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百竜王 姫王リースが行く  作者: 田松 久佳
8/13

リース姫の巡回 シェスの旅程コンサルタント

「姫、、、姫!、お待ち下さい!、、、はあ、はぁ、、、」

 シェスは馬車を降り、スタスタと歩き出したリース姫を追い、息も切れ切れだ。

 この旅費である50枚の金貨を腰袋に抱え、その重量がズシリと伸し掛る。尚も自身の旅荷物を背負い、緩やかな登り勾配も加算され、先を行くリース姫との距離が広がる。





「姫が国内、もしくは領土内への巡回と申しましょうか、先々への訪問を行いし事は分かりました。」

「うむ。」

「では姫、先ずはどちらへ伺いましょう。」

 リース姫は、ラヴィマヒナデサの玉座へと着き、その手始めとして自国をその目で見て周る事を決めていた。

「そうよな、シェス、何ぞ良い案は有ろうか?」

(「え〜、姫様行き先をお決めになられていなかったの?漠然過ぎます。」)

「そうですね〜今の時期、そろそろ畑での作物が育ちまする頃、収穫前でありましたら、緑の広がる田畑の景色がダクシナ(南)へ向かえば見れましょう。」

「よし決まりだ。先ずはダクシナ(南)へと向かおう。」

 姫様、安易過ぎません?

「なに、ヴァラー・プラヴァーハ将軍を労いに行くか。」



「ところで姫、此度の旅程は幾日を予定されますのでしょうか?」

「それ、要るのか?気が向くまま、赴くままで良いではないか?」

 姫様、放浪の旅でもございませんし、王と成る者が余りに長くに城を空けます事も、如何でしょう?


「姫は現在、国の政に関してはおりませんが、そこはやはり王足る者、神官大臣のルールヤ様からも問を受けられます事も有りましょう。各地に赴いております四大将軍より何やら決定事項の要求が出ました際にも、姫の言を求められます。」

 そう、皆は国の最高指導者となる王に答えを求めるモノでしょう。


「面倒くさいなぁ〜。そもそもあたしは政事まつりごとに関し、知識も経験も意識すら無き。だからルールヤに一任したのにな。」

 姫様が玉座に着くにあたり、如何程の学びを経て来られたのかは、私は存じ上げていません。

 しかし、姫様は王足る風格をお持ちであり、それは生まれ持った資質なのであろう。

「いえ姫、確かに神官大臣ルールヤ様にて、国の政事は行われます。しかし王は姫なのです、王は最高責任者であり指導者、最終決定権も持たれます。姫が王として就きますので、ラヴィマヒナデサは国として成るのです。」

「国は民の物だろ。う〜ん、面倒だな。」

「姫!面倒などと、他の誰かに聞かれますれば、彼の者の士気に影響が生じまする。お控え下さい。」

「何かシェス、厳しいなぁ。」

 シェスはランガ婆様、グリャバとの短い時間であったが、自身の持つモヤモヤとした想いを露とし、尚も自身の持つ想いを表す機会を得て、少しの自信とリース姫のお側に居るべき任務に対する強い意識を持った。

『姫様が立派なレディと成られる事』シェスは自身が向う明日へと位置付けた。


「馬車にて如何程掛かるのか、滞在期間はどれ程か、そられに伴い準備すべき持物に差異が生じましょう。持つべき金子も変わりますでしょう。」

「面倒くさい、、、」

「はい?」

「ま〜ぁシェス、任せる。ただの、此度の遠征か、ダクシナ(南)の国境くにさかえまでは行きとう思う。そなたに一任する。任せたぞ。」

「はい、ですが姫。あっ、姫!」

 逃げられた。

 リース姫は日課ともなっている、書物庫に籠もりに行ってしまった。

「あ〜旅支度なんて、どうしよう?」


 書物を開けば、旅に関する知識は得られる。

 旅の目的は?此度は姫様が国を見て周り、その第一として南の国境まで行かれる事。旅の移動は?馬車にて行おう。王室の物が良かろう。旅の路は?ここ、中央の城より南へと下れば良い。だけど道中はどう選ぶ?旅の日程は?実際にどれ程の時間、日時を要するのか、推測せぬば成らない。宿泊先、休息の場、食の手配、、、

 書物から知識を得られても、答えを出すのは自分自身だ。

「どれもコレも私では測れぬ事、知らぬ事が多過ぎる。」

 旅の目的は、姫様がラヴィマヒナデサの国内を見て周る事。そして此度はダクシナの国境まで足を伸ばそう事。

 しかし姫様は、ダクシナの国境にて実際に何やら行おうお考えをお持ちなのか?


