これってベタなアイテムですか?
「えっと、調べるのは簡単でですね」
そう言ってルーナートさんが、私たちの前に取り出したのは丸い水晶だった。
ベタだなー。
「うわ、ベタなアイテムー」
同じことを考えてるね。
「ベ、ベタ? えっと、すみません、こちらに手をかざしていただけますか?」
「はいはいっと、これでいい、のっ!?」
女の子が水晶に手を触れた瞬間だった。
まばゆいってこのことかー、と納得してしまうほどの強い光が水晶から立ち登り、それと同時に女の子の長い髪がふわっと持ち上がる。
「うわー、すごいよっこれ! ね、ね、あたしやっぱり聖女様だねっ」
光が徐々に消えていき、手を触れる前と同じになった瞬間、興奮したように女の子が喋りだした。
「え、えぇその様ですね」
「やった! 信じられない、本当に聖女様になったんだ」
「おめでとうございます、そしてようこそいらっしゃいました、聖女様」
「ありがとうー、これから頑張るからよろしくねっ。 あ、ちなみにあたしは美優っていう名前よ、佐竹 美優」
あれ、これってなんだか
「美優様ですね、素敵なお名前です。 はい、よろしくお願いします」
「で、あたしはまず何をしたらいいの?」
まずい展開じゃない?
もちろん私にとってね。
「そうですね、まずは召喚の儀が無事成功したことについて、国王様へご報告をいたしますので、共にいらして下さい」
「国王様っ、かっこいいー。 もちろん付いて行くよー」
ねぇねぇ、皆さん何か忘れてませんか?
「では、こちらへ」
「はーい」
…………
「おーい、忘れ物ですよ」
一気にシーンとした部屋。
何故かって?
女の子……美優ちゃんを連れてルーナートさん率いる魔術師団の方たちが、王様のところへ行っちゃったからです。
「私、もしかして眼中にない感じ?」
ぽつりと漏らしてみる。
「その様だな」
「え」
あれ、一人と思ってたのに、よく見たら獣人さんが一人(一匹?)だけ残ってた。
「その、なんだ……すまない」
気まずそうに、ポリポリと鼻をかきながら謝罪をする。
なにこの獣人さん、ごついのに可愛い。
「これが萌えか……?」
「もえ? も、燃えるほど怒りがこみ上げてきたか!? そうだよなっ、こ、こんな扱い許せるわけないよな」
「あ、いや、そういう意味の言葉じゃないです。 怒ってないんで、大丈夫です」
まぁ、怒る場面なんだろうけど、なんだか獣人さんの反応を見ていたら、怒る気にならないというか……。
ちなみに、この獣人さん犬かな、オオカミかな。
「お、怒ってもいいんだぞ」
「いえ、別にそこまででもないかなーと」
「そうか……」
「はい」
「……」
え、この後どうすればいいの私。
「その、だな」
「はい」
「とりあえず、やっておくか?」
「やる? 殺る? ヤる?」
とりあえず、思い浮かんだ(やる)の言葉を並べてみると、慌てる獣人さん。
「ち、違う! その、水晶だ。 先ほどの……美優殿しか触っていなかっただろう、だからだな」
「あ、鑑定ですね」
「そうだ。 美優殿が聖女だったわけだが、貴女にも触ってもらったほうがいいかと思って」
んー、念の為ってやつね。
私もちょっと触ってみたかったし、ありがたく触らせてもらおう。
「水晶に触れるだけでいいんですよね」
「ああ、触れればすぐにその者の属性の色を水晶が放つ」
その言葉を聞きながら、水晶に触れる。
途端に私の髪どころか、はいていたスカートがめくれ上がるほどの強烈な風。
「うわっ」
強すぎる風に耐え切れず目をつぶった時だった。
<――、かえ――……の子>
「え?」
聞こえてきた声に驚いて目を開けると、風は止んでいて。
「……なんだったの、さっきの?」
そんな呟きが包むのは、ぼさぼさになった髪のまま佇む私と、驚きに目を見張る獣人さんのただ二人。
「あ、ちなみに私、奏 彩月って言います」
とりあえず名乗っとこう。