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百竜王 姫王リースが行く  作者: 田松 久佳
6/13

ラヴィマヒナデサ議会が開催される デーバ サンラクサナ カーラサマンヤ

 ラヴィ・マヒナ・デサは温暖な気候に囲まれ住み良い国。

 収穫も豊かで山の幸、海の幸にも恵まれる。

 戦で荒らされてはいない野山が多く残り、この地に住まう野生のモノも多く居る。

 鉱物資源が豊かに眠る山岳地帯も有る。

 美しい湖があり、美しく流れる川もある。


 、、、為れば、欲しい。求め、狙い、奪おう。

 豊かな土地は狙われる、争いの果てに奪い取るのが常であるこの世。実際に隣国や他地域に攻め込み、版図を拡げる事よりも、国の守りは重要であった。

 その様な状況で玉座に着かれる事となった、姫様はこれから何を行おう、、、。

 リース姫の後ろに控える、シェスは何かと心配するだけであった。



 ラヴィマヒナデサの全てのまつりごとに携わる神官大臣の長となるルールヤは、四大将軍をはじめ、多くの国の行政者、軍部、地域の代表者、魔性を宿す執行者を議場へと招集し、我が国の行く末について協議の場、一種の議会を開催した。それは国を挙げての一大会議。

 議場には多くの者が顔を揃える。

 何よりリース姫王の動向、如何いかんに依るが。


 現在のラヴィマヒナデサは、国としての安定が欠け出していたのは事実である。

 偉大なるギュプラ王が没し、現在まで2の年を経た事すらが奇跡やも知れぬ。

 ただそれは、残された者、四大将軍や神官大臣ルールヤが必死となり繋ぎ、纏めて来た。

 それも限界である事は、皆が薄々感じていた事であった。

 

 だが、新たな王として掲げ様者が現れた。

 それが姫だとしても、ギュプラ王の直児である。

 その上、先の宣たる場にて皆を魅了させてしまう”力“を示された。

 我らは新たな王の元にて、再び一丸となる機会である。

 だが、、、


「では、粗方お揃いだな。」

 第一に口を開くは神官大臣ルールヤである。同時にこの会合に限らず、進行役も引き受け、政の一切に関わる。

 だだし、ここまでの人員を動員した会合など初めてだ。

 議会制民主主義とは違い、従来であれば先代王の意向や動向より、神官大臣達の協議を経た後、国内や地域、勢力圏への通知や通達を行うのが慣例。


 しかし、此度は異なる。

 何より君主であられた王が変わった。たとえそれを実子が引き継いだとはいえ、異例の事だ。

 尚も、我らの向かう先、生末すら左右されよう、戦に対する体制を変える、、、異例の事を抱えての王の交代劇である。

 リース姫王は戦の在り方を変えると言う。

 ユッドダハ(戦い)は続くであろう。

 だが、従来の指標と真逆の行動を取れと申された。攻めるな、守れと。

 リース姫王の存在自体に異を唱える者が皆無であろうと、我らが奥底に持つ”気概”とは違う。

 この後、我らが強い意気を持つには、リース姫王の所感に左右されよう事。


「先ずは何より、リース姫王よりお言葉を頂きたく。」

 この場には、神官大臣の諸氏に限らず、多くの役割、役職を持つ者達も集まっていた。

 そして皆はリース姫の第一声を待っていた。


「リース姫王か、、、何やら耳がこそばいぞ。まあ、良い。」

 姫様、、、何時もと変わらず。ですが何やら風格を感じます!

