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紡ぐ言葉  作者: 葉桜
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19話

(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 千里もだいぶ落ち着いてきて、そろそろ応援のパトカーが来る、という時だった。本当にそれは突然の出来事で千里も反応が一歩遅れてしまうほど、突然だった。今まで黙ってうつむき表情が見えないでいた如一が唐突に伊織の名前を口を呼んだ後に、頭をかち割るのかという勢いで零の頭を地面にたたきつける。その後に、自分も負けじと頭を下げて土下座をしたのは。

「伊織」

「はい、どうかしたんですか?冬木先輩」

「……うちの組のものがすんませんした!」

「……ハァ?なんで冬木先輩が謝る必要が……?」

「詳しい話しはここでは言えねぇから、あとで……ううん、事情聴取は終わったぽいから千里の家でする。今ここでできるだけのことを来つまんで説明すると、言うと……俺が認知してないところで、俺の部下が伊織を殺そうとした。もちろん俺はそんなこと絶対頼まねぇ。それから伊織の母さん……詩織さん殺したのも、こいつなんだ……。信じらんねぇかもだけど俺の母さんもそんなこと頼むような奴じゃない、と思う。……あ、あと、こいつ、零っつーんだけど……俺の家のもので、俺の組のものなんだ……。俺の監督不行き届きのせいで……」

 如一はまだ、理解が追いついていないのか、そこまで言うと、だからすみませんでした、なんていいながら、頭を下げる。伊織は如一の謝罪を聞くとますます訳が分からない、とでも言いたげに短く口を開いた。その問いかけに答えるように如一は顔を上げながら再び口を開く。頭を下げているため、顔はよく見えないが前髪や脇の毛にちらりとのぞく彼女の瞳には怒りや、謝罪の色を含んでいたように見えた伊織はため息を一つこぼしながら口を開いた。

「……とりあえず顔を上げて下さい、冬木先輩、鬱陶しいです」

  伊織に言われると如一はそっと顔を上げた。顔を上げた如一の瞳にはきれいなエメラルドグリーンの中に複雑な色を讃えた瞳が伊織のことを視界にとらえる。

「ですが、如一様……ッ!こいつは如一様を愚弄して……ッ!」

「うるせぇ!お前も少しは反省しろよ!こいつが!いつ!俺のことを愚弄したってんだよ!それにいつ俺がお前に“伊織を殺せ”って言ったか?!俺がお前に頼んだことは連絡を入れたら迎えに来て欲しい……、それだけじゃなかったか?」


 如一はそう言いながら冷たい瞳を零へとむける。不意に何かに気がついたかのように口元を三日月のように歪める。千里はその顔に背筋が冷える思いでいっぱいだった。なぜならあれは、確実に悪いことを企んでいる顔だった。もちろんそのあと提案された意見にはもちろん呆れるよりも何よりも先に背筋が冷えるとともに、いくらか頭が冷静に動くようになったようだ。なぜならそれは本当に無茶な提案であり、いつも通りすぎるはちゃめちゃな如一の”命令”。

「なぁ伊織。こいつのこと、好きにしていいぞ。殺したければ殺してくれてもかまわない。俺んちは元々こういうことが多い(強調する)家柄だ。いつもそのあとの処理は当然この俺の命令だし、やってくれるよなぁ?地雷さんよ」

「……別にいいぜ。俺はこの場を見ていなかった、もしくは襲われそうになった所を返り討ちに遭ったのではないかっていくらでも浮かぶんでね。もちろん、お嬢様、そのときは手伝って貰いますよ。どうする?伊織」


 如一は簡単に言ってくれるが、犯罪のもみ消しは簡単ではない。手続きやら何やらがあって色々面倒くさいのだ。それでも千里は許可を下ろした。零は懇願するような瞳で如一に縋っていたが鬱陶しそうにその手を振り払う。その様子を眺めていた伊織はにっこりと意味ありげな笑みを浮かべてから口を開く。

「殺しはしないでおいてあげます」

「わぁ、伊織ちゃんってば、やっさしー」

「ほんとほんとー。俺なら悪いけど、

 如一が茶化すように口笛を一つ吹いた後にそう口にするとその後に続けて伊織の取った行動は、思い切り力の込めた回し蹴り、だった。その回し蹴りは見事に零の腰に命中すると零はうめき声を上げながら床にうずくまった。伊織はその後に今まで見せたことのないぐらい恐ろしい笑顔を見せながらこう、口を開いた。

