表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウノート - shadow note -  作者: シャーネ
プロローグ -王城崩壊編-
4/6

1-4.城内戦



さて、現実を見ようか。



血を流し、動かなくなった死体の腰からゲティスは手早く長剣を略奪し、折り重なるようにして落ちているハルバートも

拾うと背後に呼びかける。


「ヴィロム、ツカエ。 オンナコドモヲマモレ、チカヅク者ヲ優先的ニ排除シロ。」


ヴィロムと呼ばれた隻眼、ゲティスには及ばぬものの、筋骨たくましいのゴブリンがゲティスの手からハルバートを受け取り、地下階段の入り口付近に集まるゴブリン集団

を守る位置取りに動く。もう一つの死体からナイフと、槍をもぎ取り、それぞれ名前を読んでゴブリン達に一丁ずつ手渡していく。


一方、俺の背中で口を聞くことさえできず、ペロペロと血を舐めているだけだったセラフィナが、初めて口を開いた。


「ああ・・・月光・・・, ロゼ様、血を有難うございます。宜しければ、少しの間だけでも月光があたるところに。 」


俺、名前いったっけ?ああ、エリスとしゃべってるときに聞いたのか?

つーか、血をあげたわけじゃないがな、勝手におぬしがすったのじゃ。

なにはともあれ、このようなことで回復してくれるなら嬉しいことだ。

女性が絶望にうちひしがれているのを見るのは忍びない。

エリスはといえば、俺の右手で蓑虫状態でいるが、危惧したように暴れたり、大声をあげることもなく神妙にしている。

顔つきがどこか不機嫌そうだが。きっとデフォルトだろう。

声を聞いたポンが気遣いながらも、声は立てず、しかし瞳を潤ませて、俺の足元に寄り添いながらセラフィナの顔を覗きこむ。


「ポン・・・ ありがとう。もし、私の身が滅んだら・・ 」


「そのようなことにはなりませんっ!」


ポンの即答に、目を細めて微笑を浮かべたセラフィナは、俺の背から降りると身にまとう国旗を抱きすくめながら、

月あかりを浴びて、一息ついた。 錯覚だろうか、紫銀色だった髪が艶やかさ、真っ青な顔色に生気がもどったことを感じたことは。


そのようなやり取りを見ながら、俺は前方に広がる木立に隠れつつ、はるか遠くの城門側を見やり、目を細めた。


「・・・結構いるな。」


見渡すと、悲惨な崩壊から難を逃れた城壁が目にはいるが、ビル4階ほどの高さがある。

俺は別としても、蓑虫エリスは当然として、ミスリルの鎖に蝕まれているセラフィナ、ポン、ゲティスはもちろん、ゴブリンの集団も

あれを超えることは不可能だ。

俺のひとりごとに、いつの間にか、横に控えていたゲティスが短く返事をしてくる。


「ドウナサイマスカ?」


その返事に俺は一息の間、考え


「ふむ、ゲティス、おまえらが住む村とかないのか? まさか この城下町に住んでたりしないよな。」


「人間ノマチニスムナド・・。ワレラハヤツラニトッテ魔力ヲスイトルダケノ存在ナレバ・・ ワレラハココヨリ20ティブ、

ホド離レタ洞窟ニ居ヲスエテオリマシタ」


ティブってなんだ。 kmで言ってほしい。


「20ティブとは歩いてどれほどだ?」


「東ニムカイ、1日モアレバツクカト。」


1日。 ちょうど良い距離だ。 この大所帯、あまり遠くまで動けないであろうし、かといって城に近すぎては追っ手が怖い。

俺は振り向き、セラフィナに付き添うポンを手振りで招き寄せ


「ポン。おまえらのいた場所はどこだ?」


「シファギリアの東だよぅ。」


「こっからどれくらいだ?」


ティブで答えられても分からないので、必要日数だけを聞く。


「・・・もうしわけないよぅ、ボクはここがどこか分からないから答えられないよぅ。」


まあ、捕らえられていたわけだしな。 では、決定だ。



鎖の奏でるジャラジャラという金属音と地面に擦れるガラガラとけたたましい音が不快なオーケストラを奏でているので密やかな

脱出など夢のまた夢。

助けた人間のうち、数人は早くも月明かりが照らす中、すでに庭園の木々に姿をくらましているが別に構わない。

今から思えば、奴らを脅して逃走ルートを確保する手もあったかもしれないが、嘘でも教えられたらたまったものではない。

