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シャドウノート - shadow note -  作者: シャーネ
プロローグ -王城崩壊編-
3/6

1-3.脱出

蹴り壊した扉に足をのせたところで、肩口にくすぐったい感触を感じる。

セラフィナが舐めたのだ。

計算によってもたらされた下半身の一時的な平和は刹那のときでしかなかった。

俺の肩にある傷口、幾分か傷はふさがってきているが、ポチョムキンに斬られたこの傷は火傷に比べ、治りが遅い。 

そんな裂傷から流れる血を柔らかい唇が触れている。

これ、なんの罰ゲーム?

ゲームといえば、俺はニコ押しだ、ニコ・ロ○ンではなく矢○ニコのほうだが、そういえばセラフィナはニコちゃんに

そっくりな気がしないでもないでもないような・・・ あのその、ニコちゃんが縛った髪留めを解き放ったかのような

えとその・・・ にっこにっこにー!!!

背中に裸の美女、伝わる肌のぬくもり、肩からはくすぐったい、でも 気持ちのよい感触、勢いよくそそり立とうする何かを

必死で内股にしてこらえながら、牢を潜る。

内股で歩く俺に対するアライグマの視線が痛い。


そのまま、廊下の奥にある扉に向かおうとすると、再三に渡って響いていた罵声が止み、しくしく、さざめきが聞こえる。


「・・・うっ・・・うぇ・・・いいのよ、どうせアタシなんて、どうせアタシなんて、卑しい目つきをした人間に魔力を吸われてだけ吸われて

 最後には干物にされて、円卓の間に飾られるのよ・・・ 衛兵から食べ物の差し入れもないし、向かいにいるレッサーパンダにはシカトされるし、助けを呼んだ魔族からはシカトされるし、

 あんまりよ、使うだけ使われてポイされるのよ、美しいタオルと同じだわ、使われて使われて使われつくされて、いつか古びたら雑巾として床に擦り付けられて、

 嗄れたおばあちゃんに鼻噛まれたあと、全力で引き絞られて、最後にゴミ箱にすてられるのよ・・・ うぇ・・・」


ガチ泣きだ。でも、おばあちゃんでもさすがに雑巾で鼻はかまないとおもうよ?

右手にあった牢獄の中にいる存在は、こちらを見る素振りもなく、顔を地面につけ、ざんばらになった赤髪が、鎖で簀巻きにされていることもあって、

石床にざんばらに散らばっており、その様子はまるで物の怪のようだ。

どれほど涙を流したのか、グシュグシュと鼻水が啜る音とともに散らばった赤髪が涙?鼻水をすって黒く変色している。むごい。


「・・・おい。」


声をかけると、音速で顔を向き上げ、整った顔立ちにも関わらず鼻水を垂れ流しながら、しかし 瞳は輝かせてこちらを見てくる。


くるりと俺は踵を返し、再度奥への扉へと向かう。


「うああああああああん!!!!!!!」


背後から背中を襲う大音量の鳴き声。

思わず耳に指栓をすると、左手の牢獄、ポンとセラフィナが入っていた牢獄の隣から、これまたよびとめられる。

まったく、よく声をかけられる日だな。


「ソコナニンゲントモオモエヌ魔力ヲモツモノヨ、ワレモ主サマにチュウセイヲツカオウ、ダシテハイタダケヌモノダロウカ?」


とおりすぎようかとおもったが、この世界で出会った人間の誰よりよっぽど紳士かつ礼節な態度だ。

足にはやはり鎖が通してあるが、腰を折り、神妙そうに、だが、かならずしも絶望してはいない闘志を秘めた眼差しをこちらに向けてくる。 

声の主は精悍な顔つきな・・・ゴブ○ンだ。

どっからどう見てもゴブリンだ。

決してナメッ○星人ではない。

がたいも良く、筋骨たくましい、人の上に立つ人間の風格を感じる。この場合は、ゴブリンの上に立つゴブリンの風格と言うべきか?

