04 ~Rolling~
不意に海側から風が吹いた。
「わ、寒っ。さすが夏、海の近くにいるとなお寒いな」
「夏なんだから当たり前じゃない」
そりゃそうだが、寒いものは寒い。
寒い時に暑いと言ったって結局のところ何も変わらないしな。
結局は全て気持ちの問題なんだ。
「まあ、昔は逆だったらしいけどねー」
「は? 逆ってどういう事?」
「あれ? 二人とも知らないの? じゃあ教えて差し上げましょう!」
そう言うとなっちゃんは自分の横の空間を叩いて、そこに自分の携帯端末から真っ白な画像を投影させる。
白板だ。
「まず、地球の環境は「レイトアルマゲドン」の前後で大きく変化しています。」
投影された白板の上を指でなぞり、「春→夏→秋→冬」と書く。
「まあ、隕石が落ちたのだから当然と言えば当然ですが……。今の季節ごとの気温の変化は分かりますよね?」
「まあ、そりゃな。春から徐々に寒くなって、夏が一番寒くなる。と思ったら秋にはいきなり暑くなって、冬が一番過ごしやすい」
「そうだ」
そう言ってさっきの季節の下に曲線でグラフを書いていく。
気温変化のグラフの縮図の様だ。
「だが昔はほぼ逆なのである!」
「はぁ」
「昔の気温の変化はこうでした。あ、昔の日本ですよ」
なっちゃんは色を赤に変えて、さっきのグラフの上からもう一つのグラフを上書きする。
「昔は春は暖かく、夏には気温が上昇し、秋は涼しく、冬が今の夏に相当する気温になっていました」
「へー、そうなのかー」
「その他にも地球環境はいろいろと変化しています。たとえば、今の地球表面の海の面積は全体の6割になりますが、昔は7割でした。それは小惑星が衝突したときに、地球の体積が増えたのが影響しています」
「そうだったんですか。先生は物知りなんですね」
「えっへん。と、威張りたいところですが、これは今後の授業でも習います。私も高校の授業で習ったから教えられただけですよ」
いや、そこは威張っとけば得だったのに……。
なっちゃんは白板の投影されている位置を二度叩いてそれを消した。
「昔のことなんか知ってもなんもかわりゃしない。と言うわけで寒い!」
「そろそろ日も落ちてきたし、中に入りませんか?」
「もっと遊びたい」とだだをこねるなっちゃん先生様を無理やり宿舎に連れ戻した時は、すでに日が落ちていた。
俺は宿舎の部屋で一人布団に寝転がり、何を考えるでもなく天井を見ていた。
夏休みが始まって最初の3日はなっちゃんの家に泊っていたのだが、なっちゃんは四日目、つまり今日からここに来る事を前から楽しみに計画していたため、せっかくだからと俺たちも連れてこられたのだ。
俺とルナも旅行ができるとしって普通に喜んだのだが……。
まあ、この待遇は高校生男子としては普通ですよね。
うむ、何も悲しくない。悲しくないぞぉ。
だが、寒いのに暑いと言っても何も変わらないように、悲しいのに悲しくないと言っても哀しいだけだった。
不意に扉がこんこんとノックされるのが聞こえた。
「アスカいるー? ご飯食べに行くよー」
なっちゃんかよ。
とか思いながら「行く行くー」と返事をしてさっと扉をあけに立ち上がる。
ここのご飯は昔からとってもおいしかったのだが、今年は前の料理長が定年退職してしまったためどうなってしまったのだろうか。
味が変わってるとなんだかさみしいなぁ……
「ヒメサキ先生とアスカは前にも来たことがあるんですか?」
「ん、まあな。中学生になるまでは毎年一回はここに来てたからなぁ」
「懐かしがってるんじゃなーい! まだ高校生でしょ!」
そんな事を話終わるころには食堂につき、飯をもらって席につけていた。
飯の味に関しては昔とそんな大差はなかった。
よく考えたらそりゃそうだよな。
だって変ったの料理長だけで、あとの人員はほとんど動いてないんだから。
むしろこれは新しい料理長のセンスがプラスに働いてもっと美味くなってるかも。
「あの」
そう言って切り出したのはルナだった。
「ヒメサキ先生は日中に見たあの戦闘訓練を見てどう思いますか?」
俺は思わずハンバーグを切る手を止めてしまった。
「うーん、そだねー。正直無駄ではないと思うよ。だっていざという時は彼らの手でこの国が守られるのだしね。なんでそんな事を切りだしたの?」
