表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/65

4.翼の少女はチョコレートがお好き

「ほう、スレンダーマンかと思ったが違うのかの。黒っぽいし」

「黒っぽいけどスレンダーマンはもっと背が高いし手足が長いよ!」


レリィと呼ばれた鳥少女は相変わらずこちらを強く警戒している。

その態度も困るのだが、俺はレリィの服装にも困っていた。


「いや…流石に露出多すぎだろ…」


肩から胸元にかけてと腰の周囲だけを隠すあまりに小さい布面積。

それ以外は少し筋肉質なお腹とか健康的な太ももとかむき出しである。

しかも上空にいるせいでスカートと言うには短すぎるそれが

今にも捲れてしまいそうで気が気ではない。


『痴女でしょうか。シュン様の年齢では危険ですね』

「ここまで来てそれを言うのも何だけど、実際困ってるかな…」


視線を外すとすぐにでも襲い掛かってきそうなレリィ。

しかし見つめたままだとあんまりな服装でこっちが恥ずかしくなってしまう。

活発な見た目とは裏腹になかなか戦略的(?)な小娘だ。


「けどのー。レリィよ。シュンは食べ物をくれたぞ?」

「シュンってこの人間の名前?

 知らない人から食べ物貰って毒でも入ってたらどうするの!」

「む! 毒如きでこのリガ・ズィーレット一の才女がどうにかなると申すか!」

「えぇ…いやそうかもしれないけど…」


突然のイズモの逆ギレにたじろぐレリィ。

恐らく友達か家族を思っての忠告だろうがまさかの真向から対立された。

わしは無敵じゃ最強じゃーと意味のわからない事をわめきながら暴れるイズモ。

レリィはそんなイズモを掴むのが精いっぱいでこちらまで意識が向いていない。


「今なら逃げれそうかな」

『別に逃げる必要はないのでは?』

「えっ」

『まだ食料あるじゃないですか』


エルはつまり俺の貴重な食糧を更にあいつらに分けろと言っているらしい。


『どうせこのままではすぐ餓死しますよ』

『あの子たちと仲良くなって、情報を集めるのが最優先ではないでしょうか』


ぐうの音も出ないほどの正論っぷりだ。

しかし友達も片手で数えるほどしかいなかった上に、

趣味が合う相手としか仲良くなれなかった俺にできるだろうか。

…いや、しかしやるしかない。


「な、なぁそこのレリィって子」

「む! 人間! ぼくをレリィって呼んでいいのは

 選ばれし友達とお母さまだけだぞ!」


こいつ今自分のことぼくって言わなかったか。


「ぼくの名前はレオノール・リボ・ズガ! 勇敢なハーピィの一族さ!」


なるほどレオノール・リボの部分から頭文字だけ取ってレリィか。

多分イズモのことを考えると、レオノールのところまでが名前で

リボ・ズガは苗字か何かだろうな。


「人間! お前も名乗れ!」

「あいつの名前はシュンというのじゃ」

「なんで知ってるの! もー!」


俺の名前を聞くと同時につかんでいるイズモから回答が飛んでくる。

レリィは名を知る仲なのが気に入らなかったようで少しばかり機嫌が悪い。


「レオノールちゃん。食べ物ならもう少しあるからさ、

 降りてきて一緒に食べないか?」

「人間の持ってきた危ない食べ物なんか食べるものか!」


うーん。まぁそうなるな。

だって俺でも知らないお兄さんからこれあげるって食べ物差し出されたら

普通にいやいいです遠慮しますって言うからね。

しかし勝負はここからだ。

俺は折れない。


「イズモちゃんは美味しそうに食べてたし、大丈夫だよ」

「そうそう! ふわふわして甘くて凄かったのじゃ!

 レリィも一緒に食べるのじゃー!」

「あぁもう暴れないで…」


捕まれながら腕を振り回すイズモ。

こういう風に言えばイズモなら乗ってくれると思ったが予想通りだ。

既にこのイズモという狐少女がどんな娘かわかり始めていた。


「一口だけでもいいからさ」

「そうじゃそうじゃ。食べるのじゃ!」

「うーん、もう…」


二方向から唆され、レリィは観念したのかゆっくりと高度を下げる。

イズモを下ろし、地面に自分も着地しようとしたところで浮力を反射する形で

大きく捲れそうになる。その、えーっと。胸とか腰の面積が小さすぎる衣類が。

流石に気まずくなり目線を逸らす。


「で、ぼくに何を食べさせようって言うんだい?

 悪いけどぼくはちょっと美味しいくらいじゃ満足しないからね」

「あぁ、ちょっと待ってろ」


早速リュックサックから残り二つとなったパンの片割れを取り出す。

レリィは翼の先端にある爪で器用に掴み、匂いを嗅ぐ。


「毒の臭いはしないな…」


それを確認した後、小さく一口食べる。

俺とイズモは同じように「どうだ、美味いだろ!?」という視線をぶつける。


「うーん、感触は初めてなんだけど…なんだろうこれ…

 味が薄いのかな…」


一口一口パンを食べていくがレリィの感想は変わらない。

なんてこった。俺の絶対仲良くなる必殺技・パンプレゼントが効かないだと…

ショックを受けているのは俺だけではないようで、イズモも唖然としている。


「忘れておった…レリィは、甘い味について鈍いのじゃ…」

「こんなので美味しい美味しい言ってたの? ぼく、イズモが心配になるよ」

「ぐぬぬ…言いたい放題いいよってからに…

 シュンよ! こいつをろーらくするような一品を出すのじゃ!」


籠絡て。実の友達が俺にデレデレのメロメロになってお前はそれでいいのか。

それより他の食べ物といえば…あったあった。

俺は板チョコを取り出す。水のすぐ隣に置いていたおかげで溶けてはいないようだ。


「なにその銀色の…板?」

「まさかシュンは鉄板を食べさせるつもりかの」


異世界の住民が何を食べるかは知らんが流石に鉄板は食べないんじゃないかな。

俺はチョコレートの包装をはがすと、半分に折ってレリィに手渡した。


「なにこれ? 茶色くてちょっと柔らかい…なんか気味がわるいな」


チョコレートに気味が悪いという感想を抱くのを見たのは生まれて初めてだ。

知らないとこういう認識を持つのかと俺は変に関心した。

折った半分も包装を外してイズモに手渡す。


「なんじゃこれは。これまた奇妙な食べ物じゃのう」

「甘くて苦いお菓子だよ。食べてみてよ」


イズモとレリィが同時に一口食べる。


変化は一瞬だった。


「な、ななななんじゃー! これはー! わー!

 く、口の中に甘さとちょっとした苦みが広がって…

 うわー! なんじゃこれはー! わー!」

「なにこれ!? すっごい!! 苦いのに凄くおいしいよ!

 どろどろに溶けて甘さで口がいっぱいになる!!」


とてつもない驚きとともに次々にチョコレートを食べるイズモとレリィ。

既に言語が崩壊しつつあり実は同じ言語じゃないのかなと心配になる。

それにしてもとても喜んでくれているようで、こっちも嬉しくなる。


「しゅ、シュンよ! これの名前はなんというのじゃ!!」

「チョコレートっていうんだ」

「チョコレート…チョコレートか。よし。しかと胸に刻み込んだぞ!!」


チョコレート。

異世界の少女たちは聞きなれぬこの名前をしっかりと覚えた。

しかしここはふるさとと異なる異世界。

その単語を口にするのも、それを見ることももう二度とないだろう…



そんな事はなく、ある時は渇望しある時は共に歩む

とてつもなく長い付き合いになろうとは。

この時の俺は思いもしなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