 シェスはリース姫の一番近くに座し、その動向に期待していた。

(「姫様は、何を発されるのであろう。この場では発する声にて皆を、国を、治めなければ成りません。先に行いし『お披露目』のように行動や態度では治められぬやも知れません。」)

(「この場には、百戦錬磨の戦人もいれば、政治事に関する役職者に学者、地方よりの統治者や農民代表も来てます。皆それぞれに前王の威光が届きしも、今方は姫様なのです。」)

 シェスは期待と同時に、大きな不安も抱えていた。


「この場に集まりし皆の者、私が玉座へと着く。異論を持つ者は申せ、私が相手をしよう。今がその機ぞ。」

 リース姫は、先に行った宣言であり『お披露目』の場面を引き摺っていた。

 それは、体を動かしたくてウズウズしている散歩待ちの犬の様であった。

 シェスの不安が膨らむ。

 リース姫は玉座に着くと申したが、今この場の会する席は、皆と同じ高さの卓へと着く。

 座する高さの位置だけ見れば、周囲を取り囲む様に集まりし者達の座の方が高い。


 リース姫王の第一声。この場に集う誰もが口を開かなかった。

 だが、リース姫の問に答える様に、皆は床に足を打ち降ろし、床を打ち鳴らす。石造りの床のこの議場は、地鳴りの様な様相となった。

 リース姫は、少し残念そうな顔をする。


「あー皆の者、礼を申す。だがしかし、私はまつりごとに関し不慣れを越え、サッパリだ。よって全てルールヤに一任したく思う。先代より継承されし事もルールヤをかしらとし任せるが、如何に?」

 再び地響きが起こる。

 皆の顔を見ても異論は無い。

 神官大臣ルールヤが皆から得る信頼は深い。


 ここからが本題であろう。

「リース姫王、僭越である事百も承知。ですが先程宣じました通り、こののち、我らは『守り』のいくさを行いし事と成りまするのか?」

 我が国のこれからの行く末、、、。

 この後、守りを強いられる、、、ルールヤは皆の代弁であると認識しつつ、、、口から出掛かかり、改めた。攻めの戦から守りの戦を行う事となると言い表した。

 守りなど、それこそ戦場にて攻め込まれ、窮地にでも立たされなければ取らぬ行為。元々『籠城』などの見本も無ければ手順書も無い。戦術や戦文化としても無い。

 故に誰もが選び、行いとし選択すべし枝も無い。

 リース姫王には順ずるが、戦となれば違和感は付いて回る。


「そうだ。私が目指すは、死を伴おう争いの無き世。その世とするには何を行おう。全てを征服するが手っ取り早いと多くの者が立ち、争った。それは先代も同様。しかし見よ、今の世を見回すも結果として出ず。だがそれは誤りや間違えでは無かろう。」

 乱世。乱が乱を呼び合い、争いが混ざり合い、拡張して行く混沌の時代。他の選択肢は無い。


「しかし、同じやり方では結果は変わらず。」

 『力』は『力』を呼ぶ。だが、それ以外の行いが思い付かない。


「ましてや、争いを治める特効薬など無かろう。だがな、治療を施しつつも、進む事は出来まいか。私が始め様するは、そこからだ。」

 争いに治療薬など、、、争いを収めるは“力”である。力でもって相手を薙ぎ払い、抑え込むが適当。


「相手の刃を降ろすに、己が刃を立ててでは適わず。

 こちらが刃を持たずであらば、相手も刃は不要であろう。

 それが道理であるが、今の世、通用はせぬな。」

 リース姫王が申すは、理想論の域を脱していない。

 リース姫王は、我らが傾倒する程の力をお持ちである事は分かる。

 だが、いざ戦場と為れば、如何ほどと成ろうか。


「周辺諸国より刃を収めさすが、私の務めだ。よって、それは私が行おう。だが何寄り、皆の助けが必要だ。それを手伝え。」

 沈黙と静寂が訪れる。


 この場に集まりし者達は、リース姫の今の言葉を吟味する。

 姫王を『手伝う』。だが、リース姫王が相手の刃を『収めさす』その手立てが分からず、誰もが理解に及ばず、リース姫の言は消化されず、宙に舞う。



「だ、大臣、発言の機会を」

 堪らず、山硬東将軍は沈黙を破る。

「リース姫王、ご無礼をご承知願いたい。我らはリース姫王に順じます事、この場に居ます全ての者と成ります。ですがやはり相手の刃を収めさすには如何と行いましょう。」

 