「私の国は、AEUは隣国と紛争ばかりしていて、私の家は国境の近くにあったので、ああいうの全然他人事じゃなかったんです。だからああいうの見ると嫌気がさして……」
「ふぅ」とため息をついて俺は食事を再開する。
「なるほどねー。確かにあの周りは紛争多いわ。今ご家族は?」
「今は国境から離れて首都の郊外で暮らしているので安心ですけど」
「じゃあいいじゃない。そんなくさい話食堂でしないの。せっかくのご飯なんだからさ」
ルナの家族ね……
まあ、首都が攻撃されるなんて戦争にでもならない限りまず無いだろう。
俺はハンバーグを食べ終えると部屋に戻って明日の準備を始めた。
明日は件の基地を見学しに行く事になっているらしいのだ。
準備と言うのは荷物を積めるのではなく、逆に抜くのだ。
万が一危険物を持って入ろうとしたら見学できないらしいからな。
「はぁ」
明日の社会科見学のことを考えると鬱でたまらなかった。
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ところでだが、「魔物」というものの存在について説明しただろうか?
いや、恐らくしていない。
魔物と言うのは、正確には敵性魔力結晶生命体というのだが、E.A.の時代に現れた魔法を使う人間に害なす動物の事だ。
それはそれはとってもやっかいで、以前の単なる物理兵器では魔法決壊を破壊できず、どうしても倒せないというものである。
また、それのやっかいなところはもう一つある。
「スクランブル。スクランブル。洋上、距離約3000mに敵性魔力結晶生命体が出現。ただちに迎撃せよ!」
マナが一定の波形を示した時に魔力が結晶化し、それに何らかのショックが与えられる事でそれに生命が宿り、暴走するのだ。
つまり、魔物と言うのは出現が予想できない。
「アスカ、ルナさん。私たちは邪魔になります。建物の中に避難しましょう」
俺もそうするしかないと思い、なっちゃんの後ろを追いかける。
それにしても3キロと言う近さ。大丈夫なんだろうか。
俺はふと後ろを振り返る。
すると海の上にぽつんと浮いている何か光っている物体を視認する事が出来た。
あれが魔物……
それはここからだとあまりに遠く、その姿形はまったく分からなかった。
「危ない!」
その言葉に前に向き直るとAAを着て、今まさに出撃しようとしている女性がいた。
「わ!」といってその体にぶつかってしまう。
「す、すみません」
俺が謝ろうと再び前を向いた瞬間、女性は体を俺より前に押し出して、3重にシールドを張った。
シールドとは魔法の一つで、魔法物理的な物体を止めるものだ。
と説明しようとしたら、それに紅黒い光がぶつかる。
それはシールドにぶつかると二つに分かれて俺のすぐ隣の地面を焼き焦がす。
熱線だ。
まだ攻撃は止まない。
そう思った瞬間にパリンと、ガラスが割れるような音がし、シールドの一枚目が割れる。
「く、このままじゃ」
女性はそう言うと残る二つのシールドにありったけの力を込め始める。
だが、努力もむなしく二枚目のシールドが割られる。
その事に動揺しながらも彼女は最後の一枚のシールドにかけるように腕を前へ押し出す。
だが、その瞬間熱線の力がわずかに上がり、最後のシールドが割られた。
「きゃあ!!?」
爆発する様に割れた最後のシールドと一緒に吹き飛ばされた彼女を俺は受け止めようと両手を開くが、その威力はとても止めきれるものではなく、俺はそのまま建物の壁にぶつかるまで吹き飛ばされてしまった。
「っぐ!」
叩きつけられた衝撃で背中がじんじん痛む。
だが、自分の事よりこの人だ。
「大丈夫ですか?」
「う……ぐぐ……。…ぐ、はぁ……はぁ……」
「大丈夫ですか?って熱っ!?」
彼女がさっき前に出していた右手が焼けるように、いや、焼けていてとても熱かった。
これでは魔法が使えない。
「や、やられ……た。……でも、き、君だけでも、守れてよかった。」
そう言って彼女は薄らとその顔に笑みを浮かべる。
「死なないでください。助けられたまんまじゃ俺の気が収まりません」
「はは……。新型が、これ……じゃ、し、示しが、つかないな……。……君、名前は?」
新型?
