1-02.魔物との出会い
飛翔の勢いに思わず瞳を閉じそうになるが、無我夢中で体勢を整えて、
重力にまかせて落下、質量に万有引力定数である9.80665m/s2と天体質量を乗算し、天体半径で除算、さらに風圧による減算を
加えた物理量に初速の物理量を加えた膨大な物理力を足裏が眼下に迫る尖塔の壁に垂直に伝えて、踏み破り、破壊。
数mほど転がり、そのまま勢いを殺しきれず、足、頭、背中、足・・・何回転かしてもう一度背中が痛覚を訴えたところで、ようやくとまり
苔臭い床にフレンチキス。
カラカラと乾いた音を立てて、蹴破った壁から小石が落ちて乾いた音をたてている。
ぐむぅ・・、なぜこんな目に。
しかし、生きている。
意識もあるし、無我夢中で翔んできたのは間違いなく自分自身で成し得た行為だ。
この世界が地球じゃないことは分かってる、自らの足で崩れゆく瓦礫を消し飛ばして空を駆けるなんて真似が
できた理由はとんでもなく重力が軽いか、俺の身体能力が異常か。
言うまでもなく後者だ。
重力、つまり大気中の圧力を含め、それらが軽いならば、それに見合った成長を生物は遂げる。
深海に住む魚は体内がほとんど水分で水圧に関係なく、硬い鱗で覆われているからだ。
さきほどの奴らはどっからどう見ても人間だ。
触ってみたら、意外とプヨプヨしてるのかもしれないが・・・。
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-- passive skill:衝撃耐性(中) 取得 --
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「さっきからほんっとになんなんだよ!!」
取得できるんなら最初からくれってんだ、糞いてえ!
返答などかえってくるはずもないが、散々な目にあった今までを思い出し口にせずにはいられない。
目を焼けただれた腕に向けると、火傷によって爛れた肌が水疱となって蝕むが、ゆっくりと水疱が塊となって床に落ち、その傷跡からは真新しい
皮膚が再生されていく。
おお、俺って人外だ!
・・・
だ、なんて喜ぶとおもってんのか!?
そういや留守電にはいってるような声でみたいな自然治癒(弱)取得とかいってたな。
どうせなら、ダメージ無効とかくれないか?
まじで痛いんだが。痛む理由は、衝撃によるものではなく、さきほど筋肉馬鹿に斬り付けられた肩傷がなかなか塞がらないからだ。
いかなる理由によるものか、傷口は塞がろうとはしているが止めどなく赤い血液が肩を濡らし、胸部をかけぬけて、脚部を濡らす。
正直気持ち悪い。
ってそんなこと考えてる場合じゃねえ。
俄に騒然となった眼前の穴から顔だして城下に意識を向ける。
倒した柱が支柱だったのか、緩やかに今も瓦礫と化していく城郭の一角を睨みつけ、口内の血を唾として吐きとばす。
「そのまま潰れちまえ。」
不愉快を言葉に変えて、発射。
本当なら営業経験で身につけた言葉を多種多様に織り交ぜて盛大に罵倒してやりたいところだが今、俺の余裕はNOTHING。
室内に乗り出した上半身を戻し、周囲を確認。室内は半径4mほどて極めて狭く密室だ。
密室。 塔なのに?
もう一度身体を穴から乗り出して、尖塔の外壁にかけてある一つの灯火、そこから紐を用いて吊り下げられている二等辺三角形の刺繍された国旗のようなものを
強引に引っ張ってたぐり寄せると、上半身と、固まりかけている半乾きの血を不遜にもソレで拭くと、くるりと腰に巻きつけ、眼科を見下ろす。
4階ってとこか?
高さもあり広域に渡って見下ろす。
眼下には火の手が上がる城塞と、けたたましいざわめきが煌々と照らす城の入り口より聞こえる。
俺がこちらへ来たことはすぐさま発見されるだろう。
焦燥が背中を押し、感情の中の冷静君と焦燥君が激突、後者が勝利。
これぐらいで死ぬならもう死んどるわっ!
わけわからん理由で頭の中を満たして、歯を食いしばり、意を決して大空に身を躍らせる。
ゴーーーーーーーーーーーーーーーー!