 山硬東将軍は、四大将軍と並び呼ばれ様と、軍部の長である。突き進めば相手を蹂躙し、守りと成らば敵を留める。

 しかし、今のリース姫王の話しは要約も出来ず、軍としての行動、国としての心構えも示されてはいない。



「相手の刃を収めさすは、私が行おう。」

 姫王自らが?リース姫王は、相手国との交渉により、争いを収めると申すか?それは同盟や和睦と成るのか?

 今の世、裏切りさえ美徳と語られる場も有る。混沌なる世は、昨夜の友が今日の敵、周囲の全てが敵と呼んでも過言で無かろう。魔性を帯び魔精を発する者も、ヒトに限らず多くの者が闊歩している。


 やはり、リース姫王の申される事に理解が及ばぬ。我らの取るべき行い、それこそ行く末が想像出来ぬ。リース姫王が行いし手立てが想像出来ぬ。

「将軍、交渉は行おうがそこに同盟も和睦も無き。互いに馴れ合いなど不要であろう。私が相手に示すは基本不干渉だ。私がそうしよう。そうさせよう。」

「うっ?」

 リース姫王は、我の意識を読み取られたのか、まさかな?

 しかしやはり、、、相手に不干渉を示すとは。姫王は、何を行うと申すのか?

「私は相手に選ばす、選ばせ様ぞ。さすれば相手も納得しよう。」

「彼も行かぬならば、決別の道へ進むとなろうな。」

 リース姫王の申した『選ばす』とは?そして『決別の道』とは?何を示しての事で有ろう。『決別』は宣戦布告の意を持つのか?それならばリース姫王の言に自ら反するとなるのか。何を行いし事と成ろうのか。


 リース姫は自身の行動の細部については語らなかった。そして周囲の者に伝わるのは、リース姫の示す『想い』であり、この場に集まりし者達には伝わらない。

 抽象的であるが故、ニュアンスは多少伝わる。

 だかやはり、リース姫より具体的に示され事が無いが故、戦場にて暮らして来た者達には理解には至らず、伝わらない。


「不要に心配や勘ぐりは要らん。他国との交渉事の第一は私に任せろ、私に一任せよ。良いな。」

 山硬東将軍はリース姫の口振りから双竜王、先代ギュプラ王の言動と重なる。

(「やはりお二人は父児。この様な言を聞かされれば、自身の中にて未消化な事も納得させられる。王に委ねる自身が在る。」)

 それはこの場に集い、永きを先代王の元に身を置いた、全ての者が持った感情であった。

 リース姫とは本日初めてその姿を目に映し、出会った者が多く居たが、主従の位置関係と信頼関係は構築されていた。

 それは先代王でるギュプラ王の威光が、死しても尚、ラヴィマヒナデサを照らしていたからやも知れぬ。


「我ら自身が『争いの無き世』の第一歩を示す。」

 リース姫王は、他国也他地域への攻めは行わぬと申された。しかし、姫王が他国への交渉事に向うのであれば、その隊に連なれば戦事への機会は続くのか?

