11. - エレヴェ -
大人の儀を受けて名を授かれば、もう意味もなく外へ遊びに出掛けることはなくなる。
それは失ってしまった彼女を探しに出ることすらままならなくなるということだった。
彼女が居なくなって月日が流れ、僕の中には焦りと諦めの両方があった。もうすぐ僕は大人になる。その日取りが決められ慌しく準備が進む中、僕が大人になることを惜しむ小さな子供たちが奇妙な話を持ち込んだ。
近くの洞穴を探検していたら、とても綺麗な女の人が居た、と。
――セヴェンだ!
はやる気持ちで彼女の元へ逢いに行く、それよりも先に噂は瞬く間に大人たちへと広まり、彼女の姿を見ることなく僕は彼女を処分しなかった罪で投獄されることとなった。
洞穴に居たのは間違いなくセヴェンだった。
「あなた、名前を何と言うのかしら」
手足を縛られたまま暴行を受ける日々が続いた。食事は直腸へと直接与えられ、繰り返されるリンチとレイプに生きる気力も無くした頃合、覗き穴の向こうに女神が居た。
名前。……名前、
与えられる筈だった名前なら記憶を掘り返せば見つかるかもしれない。それとも今なお呼ばれる幼名の方が良いだろうか。
「な、まえ……。セヴェンリ…、君は?」
けれど僕が熱に浮かされたように口走った発音は、生まれた時に与えられた番号で、それは愛しい人の番号ととてもよく似た響きだ。欠けた前歯が唇に触れるだけで涙が出そうなくらいに愛しい音だ。
「ベレよ。けれど昔はあなたの名前とそっくりだったわ」
彼女の顔が恐ろしいほど美しく笑うのが小さな覗き穴から見えた。顔の一部分だけを切り取った小窓からでもその表情は手に取るように分かった。そして彼女は囁いた、まるで悪魔が契約するように。
「必ずあなたを助けてあげる。かつてあなたがわたしを助けたように」
ベレと名乗る女神はもうセヴェンではなかった。
だけど、もう、そんなことはどうでもいい。
悪魔に魂を売り渡すというのは、きっとこういう瞬間なのだろう。
怒声と悲鳴。
奥の部屋から伝わる熱風。
太い木で作られた格子の向こうで人々が逃げ惑う。取り残されて僕はこのまま此処で死ぬのだろうか、とぼんやり考えた。きっと女神の顔をした悪魔に魅入られた所為だ。
混乱の中、女たちの中から一際美しい姿が手招きをした。
思い通りにならない身体を引き摺って格子の元へ歩み寄るが、彼女がその格子に火を放つのが見えて僕は一瞬躊躇した。
「大丈夫」
炎の中から白い手が伸びて僕の腕を掴む。
引っ張られるままに火の中をくぐり抜けると、そこでは幾つか火傷を負ったベレが笑っていた。
「行きましょう」
周囲には女と子供しか居ない。
僕は彼女が忌まわしい棲家を男たち共々焼き払ったことを知った。
それはまるで革命のように見えた。