しかも、その可能性は極めて高い。 牢獄での人間の魔族に対する反応からそう判断する。

それでも、怪訝な目をしつつも、助けてもらったことに恩義を感じ、魔物に見下した態度をとらない者たちが残っている。 

また、逃げるにしても、糞みたいな理不尽さを暴力に変換でもしないと俺も、こいつらも収まらない。


俺は背後を振り返り、牢獄への階段の前で闘志をむき出しにしている人間とゴブリンの一団へ向き直り、腰に手をあてる。

前世とは比べ物にならない清涼な空気を肺腑に蓄えると、張り上げるような大声ではなく、

かといって囁くでもなく、 明瞭な意志を持って、言葉を告げる。


「皆、聞け! ひとまず、ゲティスらの拠点に向かうことを目標とする!  敵は多数だ!だが、突破は不可能ではないっ!

 それは諸君が今、この場に足をつけていることがなによりの証拠だ。

 可能なかぎり、隠密に動く。 姿が確認されてしまった時点で強行突破にうつる。 だが、身の安全を各自優先しろ。

 無辜の市民は出来る限り、被害を出させるな。 

 城門までいけば強硬突破に移る。  何か質問は? 」


俺がそう言うと口ひげを蓄えた、茶髪の壮年の男性、人の風下にたつをよしとしない覇気が漂う男が集団から一歩踏み出してくる。

囚人服なので威厳も糞もあったものではないが、その姿は年齢以上のなにかを感じさせる。


「民と、味方を思うその姿勢、気に入った。

 城門を抜けて、橋を渡り、左に折れた街路を真っ直ぐ言った先にワシの屋敷がある。廃絶されたため、誰もおらん。

 だが、馬車が打ち捨てられているはずじゃ。 使うといいじゃろう。 そこまでたどり着ければ・・・の話じゃがな。」


「侯爵様っ!? お止めください!」


「何。 止めるな。 どうせ数日の命じゃった。 家も取り潰しが決定しておるし、爵位も取り上げられておる。

 ワシとおまえも今は同格ぞ?  おまえだけでなく、このゴブリン達も、そこにおる者達とも同じ立場じゃ。

 もはや諦めておったが、 どうせなら物の道理が分からぬ不埒者どもに大逆して悪あがきしようではないか。」


主従関係にあったとおもわれる女性にカカッと嗤いかけると、どうだ?という視線を俺に投じてくる。


「ありがたいことだな。 まあ、成り行き任せとはいえ、種を超えて、ここに残ったものはこの国の首魁どもに対してそれなりに思うことはあるだろう。

 突破したあとは皆で語り合いたいものだ。 では、いくぞっ!!」


全員の瞳に意志が宿る。 明確な炎の灯火が。 それは見えない熱風となって、集団を押し出し、各々の生死をかけた

脱出劇の開幕を告げる。

開けた視界の片隅に青白く光る文字でskill:一括 と表示されているのが激しく現実感を失墜させた。




月あかりに照らされてるとはいえ、建物の影と庭園の木立により薄暗いその空間を30人がゆっくりと移動する。

城までは500m以上はあるだろう。 その崩れた城の隣にある建物は法院らしいが、窓からもれる光はない。

緊急事態ということもあり、人はいなさそうだ。 ただ 時折、見回りと思われる兵が建物の外周をうろついている。

俺らが木立に身を潜めた目の前で、 衛兵は新たにやってきた衛兵と顔をつきあわせると、呑気にも槍を法院の外壁に

立て掛けてのんびりと談笑しはじめた。


「よう、非番だってのに、難儀なことだよなあ。 おまえも呼び出された口か?」


※--------------------------------------※

--  skill:盗み聞き     取得   --

※--------------------------------------※


スキルの取得に伴って、最初はボソボソとしか聞こえなかった声が意識を向けると明瞭な声となって俺の耳に届く。

こりゃあ、便利だ。 現実世界で手に入れた日には、社員の囁きが漏れ聞こえて鬱になりそうだが。


「そうだ。 パレードの最終日だってのにな! 明日・・・いや、今日か。 まあ 城がこんなことになったらパレードも

 中止かもしれないな。 うちの息子はそれはもう楽しみにしてたんだよ。」


「5年に一度だからな。 今年の盛り上がりはすごかったな! それだけにお子さんのこと残念だな。 俺もさあ・・・

 昨日 ようやく・・・ようやく・・・念願のメルタちゃんとデートの約束をこぎつけたってのに・・!

