第12話「逆転」
「ふざけんなよ!なんでだよ!」
2コーナー付近で3台が絡む多重クラッシュが発生。これによりセーフティーカーが導入となってしまった。
松下だけがタイヤを交換できていなかった。
セーフティーカー出動中はピットインがルールで禁止されているため、入ることはできない。
これにより、松下は実質最下位になってしまった。
「監督!1位のままコースに復帰できるのに必要な後続とのタイム差は?」
『ちょっと待ってな…』
計算しているのだろう。
少し間を置いて
『分かった!30秒、30秒!後続とは30秒引き離す必要がある!』
「了解!」
30秒、このタイム差を生み出すにはレース再開からピットインするまでの周回すべてでファステストラップ(一番速いタイム)を叩き出し続ける必要がある。
『グリーンフラッグ、グリーンフラッグレース再開、レース再開。』
「了解」
全車加速していく。
1周目
『OK、ファステストラップ!』
3周目
『OK!いいぞ!ファステストラップ!』
9周目
『よし!ここまで全部ファステストラップを記録してるぞ!』
「もうそろそろピットですか?」
『OK!後続とのギャップは…29秒、許容範囲だ!入ってきて!』
31号車がピットへと向かう。
ギュワッ!
インパクトレンチの甲高い音が響く。
『作業完了!GO GO!』
瞬発的にアクセルを踏み込む。
『OK、OK、いいよ!ここからはフルプッシュ(全開)で行こう!青スイッチ1、青スイッチ1でどうぞ』
「ラジャ」
燃料の流量を変更するスイッチを変更してペースアップを狙う。
現在順位は2位。前方とのタイム差は2.3秒。
このままフルプッシュで行けば確実に埋められる差だ。
31号車 2位
10号車 5位
2台でのポイント獲得も確実だ。
「1位は誰です?」
『1位はTOM'Sの36番、萩原だ。』
「了解」
視界に萩原が操る36号車が常時捉えられるようになってきた。
確実に詰められる。
バックストレートに差し掛かったその時だった。
前方から白煙が上がる。
その煙の出どころに近づくとそのすぐ近くに力なく走行する36号車の姿。
ヘルメットのバイザーに何か液体が付着する。
オイルだ。エンジンオイル。
36号車はエンジンブローしてしまったのだ。
『36がエンジンブロー、36がエンジンブロー。残り2周だからセーフティーカー出動でこのまま多分レース終了になると思う。』
最終コーナーを駆け抜け、ホームストレートに戻って来る。
前方にランプを点灯させたセーフティーカーが待機していた。
『セーフティーカーに続いて。そのままゴールになりそう。』
「了解。」
再びバックストレートに戻って来る。
煙が立ち上る36号車が止まっており、すぐそばにドライバーが立ち尽くしていた。
先導されたまま周回を終える。
スタート・ゴールポストからチェッカーフラッグが振られているのが見えた。
珍しい終わり方であったがチェッカーラインを通過する。
『おめでとう!P1(1位)!P1!レースを制したぞ!』
「しゃああ!やったぞぉ!」
拳を高々掲げ、叫ぶ。
『よくやってくれた。今年の第3戦の優勝以来だ。ありがとう!』
「よかったっす!この結果で終われて。一時はどうなるか焦りましたよ。」
『あぁ、こっちも焦った。お前が後続とのタイム差を聞いてきたときに目が覚めたよ。ほんとにやってしまうなんてな。』
「だから言ったじゃないっすか、おれはやる時はやっちゃう男だって。」
『そうだな、おめでとう。表彰台で会おう。』