「だって痛みは長く続いた方がいいじゃないですか。あぁ。早々、たぶん腎臓の一つや二つ、機能しなくなりましたよ。先輩達が助けたいなら臓器移植するしかないんじゃないですか?そこは冬木先輩達に任せます」


 伊織はクスクスと笑いながらそう言うと、如一は面白そうに口元を歪める。

「はっ……良かったじゃん零君。やっさしー伊織のおかげでこの場で殺されなくて。俺だったら間違いなく殺しちゃってた。ほら伊織様にありがとうございますっっていわないとだよな?どうするー?亜留斗ぉ、こいつ、お前の仲間なんだろー?助けてやろう、とかないの?」

「ないね。そもそもの話し、彼の医療費に金を回すぐらいなら、そのお金は橘家に慰謝料として支払った方が賢明だと僕は思うんだがね」

「それもそうだな」


 亜留斗と如一の会話に零は顔を青ざめさせる。

「そ、それだけは勘弁してください……!如一様……!!」


 その叫びを無視をして、今まで空気だった和斗がいつのまにか呼んでいたパトカーに容赦なく投げ入れる。


 こうして連続バラバラ殺人事件は解決をしたのだった。


「零のこと、本当に悪かった。改めて謝罪を入れさせて貰う。その、識君にも謝罪を一樹にも謝らせるし、組のもん引き連れて謝りにこっちからも行く。それから親父さんにも」

「別にそこまでして貰わなくてもいいんですけどね。冬木先輩がしたいならして下さい」


 申し訳なさそうに如一がそう言うと伊織は少しあきれつつも先輩の勝手にしろ、の言葉に「最初からそのつもりだっつーの」と言いながら如一はさっさと歩き始める。

 恐らく、向かった場所は自分の弟もいる識の所だ。普段やっていることは適当でも自分の組のものが間違いを犯したときの如一の責任感は計り知れないものだった。

「とりあえず、俺はこいつを刑務所に送ってくる。それから、射水さん、それから識君にちゃんと謝罪をさせて欲しい」

「ああ、もう……、千里も冬木先輩も面倒くさいですよ。したければ勝手にして下さい」


 伊織はそう言いながら「和斗君、行きましょう」と声をかける。

「いや、俺の用事というのは……」

「伊織の護衛だったんだよ」

「そうだったんですか?道理で竹刀持っていると思いましたよ……。それにちょっと様子がおかしかったですもんね」

「むむ……」


 千里が横やりを入れるように口を挟むとどうやらどこかおかしいと思われていたようで、少しばれていたらしい。こりゃあこいつに役者はむかねぇなとか考えながらパトカーに乗り込み、零を刑務所まで送り届けながら、とある人にメールを飛ばした。“無事に、事件は解決した”やたら簡素な内容だったが来れでも十分だろう。そう思いながら。


 その後、千里もあのときの事件の担当者と、識に対応したと思われる職員を引きつれて識の元に行き、謝罪を入れた。最初はもちろん識も驚いていた。千里が説明をしていくうちに話が分かると厳しい目つきを千里達にむけ、帰ってくれ。そう言っていたが、それでも諦めず、何度も謝罪しながら頭を下げ続けていると、少し盛大なため息と共に観念したかのように「もういいよ。……伊織姉ちゃんを助けてくれて、ありがとう」とお礼を述べる。

 如一も如一で橘家と識の元に謝りに行ったらしい。もちろん千里も射水さんと伊織にも改めて謝罪をした。射水は千里が千歳の後を継いだのだ、と言うことを告げると、目元を優しげに細め、「そうか、あの小さくてお母さんの千歳さんにひっついていた地雷さんが……。月日がたつのは早いね」

 そう言いながら笑った。

「本当はこうしてもっと早くから言うべきだと思っていたんですが、伊織から詩織さんのことを聞いて。これ解決するまでは話せない、と思いました。改めて謝らせていただきます。うちの組織のものが無礼を働きすいませんでした」

 千里は静かにそう言いながら頭を下げた。射水は困ったように「顔を上げて」と言っていた。それでも千里は中々顔を上げられずにただただ頭を下げ続けることしかできなかった。


 悔しかった、自分の組織が、仲間が。自分の友人を傷つけていた、と言う事実に。ただただ悔しかった。

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