26話
(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「千里大丈夫かなぁ……」
「え?なんで?」
秋良の提案で乗ることになっていたメリーゴーランドに乗り終えると、翔太は恥ずかしさをかき消すために、買い物に出かけた。……もちろん、さっき水を奢ってもらったお礼と称して。そんなこんなで先程のメリーゴーランドの近くにあった売店で買ったチェロスを片手に思い出したかのように秋良がぽつりと口にした言葉に翔太は首をかしげた。秋良はその翔太の言葉に驚きのあまりかなりストレートに聞いてしまう。そのストレートな言葉にも大して傷ついてなさげなのを見ると、翔太の精神は強いのか、それとも、惚れたものなんちゃらとかいうのでフィルターでもかかっているのだろうかと思うほどだった。
「……まさか翔太君千里の感情に全く気がつかなかったの?」
「は?千里の?」
「んー、ここまで翔太君が鈍感だとは思わなかったなぁ……。なんて言えば良いのかなぁ、あんまりはっきり言っても……いや、翔太君ははっきり言わないと通じないかな……。ココははっきり言った方がいっか」
ぶつぶつと呟きながら、少し考え込んだ後に軽く頷きながら、考えを纏める。そんな秋良の様子に口元に砂糖を付けながら首をかしげることしか出来ていない間抜けな面をした翔太に“相変わらずだなぁ”とか思いながら、千里には口止めもしていなかったし、千里自身も「別に本人にも言ってもいいよ」と言われていた。内心マジか、なんて思いながら分かった、と返した気がする。が、それでも勝手にこんなことを話す、と言う罪悪感にとらわれながらも、口を開いた。
「んー、実は千里ね縁君のことちょっと苦手みたいなんだよね。なんか裏表ありそうとかも言っていたけど……。でも、それ結構前の話で最近はそうでもないっていってたんだけどね。それでもやっぱりちょっと心配で……喧嘩とかしてないかなって」
「へぇぇ……初めて知ったよ。でも俺にはそんな感じには見えなかったけどなぁ。なんか俺らといる時よりもふわふわした顔してる気がするけどなぁ。……にしても、秋良って心配性だな」
「千里は隠すのがうまいからね。……というか本当に気がついてなかったんだね」
秋良のかなり端折った説明に翔太はほんとうに驚いていた。この様子だと、ほんとうにどうやら気がついていなかったらしく、秋良。しかしそこに翔太らしさを感じて苦笑をこぼした。その顔を見るなり翔太は少しむくれ始める。その顔を見ると、秋良は再び、クスクスと、笑い始める。が、それもすぐに思案顔へと変わっていった。
先程、秋良は"千里は楔のことが苦手だ"そう話していたが、確かに翔太の言うとおり、今は普段よりも柔らかい様な気がするのだ。あの時のあの顔は、嫌悪と言うよりは────。
「まさか……ね?」
一つの予想に思い立ったのだが、少し前に千里にそういうことをどう考えているのか聞いてみたが、「よく分からない」と冷めた瞳で言っていたのを知っている。秋良は先ほどの考えを吹き飛ばすためにも小さく呟きをこぼした。そう、気のせいで片付けたかったから。
一方翔太は、先程秋良に言われたことを考えていた。確かに最初の頃、中学の時には、翔太達は一方的に嫌われていた。いや、なぜ、自分たちが千里に好かれていなかったのか何となく翔太自身は分かっていた。が、どうして千里が翔太や伊織と仲良くできるようになったのかが未だに分からない。いまとなればそこそこ普通に仲がいいが、楔だけはなぜかいつまでたっても俺たちと同じように接することはなかった。蒼と楔が仲が悪かったのもあるが、この桜才に入学したての頃なんかは、もしかして楔のことは嫌いというよりは、苦手なのかな?と思うことは多々あったが、最近はむしろ友好的なのをよく見かけるし、楔からも千里からもお互いの名前を聞くことが増えていた。楔も千里も基本的にお互いにお互いの文句だが。楔に関しては、裏の性格がばれてからは、千里に遠慮というものがなくなり、千里も千里で楔に警察をやっていることをカミングアウトしてから、千里にも遠慮が無くなったように見えた。それに、千里自身もあのときよりは、警戒心は解いているように見えた。それでも最近の千里は友情とはまた何か違う、そんな感情を持ち合わせているように感じていた。
