第4話「豪炎」
言葉を発するよりも体が先に動いていた。
瞬発的にステアリングを左に切り回避行動を取る。
しかし、勢いよく動いたのが災いし、マシンを地面に押さえつけていた強力なダウンフォースが一気に抜け、スピン状態に。
スピン状態に陥ったまま31号車はガードレールへ。
250km/hに迫る速度でぶつかったマシンは一瞬で豪炎へと包まれた。
「松下!おい!松下!」代表は必死に無線に叫ぶ。
しかし、瞬間的に50Gに迫るショックを受けた松下は火災の中、意識が混濁していた。
「あ…熱い…だ…脱出しなくちゃ…」
頭ではわかっているが、体が動かない。
その間にもマシンを包む炎の勢いは増していた。
この事故を受け、レース運営は即座に赤旗によるレース中断を宣言した。
コースの前半区間を走行する杏堂は赤旗の原因を無線で聞いていた。
『松下がクラッシュした。マシンが炎上していて…松下がまだ脱出できていないんだ…』
「おいおい…ぶつかった勢いで気でも失ったか?」その火災現場に近づく。まさに地獄絵図だった。
ガードレールの方へ伸びた真新しいタイヤ痕、散乱するマシンのパーツたち、その先で炎が高く上がっていた。
「何やってんだマーシャルのやつら!」杏堂はマシンを止めて、火災現場の方へ。
「どけ!邪魔だ!」マーシャルをかき分け松下の残されたモノコックへと近づく。
危ない!などと言われ制止される。
「馬鹿野郎!松下がまだ中に居るんだろうが!」
杏堂は炎の中に突っ込んでいった。
一方松下は…
「熱い…ベルトを取らなきゃ…」
鈍った手でベルトの解除ボタンを押す。5点式ベルトが一気に外れる。
しかし松下にはそこから先のことが出来なかった。
その時炎の中に手が差し伸べられる。
反射的に松下はその手に弱々しく手を差し出していた。
「よぉし!松下!腕を掴んだ!行くぞ!」一気に杏堂が引き上げる。
炎の中から杏堂と抱えられた松下が出てきた。
観客たちから歓声が上がる。
その後駆けつけた救急車により、松下は救急搬送されていった。