締まらないから気にしないでくれ。


一人救えば、二人も三人も一緒だな、 それに・・・  場内をより混乱させたほうがよいだろう。

打算も合り、俺はセラフィナを一時的に石壁にもたれさせると、牢屋を同じく蹴破る。

足に繋がれた金具の元、壁をセラフィナの時と同様にして繰り抜いて外しつつ、声をかける。


「忠誠なんていらん。 ここから脱出したら好きにしろ。 だが、裏切り行為は絶対に許さん。名はなんという?」


ポンと同様のことを告げると


「ッハ、 ゲティス ト、モウシマス。」


ゲティスは幾分衰弱しているようだが、セラフィナとは比べるまでもなく、自分の足で地を踏みしめると、改めて片膝をついて礼をし

俺の横に立った。荘厳な雰囲気の漂うその空気を鼻水を啜る音が台無しにする。


「グフェ・・・グフェ・・・も”ぅ、アダジナンデ、ゴブリンより下等で、ゴミクズナノヨ”、ドイレッドペーパーのように

くるくる巻にざれで、、、 水にナガサレルかのように、人生もオワルンダワ、、、 グフェ・・」


もはや嗚咽という言葉もそぐわない、ガン泣き(max)をスタイリッシュに決めている赤髪少女は、顔を牢獄の奥の片隅にに押し付け、

簀巻きにされた身体をぴくぴくと痙攣させている。


はあ・・・。


ため息をつき、扉前にあるテーブルの上に鎮座している燭台の下に敷いてあるテーブルクロスというにはボロボロな布を剥ぎ取り、

自分の腰布に巻きつけると、代わり外した尖塔の外壁で手に入れた旗布をセラフィナの肩にかぶせる。

セラフィナの表情は虚ろで変わらない。


あらためて、赤毛の女の牢屋の前に立つと、腕を組んで俺は問いかけた。


「おい。」


「グフェ・・・・」


「・・・おい!」


「・・・な・・・なによ・・・ どうせまた 助ける素振りをみせるだけなんでしょ・・」


魔族言語、竜言語取得とあった、ならば こいつは竜なんだろう。

あ~ やだやだ、 なにこのフラグ。

ワガママビッチな竜の少女とかハプニングになりこそすれ、平穏と対極の位置にあるんだよなあ。

やっぱ、捨てていこうかな。


「・・・助けてやってもかまわんぞ。 だ・が・な!!! 俺はワガママとブリッコと、自分の行動に責任をもてない奴と

上から目線で人を見下す輩が、死ぬほど嫌いだっ。 おまえは竜なんだろうが、そんなことは関係ねえ。

さっき、ゴブリンより下等とかとか自分を卑下してたが、それこそ 自分たち竜こそが上位と思っている現れだ。

そんな考えをもっている奴は死ね。 同じように独房に繋がれ、痛い目に合わされてきたんだろうが、おまえらは同士であっても

見下したり、見上げたりする関係じゃねえ!! 逆に言い換えれば同じような目にあうくらいの力ってこった。 」


「グス・・・ 誰も上位なんて一言もいってない・・・グスン・・・」


「ほう。 だがな、 自由になったとたん、真の姿になって グハハー 下等生物ドモメー ヒレフセー!

