1-5.人外戦
・・・
どれほどの時間がすきだったのだろう。
1時間ほどすぎたのかもしれないし、5分もたっていないのかもしれない。
気がつけば体術格闘lvは20を超えている。
打ち倒しても、打ち倒しても、戦闘不能にさせる人数とさわぎに駆けつけてくる兵士の需要と供給がつりあっているため一向に埒があかない。
数多くの死傷者を出し、地上に倒れ伏す数が100を超えただろうその時に 嗄れた声が空より降りかかる。
「手こずっておるようじゃの。若いの。 さて、ワシも混ぜてもらおうとしようか。」
視線を上にあげると、黒いとんがり帽子に木の杖、赤色の龍の文様が施されたローブを纏ったふとましいオバハンが非常識にも
空に浮いていた。見間違いようもないっ!!
王城の広間で俺を火だるまにしてくれたオバハンだった。
「おお! ニヴィス老! 者共! ニヴィス老がきてくれたぞ! 怯むな! 今少しである! 名声と報奨の女神は
おまえらに裾をちらつかせておるぞ!!」
金ピカのお世辞にも丁寧とは言いがたい激励は、ニヴィス老とよばれたオバハンがきたこともあり、兵士たちの士気を回復させた。
「第一魔法隊!! 放てぃ」
オバハンが魔法少女のように空でくるんと舞って、杖をこちらにむけ、言う。
気持ち悪いことこの上なかった。
そのようなことを俺が思うと同時に、 兵士達の後列が青白い光の放ったかとおもうと、昼夜を逆転させるかのような
炎の固まりと、 氷の槍、 岩石が恐ろしい勢いで兵士達を飛び越えて俺らに迫る。
マズイっ!と思うのも一瞬。
セラフィナが一歩進み出、右手を上げると、紫銀の髪が風を受けたのごとく舞い、俺らを含むように髪と同色のドームが形成されて
炎も、氷も、岩石さえも中空に食い止め、縫い付ける。
「ッハ!」
掲げた右手を振ると、中空に縫い止められたそれらが兵士達に向けて逆撃し、ひび割れた悲鳴が各所から上がる。
全身を火にやかれた兵士は転げまわって、もがいてるが、ほどなくして動かなくなり、
氷の槍で大地に縫い止められた者は身動きさえとれず、吐血すると氷の槍に手を置いたまま膝がだらんとたゆむ。
岩が直撃し、見るも無残な肉塊となった兵士はある意味で幸福といえるだろう。
あれでは痛みを感じる暇すらなかったはずだ。
それを見届け、艶然と微笑むセラフィナはげに恐ろしき神か、魔物か。
しかし、その顔は心なしか蒼白におもえる。
おもえば、彼女は瀕死で口も聞けなかった状態からさほど時間が経っていない。
「ロゼ様、あの人間は私が止めます。 ポン、ここは任せましたよ!」
「・・・無理はするなよ。」
気の利いた声のひとつもかけてやれなかった。戦場のせの文字も知らず、魔法のまの文字もしらない俺は
ただただ めくるめく変わる状況についていくのがやっとだった。
言われたポンは合点承知とばかりに、縞縞尻尾をくの字におって了解の意志を指し示す。
ポンと俺に優しげな表情で見つめ返し、セラフィナの身体が紫銀のオーラを纏って、
「第3階位風属性魔法 ・・フロート。」
気流が髪を揺らし、セラフィナの足が地を離れる。
つぶやき、浮かび上がってオバハンと対峙した。
おいおいおい、飛んでますよ。舞○術ですよ。
そして、不可抗力にも視力が良い俺は暗がりだというのにセラフィナの禁断のデルタ地帯を見てしまった。
ぐ・・・ 漏れだす鼻血。 お、俺そんなに溜まってたのかな?
