1. - ワヌ -
最近はナインも外で遊んでくれない、とジォはこぼした。
ジォは40番。フォリィと呼ばれるのを嫌って、僕らが一桁目を愛称にするようにジォと名乗るようになった。そう昔の話ではない。未だその呼び名に馴れず、彼のことをフォリィと呼ぶ者も多い。
呼び名にこだわってみたり、なのに外で遊びたがったり、つまりジォは思春期に差し掛かろうとしていた。
「ナインて? 29? 39?」
「39」
「ああ、じゃあ最近はジォより年少の子ばっかりなんだ?」
「うーん、一緒に遊ぶのは。あ、でも姉さんは何人かチラホラいるかな」
「そういう順番なんだよ。今度はジォが下の子たちの面倒を見ないとね。今まで見てもらったように」
「えええぇ!? つまんねえよ!」
何故かジォは年長の者を慕う傾向にあった。
だからか、こうして食事時になると時折僕の床にまでやってきて、一緒に食事をすることがあった。
献立は月山草と干した緋種をすり潰したものを練って作った団子だった。そこに女たちが稼ぐ精が混ぜられている。精以外の食材を集めて来るのは子供たちの役目で、食事の支度をするのは客を取れなくなった年増の女たちの仕事だ。
「ジォはもうどれが食べられる草で、どれが食べられない実か分かるんだろう? だったら小さい子たちにそれを教えなきゃ」
「ううぅ面倒臭えよぉ。セヴェン兄も一緒に行こうぜ?」
「……僕は、ほら、脚が悪いから」
「ちぇ、いっつもそうやってごまかす」
「ごまかしてない。生れつき脚はあまり良くない」
「……知ってるけど。でも昔は野摘みにも行ってたって。サリィ姉が言ってた」
「昔の話だよ」
精通のあった男子が淫花に囲まれた外へ出るのは危険な行為だった。
そして、外へ出なくなったことが女たちに知れると、それはそれで危険だった。
――餌にされてしまうのだ。
淫魔の男にとって、ここは、中も外も決して安全な場所ではない。
もしかすると、この巣穴を取り囲む淫花は、侵入者を防ぐ為に植えられているのではなく、女たちが自ら産んだ獲物を逃さない為の籠なのかもしれない。
「ジォ。39が外へ行かなくなったこと、誰にも言わない方がいい」
ジォは食事を既に終えていた。
よく分からない、といった顔で僕を見た。
僕は自分の団子を彼の方へと押しやる。
「それから、ジォもそろそろ外には行かない方がいいかもしれない」
「俺は別に脚悪くねえよ」
「いざとなったら、脚が悪くなったってことにすればいい。どっちにしろ、花に見られるようになったら、もう外には行けない」
「花に見られる?」
僕は頷いた。
花は敏感に雄の匂いを嗅ぎ取り、その顔を向けてくる。最初は一輪だけ。だから気付かない。段々とその数は増えてゆき、強烈に「見られている」気配を感じるようになる。
あの恐怖は、ちょっと忘れられない。
入口で物音がした。
ジォとの会話を聞かれたかもしれない、と僕は身構えたが、顔を覗かせたのはサリィだった。
「ベレ婆さんが来てるわよ。それから、セヴェンリィ爺さんも」
「爺さんが? 珍しいな」
「アタシこれから挨拶に行くけど、どうする?」
ジォを見る。
彼も僕を見ていた。
目が合った。
「うん、爺さんが来てるならね。挨拶に行かないと」
立ち上がろうとするとサリィが駆け寄った。その手に捕まる。反対側ではジォが慌てて僕の腕を取った。
本当は、支えが必要な程、脚は深刻な状態ではない。