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case3 知らない事はそのままにしてはいけない

「こんな人間に恋をしていたなんて、彼女も可哀想ね」

突如として聞こえてきた声はすぐ前から聞こえる。そしていきなりヒョコっと、1人の女子生徒が水道の裏から現れた。

辺りに生徒のいない事は確認したが、まさかこんなにも声の主が近くにいるとは思わなかった。まさに灯台下暗し。

そしてどうやら、女子生徒はさっきの告白の所から自分を見ていた様だった。まずい。……これは非常にまずい。

目の前の女子生徒が何者かは知らないが、写真や音声データが残っていれば確実に俺の学園生活は底辺へと叩き落される。

平穏という二文字は崩れ去り、すいとの楽しい生活も崩壊待ったなしだ。……なりふり構ってはいられない。


「……脅迫か? 何が望みだ?」

「あら、私はそんな事をしに来た訳ではないの。別に貴方がクソ以下のクソ野郎だろうとどうでもいいわ」

「じゃあ何しに来たんだ。嘲笑でもしに来たのか」

「生憎私にそんな趣味は無いわ。……ねえ神木くん? 実は貴方に衝撃の真実を伝えに来たのよ」

伝えに来た。という言葉を聞いた瞬間に、俺は思わず後ずさりをする。またか、またなのか? 不吉な予感が頭の中を過る。


しかし……女子生徒からはどこかずれた雰囲気しか感じられなかった。これは告白とは違う、と確信が出来る。

どこかおかしいと思っていたが、この女子生徒からは恋愛の気を感じない。目の前にいる女子生徒からは恋だの愛だのと言った感情はおろか、興味関心といった感情すらも感じないのだ。珍しいなんてもんじゃない、世界にただ1人かもしれない。

鈴野は慌てて女子生徒の顔を見る。

「…………?」

見た事の無い顔だった。そもそも女子の顔を覚えようとはしていないが、恋愛の気を感じない女子生徒を見つけたというのは俺にとって初めてで、どうしていいか分からず戸惑う。

「な、何を……真実って何だよ!」


「あなたの周りの異常な出来事には原因がある」


その言葉を聞いた瞬間、時間が止まる様な感覚がした。ハッとする、というのはこういう事を言うのかもしれない。

女子生徒の言葉は、心の中を突く様だった。……異常な出来事、つまり女性が極度に寄ってきている現状の事を言っているのだろう。

この女子生徒が自分の現状についてどこまで知っているのかはわからないが、自分がこれまで遭遇した事の無い種類の人間であるという事は確かだった。


「もし、今貴方に起こっている不可解な事を解決したければ……明日私の部活【オカルト探偵部】に来なさい」

そう言って、女子生徒は背を向けて、校門の方に立ち去ってしまう。

「ま、待て! ……そうだ、名前は?」

立ち止まって振り向いた女子生徒は、キョトンとした顔をする。そして数秒後、合点がいった様に表情を変えた。

「……ああ、無理も無いわね。私の名前は鷺森さぎもり 亜遊あゆ。……それじゃあね」


鷺森 亜遊……オカルト探偵部……頭の中に新しい言葉がグルグルと回っている様な状況だった。気持ちを落ち着けようにも、どうにも上手くいかない。

そもそも女子生徒と嫌悪感を持たずに会話した事さえ久しぶりなのだ。不慣れな事が立て続けに起きたせいで、俺は自分自身が戸惑っている事を自覚するのに数秒を要した。

……とりあえず帰って寝よう。今のままでは事態の正確な把握すら困難だ。一度気持ちを落ち着けて、起きた事を正確に文面に写すんだ。

再度、顔を洗うと、俺は頭を抱えて学校を後にした。


「……ただいま」

結局、帰りの道でも全く落ち着く事は出来なかった。やはり一度眠った方がよさそうだ。

「おかえり。早かったじゃん」

靴を脱いでリビングに向かう途中、右手の部屋のドアを開けて、妹……神木かみき 姫野ひめのがダルそうに顔を出す。

前髪を上で止めてメガネをかけていることから、勉強中、作業中だったみたいだ。中学2年生の内から自宅学習が身についているとは、真面目な事この上ない。

「今日は付け回されたりしなかったんだね」

「やめろ……。気分が悪くなる」

姫野は自分の事情を知っている数少ない味方だった。

「女の子の気持ちを道端のゴミみたいに差別する兄は、妹から見れば当然悪者に見えます」

味方という言葉をすぐさま撤回したくなる。やはりこの世はああ無情。……無駄かもしれんが一応反論しておく。

「待て、俺は姫野を差別した事なんてないぞ。家族としてとても大切に思っている」

「……私の事じゃなくて。その感情をどうして少しでも他の女の子に向けられないかな〜」

猪突猛進な恋の病人を何故思いやらなければならん。病人は病人とつるんでいればいいのだ、こっちに来なければ、俺も進んで傷つけるような事はあるまいて。……まあ余計に怒られているのが目に見えているので口には出さないが。