空飛ぶ夢魔法と男の夢の二重奏を同時に食らって頭がHOTEL、否,火照る。
ジャラリ・・・ 鎖がうねるようにゆらゆらとセラフィナの足を追って追随する。
「あの時の借りを返させていただきますわ。」
幾多の視線がセラフィナに突き刺さるが、彼女は蒼白な顔色に似合わずほほえみを絶やさない。
「これはこれは・・・ あの時のお嬢様かい。 素直に牢獄で命つきるまで壁を小童どもにみたてて生を終えたらよいものを。
おぬしが守ろうとした幼子どもは、皆 良い実験の役にたったぞ? 金髪の・・・名はなんじゃったかのう。
この歳になると、つまらぬ存在など名前を覚えることもできぬわい。 カカカ。 魔力を暴走させて腹から木っ端微塵に
とびちった奴もいたぞい。」
空に舞うオバハンは杖でくるくると円を描き、空いている手を握りこぶしからパーを作ってそうセラフィナに告げた。
へっ、汚え花火だったぜ ってとこなんだろうが、他人にそれをされるとなんと腹ただしいことか。
直接告げられた側の反応は劇的だった。
セラフィナの表情が赤色の瞳が、嵐のごとく輝き、赤から紅へと、握る拳から同色の血液を空に零して彩る。
「貴様は・・・ 殺す。」
「やれるもんならのぅ。 墓標はおまえの仲間と同じく空に撒き散らしてやろうかの。やっさしぃ~じゃろぉ~? おお、ダメじゃ。
その前に地下で礎となって・・」
「射落とせ!!」
二人が会話が終わる間もなく、戦闘へと移り変わりゆく前に金ピカ兜が吠えて、中空にいるセラフィナを指さす。
会話を中座させられたオバハンは顔を顰めて眼下を一瞥したが、すぐに嫌らしい笑みを顔に貼り直してセラフィナと相対。
包囲陣の裏手、凄惨の状況を創りだした、岩や氷葬された一角から弓弦が引き絞る音が漏れ、一斉に矢が放たれた。
そして、包囲陣前方にいる兵士たちが一斉に距離をつめてくる。
「させないよぅ! 第5階位以下省略!! てぃ!」
尻尾を逆立てて、2足立ちしているアライグマがポンっと両手(足?)を合わす。
ゴウ!! と、俺の前方に巨大な竜巻が発生してセラフィナを包み込むかのように烈風が巻き起こる。
豪雨のごとき数の矢は推進力をなくし、目的地を失ってあられもない方向へと道を変える。
そのまま竜巻は前進し、進路上にいる衛兵と弓を持つ一隊を空高く巻き上げると唐突に掻き消えた。
驚愕から悲鳴、悲鳴から絶叫へ 狂騒のハーモニーはとまることをしらない。
大きな緑の瞳を輝かせて、竜巻を発生させたポンはしばらくすると キュゥ・・・ と鳴き声をたてて、地面に大の字になった。
いわゆる魔力とやらを使い果たしたのだろう。
ドサっ ドサっ 本人の意志に反して空高く舞い上がった者達が重力に従って落ちてくる。
それは漫画の世界のように、華麗に着地することもなければ、アニメや空を飛ぶ二人のように中空で浮かぶこともままならず、
地上に激突して、聞くも無残な音をたてる。
それは暴風にまきこまれず、今もゲティスらと切り結ぶ兵達に動揺をあたえたようで、その瞬間を見逃されず数人が永遠の眠りへと
誘われていく。
戦場の只中にあって、基本的に異世界に飛ばされた奴って 主人公だよな? 一番活躍してなくね?
さっきから飛び交っている超常現象は魔法ってやつだよな。発動する前に覆う記号、どっかでみたことあるような、ないような。
そんなことを考えていたが、もはや数えれない数となった死体をみると現実に立ち返った。
呆けていたところに エリスの叱咤が飛び、 背中から斬り付けられたが、剣のほうが剣心から真っ二つに折れた。
「っひ・・・ 化け物めっ!」
「うるせえ。」
右足を旋回させた反動で、ふわりと左足が宙に浮くが、回した蹴りは見事 衛兵の顔面に炸裂して兵士たちの一隊を巻き込んで
吹き飛ばす。その様子を見て、 やっぱ、主人公だよなあ? とつぶやいてしまったが、聞いた奴がいたようだ。
「・・・なによそれ。雑魚なら問題ないだろうけど、祝福を施された武器で攻撃されたら、さすがにやばいわよ。きをつけなさい」
右腕の蓑虫からそんな忠告をうけた。戦闘を続けつつ、蓑虫少女に質問をする
「祝福・・・(ドゴッ!) と、 普通の武器の見分け方ってないのか?(バギャッ!!)」
「目に魔力を集中させてみなさいよ。感知できるでしょ。それが祝福された武器よ。 正確には闘気だけど、魔力を帯びた者もあるわ。
魔力を伝導させ、吸収するのはミスリルの特性だからね。 おかげでアタシはさっぱり力がはいらないわ。」
「なるほどね。 で、どうやって魔力とやらを目に集中すんだ?」
「はあ? なんでそんな魔力もってるくせにそんなことすらしらないのよ、馬鹿っ!」
「馬鹿もなにも産まれたばっかりだといってんだろ、泣き虫!」
正確には産まれたばかりという表現は違うけど、こちら側にきたのはつい数時間前にすぎない。
「うっさいわねえ! ちょっと、前! 前! 二人!」
「(バカン!)で、(メシィ!!)どうするんだ?」
「目に力をいれてごらなさいよ。目を閉じて、でも ”視る”感覚。 あんた 大した力いれてないのにさっきから
人間ふっとばしてるでしょ! その感覚よ!」
言われてみれば納得、 ただたんに体術だけが上がった原因だけではなく、意識を傾けるだけで別の力が働いて動く感覚。
これが魔力?
