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百竜王 姫王リースが行く  作者: 田松 久佳
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双竜王 ドナマァースドレガナラージャ

 一人の王と呼ばれる男が、その最期を迎えようとしていた。

 双竜王、、、この世界には龍が実在する。

 龍は天も地も含めた、全ての生命体の頂点に立つ。

 何処に居る?天の界なのか地の界なのか、それとも、、、その数すら少数であるのか、多いのか、どこの誰にも分からない。

 何者も触れられず関されず、何者をも超越した存在。


 そして、その龍との関係を持てる者は存在した。

 ただし、ひとつの時代に龍に接する事の成る者は一人として、出るのか出ないのか。

 例へ龍と出会えても、喰われるのか焼かれるのか、無事で帰還と果たす者は、皆無である。


 双竜王、龍とのひとつの契約を叶えた者。

 だか、それが二龍となると、前例も無き事。

 前にも聞かず、後にも出ないであろう、二の龍と契約を成した者。



 双竜王は龍の庇護の下、多くの力を持ち、戦場を駆け、民を守り導き、世界の平定を目指した者。

 龍は双竜王と共に、実際に戦場に現れた事も有ると聞く。


 その王も人間であった。

 戦いに明け暮れ、版図を拡げ、民を導き、平定を求め、病に侵された後、

 人間としての生命体の最期を迎える刻となった。




 その日、双竜王は身を横たえているベットの上から、王の証である王冠を床へ落とした。

「我が児、我が花、我が星よ、、、私は、、、王との任を離した。父となる時間を貰おう。」

 王はその王冠を頭上に掲げた時より、王以外の何者では無い。

 今の時代、王とは先陣を切る者、戦の渦中へと飛び込む者。増してや双竜王は、世界の平定を望が故に其の身を削る程の代償を顧みずに駆けた者。

 双竜王は王冠を離した。

 今はただの男へ還った。年を取り、その最期を迎える直前にただの人間と成った。

 父と成った時間である。しかし残酷な迄に、残り少なき時間。





「私は、、、お前に、争いの無い世界を見せたかった。それが叶わなかった事が、唯一の悔い。」

「それは?」

「王と言うより、お前の親としての想いであり、悔いと成る、、、許せ。」


 父王を看取るのは、その児であるリース姫、神官大臣のルールヤ、そしてリース姫が『ランガ婆様』と呼ぶキラミジィ・ランガ・グリャバの3者のみであった。



 ギュプラ王。多くの事を成し遂げ、多くの世界を駆けた者。王冠を離し父へと、一人の男へと戻るも、その威厳は変わらず。

 しかし、人間ギュプラはこの期に及んでも、後悔の塊であった。その念は、龍とのひとつの契約を果たした後、『双竜王』との通り名を得た頃に遡ろうか。

(「オレはヒトとして男として、、、親として、何一つ成しては居ない。」)

(「人間の生は儚い。だが、今この時まで生き長らえた事に感謝しよう。」)


 リース姫は、父ギュプラからの思い、この世界から伝わる流れを感じ取る。

「父王よ、お別れです。」


 リース姫の瞳が揺れ、涙が流れた。

 リース姫の涙は瞳より頬へと流れ、顎へと伝わり、一雫、その身体より離れれば輝く塊となり、床にに落ちると音を立て弾け砕けた。

「リースよ、お前も涙を見せるのか。」

「あたしもコレでも人間です。ですが、涙を流す悲しき事を今、学びました。」


「リースよ、世界を見よ。世界を感じろ。そして自分が成す事を知るのだ、、、。」

「世界を、、、あたしが成す事、、、。」


 リース姫は父王の手を取る。

 父王の想いが伝わり来る。雪崩の様に、洪水の様に、リースの中へと流れ込む。


 父が娘に伝えたい言葉、贈りたい思い、娘に対する想い。

 言葉にするには、残されたその時間では短か過ぎる。だか、意識を通わし合った二者の間は、時間を越えた。

 ギュプラ王としての記憶、望んだモノ、成した事。 

 、、、そして、抱え持ち続けたヒトとしての想いの一部。


 リース姫は、キラミジィ・ランガ・グリャバに視線を送り、

目を伏せる。

(「人の想い、父王の想い知る機会など無かった。」)

