出す。もちろんその後ろ姿を、心配げに見つめる陰と、嫉妬に近い瞳で見られているとは知らずに。

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