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『愛って一体なんですか?』

愛を知ることはできますか?

作者: はいいろ
掲載日:2016/04/20

 ハイランドの家には古くからの宿命がある。


『お前も《夢見》を承ければ分かるよ』


 それはシュナが、兄デュオに言われた言葉。


『ふーん』


 だけど兄貴。俺だって本当は知ってるよ。

 自分の魂が夢見を承けてザワザワと煩く騒ぐ事も。夢見で見た光景が瞼の裏にこびり付いて一日中剥がれない事も。その日からずっと『ソレ 』が自分の記憶となって心の中に残る事も。

 そんなの俺は兄貴よりも沢山沢山知ってるよ。


 だって俺は兄貴の何年も何年も前にソレを承けていたんだから。









「シュナ!」


 手にしたグラスが空になり替わりのものを貰おうとシュナが給仕を探してうろうろしていると、一人いつの間にか何処かへと消えていた兄デュオがシュナに声をかけて来た。


「兄貴」

「楽しんでるか?悪かったな、お前を連れ出してしまって」


 申し訳無さの中に、これをされたら女性は確実にときめくんだろうなと思われるふわりと柔かい微笑みを弟に向けながらそう言う兄にシュナは首を横に振る。


「いいよ。アデリア姫と仲良くなるチャンスだもんな。俺も協力するしー」


 この兄は弟にも優しさを振り撒く事を惜しまない。そんな天然なのか計算なのか、いや確実に天然なのだろう出来過ぎた兄に、シュナは口の端つり上げにやりと笑う。それがまるで悪巧みする子供の様に無邪気で幼くて。デュオは飽きれ混じりに小さく笑い、そんな弟の頭を軽く小突いた。


 天井近窓から吹き抜ける風が心地よく爽やかな春の匂いをここまで連れて来てくれる。今日はここ緑溢れる西の小国エヴァニアの私衆院貴族、リトアール邸で小規模な立食パーティが開かれていた。パーティの主役はリトアール邸で働く一人のメイドで、そのメイドに第一子が出来、それを祝しての身内のみの集まりの小さな小さなパーティーらしい。

 パーティの主催者はこの家の一人娘であるアデリア=エヴァ=リトアール嬢。ちなみに彼女が今デュオがお近づきになりたいと思っている女性その人だ。


「アデリア姫、何処いったんだろな」


 シュナがキョロキョロと辺りを見探してみるも、どうやらアデリア嬢は近くにはいない様子。広間に数人いる人達の中にアデリアらしき人物の姿は残念ながら見受けられない。シュナはよしっ!と意気込みを入れ拳を振り上げる。


「探してくるか!」

「シュナ、今日は別にいいよ。小さなパーティらしいから。普通に楽しんで行ってくれって言われたし」


 意気揚々とデュオのためなのかそれとも面白がってか、アデリアを探しに行こうとしたシュナをデュオはやんわりと引き止める。

 兄デュオはアデリア嬢にお近づきになりたいと思っている。とは言っても、それは好きだ惚れたのそれではなく、また別の意味があったり無かったり……、やっぱりあったりするのだが。

 実はその辺りの人間関係は複雑で、色々なものが色々と乱雑に絡み合っていてややこしかったりするのだ。だからシュナはデュオのその言葉に素直に身を引いた。


「それにしてもさ、兄貴がアデリア姫主催のパーティに招待されるとか……、実はアデリア姫との仲は結構良い感じになってんのか?」


 身内だけの小さなパーティ。そんなパーティにアデリアから直接招待されたデュオ。きっと二人はとても親密になったのだろうとそうシュナが勘ぐっても不思議ではない。


「子供、作ってくれそうかよ兄貴」

「どうだろうな」


 シュナの茶化す様なその言葉に、どうだろうなと小さく笑うデュオ。その一言だけでそれ以上は何も言おうとしないデュオに、シュナもそれ以上何も聞く事はなかった。






「シュナ様、お久し振りですね。本日は来ていただきありがとうございます」

「お久し振りですアデリア姫。いつぞやはどうも」

「全くですね」


 シュナとアデリア。微笑み合う二人。だが、両方が共に笑顔であるにも関わらず二人を取り巻く周りの空気は何故だか異常にピリピリと張り詰め、見えない嵐をその空間に巻き起こしていた。

 二人は今日この日が初対面では実はない。それはシュナが兄デュオのためにとアデリアに対してした『デュオの男気を見せるための手段』の時なのだが、まぁまたそれは別の話である。