「また女の子の事、心の中で小馬鹿にしたでしょ。……はあ、お風呂先入ったから。夕飯よろしくね」

腕の時計を見れば、すでに時刻は6時に迫ろうかという時間になっている事に気づく。今からお風呂に入り、課題の1つでもこなせば夕飯を作り始めなくてはならない時間になっている事だろう。

「何が食べたい?」

「挽肉あるからハンバーグ作って」

そう言い終えると姫野は部屋に戻り、ドアをガチャンと閉める。夕飯をはっきり指定してくれるさばさばした所も、姫野の長所の1つだと思う。

……これは、今日あった事を纏めるのは遅くになりそうだな。


「……さて、課題も終了と」

姫野の希望通りにハンバーグを作り、後片付けをして残りの課題をこなすと、時計の針は9時半を過ぎていた。

姫野は生意気にも「やるじゃん」と言い残してハンバーグを食べていた。弁当を任せているとはいえ、俺も料理の練習を怠っているわけではない。将来1人で暮らせないと困る。

俺はやり終えた課題を鞄にしまうと。机の上にあるデスクトップ式のpcを立ち上げ、メモ帳を開く。

俺は物事を頭の中で考えるより、何かに書き出した方が整理出来る。簡単に文章を作れるメモ帳機能はまさに打ってつけ。シャーペンや消しゴムを使うよりも、カタカタキーボードを叩く方が俺には合っていた。


「……まず、俺は顔を洗うために、体育館裏の水道にいった。そして辺りに人がいないのを確認したはずだった。でも実際には水道の裏に鷺森 亜遊と名乗った女子生徒が居て、俺の愚痴を聞かれていた、か」

あんな所で叫んだのが不味かったな……。今度からは別のストレス発散法を考えよう。なんにせよ、一時の感情に体を任せるべきじゃなかったな。


「次だ。その鷺森 亜遊という女子生徒からは嫌な感じがしなかった。他の女子生徒とは雰囲気が違っていたし、俺の弱みを握ってどうこうしようだとかも思っていないようだった。……そして言われたんだよな、「あなたの周りの異常な出来事には原因がある」って」

そのセリフがそっくりそのまま浮かぶようだった。俺の心を的確に貫くようなその一言は、今でも思い出すだけで寒気がする。

まるで弱点を知っているかのような的確な言葉だった。いや、あの言葉が本当だとしたら、あの女子生徒は俺に今起こっている事を知っている事になる。


嫌な気は感じなかった。かといって過度なお節介でもなさそうだったし、でも嫌々やっている風でも無い。……? 謎過ぎる。行動の理由も何もかもがわからない。

「行ってみるしか無いか。オカルト探偵部とやらに」

改めて口に出すと、とても胡散臭い部活名だった。

何だよオカルトって、何だよ探偵部って。漫画やアニメじゃあるまいし、本当に探偵をやっているわけでも無いだろう。無いよな……?


一応は思考を纏めると、俺はメモ帳を終了してpcの電源を落とす。時計を見るとすでに10時を回っていた。やはり考え事をしていると時間が経つのが早い。

俺は部屋のベッドに寝っ転がって明日する事を考える。

オカルト探偵部ね……そもそも部室を知らないからそこからだな。……やっぱり胡散臭いよな? この前読んだ本にもそんな名前の部活があった気がする。

何故設立申請が通ったのか、俺の中の学園七不思議に登録せざるを得ない。そのうち明らかにしないとスッキリ出来ないぞこれは。

そんな事を考えているうちに睡魔も増してきていた。枕の傍のリモコンを手に取ると、保安灯と書かれたスイッチを押して眠りにつく。

オレンジの穏やかな灯りは、睡眠に着くのにはとても安心出来るものだった。

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