16話
(注)この物語には流血、いじめ、殺人等の残酷な描写が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。また犯罪行為を助長する意図はございませんのでご理解いただきますようお願い申しあげます。又、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
この事件が始まって間もなく一週間が、伊織の家を訪ねて4日ぐらいたとうとしていたが、あれからというもの、千里は捜査が煮詰まっていて、一人捜査室で頭を抱えていた。詩織さんの死体の隠し場所については最悪で、これは計画的で、何者かが緻密に計画を立て、最後には目的の人物を確実に仕留めている。そこまで判明している。そして最終被害者までもう既にこの間捜査という名目の元訪れた橘家を訪ねた時から、もう分かってしまった。そんな結末にはしたくなくて、早く解決をしようと思い、少しイライラしながら一人、捜査室にこもりうんうん唸っていた。
そんな時に捜査室に2度ほどノックの音が聞こえ「おぅ、入れ」と、ぶっきらぼうに入室を促すと入ってきたのは亜留斗で、何か用あるのかと思い亜留斗の言葉を待つ。が、その口はいつまで待っても開かれない。用がないなら帰れ────。そう言いかけた時、亜留斗は唐突に口を開いた。
「僕はもう犯人が分かった。と言うか、知っている」
「……はぁ?!」
それも千里に驚きの言葉を投げつけながら。あまりにも衝撃的すぎて千里は亜留斗の言葉を理解するのにほんの少し時間がかかった。そして、理解すると同時に千里は驚きの声を上げた。
当たり前だが、亜留斗はその驚きの声を聴いてさも迷惑そうな顔をしながら耳を抑え、口を開く。
千里は亜留斗の言葉に半ギレで返すと、亜留斗は飽きれた、とでもいいかのように肩を竦めながら口を開く。
「うるさいなぁ……少しは静かにできないのか……!? ……というよりもまだ解決できていないのかい?さすがに遅すぎやしないかい?」
「はっ……?!いやいや……、誰のせいだと……!てかほんと、お前失礼だよな……!」
「事実を言ったまでだよ……。今回の最終被害者は「橘伊織ってのはわかってるんだよ」
千里は亜留斗の呆れたような声色で放たれている言葉に重ねるようにイラついた口調で声を合わせると、キッと睨めつける。
それを聞いた亜留斗は「なんだ、そこまでわかっているのに犯人はわからないのか」と少しおどけたかのように口を開く。千里はその言葉に怪訝そうに顔をしかめる。まだイマイチ理解できていない千里に向かって亜留斗は言葉を紡ぎ始めた。もちろん若干煽りながら。
「よくよく考えてくれたまえよ。詩織さんは“冬木家とかかわりを持っていて、冬木の母親と試合をして勝っていた”この状況を聞いてもまだわからないのかい?だとしたら君、警察やめた方がいい。寧ろ、千歳さんの顔に泥を塗る羽目になるだろうからこの世から消えてもいいと思うよ。……さて。この状況、如一が毛嫌いしているどこかの誰かさんと状況がとても良く似ていないかい?」
「……?!」
「まぁ、あまりにも近しい人物だからこそ盲目になることもあるだろうね。何しろあいつは冬木家に対する、忠義心だけは天下一品だ」
「……っ」
そこまで聞いてようやく千里は真実へとたどり着いた。それと同時に亜留斗の言葉に千里は息をのんだ。冬木家に対する忠義神が人一倍高いあいつが、もし橘伊織が如一のことを負かしていると知ってしまえば。こんなことをもし、やるとしたらあいつしかいなかったからだ。
千里はしばし言葉に悩んだ挙句、重々しい様子で口を開いた。そっと、確認するかのように、どうか、そうではありませんように、と縋るように。
「……この後、どうなると思う?」
「動くだろうね、近いうち。少なくとも今週中には動くと思う。早くて明日にでも動くんじゃないのかい?いい加減、下準備も整ってきただろうしね」
「……だよなぁ……。それにそろそろ俺が気が付き始めてることにも気がついてるだろ。アイツだしな」
千里の質問に、亜留斗はさらりと動くだろうね、と答える。千里はこいつに聞いたのが間違いだった、なんて思いながら深いため息を落としながら口を開く。千里は如一はこのことをおそらく知らない。知っていたら、真っ先に千里に報告しに来るのを分かっていたからだ。千里の言葉を聞くと亜留斗は「まぁ、そうだろうね。おそらく昨日の時点で気がついていることは知っていると思うよ」
なんて言われ、うわ、キモ。なんて言いながら再びため息をこぼしかけたその時。不意に捜査室の扉が開く。勝手に開けるのは一人しかいないが、ゆっくりと振り返って、誰なのかを確認する。
「こそこそと、何の話してんの?」
そこにはやはり冬木如一が立っていて、やっぱり、なんて思いながら千里は肩を竦めながら如一の近くまで行く。そこに如一の側近である零が居ることを如一にバレないように確認をとる。そして、如一が来たことで思い出したのだが、そう言えば今日は定例会議で、亜留斗と如一に集合を掛けていたことを思い出す。