 アデリアは場の空気を変えるためだろう咳払いを一つし、自身の隣にいた人物をシュナとデュオに紹介し始めた。


「デュオ様、シュナ様。こちらは私のお友達のエリミナ。そして、エリミナの御姉様のイリーネさんです」


 年の頃はアデリアと同じだろうか。小さな赤子を抱いている女性エリミナは無愛想な顔で「どうも」と小さく挨拶をした。対しイリーネと呼ばれた女性はにっこりと二人に微笑み、挨拶をする。


「イリーネ=ルイ=オプシェです。こちらは妹のエリミナ。人見知りなのよこの子、許してくださる?」

「ねぇ様」


 じとりとその鋭い猫眼でイリーネを睨み付けるエリミナに、イリーネは更にその柔和な微笑みを深くする。


「エリミナ、挨拶は大事よ?」

「…………」


 イリーネのその言葉と腕を差し出してくるソレにエリミナは抱いていた赤子を素直にイリーネに預け、今度はきちんと服の裾を掴み『挨拶』をする。だがやはり口からは「どうも」という簡素な言葉しか出てこなかった。


「もぅ、エリミナ」

「エリミナってば照れ屋よね」

「アデリア、エリミナは照れ屋って言うかどちらかと言えば不器用なのよ」

「イリーネさん、不器用って言うか『ツンデレ』って奴じゃないかしら」

「なるほど。それだわ」


 おほほほほ。

 アデリアとイリーネは笑い合う。


「……ねぇ様もアデリアも黙らないと、私、何言うかわかんないヨ」


 じとりと二人を見て言うエリミナのその静かな言葉に二人は顔をひきつらせた。


「あ、あと、この子が私の娘のメイリーナ。まだ一歳になったばかりなの」


 イリーネは先程までエリミナが抱いていた赤子を紹介する。エリミナの子供かと思いきやその子はイリーネの子供だったらしい。


「だからさっきお伝えしたルイ=オプシェは旧姓で、シェア=イグニタスが今の私の名前なのよ」

「可愛いですね」


 デュオがイリーネの腕の中のメイリーナを覗き込む。メイリーナは眠いのかうとうとと夢うつつで、デュオがぷくぷくのほっぺをつついても無反応だった。よほど眠いのだろうか。

 そしてシュナとデュオも遅ればせながら自己紹介をする。


「デュオ=ハイランドです。こっちが弟のシュナ」

「初めまして」


 デュオとシュナも挨拶をし終え、暫く談笑した後話はパーティの主役であるメイドのカリィナの話となった。


「でも、よく知りもしない俺達がカリィナさんを祝うこんなパーティーに招待されて良かったんですか?」

「お祝いは大勢の方がいいですから。かと言って全く知らない方や社交の方達をお招きするのも何か違いますし……。デュオ様やシュナ様の事はカリィナも知っていますし、気軽に呼べる人達の方が、カリィナも気が楽でしょう?」

「それで、そのカリィナさんは何処に?」


 シュナのその言葉にアデリアはきょろきょろと辺りを見回し、そして「カリィナ!」と手を上げ叫ぶ。一人の女性がそれに気付き足早にこちらへと駆けてきた。


「カリィナ、走らなくてもいいわよ」

「は、はい……すみませ……」

「謝るのもなし」

「…は、はい…」


 カリィナと呼ばれた女性はおどおどと挙動不審気だ。だが、デュオやシュナの姿を見てぺこりと頭を下げた。


「カリィナ、お腹を触って貰ったら?」


 アデリアのその言葉にカリィナはシュナとデュオを見る。


「さ、触って……頂けます、か?」

「え……でも」

「いろんな人に触って頂いた方がお腹の子にもいいらしいのよ」


 イリーネが微笑み言うので、きっとそれは本当の事なのだろう。何せイリーネは一人子供を産んでいるのだから。

 じゃあ、とデュオはカリィナのまださほど膨らんでいないお腹をそっと触る。じゃあ、と言って女性のお腹を恥ずかしげも無く触れる兄デュオに感心しつつシュナもどきどきとしながらカリィナのお腹へと手を伸ばした。

 けれどシュナはカリィナへと伸びる自身の手を見て、伸ばした手を引っ込めてしまう。


「あー……やっぱ俺はいいや」

「シュナ?」


 不思議がるデュオやアデリア達に苦笑いし、シュナは一人静かにその場を離れようとした。だが、エリミナの抱いていた赤子メイリーナが目を覚ましたらしく、ぱっちりと開いたその碧瞳にシュナの姿を見付けてその小さな手をぐいっとシュナに伸ばして来た。