 ダクシナの国境の向こう先はジャノーガラ(森)が広がっている。

 『サンセイアスパダ・カフォーラ』と呼ばれる深く、濃く、妖しい森林地帯。

 先ずは南の都市、ギャイスポタを起点とし国境まで向かえば良いであろう。

 ダクシナの街(南地区)、ギャイス・ポタ市には、四大将軍の一騎であり、風の属性を得る事を果たし、ヒトをひとつ越えた存在と位置されようか、ヴァラー・プラヴァーハ将軍が就く。

 ただ、ギャイスポタまでの道中だ。

 片道で3日を要するのか、もっと時間が掛かるのか、それ以上なのか。

 途中の宿も必要だし、食も採らねば成らぬ。

 馬車馬を休ませる場所も必要だ。

 旅程に旅路を決めなければならない。

 だが、情報が少ない。

「あー、アレもコレもソレも!何から手を着ければいいのか。」


 頭を掻いて座り込む、シェスの顔をガダダ・ララが覗き込んで来た。

「シェスよ、何んぞ良い事でも有ろうか。何やら浮かれておるぞ。」

 エクナセラメタの一騎であるガダダ・ララは、シェスの守り人の任を持たされていた。

「ガラダララ、姫様は国内を見て周ろう、旅を行いしと申しました。先ずは南の地へ。ですが旅すがらの道中が分かりません。」

「シェスよ、姫の旅との行い、我らも知る処。しかし道中が分からぬとは、ダクシナへと舵を取り突き進めば良かろう。」


「そうも行きません。旅程の道中には、姫様のお姿が民達の目に写ります事も有りましょう。馬車は荒れ地や湿地を進めません。何よりこの中央より離れし距離の先、宿なり食を得る場も決めねば成りません。ジホダ(馬車馬)を休ませよう所、休息場、何より道中の安全確保、、、」

 旅費の心配をしなくて良いのが、大きな所ではあるが。


「それでですねガラダララ、今の私の持ちます記憶は曖昧で、確かに南方面にはギャイスポタの街が在り、その先を同様に進めば、やがて国境となるの森へと続こう事は分かるのです。それは地図にて確認も出来ます。」

 シェスはガラダ・ララに、地図を広げ見せた。


「ですが細部が、細かな記憶を持たず。私は記憶を呼び起こしているのでは無く、実は想像の産物ではないのかとすら思う次第です。ただ実際にはギャイスポタの街を訪れたる事も無きでしょう。」

 地図を指で辿りながら、シェスは沈んでしまう。

 地図を辿るシェスの指は、城のある中央の街から出た途端に、止まってしまう。

 ラヴィマヒナデサの城を中心に描かれている地図。だけど中央より南の街、その先に続く森まで辿ってみても、そこまでどうすれば行けるのか、どれ程の時間を要するのか、途中の道中には何が有るのか。

 実際に、誰かと幾度か日の替わる程の長き距離の移動、旅など行った事など無く、どれぐらいの時間が掛かるのかさえ想像も着かなかった。


「成らば良い。今よりその先へと向かおう。シェスよ、今より我らを走らせ様、それ成る図とは別の辿りを行おう。」

「はい?」


 シェスがガラダララに促され、その手を取る。

 シェスの意識と景色が凄まじい速度で流れ出す!

 そして飛び込んで来る景色は王宮を飛び出し、南へと向う。

「と、飛んでる?ち、ちょっと、は、速い、速過ぎますー!」


 シェスの視界は、空を飛んでいた。

 高く、高く、雲の切れ間を縫う様に、速く、速く、シェスは風を越える早さで飛んでいた。


 視線を落とせば、小さくもハッキリと多くの景色が飛び込んで来る。

 多くのテーカディ(丘)を越え、ジャノーガラ(森)、パーヴェタ(山)の遥か上空を行く。光を受けるナディ(川)、タラーヴァ(池)(湖)が青く輝いている。多くのシャハラ(小さな町)、点在するガーヴァ(里村)、その全てを飛び越えて行く。ダクシナ方面ではシャムーダラ(海)は見えない。

 眼下には、整備された道を進む多くの馬車、台車を引く者、町を越えれば人々の活気が伝わって来そうだ。

 田畑は想像していた通り、輝く緑の絨毯を広げている。


「シャハラ(街)だ!大きな街が見えて来た!」

 シャハラ・ダクシナ(南地区の都市)であるギャイス・ポタ市。

「どれだけの人々が暮らしているのだろう。」

 ギャイスポタは市中に多くのナディ(川)が流れ、街自体も周辺に多くのナディに囲まれる。それはこの周囲地域一帯を取り囲む様に、自然に作られた堀に囲まれた城塞都市である。