 『戦は続く』戦場のみが自身の在り場とする者達は、一種の期待感を抱いた。


「皆の者、何故攻め入る。何故死に急ぐ。」

 一部の者は、ドキリとした。


「そしてそれは、何に繋がる。」


「其処に繋がりしは、絶えよう事。

 我らの営みが絶え様事。我らの営みは絶やしては成らぬ。

 今のままであれば、人間は何時しか絶える。

 それは敵も味方も変わらぬ事。同じ人間の”種“として変わらぬ事。

 絶える、、、それを創り出すは、今の我らぞ。」

 、、、我ら自身が自らを絶やす?絶やさぬ為に、勝ちを掴む為に、戦を潜り抜け来た筈だ。


「変えようではないか。我らの代より先へと続く道を創り足るは、今の我らの使命では無かろうか。」

 使命。敵を蹂躙する事のみが目的であった戦人達。

 そこには大義も名分も無く、ただただ『行け』と言われて突き進んだ。

 戦場に立つ理由、、、眼前に敵が居るから、迫り来る敵が存在するから。強く、上手く戦う事のみが誉れであった。

 その者達は、生存している行動の中では、戦に使命など見出す事など無かった。


 使命とは、、、この場に集いし者達は、思いにふける。


 リース姫はこの大地、この世界に住まう者達からの訴えを知る。

 自身が龍と別れた刻、ヒトとして歩み出したあの夜に得た数々の想いが、再び蘇る。


 今時に僅かな時間であったが、瞑想とも言える瞬間的な刻を得、その想いは再び沸き起こる。そこには、、、

 リース姫の意識は、過去成る者達の想い、先代王、周辺の者、里にて暮らす多くの弱き民達、国を越えし多くの声ならざる声、野山を走る小動物達の訴え、、、大地の声。それらは雪崩れ込むかの様に届く。


「皆の者、『争いの無き世」既に私の言では無い。この世に多く存在する生を持つ者達の願望ぞ。

 私もお前も彼の者も、皆が持つはずであろう。

 今一度思い起こせ。思い出せねば想像せよ。」


「此処に大地よりの訴えが有る。皆の持つ思いと合せ、見るのだ。」

 リース姫の言葉より促され、この場に集う者は皆、瞳を閉じ想いに耽る。そこには、


 、、、黄金色に輝く草原を皆が駆けている。自分自身も駆けている。

 その顔のどれもが明るい。黄金色に輝く顔をしている。

 皆は満たされている。何にだ?何に満たされている?

 明るさ、明日へと続く希望、、、今の自身やこの世からは連想されない事だ。

 しかし、それは我らヒトが本来、当たり前に持つべきモノだとも感じる。

 いや、必ず持たなくては成らぬモノだと強く認識される。

 そして、それを何故、今の我らは持てぬのだ、何故、想像すら適わぬのだ。


 だが、我らは追う。

 白く光輝く者の姿を追う。


 この背を追う我らが持つモノ、、、明るさ、、、明日、そして希望。

 希望の果てに待つモノ、、、次成る世代にも続こう営み、、、それば素朴なモノである。

 しかし、何物にも代えられない、、、それこそが誉望であり、明日であり、希望。

 、、、黄金色の中を走る。走り続ける。


 シェスも見ていた。

 自分は、黄金色に輝く草原を駆けている。

 周囲に居る者も輝く顔をしている。此処には明日が有る!そう感じる。

「隣の者、、、?」

 何か何処かで見た様な、知っている者の様な、、、

「あっ!」

 あの時、あの戦場で私の体を引っ張ってくれた戦士だ!