猛烈な風圧を感じつつ、足が地上を感知すると同時に膝を弛めて・・・・ 地面が陥没、そのまま
床が抜けるか如き感触を伝える。 お尻から着地し、パンパンと身体に纏わりつく埃や砂をはらいおとしつつ、
後を追うようにガラガラという漏れ聞こえる崩壊音に、もはや幾度目となるのだと苦笑が溢れてしまう。
ただ、生きている。 やはり、生きている。 あの高度からダイブして生きている。
「夢っていってくれよー・・・」
思わず、口に出てしまった。 涙がホロリ。
本当はね、思ったのよ、身投げした瞬間、ガバっと机から頭を起こす自分をね?
ガラガラ・・・ゴゴゴゴゴ・・・・
背中から思わず冷や汗が流れ落ちる。先ほどから音が鳴り止まないのは気のせいか?
身体を起こし、自らが開けた眼上の大穴に目を向け地上の様子を伺うと、穴の隙間から傾く尖塔が
見て取れた。緩やかに傾いていく塔を呆然として見ていると、程なくして尖塔が隣の尖塔に衝突し、将棋倒しのように倒れていく。
もはや擬音ではあらわせないような地響きと、破砕音を起てて、3本の塔が倒壊し、城は本来の壮麗な美しさからかけ離れた存在へと
成り下がっていく。
「いくらなんでも・・・手抜き工事過ぎだろ・・・」
呟きは 地下の湿り気のある空気に紛れ、誰に届くこともなく消失した。
音が止み、静寂を取り戻すと遠くから嬌声や悲鳴、怒声の入り混じった声が地上から聞こえてくる。
石畳を踏みしめ、壁に手をついて歩きつつ、周囲を睥睨すると、ここは牢獄のようだ。
錆びた鉄格子の中には、主人がいない寝台が寂しそうに孤立している。
10mほど歩き、左右合計4つの誰もいない牢屋を抜け正面にある鉄製の扉に手を掛ける。
鍵がかかっているのか、錆びているのか、開かないそれを思いっきり蹴りつけて吹き飛ばし、続く室内へと入る。
「なっ・・・ 貴様どこから!」
言うと同時に鎖帷子を着用し、兜で顔を覆った看守らしき人間が手にした槍の先端に斧のように分かれている
ハルバート で突きかかってくるが、鈍い音をたてて槍は刃先が砕けた。
まあ、俺も自分の持ち場に腰布一丁の男がやってきたらこうする。せざるを得ない。
そう考えると、広場で最初に俺を詰問してきた衛兵は至極真っ当な職責を果たしたといえるだろう。
だがしかし、俺の大事な大事な大事な息子のことを貧相といった言葉は許せない。
とても大事なことだから3回言いました^w^b
そのようなことを考えながら職務に忠実な御仁を鳩尾に一発、くの字に折り曲げた背中に肘鉄をお見舞いして、快適な睡眠にご招待。
「すまんね。」
看守に恨みはないが、俺は猛烈に機嫌が悪い。
しかしながら、だいたい身体の使い方が分かってきたぞ。
k-1に出たくなるようなとてつもない筋力。スパイダーマっ!!を凌駕する身体能力。
そして、よく分からん声がすると、その声に見合った能力が付与される特性。
OKだ。 こうなったらトコトンやってやんよ。
諸君。戦争だ。気分はモルティナ・○ックス。ああ、これは推測なだけで確定はしていないんだっけか。
まあよい。
広間で俺を火だるまにしてくれたオバハンにはとりあえず俺と同じような醜悪な焼けただれをつくってもらおう。
玉座でふんぞり返っていたメタボは再起不能になるまで潰す、アナゴは煮て焼く、ポチョムキンは裸簀巻きにして城門から吊してやる。
全員、土下座してもゆるさねえ。
クリーク!! クリーク!! クリーーーク!!
