第10話「賭け」
決勝日の朝、昨日1日を通して降っていた豪雨は止んだ。
菅生の上空にはきれいな青空が広がっていた。
しかし、路面ば乾ききっていない。
昨日の雨で濡れたコースの一部がまだ乾いていないのだ。
「困ったなぁ…タイヤ、スリックタイヤとレイン、どっちで行こう。」
サイティングラップという決勝レース前最後のマシン確認タイムで考える。
今履いているタイヤは雨、濡れた路面に適した溝入りのレインタイヤ。
しかし、空は快晴、このまま行けば路面は乾いていく。
ただ、それが何周目かは予想できない。
10周目かもしれないし、ファイナルラップかもしれない。
ステアリングの無線会話のスイッチを押す。
「スリックタイヤ履いているマシンっていますか?」
『えっとね、ダンデライアンの2台、TOM'Sの萩原、SPESの大塚はスリックタイヤだね。残りはみんなレインタイヤだね。』
4台だけか。
「その4台、走れてました?」
『結構普通に走れていたね。多分内圧を下げているのかも。』
内圧とは、タイヤの空気圧のことで、これを下げるとタイヤと地面との接地面積が大きくなり、安定感が増す。
逆に内圧を上げると接地面積が小さくなり、滑りやすくなる。
ただ、摩擦が減るのでストレートスピードが伸びやすくなる。
よし、やってみよう。
「内圧下げたスリックタイヤ用意してください!」
『OK、OK。』
いっちょ、賭けてみましょうか。
グリッドにつき、マシンを降りる。
するとメカニックたちがすぐにスリックタイヤへと交換を始める。
「いいのか、松下。結構リスキーだと思うぞ?」
「大丈夫っす。内圧低めのにしてもらったんで。」
「まぁ、止めはしないけど。」
「スピンしなけりゃいいだけっす。あとは乾くのを待つだけです。」
「そうだな。スピンだけしなければいいぞ。」
「ういっす。」
『フォーメーションラップスタート。前走者に続いて。』
晴れているのにもかかわらず、水煙が上がる不思議な光景が広がっていた。
「うーん。川がなければ多分平気なんだよな。川を避けるように走れば大丈夫だろ。」
川というのは水が帯状にコース上にあり、通過すると危険なものだ。
「おぉ〜、滑る滑る。でも行けない感じじゃない。」
運営はまだ路面が十分に乾ききっていないことからローリングスタートを選択した。
全車珍しく整列し、ゆっくり進んだままスタートラインを超える。
迎えた1コーナー、曲がりきれずに飛び出していく車が見えた。
そして、その飛び出していく車の中には31号車も混ざっていた。
「あぁー!やっちまった!もう!」
すぐにコースへと復帰する。順位は8位から20位まで落ちてしまう。
「うわ〜」「まじか〜」ピットでもメカニックたちが落胆の声を上げ、頭を抱える。
目の前には10号車の永野。
『大輝、永野を追い抜け。順位交代させる。』
「了解。」
目の前を走る10号車が減速する。
その横を追い抜く。
その時31号車のドライバーが10号車のドライバーに親指で後ろを指差すハンドサインを送った。
「永野、ついてこい。引っ張ってやる。」そう言っているようだった。
そのサインを理解したのか10号車は31号車に合わせてペースアップしていた。