 ただ、今は平服だけど、間違いないだろう。

 だけど彼は、、、

 シェスは記憶を呼び起こそうと思案する。

 しかし、自身の記憶が曖昧であり、歯ぎしりする。

「そうだっ!確かあの戦士は、あの場で『青き門』を潜ったのではなかったか?私は彼の後ろ姿を見送った気がするが、、、青き門、、、」


「そうだ思い出した!あの『青き門』『赤き門』は何だったのだろう。あの門を潜った先には何があったのだろう?」


「もしや、あの戦士は『青き門』を潜ったから、今この場に居るのか?成らば『赤き門』を潜った者達は何処へ?!」


 この場に集いし者達は、リース姫の持つ”力“により集団幻想を見せさせたのか。

 否。リース姫自身も、この情景の中に溶け込んでいた。

 大地が持つ『想い』が、リース姫を介してこの場の者達に見させた情景であった。



「何が見えようか?」

 リース姫の声に促され、皆の目が開かれる。

「我らに限らず、この世にて生を営む者達の正しき姿では無かろうか。

 夢想と為るが、今在る自身との『歪み』を感じずには居られまい。

 今、目にした、伝わって来た明るさ、、、それが本来我らがヒトとして持ち、求めて来たモノでは無かろうか。

 何故歪めた、何時歪めた、誰が歪めた。

 それは我ら自身で有ろう。

 ならば、正せ。歪みを正す為に我らは求め、進むのだ。」


「歪みを正す事は我らの願望であり、使命として皆が持つのだ。」


 言葉を発する者は居なかった。

 『争いの無い世』リース姫王が求めるのは理想論や夢物語では無い。

 本来我らが持たなくては成らぬモノ、当たり前に持つべきモノ。

 それは誰も彼も、敵も味方も人間の性として持つべきモノ。

 虫ケラであれ、魔獣であれ、この大地にて生を営む者であれば、同様かも知れず。

 しかし、人間の業により、今の我らは手放した。本来持つべきモノを手放した。

 何時?誰が?何故?

 皆は何とも言い表せられない感情を抱える。


 取り戻さなければ成らない。

 しかし、それらを再び得る為には、今の争い、戦、殺し合いは不要な事。戦の準備すら、無駄な時間となってしまう。

 取り戻さなければ成らない。

 しかし長き道のりとなる意識も同時に抱える。

 我らが対峙と成る者は、同じ意識を持つとは限らぬ。

 だが、我らの代にて叶えられず共、我らの営みが続くのであらば、何時の日にかは取り返せる。

 リース姫王成らば、行える。

 そんな確信も抱いた。

 この場に集いし者達は、願望を思い持ち、使命を得た。


「先ずは少なくとも、我らが民には見せたる景色。それを見せたるが為に、我らは今集うた。民を地を国を護れ。我らはその為に盾と成る。」

「それは我らがヒトとしての営みを繋ぐ事。絶やしては成らぬヒトの営みを守る事。」


「故に地への拘りは捨てても良い。守れぬならば、縮めても良い」


「我らの道は、長ごう続くべき。」

 『争いの無い世』が来るまでの道のりなのか、我らの『営み』が先へと続く道の事なのか。


 この議場に集まりし者達は、今回の会合、リース姫王のお披露目の延長線上の挨拶程度の事と、高を括っていた。

 『戦の方向性が変わる』此れも四大将軍と神官大臣ルールヤが指揮を振るであれば、何も変わらず。


 違った。戦に対する意義が違った。

 蓋を開ければ新王、リース姫王の独壇場となったが、、、

 我らが今後持ちよう気概が変わった。

 それはこの場に集いし者達の中に生まれた意識の変換。

 そこには四大将軍も神官大臣ルールヤすらも含まれていた。


「さて、国を『護る』と申したが、如何とする?」

 ラヴィマヒナデサは国土としてはそれなりに広い。


 今の時代、仮初ながらにも国境くにさかえは存在する。

 プラヴァ(東)は隣国と一番に接すると成るが、実際には高く険しい山岳地帯を挟む事となり、守りに関すると成れば自然要塞のていとなり、比較的に守り易い。


 ウッタラ(北)は外海に面し、外国籍船が舶来し、寄港となる事もあれど、戦船の来襲は無い。

 それは、この海の遠洋より沖合に際しては、激しく様変わりを繰り返し『感情の起伏が激しいお天気屋の海』とも呼ばれ、対岸国からの侵攻には難が伴いまた、沖合より沿岸の間は様変わりする程の穏やかな波となり、接近する船舶は全てを曝け出す事となる。


