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第3話 トイレは人類の知恵!?

次の日の夜。

あかりは昨日の学術書を再び抱え、ベッドにダイブした。

毛布を頭までかぶり、ページをめくる。


(肛門パイセンの歴史、まだ続きがある……!)


開いた先に、次の章のタイトルが踊っていた。


「排泄行動とトイレの発達史」


「きたあああああああ!」


心臓がドクンと跳ねる。

体温が上がり、毛布の中がサウナ状態になった。


――古代人の多くは排便後、拭かないか、自然のもので拭いていた。


「え……拭かない!?」


あかりの頭の中に原始人が出現。

洞窟の前で「ふんっ」としゃがみ、何事もなかったかのように立ち去っていく。


(えええ……じゃあズボン履くときどうすんの!?

絶対汚れるでしょ!?

いや、そもそも服着てなかったからセーフ!?)


あかりは深呼吸し、心に留める。


「古代人:拭かない派多め」


次のページには古代ローマの公衆トイレの写真。

石造りのベンチに穴がずらりと並んでいる。


(うわ、オープンスタイル……!え、隣と近すぎない?

これ、友達と横並びで座りながらうんちするやつじゃん……)


頭の中で再生される、古代ローマ版・給食後トイレタイム。


『トーガ姿で並んで座るクラスメイトたち』

『スポンジ棒を順番に回す』

『「お前長いぞー」って冷やかされる』


「やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ベッドの上でじたばた転がる。


(でも……すごい……人類、ここまでやったんだ……!

肛門のために専用の建物まで建ててたんだ……!)


次のページには、棒の先に海綿をつけた「トイレットスポンジ」の図解。


「再利用ぅぅぅ!?」


ページを押さえたまま毛布に顔を埋める。


――用を足した後は、海水につけた棒状のスポンジ(テルソリウム)で拭き取った。


「棒!? スポンジ!? 共用!?!?」


脳内妄想が暴走。

ローマ人たちがずらりと座り、隣の人が使ったばかりの棒を


「はい、次どうぞ」と渡してくる。


(うわああああああ!使い回しかよ!!

次の人に「はいどうぞ♡」って渡すの!?)


「ひぃぃぃぃ!! 無理無理無理!!」


(いや待て……これ、一周回ってエコじゃない?

再利用可能、洗って次の人へ……現代のサステナブル精神!?)


ちょっと冷静になり、ページをめくる。


――地域や時代によって、拭き方はさまざまだった。

葉っぱ、草、貝殻、家畜の毛、灰、砂、雪……。


「貝殻!? お尻に凶器!?」


思わずお尻を押さえる。


(海水浴で貝殻踏んで痛いやつだよ!?

そんなので拭いたら流血エンドじゃん!?)


さらに読み進める。


――インドや中東では今も水で流し、手で洗うのが主流である。


「え、手……?手って……手???」


もう一度読み直す。


「やっぱ手って書いてあるぅぅぅ!!」


机に突っ伏すあかり。


(マジかー……ペーパーなき時代は手かー……

いやいや、手しかないって思考停止すぎない!?

棒とか葉っぱとか、ほかに手段あるでしょ!?

手ってもう最終奥義じゃん!!)


脳内で過去の人類を集めて説教。


「棒あるじゃん!葉っぱあるじゃん!

なぜそこで手ぇ出す!?勇者か!!」


――中国では6世紀ごろから紙が使われ、日本では奈良時代に「籌木」という棒で拭いていた。


「……日本も棒派だった!?」


想像してしまい、枕に顔を埋めてバタバタ。


(あああ……ご先祖さま……そんな時代を生き抜いたのね……!)


さらにページをめくると、中世ヨーロッパの城が登場。


「なぬぅ!??」


あかりは慌ててベッドから飛び出し

机に向かい勢いよくペンを走らせた。

あかりのメモりたい欲求はもう我慢の限界だった。


――城の外壁から突き出した「吐出し部屋」。

中身はそのまま堀に落ちる仕組みだった。


「え、直落とし!?」


脳内で天守閣からプリッと落下。

下にいた敵兵に直撃している。


「強い!これ武器じゃん!!」


机をバンバン叩いて笑うあかり。

ボールペンが床にカチンと落ちた。


(あっぶな……ペン先折れたら今日の学びが止まるとこだった……)


最後のページに、ついに革命が現れる。


――1857年、アメリカで世界初の商業用トイレットペーパーが発売された。

日本で家庭に普及したのは昭和30年代。それまではちり紙や古新聞を使用。


「……トイレットペーパー……文明の到達点じゃん……!」


胸に手を当てるあかり。


(ありがとう……肛門パイセン……

トイレットペーパー先輩……

ウォシュレット先輩……個室トイレ先輩……

人類はただ排泄するだけじゃなく、

「どう快適に拭くか」「どう清潔に処理するか」を考え続けてきたんだ……

全部あなたたちのおかげで人類は快適になったんだ……!)


「これ……絶対みんな知らないよね……!」


 誰もが知っているようで、実は語られないトイレ文化史。


考える事に夢中になり過ぎて、しばらくノートの上でペンを持ったまま手を止めていると、じわっとインクのシミが広がった。


(あっ……! このインクシミ、肛門史ノートの勲章にしよう……)


ノートに太字で書き込む。


「肛門の歴史=文明史」

「肛門の進化=人類進化のカギ」

「トイレ文化史=文明史の裏面史」


(やばい……これ、完全に研究テーマになってきた……!肛門の歴史を学ぶ事で宇宙との結びつきをより鮮明に感じるようになっている。

肛門の息吹を感じることは地球の息吹を感じること。地球の息吹を感じることは宇宙の息吹を感じること。間違いない。私の肛門宇宙論は歴史を知る事で更に深みを増し一段階上のレベルへと進化する!)



 胸の奥がじんわり熱くなる。

 彼女の頭の中では、まだ見ぬ歴史のページがめくられていた。

 

あかりは天井を見上げ、決意の表情になる。


「――私、明日からトイレットペーパー節約しない!」


その夜の夢の中では、

肛門パイセン・トイレ先輩・トイレットペーパー先輩・個室トイレ先輩が

肩を組んで輪になり、盛大な尻祭りを開いていた。

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