「わっ、とあぶな……メイリーナ?」

「あーう」


 小さな赤子がシュナに手を伸ばして来る。そんな光景にシュナの脳裏には『夢見』で見たあの映像が蘇る。


 首を絞められ、もがき苦しみながら顔を醜く歪ませるその人の命をシュナの手がゆっくりゆっくりと奪って行く。苦痛。悶絶。恐怖。生きるために酸素を求めシュナの手に爪を立てる。顔の色が徐々に赤に青に変色していく。口元に泡をふく。よだれが垂れ流れる。すえた異臭が鼻をつく。抵抗が弱くなり、体がビクビクと痙攣し始める。

 そうして息絶える瞬間、虚ろに空を見る濁った瞳にシュナの姿が映り込み、その人の唇はゆっくりと動きシュナをこう呼んだ。


『ヒトゴロシ』


「……っ、触るなっ!!」


 シュナは伸ばされたメイリーナのその小さな手が自分に届く前に叫んだ。その突然の大声に驚いてビクッと体を震わせたメイリーナ。目を見開き少しの間の後顔をぐしゃりと歪ませわんわんと大きく泣き出した。


「メイリーナっ」

「お、おいっ……シュナっ?」


 こちらの様子に気付いた周りの人間がざわざわと煩く騒ぎ出す。シュナの突然の激昂と自分達を見る好奇の視線にデュオは慌ててシュナに駆け寄り小さく囁く。


「シュナっ、どうしたんだ?」

「……悪い。俺、子供嫌いだからソイツ近寄らせないでくれる」

「えっ、ちょ……、シュナ!」


 そうして周囲の視線が集中する中、シュナは一人その場を離れた。




 バルコニーに出て日が落ちた真暗な庭をシュナは見る。昼間見ると花が溢れていて綺麗なそこは、夜闇の中では少し不気味に映り恐ろしい。

 シュナが夢見を承けたのは五歳になって暫くの事だった。その当時、夢見の事を知らなかったシュナは最初それはリアルな恐ろしい夢を見たのだと思っていた。普通の夢とは少し違う、とてもとてもリアルな悪夢を見たのだと小さなシュナはその時そう解釈付け深く考える事はしなかった。

 十の歳、夢見の事を両親から聞いた。

 夢見とは魂の記憶。場を変え器を変え世界を変え受け継がれてきた魂の記憶の断片。それを夢を介して見てしまうハイランド家の宿命のこと。小さな頃にシュナが見たあの恐ろしい夢がまさにソレだったのだとシュナは話を聞きその時初めて気付いた。

 だが親にも、ましてや兄のデュオにもシュナが幼い頃に承けたその夢見の事は言えなかった。自分の手が、誰かの首を絞める夢。普通夢見を承けるのは成人の儀が過ぎてかららしい。だがシュナはそれがまだ幼い五歳の時分に来ている。

 それは、それほどまでにシュナの魂は異質なのだという事なのだろう。



「ねぇ。そこの可哀想な人」


 真暗な庭にただじっと視線を向けていたシュナのその後ろから誰かの声がした。振り返ればそこには先程小さな赤子メイリーナを抱いていたエリミナという女性の姿。偉そうに腕を組んで壁に体の片側だけを凭れさせシュナを見ているその姿は女性ながらにあまり品ない。


「俺の事かよ」

「アンタ大丈夫?」

「はっ?何がだよ。情緒不安定だっていいたいのか」

「そうだね」


 まさか間髪入れず肯定されるとは思っておらず、シュナはすぐには言葉が出て来なかった。


「……悪かったな。情緒不安定で」

「小さな子供ってさ、可哀想な人の傍に近付いていくものなんだよね。アンタもさ、私と同じで可哀想な人デショ?」


 苛立ちに舌打ちしたい気持ちをなんとか押さえシュナはエリミナを睨み付ける。鬱陶しい女だ。消えろ。

 シュナはそう思っていた。


「お前に何が分かるんだよ。今日初めて会った赤の他人にとやかく言われたくねぇんだけど」

「アンタが可哀想な人だってのは赤の他人の私でも簡単に分かった事だけど?」


 シュナはすたすたとエリミナのすぐそばまで近付き歩き、ガンッ!!とエリミナのすぐ横の壁を蹴りつけた。


「消えろよ!目障りなんだよっ!!」


 そんなシュナの罵声にもエリミナは表情一つ変えなかった。だがくるりと体を翻しシュナに背を向けて中へと戻っていく。そんなエリミナの後ろ姿にシュナの心はズキリと鈍い傷みを覚え顔を歪ませる。