なんか変なテンションだ、自重しよう。
まあ、それは兎も角。
この胸糞悪い場所から一旦、離脱せねばなるまい。いくらなんでも多勢に無勢だ。
状況が混乱している今の内である。
報復するときを想像すると思わず両手を合わせてしまい、手の骨が小気味のいい音を奏でる。
そんな俺に野鳥が鳴くような、この場に相応しくない声と、カン高いが美しい声が廊下を挟んで左右から届いた。
「あんちゃん、あんちゃん、助けてくれよ!!」
「コラ!! そこのスカンテン!! この鎖を外しなさいっ!!外せばアンタだけは食べないでいてやるわよ!! 」
スカンテンなんて言葉浴びせられたのは人生初である。初体験は何事も貴重だ。
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-- skill:魔族言語 取得 --
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-- skill:竜言語 取得 --
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猛る気分に水を刺され、思わず頭に響く声にツッコミを入れる。
「魔族ってなんだよ!!ゲームかよ!コラ!!」
天井に向けて握りこぶしを掲げて声を荒げる俺。
返事はもちろんなく、視線をさきほど声のした左手方向を見ると、訝しげな瞳をしたアライグマとしか思えない生物と、
奥に鎖で繋がれ、ボロボロの衣服から痩せた裸身を見せる紅の眼をした黒髪の少女?が眼に映る。
少女というには年をくっていそうだが、女性というにはまだ早い、そんな年頃。
彼女は見た目こそボロボロだが、生気を失ったうつろな瞳をしているがその姿にはどこか気品が感じらる。
ちなみに右手方向からの声は故意に無視している。ツンデレを愛でる趣味など俺にはない、ツンツンかもしれないが。
アライグマに視線を転じると、ビクっとしたように可愛らしい縞縞でふさふさの尻尾をピンと逆立てつつ 声を出した。
「・・ あの、言葉分かりますか? あんちゃん、助けてほしいんです。 ボクはいいから・・・ セルフィナ様だけでも・・。」
「ちょっとーーーー!! アンタ!何無視してんの!聞こえてんでしょ!この!」
俺はチラリと後ろを一瞥だけすると、鎖に雁字搦めにされた赤髪の少女がもがいている。
何事もなかったかのように再びアライグマに向き直り、声をかける。
「お前の言葉は分かるが・・・ こっちの言葉は分かるのか?」
「はい! あの、お礼はボクにできることならなんでもします、だから・・・だから!お願いです。
どうかセルフィナ様だけでもこの魔窟から逃してあげてください・・・ どうか・・・ どうか・・・ 」
アライグマは嗚咽をもらすと、つぶらな黒い瞳から大きな水滴を床へと落とす。
困ったな、小動物の泣き顔とかまじでかわいいぞ。写真撮ってフェイスブックにあげたい。
・・・そんなこと思ってごめんなさい。
自分はいいから誰かを助けてくれなんてセリフ、漫画の世界以外で聞くのは初めてだ。
真摯さが胸を打ち、メタボどもの嫌がることならなんでもする気分の俺はさほど考えずに首肯する。
それにしてもさっきからガチャンガチャン後ろが騒がしい、もはや金切り声だ。だが、無視。
「いいだろう。だが条件がある。」
俺の言葉に喜色と不安を同時に浮かべたアライグマはビクビクしながらも声を紡ぐ。
「な、なんですか?」
「俺はこの世界にきてまだ1時間もたってない。 生まれたての赤ちゃんホヤホヤだ。 逃してくれといっても
俺も逃亡中だ。いく宛もない。だから、おまえにとっての、安全な場所を俺に教えろ。
そして安全な所までついたら おまえが俺にこの世界の常識を教えろ。
おまえらが何をしてここにとっつかまってるのかは少し興味があるが、時間もない。
条件が飲めるか? 10秒で答えろ。」
俺の言葉にただでさえ大きい瞳をさらに大きく見開き驚きつつ、アライグマは即座に首を縦に振ると・・・。
「ボクにできることならなんでもします。ですが、主従の誓いは立てられません。ボクの主はセルフィナ様なので・・・
それでもよろしければ、なんなりと・・・」
尻尾をペタンと床に垂れ下げ、耳もシュンとなる、断られる可能性を考えているのだろう。
だがしかし、 その言葉は今まで散々糞ったれた奴らの戯言につきあってきた俺にとっては真冬に積もる新雪のごとき清らかさを感じた。
「よかろう・・・ 」
言の葉をアライグマに向けて贈る。
「だがな、俺を囮にしたり、裏切ってみろ。 死ぬより苦しい地獄を見せてやるぞ」
一応、 警告だけしておいたが、アライグマが全身の毛を逆立てつつもつぶらな瞳を向けてくるのがおかしくて つい流される。
「まあ・・、仲良くやろうや、脱出して俺にひと通りの知識をくれたらそれでいい。後は好きにしろ。名前はあるのか?」
「セラフィナ様からはポンと呼ばれております。」
ポン! ベタだな、笑いどころのない普通の名前だ。
それにしても敬語も使えるとは知的なアライグマだ。脳みそをみてみたいぞ?