(「もっと、もっと、もっと父として、親と児としてのお話しがしたかった。」)

(「安らかに、、、。」)

 リース姫が父王に対して、贈る言葉として最初であり最後となった想い。





 父王は逝った。

 ひとつの時代を築き上げ、誰にも敵わぬ版図を拡げ、覇者とまで呼ばれた王。

 二体の龍と接し交わり、双竜王との名を冠した者。

 二度と出ないで有ろう偉大な王。



 姫はその場に立ちつつも、両の瞳から流れる涙を拭おうともしない。

 リース姫の流す涙は、頬から伝い落ちると、輝きを増す。宝石の様に輝き落ちると、床で砕け、消えて行く。


 キラミジィ・ランガ・グリャバ、気丈なる女。表情は変えず共、震える体を抑え込んでいる。しかし大臣ルールヤは、グリャバの心を察する。

 神官大臣ルールヤは、戦場を共に駆けた二対の嵐『双竜王』と『真紅の大輪』を知る数少なき者であったと言え様。

(「私は、、、この場に倒れてしまいたい。我が王と共に果ててしまいたい。」)

(「しかし、リース姫こそ今の我が命。あの世でギュプラ王にお会いした刻に顔を上げて会う為にも、私は倒れぬ。」)




(「姫は、どうされるのか、、、 」)

 神官大臣ルールヤ、そしてグリャバは、リース姫を見守る。

 神官大臣ルールヤ。王の亡き後も国の政を治め、国の安定を導く者として、王との誓いを遂行する。

 自身の事など、既に捨て置いた。

 ラヴィ・マヒナ・デサ、この国こそが我が児、我が親、我が家である。


(「姫は王冠を拾い上げるのか、果たして、踏み付けるのか。)」

 王を継承するならば、拾い上げよう。しかし、他者にその位置を譲るならば、踏み付けよう。


 リース姫は、床に転がる王冠に足を掛けた。

(「、、、やはり」)

 今の世は、乱世と言うには足らず程、正に混沌成る苛烈な時代。

 荒波すら可愛かろう。そんな中に女が国を指揮する事など適おうか。女王など、周囲を認めさす事も適おうか。増してや外なる国、異国であらば尚更認めやせぬであろう。

 姫の選択は、有る意味正しかろう。

 だが、誰も姫を責める事は無かろうか。その様な事、私の命と引き換えにしても、させまい。


 リース姫は足先で王冠を真上に蹴り上げた!


 王冠は空中で回転し、頂点に達すれば、姫の頭へと向い落下する。


『ズボッ』

 回転する王冠は、姫の頭を抜け肩で止まった。

 リース姫は顔を上げる。

 その瞳には何が映るのだろう。

 その瞳の先は、何を見据えるのだろう。


 神官大臣ルールヤは、堂々と立つリース姫のその姿に、ギュプラ王の姿が重なる。

(「我が王よ、、、」)

 神官大臣ルールヤの心の呟きは、前王に対してのモノなのか、今眼前と成る、新王と呼ぶべきリース姫に対してなのか、、、そのどちらでもあった。



「笑うなっ」

 姫は扉の向こうに控える者達へ叱責した。

「?!何者が居ると申すか、、、」

 大臣は困惑した。

 この場には、王、姫そして、グリャバと自分のみで無かったはずだ。

 人払いも行いし、結界も掛けたが、、、。

 しかし、大臣の思いとは裏腹に、控え目ながらも多くの笑い声が返って来た。


「いつの間に、何時から、、、」

 多くの者が居る事が分かる。

 いったい全体何者であるのか、姫は何を持たれていると言うのか、、、

 大臣の思念は深き所を漂う。


「『争いの無い世界』あたしは()()()()を継ごう。」


 先代王である双竜王の継承者が誕生した瞬間であった。




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