あらふしぎ
あら汁
魚のアラは適当な大きさに切り熱湯を振りかけブラシなどで鱗や汚れを取る。
野菜は適当に刻み、アラと共にぶち込んで煮る。
野菜が煮立ったら味噌を溶いて味を調える。
最後にガンガンに焼いた石を入れて味を〆る、これは無理にやらなくても良い。
これを啜りながら濁酒をやるのは良い。体が温まる。アラの種類は問わず、色々入れて楽しむのも良い、だからと言ってフグの肝を入れて肝試しとかするのは宜しくない。
世界は不思議で満ち満ちています。魚という物も一つ一つ個性があってこっちは刺身で旨いとかこっちは焼いた方が旨そうだと騙りかけてくるものなのであります。世界は音に満ちている、音と言うのは誰かが挙げた声であり聞く者がきけば歌なのでありましょう。奏でる俎上の叩きはリズムとなって台所の鍋の吹きこぼれやら、脂が滲む音等はそれを彩っているのかもしれません。そして一皿の料理はそれは音楽で世界であるのでしょう。それは人と言う世界から生まれ出でた新しい世界で等と言うと思っているのですか?
今日はアラについて騙ると致しましょう。アラと言うのは不思議であります、いつもは見向きもされず捨てられる場所であるのに見る人が見ればそれは資源の山なのであります。
例えばマグロの血合いなんか宜しい例でありましょう、煮つけて食べたりから揚げにしたり、干しても中々の美味でございます。こればかりお求めになられるお客様もおられまして本体はどうしたと突っ込みを入れたくなったりしたのは笑い話であります。
「にーちゃん、なんでマグロの血合ないんだよ!」
「売り切れてますんで。」
「とっといてくれないのか?」
「身アラに関してはどれだけ取れるかわからないので基本的には取り置きは出来ないのです。」
実際の話、生のマグロでも部位によってどれだけアラが出るかも違いますし冷凍マグロだと柵取りされた状態で入荷されてなんて言うのがありましてご期待の量目とか状態でというのは不可能とは言いませんが難しいのです。マグロの身アラだけキロ単位とか無茶を言うなと言いたいのであります。一日1パック2パックしか取れないのに………大型店ならいざ知らず。ついでいえば何時なら売っているという質問もお答えできません。それで苦情となったりいたしましたが何でもかんでも手に入ると思うこと自体が間違いなのでございます。
マグロの特売とかで大量に出るときを狙って一日分のマグロの身アラ取っといて、等というお客様(多分飲食店)何て言うのは存在いたします。意外と身アラが出ない店というのはそういった太客が買い占めているからかもしれません。意外と飲食店というのはスーパーで買い物して材料をそろえていたりもしています。そういった意味で大量買いされるのは社員寮の賄のおばちゃんなんかも常連さんとして見受けられます。
よく身アラで出るのは冷凍切り身とか塩鮭。冷凍切り身や塩鮭だとブロックとかフィーレ(三枚おろし)で入荷されるので端っこの部分とか形の悪いのが身アラで商品化されます。この辺は結構盛り込んでおいても適当に売れていたり、塩鮭の身アラは焼いてほぐしてなんていう話をよく聴きます。ちなみに頭の部分がないのとか言われる事がありますが基本フィーレで入荷されるものですから無いものはないのです。ちなみに氷頭なます用等に別売りされているので無駄がありません。あとは年末年始の栃木地方、某郷土食、あれは食べ物なのであろうか?七件食べ歩く気がいたしません。その辺は個人の好みでございますが。
「この塩鮭のアラ、塩気ないんだけど………」
「えっと、甘口ですね。この塩加減だと焼いた後で醤油をかけて食べたりとかフライに使ったりする用途ですから。こっちの大辛の鮭の身アラの方が………」
「へぇ、塩鮭でフライ………」
お客様には塩鮭のフライは意外だったようで意外に知られていないのかな?と不思議に思ったり。大辛の鮭の身アラをお持ちになってその日はお帰りになられました。後日大辛の鮭の身アラはないのかというお問い合わせ、それこそ一日に10切れも作らない商品で身アラで商品化できるまで貯めるとなると…………無理なのであります。甘口の鮭ならばそこそこ出るんですけど。
そのお客様甘口の鮭の身アラに塩を振ってという力技に出ております。意外と水が出るからタッパでやってくださいねとご忠告したのですけど聞いてくれましたでしょうか?私はこれで一度冷蔵庫を水浸しにした覚えがありますから………
あとは良くある魚種ですとブリ等も丸で出てきますので身アラはよく出てきます。タラとか鮭はフィーレで入荷されることが多いので切れっ端くらいしか出来ません。たまに丸のタラとか入荷すると頭を飾ってディスプレー代わりにしようとすると狙ったように買い付けるお客様、頭の分の隙間が何とも物悲しげに………売っちゃいけないものではないけど売れるとは思っていなかったから笑うしかありません。タラの頭は美味しいですからね。
ブリは良く丸ごとの状態で入りますので骨とか頭とかぶつぶつに叩き切って商品化、夏場はともかく冬場だとブリ大根するとか味噌汁にするとかで人気商品の一つでございます。その時に小さな切り身を入れて高めの値段設定にしたりなんて言うのは最近の流行。味付け用のたれ等も入れておけば更に取っつき易くなります。たれの説明文を見て料理するという若い奥様なんかもいらっしゃいますので便利なのでありましょうか。逆にこだわりのあるお客様ですとたれは要らないらしくたれ抜き何て言う注文が、寿司のさび抜きじゃないんだからと思ったりするけど…………お客様には関係のない話でございましょう。
ブリだとカマも出てきます。これも身アラといえば身アラなのかもしれませんが一部位として普通に商品化されてご購入されています。カマの塩焼きは美味しいですよね。塩してから一晩くらい味を馴染ませてから追加で塩して焼くのが好きなのですが塩分とりすぎと怒られそうですね。これも好きなお客様は好きでもっと無いのとか言われることが暫し、一尾で二つしか取れないのに…………これもタイミングの勝負。ブリを切らないと出てきませんので買えませんでしたらごめんなさいとするしかありません。そしてブリの窯の切り方にもこだわりがあるお客様とか半月切り(三枚おろしの状態で切り身にする)のぶりカマが欲しいとかその時のは四分一の銀杏。無駄に熱く語られるお客様がなんともどうしたものやら。取り敢えずある物しかないと言っておきます。
そんでもってブリとイナダ、イナダはアラを売らないのと言う話もありましたがイナダは身だけ売っても利益になりますが云々、っていうか何十匹も商品化できるか!という話。一応基本としての商品化は出来るのだが……若いのに教えるときはアラの商品化も含めて教えているのだが使うかわからないけど覚えていて悪くない技。さばくのを失敗した時アラと合わせてアラ炊き用に作るのも悪くない。って何失敗前提で語るかと言えば若い時は色々失敗するからである。詳しくは語らない、彼等の黒歴史にもなるだろうから。それよりも刺身とか目的用途に使えない場合に誤魔化しながら利益を取る方法が必要があるからである。
魚屋とはリスキーな部署である。海にお伺いを立てて良い物を得なければならないのだから。
「なぁ、にーちゃん。それが売り物になるんかよ。」
「うっ、ううっ!」
「仕方ないからあらにして売ってしまえ。」
「あらあら、今日はアラがいっぱいね。」
「なんか刺身でも行けそうな」
お客さん、あら探しはやめてください。新人君のライフはもうゼロです。
最近時化続きで魚の種類が少なくてちょっと寂しい。
松皮を刺身にして客をからかおう。