 くっそーーー! 第2階層のBAR、ライムの予約・・ 半年分の給料つかってとったのにさ・・・ 」


「ライム!? おまえ それは奮発したなあ。 長年の独身主義返上のチャンスだったのに、ご愁傷様」


「何、独身主義のほうが俺のことを放してくれないらしい。長年手を取り合ってきたからな。 ああ、畜生」


「それでこの事態はなんなんだ? 上のほうからは王城の一大事、ということしか聞いてないぞ。

 城が崩壊しているのはさきほど見たが、死傷者はほとんどいないらしいな。 誰がこんなことを? 

 てっきり他国からの攻撃でもあったのかと身構えてしまったが・・」


「魔法元老院のやつらがまた実験でも失敗したんじゃねーかー? たしかに、発明されたエレメンタルピラーやシャドウノートはすごかったけどよ。

 それに伴った実験って伏せられてるけど、えげつなかったらしいぜー? 爆発事故も相次いだらしい。

 おっと これはオフレコで頼むな。」


「あのシステムは謎だよな。あれだけ大々的に宣伝しておいて、実際のところ公開されていることはほとんどないからな。

 魔力供給システムだっけ?たしかに生活水準は上がったさ。俺も家で風呂にはいれるようになるとは2年前は

 思いもしなかったな。だがなあ、魔法部隊の増長と、魔法アイテムの値段の高騰っぷりはやばいぜ?

 この前、護身用にさー ハイ・ポーション買いに行ったんだよ。 なんと50ギム! 給料の半分がきえちえまったぜ。」


「やってらんねーよなあ。 命あっての物ぐさだしよ。俺らの給料は平行線。魔法部隊の奴らの給料はうなぎ登り。あいつらがなにしたってんだよ。」


「エレメンタルピラー作っただろ。」


「あれは、魔法院の連中がつくったんだろ。魔法部隊関係ねえじゃねーか。その魔法院にしても独力でつくったとはとてもおもえないね。」


「まあ、たしかにきな臭い。 異様なほど魔族奴隷の値段も高騰しているよ。 俺らの任務も魔族の集落を標的にしたものが多いしな。

 ギルドもそんなかんじらしいぜ。 あいつら、別に人里を襲ってくるわけでもないしよ。 中にはいいやつだっているんだけどな・・・

 国の命令じゃなあ・・・。最近、俺は近衛兵だってことをわすれちまうんだよ。 城にいることがあまりない。 」


まったくだ・・・ じゃあな、またな と、ぎこちない笑顔をかわして別れる二人を背後から襲って、昏倒させる。

殺しはしない。 降って湧いたような会話だったが、いろいろ得るものがあった。

これはそのお礼だ。 ただし、身ぐるみは剥がせてもらおう。

せっせとゴブリンが、武装解除させ、奪いとった武器を持っていない者に配っていく。

外壁の暗がりに放置して、再度木立に紛れ、城門のほうへと歩を進めていく。


 

木立が途切れ、庭園の入り口とおぼしき場所まで辿り着く。

足の裏がそれまでのほのかに温かい土の感触から、整えられた石畳の冷たさを伝える。

鎖から放たれるジャラジャラという金属音が、石畳と接触することで生じた音を伴って、さきほどまでの音など囁きにしか聞こえなかった

と思わせるような盛大な音量を出力し、ほどなくして一人の本城の端で槍を構えた複数の衛兵に目撃されてしまう。


「な!?  魔族だっ! 脱走だぞ!!」


「あれは、城内に連行されたはずの男!!」


エリスを右腕に抱えたまま、石畳を踏みしめ疾走。 運動力をそのまま拳に伝えて顔面にエスコート。

グシャリと鼻が潰れる音がして、吹き飛び、城の外壁に激突し動かなくなる。

それを見終えることなく、即座に回転して右腕にもつ鎖まみれの蓑虫を両手で持ち直し、美しいゴルフスイングを敢行、

もう一人の胴体にめり込ませる

スーパー蓑虫アタぁぁぁぁッーク!

