2. - トゥ -
客間と呼ばれるスペースは二つあり、サリィはベレ婆のいる室へ、僕たちはセヴェンリィ爺のいる室へ、二つ並んだ入口の所で僕らは彼女と別れた。
ベレ婆とセヴェンリィ爺は共にこの巣穴の近くにある古代樹の幹穴に住んでいる淫魔で、時折こうして僕たちの巣穴までやって来る。
その昔、この巣窟で並外れた美貌と手練手管で界隈の雄たちを虜にしたベレ婆は、その時の技巧を女たちに伝えることと引き替えに、ここで集まった精を彼女らが生きていくのに必要な量だけ分け与えられていた。だからベレ婆が来ると、大人も子供も関係なく女たちは彼女の元へ挨拶に行く。
「お前さんがまだ居るとは思わなんだ」
「僕ですか? こちらこそ、爺様がいらっしゃるなんて、どういう風の吹き回しか、って」
「言うようになったのぉ、小僧」
「ちょっと長く生きすぎました。……爺様ほどではありませんが」
セヴェンリィ爺までやって来ることは珍しい。
ベレ婆と異なり、爺には精の代わりに提供できるものが何もない。女たちが「穀潰し」と陰口を叩くこの場所から足が遠退くのは当然だろう。
爺は完全に歯の抜け落ちた口を一杯に開けて濁った声で笑った。
「そっちの小僧は。何番かね。見たところまだ童のようじゃが」
「40のジォ。爺さんは……セヴェンリィってことは、70番?」
「そうじゃ。お前さんよりも後じゃ」
ジォは難しい顔をした。
3桁目が1つ2つ、或いは3つ程も違うことを教えてやろうか悩んだが、爺が人の悪い目付きでジォの表情を愉しんでいた為やめておいた。
「童よ。外へ出られるうちにここから出て行くが善い。さもなくば餌にされちまうぞ」
「――爺」
咎めるような口調で遮る。
ジォはまだ何も知らない。
女たちの仕事のことも。
自分たちが食べているその本質も。
僕らの運命についても。
きっと最近外に出なくなった39だってまだ知らないだろう。いずれ女たちに喰われて、他の淫魔の糧にされてしまうなどとは。
気付いた頃にはもう逃げ出せない。そういう仕組みになっている。
爺はこちらを厳しい顔で睨んでいた。
「今日はどういったご用向きで?」
「お前さんに会いに来た」
「僕に?」
爺はゆっくりと頷く。骨と皮の痩せこけた顔の中で、目玉だけがギョロリと鋭さを放っていた。
「ジォ、ちょっと外してくれないか」
「うん。……分かった」
雰囲気を察してかジォの動きは早かった。すぐに立ち上がって出入口へと向かう。
その先の通路を、ベレ婆への挨拶を済ませた二人の女が歩いていた。
「ベレ婆さんの技って、もう、ちょっと古いのよね」
「そうそう、時代遅れって言うかさぁ……」
「こんなお説教でアタシらが一生懸命集めて来たのを持ってかれるかって思うと――」
ジォの姿に気付いて女たちは口をつぐむ。
暫く僕はセヴェンリィ爺の顔をまともに見ることができなかった。