俺を恐れて、兵の波が一旦退いたタイミングを見計らって、瞳を閉じて、目を意識して”力”を注ぎ、開いた。
世界が変わる。
ハラショー・・・。
これまで当然だった世界が、より色を増し、彩度さえも変えたかのように視界に膨大な情報量が流れ込んでくる。
地や空に 淡く光る燐光が見えては消え、消えては見える。
幻想的なそれは精霊とよばれているのか、魔力とよばれているものか、俺の知識ではまだ分からない。
周囲を見回すと、規格外な光を発する存在が2つ。
セラフィナと、魔法オバハンだ。彼女らには劣るものの、ゲティスの輝きも相当なものがある。
金ピカ兜はそいつ自身からはあまり光をだしていないが、その手に持つ剣からは異質な白い鮮烈な輝きを放っている。
前世でオークションにならべたらべらぼうな値がつきそうな、そんな輝き。あれが祝福された武器・・・ね。
それにしても、 俺の周りだけやたら明るいな・・・ とおもったら、 それは自身の身体から発散された光だった。
懐中電灯はもういらないな。
ためしに左手でピストルを指で形作り、レ○ガンっ!といって力をこめてバキューンと射つポーズをしたがなにもおこらなかった。
むなしい。
そんな述懐をよそに、空では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
ふとましいオバハンが、なにやら呟いている。
遠くて聞き取れないっ!
と思ったのも束の間すぐ聴力は、真横で語りかけられるかのような
力を発揮して声を俺に届ける。
「・・・ 階位氷魔法 フリージングランサー!! 」
俺の視界の片隅で skill:盗聴 の文字が光を帯びて発光していた。
魔法少女なみに輝いていたオバハンを取り巻く光が幾分弱まり、代わりに発散された記号のようなものが産み出され、
彼女の手を伝って杖に流れ込み、固定。
文字が消失すると同時に、彼女の腰よりも分厚い氷の槍を数十と生み出し、紫銀の存在へと叩きつける。
槍の大多数は標的が滑らかな動きで回避することで逸れて、風を裂く唸り声をあげて城の外壁へと突き立ち、
外壁を灰色の存在から白銀へと染め変える。
周囲の温度すらのきなみ下がったかのようだった。
セラフィナは1本の槍を傷跡が生々しい左足に受けて、鎖と血が飛び散った。
「あら、忌々しい鎖を斬ってくれたのね? お優しいわね。 お礼よ・・・」
彼女が中空の空気を魔法の文字列を浮かべた右腕で断ち切るとともに、紫色の真空波が発生。
その刃は魔法オバハンがそれまでにいた空間を断ち切り、背後にある城の突き出た背の低い塔を斜めに切断する。
時間差で落下する塔の先端を含む一角が大地に落ちて、盛大な土埃を巻き上げた!
カカっと汚い笑声をあげながら、姿が消えたオバハンがさらに上空に顕現。
隕石を疑うほどの巨大な炎の塊が、セラフィナに投射。
紙一重でセラフィナは回避するが、その顔には焦燥。
射線上にいたのは、いままさに戦場で身動きがとれなくなった、外壁に寄り添い、周囲を俺や、ゲティス、
ハヌト侯爵やその部下達、身動きのできる比較的軽傷な者に守られているゴブリンや人間の負傷者達。
どこまでも下衆なことを考える糞年増がっ。
くそっ!