 パスシーマ(西)は草原と岩盤地帯が交互とは成るが、ヒトや動輪車が進むには比較的容易である。

 ラヴィマヒナデサへ外なる国々より訪れるにはこの地域を通るが多い。それは裏返せば、侵攻するにも適していようか。

 それ故、敵対する者に対する城郭であり塁壁を設け、出入りの門を建て、時には侵攻せし者に対する守りの要壁と成る。

 ラヴィマヒナデサの国をひとつの城と表せれば、正に城門と呼ぶに相応しい外観を持つ大門である。

 白とグレーの岩石にて構成された城門は陽の光を反射し美しく輝く。

 この大門自体がひとつの城と言い表す者さえ居る程の見事な建造物である。

 また門を無事に潜り抜けたとしても、郭や囲いが多く造られ、真っ直ぐには進めず、一種の迷路の様相が続く。

 その各所には守衛の者が身を潜める守り場も設けられている。


 ダクシナ(南)は山岳地帯へと向かいつつ、深い森林地帯に入る事と成る。

 木々の生い茂る豊かな森である。

 ただし、森は深い。深い上に魔精が漂い溜まる。

 魔精が立ち込めよう中は、魔性を宿す者で無ければ通る事は不可能。魔性を持たぬ者が立ち入れば、たちまちにして気を失い、魔獣の餌食と成るだろう。

 実際に今となってもこの森の全容は掴めず、この地に住まう者達の存在についても未確認な事項が多い。

 それは他国も同じ事。故にラヴィマヒナデサへの侵攻経路とは成らずも、魔獣の類からの脅威か迫り来る場と成る。

 魔獣の現出、風向きによる魔精の流れ込みも有り、人間にとって安堵の時間が持ち難い場所でもある。



「我が国を四つと割ろう。それぞれを四大将軍をかしらに、それぞれで守護として着いてくれると良いのだが。」

 リース姫王はぞんざいな口振りだが、現状としては、それが最足るべき事と、皆は合点した。


 ラヴィマヒナデサでの初となる、会議らしきはようやくリース姫王より神官大臣ルールヤにバトンが渡される事となった。

 そして実際の配備や、各種の決まり事、内政の構成の在り方等が引き続き話し合われた。


 リース姫は、周囲の発言や意見、決まり事を聞きながらも、自分の出番は終わったなと、すっかり暇をもて遊ぶ。

 リース姫は座る脚をブラブラと揺らし出した。

 先程までの威厳は何処に行った?リース姫はうら若き少女に戻ってしまった。

『姫、会議は続いております。』

 周囲には見た目も恐ろしく感じる、官僚、戦人、武人達に多く囲まれている事には変わらない。

 シェスは姫様の今取る態度が、周囲の者に見付からない用にと、ヒヤヒヤし出す。


『シェスよ、あたしの出番も終わったようだ。暇になった、退席しても良いか?』

 コソコソっと姫様が囁いて来た。

『姫、成りません。この場は姫の為に設けられた会合と成りましょう。まだまだ姫の発言の機は多ございます。』

『そうか、、、』

 リース姫は、欠伸を噛み殺した。

 会議は続く。


『シェスよ、この後何を行う?』

『婆様は、何をお作りになられているかのぉ〜』

『もっと身軽な衣服をあたしは好むぞ』

『ラジャカラナ、、、国内での事で有ろうと、政治の話しはサッパリた。』

『シェスよ、何ぞ面白い話しをせよ。』

『姫、会議中です。』




「、、、しかしながら、外寄り諸国依りの攻めを受けるばかり、守りにて持ち堪え出来ぬ場は、あり得ましょうぞ。」


『姫っ!ご発言を』

『ん、ああ、そうか』

 姫様、会議はすっかり上の空になられてますよ。皆さんに叱かられそうです~。

 

「ん~ああ、外よりの攻めか。其の機が有るようならば、ガイロを行かす。アヤツはアレで中々の働きをするやもな。」

 姫王は魔性将軍ガイロの猛者振りを存じぬか。

 いや、リース姫王は先立って、魔性将軍とは直接の対峙と成り、その力はお知りに成られる。

 

 シェスは落ち着かない。

 (「ふぅ~。」)

 (「姫様、、、しかし、こうも安々と再び威厳を発せらせませれば、私は戸惑うだけです。」)


「して、その魔戦将軍の姿が在らぬのだが。」

 この様な重要な会合であれば、いくら魔戦将軍と言えど欠席など許されぬであろう事。他に魔性を宿す者も集まって居るのならば、尚更だ。不謹慎である!