「あいつが……?まさか。あり得ない……」
前に、翔太は気軽に千里の秘密に気軽に触れてしまった。触れてしまった。触れてしまった瞬間、目を見開き、苦しそうな顔になった。落ち着いてきた頃、どうしようか悩んだそぶりを見せ、隣に立っていた蒼にちらりと目配せをしていたのを思い出す。蒼が肩をすくめるとそのあとにほんの少しだけ、苦しそうにしながら千里が教えてくれた、千里の過去や秘密。そのことを知っている翔太は一つの可能性に行き着き頭を振った。それだけは千里はしない。だってあの時“怖いからもう二度としたくない。二度と大切すぎる人はいらない”本人が、そう言っていたのだから。
「ま、いっか。なぁ、秋良。そろそろ二人と合流しようぜ。千里も事心配なんだろ?」
「……う、うん!」
翔太は今までの考えることを放棄すると、秋良に向き直り、そろそろ二人と合流しよう、と言う提案をした。秋良の心配だ、という意見をくんだのは建前で、ほんとうはそろそろ緊張が極限まで達していたのだ。だから、秋良の優しさをほんの少しだけ利用して、合流することを提案すると、秋良は少し驚いた顔をしてからへらりと笑いながら頷いた。
その後、千里達に秋良が連絡を入れると、すぐそばにいるとのことで、千里達には待って貰って、翔太と秋良は二人が待つ場所へと歩き始める。
「翔太くんそういえば僕たちお昼食べてないけど、どうする?もしかしたら食べちゃってるかもだけど……」
「あー……そしたらあいつらには悪いけどちょっと待ってて貰おうぜ。さきにくってたならしかたがないだろ」
「先に行っててじゃないんだね……」
秋良に質問を投げかけられ、一瞬言葉に悩んだあとに、先に食べていたら待ってて貰うことにする、と言うと秋良は苦笑しながら口を開くと、翔太は「しょうがねえじゃん」なんて思いながらそんなこと言える訳もなく素っ気なく「そっ」と返すだけになってしまった。我ながら情けないとは思っているが、そう簡単に変われると思えないし、そもそも恥ずかしくて素直になんてなれなかったし、一番の大前提として、“素直になんてなったところで”って思っているのが一番だった。
「……翔太くん?」
「っ! どうかした、秋良」
「いや、なんか翔太くんぼーっとしてて危ないなぁっって思ったの。大丈夫?やっぱり体調良くない?」
「大丈夫大丈夫!秋良がさっき木陰で休ましてくれたから平気」
秋良に平気かと問われれば心臓の高鳴りを感じる。心臓から流れる血の量が増えたような気分だった。それを考えると、大丈夫ではないような気もするが大丈夫を連呼しながら平気だと言うことを伝えるためいつも通りのテンションに頑張って戻しながら慌てたように口を開く。
「なら良かった。でも体調悪くなったら言ってね。僕、翔太くんには期待してるんだから!翔太くんも剣道強いもんね」
「……うん、ありがとな秋良」
翔太は秋良の言葉を聞いて少し悲しげに笑う。期待されてるのは分かってるし、別にそれが嬉しくない訳じゃない。むしろ、好きな子から期待されているんだ。嬉しいに決まってる。けれど、その期待は時に翔太の肩に重くのしかかる。たとえば、こういうときだった。
「……?しょーたくん?」
「! えっと、ごめんちょっとぼーっとしてた」
いつの間にか秋良が心配そうに見つめる。いつの間にか立ち止まっていたのか自分よりも一歩前に出ていることに気がつく。
「あぁ……俺いつの間にか立ち止まってた?ごめん……。 あ、向こうの方に千里達見えるし、いこ」
「うん。千里達待たせちゃったかな?」
「あいつらなら大丈夫だろ」
翔太が申し訳なさそうにしながら謝ると少し気まずい雰囲気が流れる。どうしようかと悩んでいると、丁度遠くでお捜しの人物たちが談笑しているのが目に入った。タイミング良く見つかって話しをごまかすこともできた。ここに関してはあとで感謝しなきゃな、なんて思いながら秋良と話しながら近づいていく。
暫く歩いて行けば向こうも翔太たちを見つけることができたのか小さな体でこっちだ、と示すように手を振っている千里が目に入った。秋良が急いで千里達の方へ向かうのを見て、翔太も慌てて、追いかけるのだった。