そんなポンが可愛らしい肉球の見える指を示す方向、昏倒している看守の辺りを見回し牢屋の鍵を探すが見つからない。
正確に言うならば気絶した看守が腰に鍵束をさしていたが、合う鍵が見つからなかった。
そんな中、背後から響く声はますます大きくなり、聞いたこともないような罵声の大盤振る舞いが俺に向けて投げつけられるが・・・無視。
紛らわしく数多くの鍵を持つ看守の頭を裸足で踏みつけてストレス発散し、アライグマに離れてろと声をかけると、牢屋の
金属製の扉を思いっきり蹴り飛ばす。
それなりの音がしたが、 牢獄はあざ笑うかのように直立している。
「鍵探さないと無理だよぅ、ミスリルでできた牢獄なんだよぅ。」
ミスリルってなんやねん?! ってツッコミはせずにアライグマの忠告を黙殺し、2回、3回と何度も蹴り付けるうちにミシ、
ミシシと嫌な音が響く。5回目で檻はその難攻不落の扉を、蹴り付ける暴力者の前に道を開いた。
ミスリルだか、なんだかしらねーが鉄より硬いのはさきほど扉を蹴破ったことからも分かった。
だが、この牢獄は大地に直接その金属が埋め込まれているタイプだ。
金属がもっても、金属扉を支える天井材、床材である岩石が持たない。
「非常識だよぅ。。。」
しゃべるアライグマに非常識と言われる俺。
せちがらいものがこみ上げる。
無言を押し通しつつ、看守が腰に下げている小剣を取ると、赤眼黒髪・・・髪は黒くはないか。
近くで観察すると美しい紫銀の髪をもつ女性を繋ぐ鎖の根元、 壁に取り付けてある金具部分の周りの岩石を掘り下げ、くり貫く。
そんなに硬くないな。
鎖は女性の両手両足をつないでいるため、掘りぬき作業をしていると、少しでも視線を横にやると壁にもたれてグッタリとしている
モロに美しい女の裸体が目に入る。
ギリ ギリみえそうでみえない禁断のデルタ地帯、ぼろぼろに破れた服からひっそりと姿を見せる女神のごとき乳房、
・・・ああああううう・・
股に入る力を強め、堀抜き作業を真剣にやっているつもりがついチラ見してしまう。だんだん硬くなっていく何かを必死で挟んで妨害。
落ち着けェェー!落ち着けェ俺!
オレ・紳士。オ~レ~オレ~○つけんサンバ~!! オレ!
そんな拍子、ぞっとするほどの絶望に彩られた赤眼がオレの瞳とぶつかる。
この世の全てを諦め、透徹し、凍てつかすような瞳が俺の身体のとある部分の硬さを解除する。
微かに、逡巡すると瞳から生気が抜け、血のような赤さに瞼というカーテンがかかる。微かに動いた、唇の動き、擦れた声。
それは密やかな4文字の言の葉となって、俺の耳朶を打った。
殺して。
・・・。
顕となった乳房にばかり見とれていたが、よく見ると美しいが痩せた身体 、むき出しの肋骨からは鞭の後が蚯蚓腫れを
作っており、数え切れないほどの擦り傷からは血が流れ、彼女の美しい身体を彩っている。
青紫となっている箇所は数え上げればきりがない。
その凄惨な傷跡はエロさによって生じていた俺のお花畑を一瞬で枯らし、多少薄れていた憤怒を心の奥底からどす黒く染め変えた。
こんな20は超えないであろう女性を、辱め、鞭を打つとは。
アライグマがしゃべる現実だ、こいつも人間にとっては稀有な存在なのであろう。 犯罪を犯したのかもしれない。
だが、しかし、限度をしらんのか。
俺の表情におろおろするアライグマの頭にポンと手を置き、落ち着かせると、少女の身体手自分の首にまきつかせるようにし、背中からおんぶする。
決して柔らかく、男にとって至高の感触を味わいたいからでは断じてない。
首に巻きつかせた拍子に、セラフィナの手の甲の傷口が俺の口にあたり、血の味が広がる。
吐き出すのも、気が引けて、そのまま嚥下。
お姫様だっこしてもよかったのだが、そうすると目を少しでも落とせば少女の裸体が飛び込んでくるだろう。
俺の下半身がそんな暴力に耐えられるわけがない。
足を踏み出すごとに襲う背中の感触を、メタボへの怒りを10000として、その取り巻き連中の怒りも数値に変える。
それを加法でまとめ、背中の至福を減法で換算、アライグマの癒しも減法で数値化して、計算。
牢獄から廊下に出る際に、まだ眼を当分に覚ましそうにない看守の顔を再度踏みつけた分も数値として引いておく。
うん、まだまだプラスだ。