20話
(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
あの事件が解決して久し振りの平和な金曜日を迎えた。千里はまだ最後の仕事(報告書)が残っていたのだが、それをこの休日にやろうと思い、学校に行く用意を進めると、いつも蒼と待ち合わせしている場所にいつもと同じぐらいにつく。その後しばらく待っていると、まだ眠そうにあくびをしていた蒼を見つけたので軽く手を振ると、驚いたような顔をした後に、すぐに少し怒ったような顔をするとこっちに向かって駆け寄ってくる。
「……ニュース、見たよ。千里ちゃん」
「あはは……。大丈夫だったよ、蒼ちゃん。顔、怖いから笑って笑って。けがもしてないし、俺は平気だから安心して」
へらりと笑いながら、平気だったということを伝える。蒼はしばらく何か言いたげにしていたが、少し大袈裟にため息を吐くと、「これからは気をつけてよ」なんて納得していなさげに言うと蒼は背を向ける。
「ほら、行くよ。千里ちゃん」
久々に登校すると、周りは千里に視線を向け、ひそひそと話し始めるので、わずかに騒がしくなるが、千里はその賑わいを無視して蒼と共に校舎へと向かう。蒼が少し不機嫌になっていたが、軽く窘めつつ教室へと向かっていく。
途中、片桐とすれ違い、昨日までの欠点を帳消しにする課題を手渡される。それなりに量があったのもあり、半分だけ蒼のカバンに入れさせてもらい(強制)、千里は教室への道を急いだ。
「千里!相談があるんだけど……。もう伊織にも断られていて、後はもう千里に頼るしかねぇんだよー!」
教室に入るなり、すでに涙目になっている翔太に縋りつかれながら、頼みごとをされる。千里は内心断っても断らなくてもこれは面倒くさそうなことになりそうだなぁ、なんて考えながら思わず反射的に「……お、おう」と答える。翔太はその返事を聞くとぱぁと顔を輝かせる。
「じゃ、あんまり人に聞かれたくねぇ話だし、2人で屋上行かね……?」
そう言いながら頭をこてりとかしげる。てめぇは女か、と言いたくなるのをなんとかギリギリこらえて千里は「しゃーねーなあ」と言ってから荷物を席に置いてから翔太の元へ駆け寄る。
「じゃ、千里行こうぜ。あ、蒼は来るな!ぜってぇからかってくるし!それに蒼にはかんけーね―から」
そう言いながら翔太は千里の肩を押しながら教室を出て行く。千里は肩を押されながら軽く後ろを振り返ると、なんとも言い難い複雑な表情をした蒼が立っていたのだった。千里には何を言ってるのかは分からなかったが、蒼はもごもごと口を動かしながらなにかを話していた。
「ねぇ、翔太。僕は本当に君が嫌いだよ。何でか分かる日は来るのかなぁ……」
蒼は小さな声でそう呟くと、連れ去られていく千里の背中を見送りながる。蒼はそう言った後にいらだった様子で髪を掻き上げると、一つ大きなため息を吐くのだった。
視点を戻して、その頃千里達はというと。
「……で?わざわざ蒼が来るのを拒んでまで連れてきたんだから、もちろんそれなりの相談なんだろうな?」
千里は相談内容はなんとなく分かっていたがあえて自分の口から言わせようなどと言うかなり鬼畜な事を考えているのだがそんなことは当然思わさない口調と態度でやり過ごす。そんな風に問いかけると、翔太はしばらくもじもじとした後にぼそりと呟くように口を開いた。その様子を見ていると“実はこいつほんとうは女で、レズの趣味があるのでは?”とか言うかなり失礼な事を考えてしまうが彼が男なのは剣道部の活動をしていく上でいやでも知っているし、中々男の子っぽいところもあるのだ。そこが少し腹立たしかったりする。翔太はしばらくもじもじしたかと思えば遠慮がちに口を開き、相談内容を口にした。
「あ、明日秋良と出かけるから千里にも付き合って欲しいなって……」
「……イヤイヤ……翔太。普通に言っていいか?……あのさぁ……何で俺も行かないとなの?君のデートだよね?そもそも俺一人じゃカップルの邪魔してるのと同じだよ。お邪魔虫じゃん。それに俺忙しいんだよね、この休日。だから無理」
翔太の口から発せられたのは、相談というよりは要望に近いものだった。要約すれば明日秋良とデートするから自分にも付き合って欲しい、と言うものだった。千里のカップル、と言う言葉に過剰に反応を見せると一度顔を真っ赤に染め上げる。そのあとに涙目になりながらむすりと頬を膨らませる。よくもまぁここまでコロコロと表情が変わる男だ。
「かっ……そ、そんなんじゃねぇよ!……それから千里一人じゃなくて、後もう一人男子が来る予定だよ。てか千里そんな冷たいこと言わないで?!」
「はぁ?誰だよ。人によっては断るぞ。忙しいんだもん、仕方ねーだろ」
翔太は顔を赤くしながら頬を膨らませ三人ではない、と千里に報告を入れた。その言葉に露骨に顔をしかめると千里は誰だ、と聞いた。その言葉に翔太は不思議そうにしつつも千里のこと思うと仕方が無いかと思いながら、少し苦笑をこぼしながら、少し悩んだそぶりを見せタ後に、おそるおそる口を開く。
「んー……そこは伊織に任せてるからなぁ……。まぁ当日のお楽しみとか言うやつだよ」
「うん、やっぱりヤダ」
「だよね!……ってえぇ!ど、どうしてもだめ……?」
その言葉に少なくとも腹が立った。そもそも、前日にそんなことを言われても困るのだ。つい昨日までは連絡もつかないような状態だったので仕方がないだろ、と言われてしまえばそこまでなのだが。今日だって本来ならば学園に来れるような余裕はないのだが、無理矢理来たぐらいだ。事件が終わってすぐは、案外忙しかったりする。
全く、困った友人だ。そう思いながら目の前で土下座までしている友人にため息をこぼしながら、目を落とす。
「しょうが無いなぁ、この地雷千里様が付き合ってやらんこともない。その代わりちゃんと秋良と何かしらの進展はしろ?この俺の休日を返上するんだし」
千里はそう言って手を翻しながら歩き始める。翔太は千里のその言葉を聞くと、ありがうと言っていた。
何かしら進展がなかったら、もちろん楔と共に二人で二人で処刑にするつもり満々だった。そう思った後に千里は“昼休みに屋上集合”と楔にメールを送り、すぐにラジャー、と言う返信が来たので意地の悪い笑みを浮かベながら、「じゃあ翔太君、また土曜日にね」そう声をかけながら屋上を後にするのだった