俺は為す術もなく、呆然と見ることしかかなわなかったが、右腕に抱える存在から視界を奪われるほどの光を感じた。
見ると、蓑虫エリスから眩い赤光が蛍光色で書かれたように幾何学的な文様に変換されて、構築されていく。
ミスリルの鎖の一部が文様を吸収し、薄く消えていくが、立ち昇る魔力が文字を再構成していく。
もはや、鎖蓑虫から文様の蓑虫となったエリスが燃えるような真紅の髪を逆立たせ、髪より紅い瞳を見開いて、吠えた!
「第7階位炎属性!! 来たれ! 仮初の主である我が命じる! フレアストライクっ!!! 」
エリスの口から目がさめるような大音量が発せられるとともに、馬鹿げた大きさの火炎が点から線へと姿を変えて、
今まさに集団に降り注ごうとしていた火炎に激突!烈火が火炎を割いて、その焦点温度で城壁を斜めに裂いて人二人が通れるような
穴を斜めに形成した。
射線上に城門を巻き上げる装置があったようで、門を内包していた空洞から鉄製の頑丈な門が4mほど勢いよく落下し、猛火によって溶けた部分が
自重に耐え切れず、へしゃげる。上空高くまで舞い上がった埃とそれに伴った風圧で、近くにいた兵士どもが吹き飛び、隊列が
大きく崩れる。比較的距離があった俺らですら飛ばされないようにするのがいっぱいないっぱいな風圧だ。
凸を逆さまにしたような門が地上に姿を現す。
猛火は壁を食うだけではとどまらず、夜空を駆け抜けると、空に盛大な花火を散らした。
城下町を上空から俯瞰すれば、さぞ美しいに違いない。
飛び散った火炎の欠片が火の粉となって、空を舞って、辺りの木々に火が灯る。
火の粉は城の開け放たれた窓にも入り込み、カーテンを燃やし、兵が携えてきたのであろう龍に槍をあしらった国旗にも
それは降りかかって龍が火を吹いた。
ゲフェ・・・ ゲップーーーー・・・ ゴホゴホ・・
エリスは奇妙な音を口から出すと、咳き込んでぐったりする。唇からは一条の紅い線が垂れている。
きっと、奥の手だったのだろう。ミスリルが魔力を吸うことをさきほど聞いている。
少しでも楽にしてやろうと手をかけるが、鎖を掴む手には力が全く入らない。
いや、力は入る。 入るのだが・・・。魔力としての”力”が発揮できないと言うべきか。
即座に鎖を破壊する術がないことを理解すると、すぐさま方針を変更する。
エリスやポンももはや、戦える状態にない。即刻離脱すべし!
兵士は数こそいるものの、隊列は乱れに乱れ、特に城門前はひどい。 エリスの行為で完全に兵士は意志を挫かれて、中には逃亡する者すらいるほどだ。
今が機とみるべきだろう。
味方にskill:一括を使用して、味方に闘志を!
「隊列が乱れたぞ!! 城門前を・・突き崩せ!!!」
ハヌト侯爵とゲティスが先陣をきって飛び出し、職務を完遂しようとする、もはや少数派となった城門前の一団がまたたく間に平らげられていく。
溶けてへしゃげた城門と外壁の隙間から女子供、ゴブリンども、そして侯爵が続き、ポンとエリスを抱えた俺が続く、ゲティスは
最後尾で奮戦している。肩や腕に矢が突き立っているが、片手に長槍を、片手に剣を携えて鬼神のように暴れまわる。
背後を振り返ると壮絶な空中戦を展開されている。光の乱舞が俺の視界を奪う。
戦いは剛から柔に移ったようだ。
めぐるましく立ち位置を入れ替えて、炎が氷が舞い散る。
中空のセルフィナに視線の矢を打ち掛け、叫ぶ。
「セルフィナっ!! 来いっ!」
セラフィナの左腕は炭化している。さきほどのオバハンの炎を躱したようにみえて躱しきれていなかったらしい。
俺の言葉が聞こえたのか、唇が動いたようにみえたが、横顔なのでなにを言ったのかは分からない。
おわらせる、だろうか。
城門を越えた橋の上からでも簡単に分かるほどの光量を有するその姿。
紫銀の女性は落ちた門の上部に降り立つと、
セラフィナを包み込む紫銀の光がいっきに収束、オバハンのはなったものより多くの幾何学的な文様が右掌に集まり、掻き消える。
否、移動した。
明滅する記号郡が、 距離としては50mほどをオバハンを挟み込む形で中空に出現。、
それは一条の落雷。