 人を傷つけるのは嫌いだ。

 だけどそれ以上に人に嫌われるのが嫌いだ。


 奪った命。新しい命。

 シュナは一人拳を握りしめぎゅっと目を瞑り下を向く。『ヒトゴロシ』。ぶつけられた言葉。だけどそれは『俺』じゃない。俺の事じゃない。俺の手が汚れているわけじゃない。俺が俺の手でそれをなした訳じゃない。だから大丈夫だ。

 そう思うようにして、そしてそれが真実で正解であったとしても、それでもやっぱり記憶も感覚も感触も決してシュナの中から消えてくれはしない。残りついて張り付いてしがみついてこびりついて、消すことなんて絶対に出来ない。

 今でも震えるほど鮮明に『記憶』として蘇る。


「ねぇ、メイリーナには謝ってくんない?」


 また声がした。

 顔を上げるとそこにはまたエリミナが立っていて。今度はその腕に小さな赤子メイリーナを抱いてじとりとシュナを見つめていた。


「ねぇ可哀想な人。私は別に謝って貰わなくても構わないケドさ、メイリーナには謝ってよ。さっきまで凄くご機嫌だったのに、アンタの怒号のせいであれからずっと元気ないから」


 メイリーナはしゅんとしているのかエリミナの胸に顔を埋めてこちらを見ようとはしない。だけど少しすると顔を上げ、シュナを見て先程と同じようにまたシュナにその小さな手を伸ばして来た。だけどシュナはそれを避けるように後ろに引く。嫌がられたのが分かったのか、メイリーナは手を伸ばすのを止めて先程のぎゃん泣きとは違い、今度は唸る様にしてエリミナの胸の中泣き始めた。

 そんなメイリーナの姿にシュナはまた胸がずきりと傷んだ。


「ほら……。突き放して傷付けて、自分が傷付けてしまったって悲痛な顔をする。ソレ、可哀想な人の特徴だから」


 そんなエリミナの言葉にも何も言えなくて。


「メイリーナ……。イリィ、ねぇ泣かないで。好きだよ。好き、大好き」


 エリミナが優しくメイリーナに話しかける。するとメイリーナは徐々に泣き止みつつ、顔を上げエリミナの頬に手を伸ばし触る。エリミナはそれに少しだけ歪に微笑んだ。メイリーナも嬉しそうに笑顔を返す。

 二人は頬を寄せ合い笑いあう。それがシュナの目にはとても眩しく、手を伸ばして触れたい衝動に駈られる程綺麗なものに見えて、どうしてか、知らず助けを乞う様に口から言葉が溢れて出た。


「……俺は、ヒトゴロシなんだよ」

「はぁ?何ソレ。何の話よ」


 シュナの口から自然と漏れ出る声。俺の魂はヒトゴロシの魂。首を絞めて人を殺した人間の魂が今のシュナを形作っていて、シュナ自身がそれによってこうして動いて生きている。


 汚れているのだ。シュナはとてもとても汚れている。そんな自分が手を触れて、汚れが誰かに広がるのが嫌だった。汚れが誰かを傷付けるのが嫌だった。汚れが目に写るのが嫌だった。


 そして何よりも自分の中の、そんな消えない罪の汚れを誰かに知られるのが嫌だった。


「ふーん……。で?」

「で、って」


 シュナの話を一通り聞き終え、エリミナは言う。


「アンタの魂、っていうの?その話だとさぁ、そこにあるのはヒトゴロシの魂だけじゃないわけデショ?」


 器を変え世界を変え、それは何度も壊れ果てるまで受け継がれて行く唯一のもの。魂は記憶。様々な人生のその大きな命の固まり。


「人を殺した魂なのは確実なんだとしても、人を助けた魂である可能性もあるわけでしょ?」

「人を、助けた?」

「医者とかさぁ、いたかもしれないじゃない。その魂使ってた人の中にさ。アンタが夢見っていうので見た記憶はほんの一部デショ?色んな人がいて当然の事なんじゃないの?」

「…………」


 それはそうなのかもしれないけれど。

 シュナは黙り混む。


「しかもソレ、アンタ自身の事でもないくせになんでそんなに悩めるのか私には不思議でしょうがないんだけど」


 エリミナはメイリーナをシュナに向けて抱き上げる。メイリーナの真っ直ぐな碧瞳がシュナを貫き見る。


「メイリーナはメイリーナ。私は私。アンタはアンタ。メイリーナの魂はもうメイリーナのものだし、私の魂は私のものに違いない。アンタの魂ももうアンタのもの。ヒトゴロシもヒトタスケもバカも天才も凡人も。そんなの今はアンタじゃないデショ。アンタは一体だれなのよ」