「ああ、ガイロは『任をくれ』とうるさくてな、中庭の掃除でもしているであろう。婆様にコキ使われているやもな。皆の者、この後ガイロの姿を見らば、ヤツの働きを労ってやってくれ。」

「なんとっ!」

 魔戦将軍、相対するとなれば、こちらが何かと身構えてしまう程、伝わり来るモノを持ちたる武人にして魔性使い。

 何事も無ければ、好んで会うには些か対応に窮してしまうやも知れぬ存在。

 リース姫王は、獣すら飼い慣らされてしまうのか。


「良し、っと」

 リース姫は切り替えた。

「我らは国の守りを固めるのでは無く、営みを守る為に立つのだ。その意味を考え、取るべき行いをせよ。」

 (「姫様!良くぞあの意識の状況から!」)


「どうにも成らぬ時は、私を呼べ。皆が寄らば解決せぬ事は無かろう。」

 リース姫王の言葉。

 この場で聞かされた者は、何故だか納得してしまう、不思議な安心感に包まれた。


 この後、地域の分割範囲の協議が行われ、国としての行く末、新たな体制が整いつつあった。

「デバ、、、私は神と呼ばれ様存在には会った事が無いがな、四大将軍は我が国における四騎の守護神との任を引き続き就いて欲しい。」


 各地には四大将軍を頭としてそれぞれの地域に配備と為る。

 プラヴァ(東地区)は、熱のニサヴァガを持つ者、アーグァ・ウッスナター将軍が就く。

 ウッタラ(北地区)は、水と湿度ニサヴァガに届きし者、カフォーラ・汲海淵キュウカイエン将軍。

 パスシーマ(西地区)は、硬質のニサヴァガを纏う者、山硬東ザンコウセン将軍。

 ダクシナ(南地区)は、風のニサヴァガを宿し者ヴァラー・プラヴァーハ将軍が。

 それぞれに就く。

 地域の主体はあくまでも地方が持ち、族長会議も行われるが、四大将軍は同時に地域の統治も行う。


 四大将軍は痺れ、奮い立った。

(「我らが取りし行い、持つべき気概は戦任と変わらず。」)

(「新たな任となり、それは民を守りし、国を守る事。それは我らの持つべき願望である、明日へと繋ぐ事へ向かい、それは果たすべき使命である。」)

(「その意気は、攻めの戦を越え様事!」)

 リース姫王は、細かい事は申さず、我らに委ねて下さったのだ。


(「リース姫王は、我らの進むべき道を標された。成らばその道に乗ろう。その道を進もう!その道を駆けよう!」)

(「リース姫王は我らの指標を示した。姫王は我らの羅針盤と成った!」)


「さて皆の者。我らの国の明日を守れ、明日を築け、そして私を手伝え。」

 、、、ふわぁ~やっと、お開きだな。


 会議の議場が再び揺れる。

 この場に集まりし全ての者が床に足を打ち鳴らす!


「リース姫王!」

 ひとりの者が声を上げ立ち上がった!

「リース姫王!」

 先の者を切っ掛けとし、次の者が続く。

「リース姫王!」

「リース姫王!」

「リース姫王!」

 リース姫は、先の『お披露目』の場とは別の形で喝采を受ける。

「リース姫王!」


 シェスは思った。

 姫様は見事にこの国ラヴィマヒナデサの行く末をまとめ上げられた!

 皆をひとつにまとめ上げられた!

 私はどこまでも、姫様と共に進みたい!



「シェスよ、思い出したか?」

「何をでしょうか?」

「『赤き門』『青き門』、今からくぐるも遅くは無いぞ。」

 姫様ぁ〜。


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