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夢シリーズ

絶望的王女

作者: 岸野果絵

 夢の中で、私はどこかのお城の王様の娘だった。


私は生まれてこのかた、城から一歩も出たことがなかった。


私の部屋は塔の上のほうにあった。

長い階段をずーっと降りていくと母親の部屋だった。

母は城の半地下みたいなところの小さな窓が一つだけある薄暗い部屋に暮らしていた。

母はずっと病気で半分寝たきり状態だった。


城自体は広いようだったが、私の生活範囲は部屋と階段と母親の部屋と小さな中庭だけだった。

私は長い間父親に会ってない。

だから父王の顔は覚えていないと言ったほうがいいくらい薄ぼんやりしていた。


私には兄が二人いた。

それ以外に兄弟姉妹がいるかどうか、私は知らない。


長兄はとても神経質で、いつも甲高い声で家来を叱り飛ばしていた。

しかし、なぜか私への態度はとてもよかった。

長兄は気持ち悪い笑顔で、猫なで声で接してくるので、私は苦手だった。


次兄は長兄とは正反対の気質のようで、粗野で、いつも大きな声で「ガハハ」と話しかけてくるので苦手だった。


私は、どちらの兄も苦手だったが、次兄の方は根は悪い人ではないので、次兄のがましだと思っていた。


狭い世界で生きている私にも、父王の容体は思わしくなく、死期がかなり近いという噂はながれてきた。

私のところまで噂がくるとは、きっと本当に危ないのだと思えた。


私は母の元に挨拶に行くのが日課だったが、母も父王が危ないということを知っているようだった。


母が私の手を握りながら、しきりに謝ってくる。

私には何のことだかわからなかった。

母はポツリポツリと語りだした。


私が生まれてしばらくたったある日、神託があったらしい。

その神託によると、私の選んだ男が次の王になる運命で、それに逆らえば王国は滅びるだろうという内容だったそうだ。


その話を聞いて、私は妙に納得してしまった。

長兄の態度がものすっごく気持ち悪かったのは、その御神託のせいだったのだ。

アイツは自分が選ばれるために私に優しくしていたんだ。


ぞわっとした。

もし長兄を王に選ばなかった場合、私も母もヤツに殺されるだろう。


兄の気質は王にふさわしくない。

恐怖政治とかをするタイプだ。

もし選んだとしても、あの長兄の事だ、だんだん私を疎ましく思うに違いない。

邪魔にされた挙句に消されかねない。

長兄を選んだ場合、私の未来も王国の未来も暗い。


次兄を選べば、私を守ってくれるかというと、それも微妙だ。

次兄は脳みそも筋肉でできているのではないかというくらい単純で、野蛮人だ。

側近に頭のいいのがいればいいのだが、私の知る限り、そういう人物はいない。

次兄が王になっても、長兄にだまし討ちされかねない。


他の手段はないか。

良く考えると、生まれたときから塔に軟禁状態の私には、何の伝手つてどころか情報すらない。

私は考えれば考えるほど暗い気持ちになっていった。


私が中庭で悩んでいると、次兄がやって来た。

いつもは「ガハハ」とアホっぽい顔つきなのだが、今日はちょっぴり神妙だった。


次兄は旅に出ることにしたらしい。

新天地を目指すらしい。


新天地について熱く語る次兄に目が点になったが、確かに今なら穏便に離れることができるだろう。

次兄がどこまでわかっているのか不明ではあったが、次兄が考えたにせよ、次兄の側近が考えたにせよ、一番良い方法な気がしたので、私は大いに賛成した。


翌早朝、私は新天地を目指す次兄の出立をこっそり見送った。

次兄を見送った後、ワシは母の部屋にむかった。


母は私に城から離れるように言ってきた。

私は拒否した。

病身の母を置いてはいけない。

だが、母は自分の寿命はもうすぐ尽きるから、気にしないで行くように言った。

結局、私は母の説得に負けた。


父王が崩御した。


私はどさくさに紛れて城を抜け出した。


私は振り返らずに走り続けた。

これからどうなるか、全く見当がつかない。

しかし、こうするしかなかったのだ。


なぜか昔誰かが話していた山の奥にある深い谷を思い出した。

私はそこに飛び込むことになるのだろうか。

わからなかった。


ここで目が覚めた。

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