蓑虫を振り切り、空中で一回転、持つ手を両手で背中に、フィニッシュ。

足からエリスが着地。


※--------------------------------------※

--  体術格闘lv2  到達   --

※--------------------------------------※


それまで不機嫌ながらも神妙にしていたエリスがここで初めて口を開いた。

目を回しているのか首を一振りしたあと、脳内に鳴り響く声を反芻している俺に

ものすごい勢いで


「ちょ! なにすんのよ!!」


予想どおり全然平気そうなので、軽口を叩く。


「おまえを抱えてるから、左腕しかつかえねーんだよ。 すまん、すまん、はっはっは。」


「ければいいじゃないのさっ!」


ピイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーー!

静寂を讃えていた本丸である城の片隅から、かん高い警笛の音が鳴り響く。


「あ” 「あ”」」


俺とエリスの声が重なる。

見やると、残った一人が俺らの見せた恐慌に怯えながらも、勇気を振り絞って笛をふいた。

震える手で槍の穂先をこちらに向けると、


「か・・・観念しろ、この魔物どもめ! い、今に兵が駆け付け・・」


最後まで言い終えることなく、続いたゲティスが袈裟斬りにして、兵士が仰向けに倒れ、血で石床に点描を描く。


「主サマ、アマリキヲヌカヌヨウ・・」


ああ、と了解する間もなく、多くの灯りとともに、多数の足音がこちらに向かってくることが確認できる。

視線をそちらに固定したまま、兵士の腰から短剣を手にとると、


※--------------------------------------※

--  短剣技術 lv1      到達   --

※--------------------------------------※


の声が鳴り響く。どうやら持つだけで技術が手に入るようだ。lv1ってのは当然だが、りんごの皮むきくらいはできるぞ?

いままでの独身生活を鑑みると10くらいいっててもいいのだが・・・。

石畳で手に持つべき主を失った長槍に手をかけると、同様に技術を習得できた。

両方lv1で、武器をもたぬゴブリンや人間たちのほうが問題なので、3人の衛兵から奪い取った武具を

追い付いてきた集団に投げて手渡す。セラフィナと目が合うと、彼女は柔らかく微笑む、体調はだいぶ回復したようだった。

さりとて、傷口は見られ、万全には程遠いようだが。

コクリと頷いた。


「少し予想より早くなってしまったが、仕方ない。 こっからは強硬突破するぞ!」


それだけ言うと、エリスを小脇にかかえ、先頭を征く。後ろにはセラフィナとゲティス、セラフィナの横をポンが4足歩行している、

その後ろを人間とゴブリンごちゃまぜの集団が鎖音を立てて、続く。

眼前から何十人という兵士達が姿を見せた。




※--------------------------------------※

--  体術格闘lv5  到達   --

※--------------------------------------※

※--------------------------------------※

--  体術格闘lv6  到達   --

※--------------------------------------※


・・・

・・・


※--------------------------------------※

--  体術格闘lv11  到達   --

※--------------------------------------※


おらあーーーー!