 そして、ギャイス・ポタ市の中心部にも、尖った3本の塔を持つ城が見える。

 しかしシェスは、特徴的な3本の塔を持つこの城を見るのは初めてであった。

「やはり私はギャイス・ポタには行った事がありませんでした。」


 尚も、シェスの視界は街を越え進む。

 多くのナディ(川)を辿るかの様に南へと進む。

 眼先には間もなくジャノーガラ(森)が姿を現し出す。

 今回の旅程のひとつの目的地となる、ダクシナの森林地帯。

「ガラダララ、止まって下さい!」


 サンセイアスパダ・カフォーラ、南に広がる森林地帯だ。

 この森へと入るとなれば、それは国境くにさかえを越える事になるだろう。

 そのまま進み、森を抜け様ならば、相対する事となる隣国『青き槍の国』と続く。

 だが、実際にこの森林地帯がどれだけの広がりを持つのか、誰にも分かっていない。


 この森林地帯は大きく深い。奥を見やると多くの木々は高くそびえ立つ。それに加え、本来この森が持つ、何やら妖しげな空気に包まれ、引き込まれてしまいそうだ。

 そうこの森、サンセイアスパダ・カフォーラは南に位置する森林地帯であり、ヒトを拒むかの様に多くの魔精が漂い、未知なる魔獣達も多く暮らす。

 誰もこの森を抜け切る者は無く、『青き槍の国』への直接の通筋としては向かえず。


 あっと言う間の行程だった。

 エクナセラメタが持つ力であれば、こうも簡単に国境となるサンセイアスパダ・カフォーラまで届いてしまうのか。

 シェスは感心しつつも、呆れ果ててしまう程であった。

 しかしシェスはエクナセラメタでは無い。

 姫様の旅のお供として、今見せられた道を進むとなるが、実は自分が辿るべき道すがらである事に気付く。


「そうだ、単なる人間である私は、空を行き、川を越え、湖を越え、山を越えよう事など出来ない。単なる人間である私は、何処へ行こうとも、地べたを這いずるが如くに歩き進む他は無い。」


「姫様にせよ、エクナセラメタであっても、わざわざ遠くを行くに地を進む必要は無い。空を行けば良い。私は、、、こんな私が姫様のお供だなど、甚だ可笑しい。私の自惚れにに違わず、勘違いも甚だしい。」

 リース姫の旅支度、姫様が行こうと思えばそれは何処にだって、旅などの概念では括れない。姫様であられれば、散歩がてらにこの世界を一周してしまわれるだろう。

「私は、基準を自身に置いてました。姫様を私の基準に置きます事など、甚だおかしいのです。」


「シェスよ、姫が望むは旅であり、単なる移動とは異なる。さもなければシェスに旅支度をせよなど申さず。」

「増してや、お前は一任されたであろう。成らばシェス、自身の旅を作れば良い事。」

「シェスの作りたる旅程に対し、姫が文句を言おうならば、、、それは恐ろしき。だがそれは自身に向けたる事に同意。一任とはそう成ろう。」

「旅とは、実際はどの様な行いと成ろうのか。」

「シェスよ、姫は何と申したか?」

 姫様は、

「姫様は、この国を見て周られると。」


「そうだ、見て周るだ。」

「今し方、シェスが見たるは見て周っておらず。」

 私が共になると、単なる人間の取る行動の範疇となってしまうが。それは、地を進む事に限られる。

「よ、良いのでしょうか?」


「シェスは姫より相談を受けたるではなく、頼まれたのだ。其れは課題であろう。」

「課題なれば分析・解析し、答えを導き出せ。」

「シェスよ、解決せよ。」

(「そうだ、これは私に与えられた課題なのだ。ならば解決し、姫様への忠義を示さねばならない!」)

「楽しみだ」

「ああ、楽しみだ」

「楽しみだ」

 そう、エクナセラメタは姫様の行動と常に共にある。


「我らも見て周るだ。シェスよ、我らも組み込んで貰おうぞ。」

「えっ、団体さん?皆は全騎が連ないしと成られるのですか?」

 それは行列を成したる行進にでもなりそうだ。100の騎士から成る隊列、王の行脚として想像する姿は壮観である。

 でも、100を同時に泊めます宿など有るのか?金子は足りるのか?

「シェスが申すは我らの数か。」

「ええ、」

 やはり100騎であったら、グリャバ様から預かり申した旅費となる、スーラヴィラズ金貨100枚を持たねば成るまい。

「さあ?」

「さあな?」

(『お前達が、100もあたしにゾロゾロと続く事は無かろう!』)

「あ」

「あっ」

「「「あ、」」」

「どうされました?」少し浮かれ気味であった、エクナセラメタの動きが止まった。


「シェスよ、どうやら我らは連なりし事は無き。」

「?」

「此度の旅路、我らはシェスよりの配置と成り、数が決まろうか。」

 私がエクナセラメタの配置、帯同となる皆さんの数を決める?

「それだと何か、恨まれそうなんですが。」

「何、姫よりの言だ。」

「シェスよ、配置数だけで良いぞ。」

「個別の抜粋也、選抜は不要。」

「何ぞ在らば、尚も我らは入れ替われば良い。」

 入れ替わるってぇ~?!もう、エクナセラメタが何を行のう事が可能なのかが、測れない!



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