やりきれないはなし
ヤリイカのオリーブオイル煮
土鍋にオリーブオイルを半カップ入れて。沸騰したらニンニクと刻んだ唐辛子を入れる。
ある程度辛みが出たところでキノコや玉ねぎを入れる。好みで刻んだトマト(ミニトマト丸のままでも良い)を加えるのも楽しい。
ヤリイカは一口大に刻み、ある程度野菜が煮立った所で加える。
最後に塩を少々入れて味を調える。好みでタイムやローズマリーの小枝を入れても風味が変わってよい。面倒であればクレージーソルトも悪くない。
ゆず胡椒や〇ンズリを入れてみても風味が変わる。
バケットやフォカッチャを添えて、日本のパンは甘すぎるのでこの料理に合わせるのは私の好みではない。
油を浸して食べるのが好きなので油は多めでも構わない。むしろ最後に飲む!
世の中というものはままならないものでして、仕事が終わったかと思うと忘れていたと気楽に押し付けてくる上司に殺意を覚えていたりすることはよくあることであります。今日はそんなやりきれない気持ちの話ではなくやりいかについて騙ります。
ヤリイカ、スルメイカと並んで一般で流通するイカでございます。もっとも、スルメイカの流通量が多すぎてあまり見かけないなんて言う話もありますけど、それはそれ。型の大小を問わなければそこそこ気の利いた鮮魚売り場ならば時折仕入れてくるものでございます。通称のヤリイカともなりますとソデイカとかケンサキイカ等も同じ名称で入ってきたりしますので面倒くさい事この上ないのであります。慣れない時は『えっ』と戸惑って師匠筋の方々に問い合わせたりしたのは遥か昔。笑いながら正体を教えてもらったのはとても良い思い出であります。ややこしいのですよ市場の表記!
ヤリイカの話に戻りましょう。その身は薄くて食べ出がなさそうに思えますけども甘味のある身はイカ素麺や煮つけなどにも最高でございます。これで肝が大きければ塩辛でもという悔しげな声がありますがそれはそれ。私ならば醤油漬けにしておいてもいいかななんていかにもなことを申し上げてみるといい加減にしなさいと言われてしまうのでございます。ダジャレばっかりでとお怒りの声もありましょうが存在自体が冗談である私なれば如何ともし難い事であります。
さてヤリイカとなればまずは刺身用で、型の大小問わずにイカ素麺にしてもよし、薄くそぎ切りにして並べてもよし、小さいものならば一枚まんまで作ってみるのも面白いものであります。
そうして出来上がった刺身は本日の一品等と称して並べておきますと物珍しさからかよくご購入されるお客様がちらほらと。またその白い身は他の魚の刺身と共に盛り合わせに使いますと白の色が他の魚の色合いを引き立たせてくれること間違いなし、だからって天然鯛、そげ(天然ヒラメの小ぶりなもの)と合わせて白尽くしというのはどうかと思いますけど。隣に置いてある天然ブリの刺身が色変わりしているのが引き立たせてしまうではありませんか。って、それは回収して廃棄!それ一つあるだけで他の刺身のダメっぽさが引き立ってしまうじゃないですか!食べても問題はないのですが。
やはり刺身はタテじゃないと宜しくないと思うのです。ですので朝一番に来て刺身の種類がないという苦情は受け付けません。夜食べる刺身を朝一で求める神経が私には信じられないのですよ。朝一番は飾程度でご注文は受け付けます。決して手が遅いからではないんですよ。大事な事なのでもう一度繰り返しますけど刺身が朝一で出てないのは作業手順が下手くそでも作業速度がダメダメなのでもないです。勿論ダメダメな店とか切り手の方々もおりますけど、少なくとも私ではないのでお間違えの無いように。
そして次には煮物でしょうか?サトイモや大根と一緒に甘辛く煮付けたものは飯の友としても酒のあてとしても良いものでございます。ただ気をつけないといけないのがヤリイカの身は薄いのでありまして、ツボ抜き(内臓を取る)と気に力を入れすぎまして身が裂けてしまわないようにすることでありましょう。別に裂けても食べる分には構わないのであるのですけど、お客様に出す品物が失敗なんて言うのはとても恥ずかしことなのであります。これについてその位いいじゃないという声もありますけど、自分の作品として胸を張って言えるのかと問うて追撃するのは指導として良くある事であります。それで間違っても『はい』等と答えてはなりませんよ。二度と指導受けることなく作業場から追い出されてしまいますから・・・・・・・・・
勿論私は作業場から追い出したりは致しませんでしたけど、魚には触らせません。そしてお客様とも接触させるわけ行きません。当たり前でございましょう私共は接客商売であります、自らの未熟を恥じることなき馬鹿を表に出すなど店の看板に泥を塗ることであります。流し風情が言うことではりませんけど・・・・・・・・・その後その店との契約は(お察しください)
あと食べ方としましたら丸焼きとか揚げ物なんていうのも悪くございません。適当な所で丸のまま焼いて食べるというのもありますけど小心な私と同じくらいに肝が小さいので肝の味がくどいということがございません。誰ですか?私の肝は脂肪肝だとか壊死寸前だとかいう人は?
ヤリイカという食材は本当に使い道が多くてうれしいものであります。神経系の研究素材としても使われるとかなんとか・・・・・・・・・・・その辺の逸話なんて飼育が難しいとか不可能とか言っておいて目の前で覆されて云々なんて笑い話も。興味のあるお方はご自分でどうぞと魚屋の話題ではりませんので。
作業的な意味合いではヤリイカは扱いやすいのでスルメイカよりも大好きなのでありますが少々値段も張りますので出来るだけ刺身とかに加工しておかないと値引きだの廃棄だのが増えるのであります。
一時期にヤリイカが豊漁だった年があるのですがその時は毎日のようにヤリイカが入荷してヤリイカ尽くしの日々を過ごしていました。
「パートさん、ヤリ切れてないよ!どう見てもイカ素麺がイカ簾になっているじゃない!お客様からの苦情だよ。」
「はーい。面倒だからイカ素麺じゃなくてそぎ切りで行く。」
「それでもいいけど・・・・・」
「売り場にヤリ(売り)切れてないよ。追加ね!」
「はいよ!」
「パートさん!冷蔵庫の中にヤリ切れてないのがあるからそれも切っておいてね!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
パートさんはあまりのヤリイカ祭りに卒倒してしまった。そっとしておこう。
「あまりの量にやりきれないんだな。」
お後が宜しいようで。
久方ぶりの休刊日というものを作ってみる。絶対昼には飲むのだろうなという声は聞こえないふりをしておく。




