第1話「新参者」
2025年、鈴鹿サーキットでの開幕戦。
「ついに始まりましたね、杏堂先輩。」まだ人が少ない観客席を見ていた。
「そうだな。今年は松下はどうしたい?」
「今年はとにかく上を目指します。表彰台、優勝を狙います。」
「じゃあ、勝負だな。どっちが多く表彰台上がれるか。」
「そうっすね!じゃあ、負けないっすよ?」
そんな会話から30分後。
ドガッシャァン!
鈴鹿のヘアピンにあまり聞きたくない音が響く。
砂塵が舞い上がり、何が起きたかわからなかった。
その砂塵が晴れ始めるとその原因となったものが明らかになった。
それは松下が操る31号車だった。
『おい!松下、大丈夫か?』
「大丈夫です。ただ、マシンが…」
『そんなことはどうでもいい!マシンを降りてくれ!燃えるかもしれない!』
「分かりました」
その会話を最後にマシンを降りた。
マシンからは煙が出ていたが、冷却水のものだと思われる。
ピットに戻って来る。
「松下、怪我はないか?」
「大丈夫です。ただ、すみません。クルマを壊すことが多くて…」
「あぁ。でもお前が無事なのが一番だ。マシンが戻って来次第、修理に入る。」
「分かりました。お願いします。」
結果、ダメージは多岐にわたって入っており、予選出走は断念することになった。
午後、予選が始まる。
セッションが始まってすぐ、赤旗が提示される。
その原因は10号車、杏堂のクラッシュだった。
モニターには前後のサスペンションアームが折れ曲がった10号車が映っていた。
「本当にすみません、監督。マシンを壊してしまって。」
「…仕方ないよな。2人とも今年最初の走行だったんだ。」
そう、VERTEX racingは今年の公式テストに出走できていなかったのだ。
原因は運営側の手違い。
運営がVERTEX racingに通達したエントリー期限は本来の期限の1週間後。
それに従い提出したところ、すでにエントリーは締め切られており、何度もエントリーを訴えたが叶わなかった。
そんな話をしていると、10号車がトラックに載せられて運ばれてきた。
降ろし終わるとすぐにメカニックたちは修理作業に入った。
今回の鈴鹿大会のポールポジションは今シーズンから新規参入のSPES racing。
そう、あの、ル・マン大会に出走したとき松下が所属していたチームだ。
監督はDream racing Projectの長谷部宣孝。
ドライバーは大塚裕貴、オリバー・ジョーの2名。
オリバーに至ってはル・マン大会の制覇者だ。
最高の布陣で参入してきたチームだ。
一筋縄ではいかないだろう。
結果、SPESとVERTEXは対照的な結果になった。
SPES racing
88号車 大塚 1位
99号車 オリバー 2位
VERTEX racing
10号車 杏堂 24位
31号車 松下 25位