彼女はそう言いながら自分のAAの胸の辺りについている紅い球状の物体に手を伸ばした。
「俺の名前はアスカ・ヒメサキです。」
「アリア、彼、どうかな?……うん、そう、分かった」
何が分かったと言うのだろうか。
アリアと言う人と会話をしているようだが、その球体は無線機なのだろうか?
そう思っていると彼女がその球体をAAから外した。
「ヒメサキ君、これを」
「……これは?」
「AAの新型。ここには他にAAを装備できる者はいないわ。だから、これで、他の人たちを救って。」
ふと、その女性の纏っていたAAが光となって消えうせる。
それと同時に彼女の意識もどこかに消えてしまった。
「ははは、それってずるくないすか? 俺は戦争とか、戦うのすごく嫌いなのに、いきなりこんなのってありですか?」
そんな急に言われても、無理だ。
お、俺にはそんな度胸なんかない。
魔物なんかと戦う勇気もなければ立ち向かう度胸もなければ人を守る気力もなければ守れる力だってこれっぽっちも持っていないんだ!
「大丈夫です。」
ふと、心の中にそんな声が聞こえた。
「私です。今あなたの持っている紅い球体です。」
大丈夫です。
あなたはあれに立ち向かえるだけの力を持っている。
今正にその手に持っています。
今ここを守れるのはあなただけです。
そして守れるだけの力は私があげられます。
だから、あなたは私の名前を呼ぶだけでいいんです。
だけど、俺が失敗したら皆が傷つくんだ。
そんな責任を背負う覚悟なんて・・・
「いますぐに覚悟を決めなさい。そうでないとあと10秒と経たずにここは破壊されます。
9…… 目を上げると再び発行している物体が見えた。
そんなのあんまりだ。
10秒で覚悟を決めろだなんて俺には
8…… できない。
でも今は俺にしかできない。
この人に
7…… は守られただけで、俺は何にも出来ていない。
だからといってこれはずるいでしょう。
だって俺は軍人でも何でもない。
6…… 一高校生なんだから、俺にそんな事……
「Five……」
くっそ、ダメだ。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「Four……」
今は俺がやらなくちゃいけないんだ。 ふと視界の隅になっちゃんとルナを捉える。
今の俺に逃げる権利なんて無いんだ。 光を発している魔物を見直す。
どちらにしろ俺がやらないといけないんだ。 これを託した彼女を見る。
「three……」
いいぜやってやろうじゃないか。
俺は戦うのは嫌いだ。
だけど……
「two……」
守るためならやってやろうじゃないか!
「よし、やれええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「on……、OK. |You were recognized《認識しました》.」
刹那光が俺を包んだ。
やっとバトルに持っていけるか!?
でもちょっと強引にやりすぎたかもしれませんね……
今回はこの間いただいた感想で指摘された部分を極力直してみました。
どうでしょうかね?ww
引き続き感想お待ちしています。