したたかな蹴りが鎧を砕いて、衛兵を吹き飛ばし、他の衛兵を巻き込みながら数十メートルの距離を飛んで行く。

スマッシュブラ○ーズでバットもった感覚だな。

分からない?やってみたまえ。


※--------------------------------------※

--  skill:アーマーブレイク 取得   --

※--------------------------------------※


脳内に響き渡る声に反応する暇もなく、突きかかってくるもう一人槍を掴んでへし折り、左足で蹴り飛ばして悶絶させる。


※--------------------------------------※

--  skill:ウェポンブレイク 取得   --

※--------------------------------------※


蹴り飛ばすと同時に飛びかかってきた二人の槍を、背中に受けるが、俺を貫くことなく穂先が砕け、

驚愕の表情を彩る二人を正気に立ち戻る暇もあたえず、一人は拳で、もう一人を片足で黙らせる。


※--------------------------------------※

--  体術格闘lv12  到達   --

※--------------------------------------※


一人つぶすだけで上昇していた数値はなかなかあがらなくなってきた。

まあ、何人たたきのめしたか覚えていないのであてにはならないが。

この体術格闘とやらのレベルがあがる事に、動きのキレがよくなっている気がしてきた。

測る術がないので、これもきのせいかもしれない。

周囲を見れば、ゲティスは悠然と事を構え、正面から打ち勝っている。

彼の剣は、刃物というより棍棒を振るうようで、対面する相手は2合と斬り合うこともなく、相手の剣がへし折れて叩きのめしている。

自分の使っている剣が折れると、彼は叩きのめした相手から武器を奪い、戦線にすぐ戻ってくる。


セラフィナはその優しげな立ち振舞から、問答無用に突きかかる者はあまりいなかったが、彼女が欄と赤い目を光らすと、

彼女と目を合わせた兵士は意識を失って倒れ伏した。

その光景を見た、兵士が雄叫びをあげつつ、彼女に迫るが、姿を追うことも不可能なほどの速度で動くポンの牙や打撃を受けて

一人、またひとりと倒れていく。


彼女の身体からは青紫のオーラのようなものが立ち昇っており、紫銀の髪と業火のように煌めく瞳は現実世界の者とはおもえない。

妖艶さと静謐さをたしたようなその姿は、王旗一枚で身をかくしていることもあり、とてつもなくエロいが

そのようなことを思うのは俺一人のようで、兵士だけではなく、ゴブリンやゲティスまでもが、瞳に驚愕と警戒の色を浮かべている。

おっと、平気そうなのがあと一人いた。エリスだ。

彼女は俺の持つ手の中で ふぅん と興味深げな視線をセラフィナに送っているが、その視線に気づいたセラフィナがにこりと微笑むと

フンっと首をそむけた。


「おい、エリス。 彼女は一体、その 何だ? 人間じゃねーよな。」


「ヴァンピーナでしょ。 それも、生粋の。 レア中のレアね。 あの一族は本来、他種族と関わろうとしないし、

 フン!そのへんがにてるけどぉ!! でも あたしもあれ以上にレアよ! 全ての種の尊敬と威厳を一身にうけているんだから!」


ですよねー。

自分のことをレアとかいうのはどうかとおもうが、エリスが竜なのはしっている。

まあ、竜はレアだろう、なんとなく・・・、だけど 簀巻きにされてふんぞり返っても威厳も糞もあったものではない。

それにしてもヴァンピーナかー・・ 肩口ペロペロされてた時点で、そんな気がしてたけどおおお!

でもニコちゃんに吸われるなら本望である。ゾンビ化してもイイ。 あ、いやすまん。 フラグじゃないぞ。たのむぞ。


「俺、血吸われたぞ? 彼女から足舐めなさいっていわれたら、ペロペロしちゃうのかな?」


「なんていう想像してんのよ! アンタのほうが魔力高いんだから、ありえないわ。・・・血の盟約も交わしたくせに。 」


「は? 血の盟約? 」


「ヴァンパイアが番となる相手に行う行為よ。 相手には自分の血を、自分には相手の血を。 血のもたらす魔力を、お互いの

身体に入れ合うことによって儀式のようなものかしらね。」


「番ってあれか?夫婦みたいなもんか? オイオイオイ、 お互い認め合って血のんだわけでもあるまいし、 そんなもんで

きめていいのか?」


「ああn もう 自分で本人に聞きなさいよっ!そんなに詳しくないわよ。 あと、アンタ、一応いっとくけど、アタシと

真名の契約もむすんでるんだからねっ! もうこれ以上はポンポン 契約しないでよねっ!」


「おまえとは名前を言い合っただけだろーが!! 契約も糞もあるか!」


「なっ・・・! あんたそんな風におもってたのっ! 真名を証すことが竜にとってどれだけのことかわかって・・・

 わかっ・・・ グス・・・  グス・・・   グフェ、グフェ・・  オワアアアアアアアアアアン!!!」


戦場のただ中でかき消すような泣き声。 ああん、もう! 泣きたいのは俺のほうだっ!


「分かった!分かった! 泣くな! ゲティスんとこまで辿りつけたら後で存分に話を聞こう、泣き止め!

