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第4話 肛門パイセンは偉大だった

次の日の昼休み。

あかりは机の上にお弁当を広げる前に、昨日のノートを取り出していた。

ページいっぱいに書かれた「肛門の歴史=文明史」の文字が目に入る。太字で強調され、矢印や図解もびっしり。お弁当の匂いよりも先に、胸の高鳴りが全身に広がった。


(……よし、昨夜のまとめ完成!)

(でも、どう説明しよう……未奈は引くだろうな……いや、でも広めたい!この熱量は止められない……!!)


「なにそれ……暗号?」

隣から声がかかった。藤井未奈だ。

サンドイッチを片手に、眉を跳ね上げてこちらを覗き込んでいる。明るい茶髪をひとつに結び、リップをつけた人気者だ。


「あ、暗号じゃない!これはね――肛門の歴史だよ!」

あかりの目はギラギラと光る。


「……は?」

未奈の眉がハの字になった。


「聞いて驚け、未奈!

古代ローマではね、トイレがずらーっと並んでて、みんな横並びで座ってたんだよ!!」


「えっ……いやいやいや、何その公開処刑スタイル」

未奈はサンドイッチをそっと置き、身を引く。周りの女子も小さくざわつき始めた。遠くの男子たちはニヤニヤしながらこちらを見ている。


「しかもね、棒の先にスポンジがついた『テルソリウム』っていうのをみんなで使い回し!!」


「え、待って。え?棒?共用?……無理……」

未奈は顔をしかめ、思わずお尻を押さえる。


「さらにね!葉っぱとか貝殻とか灰で拭いてた時代もあったんだよ!」


「貝殻!? それもう武器じゃん!」

女子たちは思わず身をすくめる。

男子グループは肩をひそめ、ひそひそ声で「おい、マジでやばくね?」と笑いをこらえている。


「あかり……大丈夫……?」

未奈は両手であかりの腕をつかむ。「頭でも打った?病院行ったほうが……」


だが、あかりの語りは止まらない。

「違うんだよ未奈!これは全人類が知るべき真実なんだよ!!

もし古代人が肛門を手に入れてなかったら、今の私たちは……」


「やめろーーー!!」

男子たちが笑いながら叫ぶ。

「おいおい、マジかよ……録音したいレベルだぞ!」

「あの……昼休みだぞ……」


あかりは気にせずさらに熱弁を加速させる。

「トイレ文化は文明史!肛門は人類進化の鍵!

トイレットペーパー先輩とウォシュレット先輩に感謝を――!」


教室中がざわざわ。

女子たちは赤面、男子はニヤニヤ。未奈は目を見開き、必死にあかりを抑える。


「落ち着いて!!みんな見てるから!!」


しかしあかりの語りは止まらない。

「古代ローマではオープンスタイルのトイレで隣と肩を並べ、スポンジ棒を順番に回す文化があったんだよ!

葉っぱ、草、貝殻、灰……手も使った!文明は肛門のために進化してきたんだ!!」


未奈の顔が真っ赤になり、思わずフォークを落とす。

「……あかり……大丈夫……?」


あかりはノートを取り出し、夢中で書きなぐる。

「古代人、拭かない派多め」「日本の籌木も棒派だった」「中世ヨーロッパは城の外壁から直落とし」

一文一文、矢印で繋ぎ、脳内で再現映像を重ねながらメモする。


(うわ……夢の中みたいにリアルに見える……これ全部歴史として繋がってる……!)

(肛門パイセンは偉大すぎる……)


「……あかり、ちょっと引く……」

未奈が小声でつぶやく。周囲の女子も「あ……あかり……?」と戸惑う。

男子はニヤニヤ、声にならない笑いをこらえている。


(や、やばい……夢じゃない……現実で布教してる……)

(赤面……赤面……あーーー、なんてこと言ったんだ私ーーー!)


そのとき、チャイムが鳴る。

あかりはハッとして、目を開けると見慣れた天井が目に入った。

「……夢!?」


時計を見るとあと10分で登校時間。

(やっば!!遅刻遅刻ーー!!)

あかりは慌ててスクールバッグを抱え、家を飛び出す。

心臓がまだバクバクしている。


(あー……夢で良かったーーー!!)

(この宇宙論は私と段原美咲だけの秘密……危ない危ない……夢の中で布教し出すなんて……!)


空を見上げ、あかりは心の中で誓う。

(放課後、美咲にだけ続きを話そう……!)


心の奥で、肛門パイセンが微笑んで「よくやった」と言っている気がした。

夢の中でも現実でも、あかりの肛門宇宙論への熱は止まらない。

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