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第11話 砂漠の神と浣腸士

 その日の夜ー

 あかりの部屋には、まだ灯りがついていた。

 机の上には古代史の本とメモが散らばり、スマホの画面には未送信のメッセージが表示されたまま。


美咲:

まだ起きてるの? 何時までやるつもり?もう寝なよー。

明日朝から続きやればいいのにー。


あかり:

だってクロアキナ様について書き始めたら止まらなくて……。

あ、そうだ。古代エジプトにも似た神様いたような気がし……


 入力途中で止まった文章が、夜中の1時を回ろうとしている。

 あかりは机に肘をついたまま、うつらうつらとまぶたを閉じていき、

指先からペンが滑り落ちる。


 ……そして。


 ふっと、まぶたの裏に強い光が差し込んだ。

 目を開けると、そこは見知らぬ眩しい砂の世界だった。


「えっ……どこ? ここ……」


 見渡せば、どこまでも広がる砂漠。

 遠くに川のようなきらめきがあり、近くには巨大な石の門がそびえている。

 装飾の施された神殿と、腰布だけをまとった人々が行き交っていた。


「さ、さ、さ三途の川!?

私、死んじゃったの??

研究のしすぎで過労死とか?」


(無理!無理!無理!

こんな死に方したら、翌朝警察が現場検証に来て…)


警官A:

おい!現場の状況はどうだ?


警官B:

はい!えー、これは他殺でもなく自殺でもなく突発的な自然死ですねー


警官A:

確かに部屋には鍵はかかっておらず

着衣の乱れもなく、誰かと争ったような痕跡もない。他殺の線は薄いか…

自殺の線は?


警官B:

彼女、肛門宇宙論なるものを熱心に研究していたようで、何かに没頭しているような人が自殺するとは到底思えず…


警官A:

こ?肛門宇宙論??


警官B:

はい、肛門宇宙論という意味不明な研究論者だったようです。


母親:

え?うちの娘は肛門宇宙論とか訳のわからないものに人生を費やしてたんですか?


警官A:

お、奥さん、落ち着いて下さい!

私も今聞いたところで気が動転しています。


警官B:机の上にこれだけの資料やノートを広げて死んでいくなんてホント娘さんは研究熱心だったんですね…



(い〜や、無理無理!こんなの死んでも死にきれない!幽霊にでもお化けにでもなって研究資料全て闇に葬ってから私が葬られないと恥ずかし過ぎるーーーー!

末代までの恥さらしだーーーー!

うわぁーーーーー!)



「ん!?」


「え!?」


「うそ…!?」


「あの、あの服装……まさか……古代エジプト!?」


 あかりは思わず頬をつねった。

 痛い。夢ではないような気さえした。


「もしかして、死んで…は、いない?

タイムトラベル!?え?なんで?」


 すると、近くで低い声が響いた。


「おい、そこの娘!」


「は、はい!」


 振り向くと、頭に白い布を巻きつけた男が杖を持って立っていた。

 彼はじろりとあかりを見て、訝しげに眉をひそめる。


「見慣れぬ衣だな。どこから来た?」


「えっ、えっと、その……観光客、かな……?」


 あかりはわけのわからない言い訳を口走ったが、男はまるで気にせず頷いた。


「ならば運がいい。ちょうど神殿では今、神に捧げる“清め”の儀式を行うところだ。

 お前のような若い娘には加護がある。ついて来い。」


「え、えぇ!? ちょ、ちょっと待って!」


 男は迷うことなく神殿の奥へ歩き出し、あかりは慌てて後を追った。


 奥の広間に入ると、香の煙が立ちこめ、壁には神々の絵がびっしりと描かれていた。

 中央には背の高い祭壇、その脇に――


「えっ……なんで浣腸器!?」


 あかりは思わず目を見張った。

 青銅製の長い管とひしゃくが祭壇の前に並べられ、白衣のようなものを着た人が慎重に道具を整えている。


 先ほどの男が静かに告げた。


「彼は神殿付きの“浣腸士”だ。

 この儀式は大祭の前に必ず行われる。

 身を内から清め、神の前に立つために。」


「う、うそでしょ……歴史の本で読んだことはあったけど……本当にいたなんて……!」


 あかりはごくりと唾をのんだ。

 目の前で、ひとりの参拝者が静かに横たわり、浣腸士が慎重に器具を扱い始める。


(あ、あれって……完全に医療行為っていうか……!)


 あかりは顔を赤くしながらも、目をそらせなかった。

 ふと、頭の奥に雷のようなひらめきが走る。


(そうか……清め=排出。

 古代の人たちは体を清めることを、神への祈りと結びつけていたんだ。

 出口はやっぱり神聖な“扉”だったんだわ!)


 思わずスケッチを取りたい衝動に駆られ、スマホを探したが、手元にあるのは古代の粘土板のようなものだけ。

 困惑していると、突然――


 ♪ピコン


 電子音が響いた。


「……え?」


 次の瞬間、もう一度スマホのバイブ音が耳元で震えた。


 ――現実の世界で、机の上のスマホが鳴っていたのだ。


 あかりはハッと目を開けた。

 そこは見慣れた自分の部屋。

 頬にはノートの罫線の跡がつき、窓の外はシンとした深夜の静けさだ。


 スマホの画面には、美咲からのメッセージ。


美咲:

おーい、寝てるの?

返事がないから心配になった。

私もそろそろ寝るよー


「あ、夢だったのかぁ……!」


 あかりは胸を押さえて大きく息をついた。

 まだ少し、神殿の香の匂いが鼻に残っているような気がした。


 机の上のノートを開くと、寝落ちする前に書いたメモの最後に、かすれた字でこう書き込まれていた。


 > 清め=浣腸=扉を開く儀式

 > 肛門は神話のゲート


 あかりは頬を赤くしながら、ふふっと小さく笑った。


「まさか夢でまで研究するなんて……。

 でも、やっぱり歴史の中の人たちも“そこ”を特別だと思っていたんだね……」


 スマホを手に取り、美咲に返信する。


あかり:

ごめん! ちょっと寝落ちしてた。

変な夢を見ちゃって……また今度話すね。


 画面を閉じ、窓の外の星空を見上げた。

 夢とも現実ともつかない不思議な体験が、また新しい発想の扉を開いたような気がして、あかりはひとりで小さく笑った。



※注:この物語はフィクションです。

実在の宗教儀式・医療行為を尊重しつつ、コメディとして描いています。

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