 契約もALL OKだ。 偉大な竜なんだろう、だーかーらー泣くな!」


グフェ・・・ ゲヒ・・ と噎せて、泣き止むエリス・・・ 

ああ、もう、竜って俺の中じゃめんどくさいって予想、斜め45度にあたってるよ。



そんなやり取りが行われている中も、戦闘は終わっていない。

俺とゲティス、セラフィナの間を縫って、後方の集団に襲いかかる奴らもいたが、多勢に無勢、数人程度ではゴブリンと侯爵と呼ばれた

男を筆頭として、返り討ちにあっていた。


次から次へと波の如く 押し寄せてくる兵士達。

徐々に城門に差し掛かるところまで叩きのめしながらやってきたが、兵士達の動きが変わった。

いままで対して組織だって動いてくる気配はなかったが、 明らかに包囲しようと動きが変わる。


さきほどまで遮二無二に突っ込んできた様子が嘘かのように、鋲が打ち込んであり身体をすっぽりと覆い隠せるような大盾を

構え、槍の穂先をこちらに向けてくる兵士たち。

穂先の線は綺麗に整ってはいなかったが、月光を反射するそれは圧迫感となって俺たちを呑み込む。

そんな横列陣にジリジリと押され、横列から半方位隊形へと変わり城壁の一旦へと押し付けられる。

城壁に対して、内側に女子供ゴブリンと負傷した人間を外側に戦闘力のあるものを配置し、俺達は徹底抗戦の構えをみせる。


空気が張り詰めるようで痛い。

その緊張感を切り裂くように、兵士達の中央から分け入ってきた一人の男が出てきた。

金色の兜と、赤のマントを風になびかせる、美術館でしかお目にかかれない甲冑に身を包んだ騎士が松明を従者に持たせると、

華麗な装飾がなされた鞘から抜剣し、剣先を天に突き刺し、名乗る。


「ここまでだ!! 王城破壊の元凶!ユニーク持ちとは言え、此度のこと、命を持っても贖えると思うなよ!!

我が名は筆頭公爵にして近衛兵団総師団長デプス!  魔物ともども、この地に命を散らして詫びよ!」


その言葉を受けて、言い返してやろうとしたとき、俺の背後から声が紡がれる。

その声は、侯爵といわれた、囚人服を着た彼だ。


「お~お~ デプス伯爵も出世したもんだのぅ。ワシとペンテウス公爵がいなければこんなもんかの。

裏切りと、密談、謀略だけが一丁前な坊やが筆頭公爵? ましてや、近衛師総団長? アヌイ公爵はどうなされた?

たしか総師団長の任命権限は、国王と総師団長にのみあったはずだが? のう、新米閣下? 」


「そのお声は・・・ ハヌト侯爵・・・!まだ生きていたのか 老いぼれが。 アヌイ侯爵はお伏せになられた。

ご高齢もあるが、人間社会であって、魔族のことを憂う、もはやアヌイ侯爵は過去のアヌイ侯爵にあらず!

任は国王の御名のもと、解かれているっ」


その声を聞き届けると

ようやく名前が分かった壮年の男、老いぼれと言われるには若すぎる張りのある身体を持つ人物、ハヌト侯爵は、

血みどろに濡れた剣を地に刺して、独りごちた。


「この国もこれまで・・か。 自らの足を切って、家を取り潰して、どうして生きていくことができよう・・・

 蒙昧な頭はかわるべくもなく、腹だけは肥え太り、手はのびようともな。頭を取り替えることがせめてもの情けよ。 」


その声はかすれていて、そばにいる俺にしか聞こえなかっただろう。

その様にどう思ったかはしらないが、ゲプス伯爵と呼ばれた金ピカ野郎(←second!)は天に向けた剣をこちらに向け直し、叫ぶ。


「始末せよ! 元侯爵とはいえ、遠慮はいらぬ! こやつらは重罪犯に魔物である。 働きによっては2階級特進させてやるぞ!

 機会を掴め!! 」


オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!

報奨に目が蒙んだ、兵士どもが雄叫びを挙げて我さきにとばかり押し寄せる。

雪崩のごとく迫り来る兵を外壁に寄り添うように半円の外側、俺を含めた人外が功をあせる馬鹿者どもに後悔の二文字を叩きつける。

城門の傍にあって、城との間のその場所は、深夜という時間帯に見合った静寂さを喧騒に上書きされた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