とかいいながら、手のひら返してやりたい放題するのが大抵この手のフラグなんだよ。 」


「・・・ だって・・ だって・・・ そんなこといっても・・・ こんな目に合わされて復讐するな、なんて・・・ グス・・」


「復讐するなとは言ってねえぞ。」


「・・・え?」


少女が涙を流しながら、初めてこちらを直視してくる。


「復讐するなとは言ってない。  俺もな、 ここの連中には酷い目に合わされた。正直腹の虫が収まらん。

 絶対につぶしてやると決めた。 だから、 好きにしろ。  ただし、 ここから脱出することが先決だ。

 実際、おまえも捕まったし、俺も捕まった、そこのゲ・・ゴブリンも、アライグマも捕まった。

 奴らにはそれ相応の力がある。 それは認めろ。

 だが、ここの馬鹿どもは”国”というものに縛られているから、ここから動きはしない。

 しかるべき準備をしてから、存分に、念入りに、痛めつけるべきだ。 

 分かったら助けてやるから、絶対に!騒ぐなよ! 騒いだら蓑虫のおまえは放置する。

 ・・・ 脱出できたら 好きにしろ。 それは約束してやる。 だが、復讐するならここの親玉どもは半殺しで頼む、俺の分を残しておけ。」


首をふって、ベタつく髪を押しのけると、整った顔立ちに涙はなく、力強く少女は頷いた。


「・・・エリスよ。  我が父、赤竜王が一子、エリス・ミルデベリーを真名とし持つ紅竜也て、恩名を伺いたく。」


赤龍王だあ!? 嫌な予感しかしねえ。DONT NEED 竜王様。

急変した態度に戸惑いながら、言葉を紡いだ。


「・・・露瀬 峻だ。」


いけね、おもわず本名を。 まあいいか。

その瞬間、


「ロゼ?」


「ああ。」


そこまでやり取りして、牢屋の扉をこれまた蹴りつけて、踏み倒し、エリスを雁字搦めにしている鎖の根本を強引に石壁から引っこ抜いて

開放する。剣でくり抜かんでも最初からこうすりゃ早かったな。

簀巻きのエリスを右腕で抱えて、牢獄からでようとすると プルプル震える二者が目にはいる。

いうまでもなく、ポンとゲティスだ。


「竜語しゃべってるよぅ・・・ 非常識すぎるよぅ」


「ソレダケデハナイ・・・ワレニハ契約ニキコエタゾ・・・。」


「非常識は服装だけにしてほしいよぅ。」


このアライグマ、非常識非常識とさきほどから煩い。お仕置きタイムだ。

ポンの尻尾に手を伸ばそうとすると、とりつけるかのように囁いたゴブリンの言葉が俺の耳朶を打つ。


「・・ソシテ、主サマ、ワタシノナマエハゲティスデス・・」


い、いや 忘れてたわけじゃないよ? ゴブリンのインパクトが衝撃的すぎただけで。

そして、契約? そんな大それたものではない、名前を告げあっただけだ、おまえらともやっている。

場を取り繕うかのようにセラフィナを再度おんぶして、右腕にエリスを担ぐ・・・。


自分の首に弱々しく掛けられた麗しかったであろう手は、酷く傷つけられ、青く、どす黒く変色している。

それを睥睨し、次に自らの肩傷を見て思い出す。

あらためて見ると、ポンにしてもゲティスにしても無傷というわけではない、セラフィナほど重症ではないが

数多くの傷が見られる。右腕で項垂れている存在はぐるぐるまきにされているので確認のしようがないが・・・。

とりあえず、こちつらの分も含めてお返しはせねばな。

・・・100倍にして。


目に恩讐の炎を灯し、右腕で赤毛の簀巻き少女を、左手で背中の紫銀毛の女性を。

背後に2匹。否、1匹と1人か?を従え、もはや、障害ともならない金属の扉を蹴り破り、地上に出るであろう階段をゆっくりと登って行った。


縞縞尻尾をふりふりしながらポンがぼそりとつぶやいた言葉が印象深い。


「アライグマってなんだろぅ・・・」


わからなくていいぞ。








天空には満点の星空が神々しく散りばめられ、国によって時には歓迎され、時には忌避される満月とともに、夜にも関わらず

地上を銀色の光のカーテンで埋め尽くしている。

天神地祇が見卸していても疑問に思わない美しい夜空とは対照的に、地上は天造草昧と化している。