「お前勝手に入ってくんじゃねぇよ、ノックぐらいしろ、ノック。てか遅刻じゃねぇか。まぁ……こそこそ話していた内容は犯人についてかな?」
「そうだね。まず冬木は土下座の準備と練習をすることをお勧めするよ。僕が神に誓って言ってあげるよ。お前は本気で伊織に土下座をすることになる。冗談でもなんでもなく、することになるよ」
「は?」
如一は亜留斗の言葉を聞いて少し顔をしかめる。冗談だと思いたいようだった。如一は普段から否定してほしいことを否定してくれる千里に救いを求めるかのように目を向けてもやれやれといった顔をしているだけで珍しく否定はおろか肯定もしてくれない。更には、はあぁ、と深い溜息を落としてから、零に顔を向けながら、零に声をかける。厳しい目つきを向けながら。
「とりあえず、零。君は先に家に帰ってくれるかな?これから俺らは話し合わないといけない」
「え……。わかりました。では、如一様終わりましたらいつでもお呼びください」
零はそう言いながら捜査室から出ていく。亜留斗はその背中を厳しい目で見つめながら零が見えなくなったのを確認してから千里がそっと口を開いた。
「本来集合時間である時間に来ていた亜留斗共に、集合時間に遅れたお前が来る前までに話し合った結果、俺達は無事に犯人にたどり着き、最終被害者にもたどり着いた。そして、冬木如一。お前は、亜留斗の言う通り橘伊織に頭を下げるだろうね。この事件は二年前の事件の犯人と同じというのもあるけど、ね」
千里がそういうと、むぅ、と頬を膨らませながら如一は不満気にしながら口を開く。
「そうは言うけどさ、俺があいつに頭下げるようなことしてねぇもん……」
「はぁ、なんつーか、こういう時の如一って……、普通に馬鹿だよなぁ……」
「同感だね。冬木如一、お前は大バカ者だよ。君は少し人を疑う、という事を覚えた方がいい。信用できるのは少ないと思った方がいい。わかったね」
「えぇ……」
如一のむすりとした顔を見ていると、これは真実を知った時の絶望と怒りと悲しみの入り混じった表情になることはもう分かっていた。心苦しいのだが、こいつにはまだ真実を告げることは出来ない。それが千里は心苦しかったが、その思いを振り切るために頭を抱え、イラただしそうに頭を抱えながら口を開く。
「とりあえず、犯人は早くても明日、一番のターゲットを殺しに来るだろうね。こっちもあまり人員は避けないから、この作戦だと、学園から守ってくれるナイトさんである人を桜才高校から一人、助っ人を頼まないとなぁ……」
「あまり乗り気じゃないようだね?」
「そりゃあね。あくまでも俺は警察だし、市民をわざわざ危険にさらしたくはないね。本来なら俺だけで解決したいけど、そうも言ってられねぇーからな……。俺からは頼みにくいからさ、誰かお願いできない?」
「その依頼は俺が頼む。千里、任せて、翔也でいいかな?」
後半の桜才学園から助っ人を頼まなくちゃいけない、という言葉にはものすごく重々しくなる。理由は至って簡単で、全く乗り気ではないからだ。それを亜留斗には見抜かれていたのか、質問というよりは確信を持った様子で千里に乗り気ではなさそうだ、と告げる。千里はその言葉を聞くなり苦虫を噛み潰したような顔をしながら苦々しげにしながら口を開く。
千里が誰かに頼めないか、と聞くと真っ先に如一が手を上げ、翔也でいいか、と尋ねられる。千里は少し悩んだ後に楔や蒼だと下手したら犯人を殺しかねない、と思い1番マトモな翔也は妥当だとおもい頷きながらオーケーを出した。
「……翔也、か。まぁ一番妥当かな。とりあえず、如一、君にはもう一つ頼みたいことがある」
会議は淡々と進んでいき、如一も最初は乗り気ではなかった頼みも一つの言葉で面白いぐらいに頼みを聞いてくれるようになり、同時に吹き出してしまった。
因みに和斗には如一から『和斗、お前に頼みたいことあるんだけど、聞いてくれる?そしたらねー千里の家の近くの警察庁きてくれると助かるな』と呼びだして事のあらましを説明。
快諾し、大いに乗り気で頼みを聞いてくれることになった。
「まぁ、とりあえず明日はさっき決めた作戦通りでよろしくお願いします。じゃぁ、明日、作戦決行時間は、如一の連絡から、という事で。翔也には悪いけど、作戦に協力するに当たって、怪我とかするかもしれないけど、その時はごめんな。なるべく和斗には手出しさせないようにするから……。じゃあ解散」
千里は話がまとまったことを確認し、解散、と号令を出した。その後に翔也に声をかける。
「あ……、翔也。こんな無茶な作戦、乗ってくれてありがとうな。あと、この作戦なんだけど、蒼には秘密にしてほしいんだ。俺また怒られる……。それから、かなり遅い時間だが家まで送らなくても大丈夫か?如一家の使いの者に車出せる人が他にもいるからそいつに出してもらうように頼むけど……」
「そうか……。お前は相変わらず蒼に怒られてるのか?変わらないな……。まぁ、わかった。このことは秘密にしよう。いや、送らなくて大丈夫だ。ここから桜才駅の行き方さえ教えてくれればあとは帰れる。俺の家は意外と人通りが多いところにあるからな……」
千里はそれを聞くと、よかった、とふっと微笑む。
作戦決行まであと少し。