「……シュナ=ハイランド」


 誰でもない。シュナはシュナ=ハイランドというここに生きている人間だ。天然の兄がいて優しい母と父がいて、今までこうやって自分の目で自分が見てきたものを見て、自分が感じたことを感じてきた。

 それは確かにシュナでありシュナ以外のものじゃない。シュナはシュナで、今のシュナはシュナ自身のものだ。息をしているのも言葉を口にしているのも立っているのもここに存在しているのも。その全てがシュナでシュナのものだ。


 目の前のメイリーナがシュナにそっと手を伸ばしてくる。それを今度は逃げずにシュナの手でシュナ自身が触れる。

 小さくて温かくて壊れそうなほどに優しい手。メイリーナが笑う。その顔に満面の笑みを浮かべ、メイリーナはシュナに更に手を伸ばし笑みてくる。


「可愛い……」

「はっ!?ばっ、ばっかじゃないのっ!!」


 それはメイリーナに対して言った言葉だというのに何を勘違いしたのか何故か顔を真っ赤に染め上げ叫ぶエリミナにシュナは呆れる。


「何勘違いしてんだよ。お前じゃなくてこの子の事だよ」

「な、なんだ……っていうかっ!メイリーナが可愛いとかっ、そんなの当たり前じゃない!!メイリーナの可愛さはコスモも越えるんだから!!」

「コスモ?」


 きっと外来語だろうその言葉にシュナは首を傾げエリミナを見つめる。


「コスモっていうのは宇宙の事よ!!凄く大きくて広くて力強いのよ!アンタ、コスモを感じたことあるっ?無いでしょ!」

「いや、うん。まぁ、多分無いけど」

「コスモは偉大なのよっ!!」


 それから暫く『コスモ』を語るエリミナだったが、聞いているとそんなに話に深みはなく、エリミナもそこまで『コスモ』について知っているわけではないらしかった。


「だからメイリーナの可愛さは世界を……って」

「ぶっ、くくくくっ!」

「な、何が可笑しいのよ!!アンタ失礼だわっ!!」

「いや、だってお前必死すぎっ……」


 何でだろう。コスモとか宇宙とか偉大とか超越とか。そんな図りきれないほど壮大な話を一人の女性が自分に今熱く語っている。自分でも何がそんなに楽しいのか。何がそんなに可笑しいのか。いまいちその心理は掴めない。だけど目の前で騒ぐエリミナに対して一つだけ分かった事がある。


「ちょっとぉぉぉっ!いい加減笑うのは……」


 シュナはすっとエリミナに顔を近付け不意打ちの様にその唇に口付けキスをした。突然の降って湧いたようなキスに目を見開くエリミナの、その腕からメイリーナが落っこちる。が、それを抜け目なく予期していたシュナの手によりメイリーナは地面に落っこちることなく無事にシュナの腕の中キャッチされた。


「メイリーナ、さっきはごめんな」

「あうー」


 小さく囁いたシュナのその言葉に、腕の中メイリーナはにへらと笑った。酷い態度を取ってしまった。怒鳴りもしたし拒絶もした。それでもメイリーナはシュナを許し、こうやって可愛い顔で変わらずに笑いかけてくれる。吊られてシュナの顔にも笑顔が浮かぶ。メイリーナはやはり可愛いかった。

 メイリーナと二人笑いあったそうした後、シュナは未だ固まった状態のエリミナを見て、エリミナに近寄りその耳元に小さく囁きかける。


「やっぱり訂正。お前も結構可愛いよ」


 なっ、メイリーナ。

 シュナはメイリーナを高く高く抱き上げた。メイリーナが嬉しそうにきゃぁぁぁーと高い声を上げる。


「……っっっっっ━━━━!!こっの……っへんたいぃぃぃぃーーーー!!」


 やっと動き出したエリミナの、その空気が揺れるぐらいのあまにも大きな叫び声にシュナの腕の中、メイリーナがビックリしてまたわんわんとけたたましく泣き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] …おや。これはちょっと異色な…、いえ、そうでもなのかにゃ? 葉月さまは、ダークっぽいのもさりげに書かれますものね…!((o(^∇^)o)) はい、というわけで拝読いたしましたのにょー♪ デ…
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