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case9 機械的・エレクトロニックランブル 前編

その後も、姫野は機嫌を治してくれるという事はなかった。

朝も夜も必要最低限の会話しかする事はなく、連絡も一言か二言。業務連絡調の応答が続いていた。いや、続いているならまだいい方だ。無言のままでいる時間の方が圧倒的に多かった。

しかし手紙の事は話せない。早く解決するしか俺には道が無い。……このままの状況を続けるなんてあり得ないが、どうしたらいいのかわからないのも事実だった。

呪いの状況は好転しているにもかかわらず、自分の気持ちは沈んでいくばっかりだ。こればかりは時間が解決してくれる事ではない。呪いを解決した上で、俺が姫野に直接話さなければいけない。

しかし、そのためにはまず手紙の内容をこなさなければいけない訳で。

……酷い悪循環だった。姫野の事が頭に思い浮かんで、呪いの解決に身が入らない。


そんな状況のまま迎えた週末。今日は呪い解決のための重要なファクターである、楓と出かける日だった。

朝、出かける俺に姫野は何か言いたそうな顔で視線を向けていた。……休日に朝から、しかも外行き用の服を着て出かけるなんて事は久しぶりで、また姫野に余計な心配をさせているのかと思うと胸がキリキリと痛くなる。

結局今朝は、姫野の口から何か俺に向けた言葉が発せられる事は無かった。遂に行ってらっしゃいの一言さえも聞こえては来ない。……楓との待ち合わせに向かう足取りは、重くなる一方だった。

友人と出かける際に家族の事で頭が一杯なんて情けないにも程があるが、結局、俺に有効な解決策を見つける事なんて出来やしなかった。


十数分後、俺は前日に楓と打ち合わせたショッピングモールへと到着する。

楓と待ち合わせしたのは現地の入り口ホール。大きな噴水があるので間違える事は無いはずだった。実際かなり有名で、地元の人間ならまず知らない事は無い、といったモニュメントだった。

……しかし、ハプニングというのは往々にして突然やって来る。まあ突然起こるからハプニング、というのだろうが。


待ち合わせの時間を少し過ぎた頃、楓からの連絡が端末に表示される。

【どこにどんな服装でいる?】

今思えば随分と変わった質問だったが、その時の俺は何も疑問には思っていなかった。

【正面ゲートの方角。上は黒いジャケットで下は青系だ】

考える事なく素直に返すと、数秒もしないうちに返信が返ってくる。

【僕、白いワンピースにライムグリーンの上着だから、探して見つけたら話しかけて】

……ようするに、迷子だから見つけて。という事らしかった。ため息をついて見渡すと、辺りをキョロキョロしている小柄な少女を1人見つける。身長だけで見れば親を見失った子供にしか見えない。係員に迷子センターに連れて行かれていても、何一つ違和感が無さそうだった。

服装を確認すると、その女性は楓からの連絡に表示された服装の通り。……まあそんな確認をしなくても顔を見ればわかるのだが。


俺は素早く、

【見つけた。今から声かける】

と連絡をして、ゆっくりとその少女の方へ歩いていく。

顔を上げると、その少女は携帯の画面を見ているようだった。楓で間違い無いみたいだ。

「楓」

俺の声に振り返った楓に、軽く手を挙げて挨拶をする。

「……ああ、鈴野。おはよー」

迷子の主は存外気楽なテンションだった。本当に迷子だったのだろうか?


「最初からもっとちゃんと場所決めれば良かったな」

「なんか僕が迷子みたいな言い方するよね」

どうやら自覚が無いようだった。しかもその扱いに不満ときている。……探してと言っておいてこの反応は如何なものだろうか。

「違うのか?」

「違うよ。だって迷ってないし子供でも無いからね」

「……いや、迷ってるだろ」

「それより! 今日は僕の買い物に付き合ってくれるんだよね!」

大きな声で遮られた。この話題を続ける事はタブーのようだ。

必要以上に機嫌を悪くするのも良くないので、建設的な会話を心がける事にしよう。

「そうだな。どこへ行くんだ?」

予想していたのは服屋、雑貨屋、手芸屋 (毛糸屋とも言う)。そんなに荷物が増える事も無いだろう。もし荷物が増えるとしても、せいぜい本屋位だろうか。

「まずはおもちゃ屋に行こう」

いきなり予想の斜め下の回答が返ってくる。やっぱり子供じゃないか。



「おおお……これは良いものだ」

楓が行きたがっていたのは、おもちゃ屋の中でも変身アイテムやゲームソフトが置いてある場所では無かった。……意外も意外、模型中心のコーナーだった。しかも楓が見ていたのはゲームのキャラやロボットの模型では無い。

「この流線型のボディがいいんだ」

楓が目をキラキラさせて見ているのは飛行機だった。しかも戦闘機やヘリコプター。渋い、渋すぎる。……さすがにそんなコアな知識は持ち合わせていない。心なしか喋り方も変わっている気がする。

「……」

言葉が出てこない。馬鹿にしているわけではなく、単純にどう接していいかがわからないのだ。

「どしたの、暇そうだね」

しかも勘が鋭い。顔にでも出ていたのだろうか。

「まあな。俺にはこういう物の知識が無いから……」

「それなら買い物も終えたし、違うお店に行こうか」

と言って楓は店の外に向かう。

……いつに間に買い物を終えたのだろうか?


「今度はどうだい!」

次に楓が入って行ったのは、なんとエアガン、モデルガンのお店。

渋い。どういう事だ、最近の女子高生にはこういう物が普及しているのか? まさか姫野も。……帰ったら聞いてみよう。

「少しなら知ってるな……と言っても有名な銃だけだが」

「あ、やっぱり? なんか同じ匂いを感じたんだよね。……鈴野、もしかしてFPSとかする人でしょ?」

バレた。というかバレていた。

FPS というのはファースト・パーソン・シューティングの略称で、最近では賞金が出るほどの大会も開催されている位に広まっている文化の一つだ。

日本人にわかりやすいように説明するなら、一人称視点の射撃ゲーム。

実際の銃や兵器なども登場するので、そこからミリタリー好きになる人も多いという。

「……なぜわかった」

「そういうのって引かれ合うんだよ。昔の漫画に書いてあった」

理由になっていなかった。感の鋭さで言うなら姫野以上かもしれない。

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