天を抱くかのように聳え立っていただろう3つの尖塔は倒れ、中心に座する城にもたれ掛かるっている。

凭れた部分からへし折れた尖塔は地上に瓦礫の雨を降らし、城は壮麗であった原型をもはや留めていない。


それを代償としたかのように、数多くの存在が天に対抗するかのごとき光の放射を地から行っている。

遠方に豆粒かのようにみえるそれは、兵だ。

其々が松明を手に持ち、その灯りは数によって増幅し、真昼のような明るさを城庭に放っている。


地上に出るとともに誰何するまでもなく、襲いかかってきた二人の衛兵を一人をポンが、もう一人をゴブリンが、息をつく間もなく

その牙と、腕力で殺傷している。ミスリルと呼ばれた金属でできた鎖をつけた状態で。

鮮やかな手並みであった。

アライグマとゴブリン、ゲティスはおいておくとしても、ポンに関しては正直舐めてた すまんかった。

屍となった衛兵を見下ろし、気の毒だとは少し思う。

しかし、ここは”そういう”世界だ。

死と生が俺の知る世界より、より密接に、濃密に寄り添う世界。


時を少し遡る。

階段を登ると、そこは地上ではなく、新たな牢獄部屋となっており、そこには数多くのゴブリンが幽閉されていた。

性別問わずだ。 ゴブリンに性別なんてもんあったのか?とつっこみたくなったが、それはみたらもう一発だった。

種としてはゴブリーナというらしいが、人間でいう男性、女性の女性にあたる。

肌が針葉樹林のような緑色色ということを除けば、黒人女性に近い。


幾人(人とあえていわせてもらおう)かのゴブリンを改めて見ると、最初に解き放ったゲティスはやはり、他のゴブリンと一線を画す。

容貌、雰囲気、身体、全てにおいてだ。

地下にいけばいくほど人間にとって厄介?な者が幽閉されていたと推測できる。


ゲティスの取りなしもあり、俺はあっさりとその全ての牢を開放した。

毒を食らわば皿までという奴だ。

その上層階、今から思うと地下2階にあたるのだが、そこには人間が囚われていた。

剣呑な目つきな者、知性に目に宿らせて、訝しむ者、詰問してくる者、卑しい笑みを浮かべながら助けてくれ、と乞う者。

ゲティスが一睨みして周囲を黙らせる。

こんなとき、魔物は良い。

それでも口を開いて美句麗句を並べ立て、取りなしてくるやつもいたが、実際、俺が止めなければその口が達者なおべっか野郎はゲティスに締め殺されていただろう。

ギリギリの紙一重だった。

油が塗ってあるかのように滑らかに動く口を、喉を鷲掴みにして黙らしたゲティスを俺が止めたのだった。

ゲティスの巨大な手から逃れると、牢屋にも関わらず、豪奢な服をきたそいつは顔を真っ青にし、口から泡を吹いて昏倒した。


このような輩はぶっちゃけ、先ほど言ったように好きか嫌いでいわれると、即答で嫌いに入るが魔物を引き連れている以上、 

もはや 俺のとるべき道は一つだ。

というわけではない、 俺は俺に対して敵意を向けた豚野郎どもさえやれればどうでもよい。

犯罪者、政治犯?

しったことか。

せいぜい、王城の連中は慌てるがいい。 

助けをもとめるもの、口を閉ざすもの、息があるものは全員、関わらず全員開放してやった。

ただし、はっきりと幾度となく言った抑止の声は告げてある。

開放する際に、曰くありげな言葉を残して息を引き取った老人がいた。

老人の足は既に壊死しており、腐臭の漂う凄惨な牢獄でポツリと


「この魔力・・・・お主はまたここへ来ることになるじゃろう・・・。 それが人間のためか、人あらざるもののためかは分からぬが・・」


老人は虚ろな目で中空を見、吹けば折れそうな腕を掲げると

最後に頼みがあると、俺とつぶやき、口に含んだ指輪を俺に預けると事切れた。

呆気無く、本当に呆気無く死んだ。

現実感のない光景の連続で感覚が麻痺してきているのだろうか。それとも、逆に現実を見るようになったのだろうか。

人一人の死を目前で見ても、荒寥な感情には起伏が生じなかった。








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