宣誓 サパスァ
四大将軍が王宮にて顔を揃えた。
稀な時間。この様な機会が訪れたのは何年振りだろうか。
確か10の年の前、双竜王が病に倒れ、一度目の床に着いた時以来であろう。
「新王であられます。」
神官大臣ルールヤ。王の側近の一人であり、国内の政を一手に担う者。
その信頼は王からも国民からも、そして兵士達、四大将軍ですら置いていた。
神官大臣は嘘を付かない。正確には嘘が付けない。
自身が認識を持ち、偽り也嘘を発すれば、それは命に直結する。
その様な呪いを神官大臣ルールヤは、自分自身に課せたのだ。
城の奥に位置する宮殿の玉座の向こう、赤き扉が開かれると、新王がその姿を現す。
「姫?!」
白き衣服を身に纏い、美しく可憐な姿。人間の付き人をひとり従えている。
、、、可憐。その姿を見た四大将軍は、同時に不安を抱く。
(「新王、我が王のご子息は姫であられたのか!」)
四大将軍の驚きは隠せない。
『新王』として神官大臣より、この場に呼び出しを受けた姫は、躊躇う事も無く、むしろ慣れた仕草で、玉座へと着いた。
「初めまして、だな。私は父であるギュプラの遺志であり意思を継いだ。そして玉座へと着くになる。」
「四大将軍か、成る程、皆なかなかに強そうな面構えだな。」
四大将軍の誰ひとりとして、口を開かなかった。
いや、何か声を掛けるだけの頭の整理が着いて無い。新王に対して、挨拶のひとつも行えなかった。
「この小娘の下に着く事など、華々可笑しいだろ。だから皆よ、好きにせい。」
四大将軍は、皆言葉を失っていた。
(「可憐。可憐ではこの戦の溢れる世界では生き残れぬ。」)
(「新王は姫王と成るのか。我が王のご子息で有る事は変わらず。それは大臣が示している。しかし、、、、」)
「さ、無駄話しも何だ、この後私は民達の前で宣言を行う晴れ舞台だ。私に取って替わるなり、国を去るにしろ、その後で良かろう。良いな。」
(「我らに選択肢を与えつつ、有無を言わさぬ物言いは、先代王と変わらずか。」)
「さあ、私のお披露目だ。今暫く付き合え。」
姫はシェスを従え、王宮の先となる、城の正面テラスへと歩み出した。
シェスは浮かれていた。
美しい姫様が皆の前に姿を見せる、正しくお披露目だ!
民の皆は驚くかも知れない、姫様は喝采を受けられるであろう。自慢の姫様だ!
(「姫が新王となるのか、、、?!」)
(「うっ!姫に続く3騎の黒き騎士!あの刻の黒き騎士となるのか?!」)
姫に続く使用人、その後ろを3騎の黒き騎士が続く。
(「ならば姫こそは『百竜将軍』であられるのか?!」)
山硬東将軍に生じた、迷いと不安は増す。
ラヴィマヒナデサ城には、今日も太陽と月の描かれた紋章の旗が、そよ風とも言える気持ちの良い風に乗り、大きくたなびく。
そして城の正面テラスに新王となる、姫が姿を現す。
周囲に集まる民達から喝采が上がる!
シェスは姫の後方にて、眼下の民達の喝采を聞き、誇らしかった。
我が姫様は、素晴らしい方。そのお姿を見るなり、民達は分かったであろう。
この喝采!シェスはまるで自分事の様に、鼻が高かった。
「我は先代王であるギュプラの一の児、ギュハラ・リースである。」
新王の第一声。宣言であるその演説が始まる。
「此度私は王冠を継承した。」
「先代王の意志を継ぐ者と認識せよ。」
新王の声が届く。
それは誰も彼もが避けられない程、はっきりと届く。
しかし、眼下に拡がる民達の顔には、歓喜する者、、、不安を抱く者、落胆する者、迷いが生じた者、、、負の感情を持った者の数が圧倒した。
「この後、我が国、我が地域より外へと戦を向ける事は無い。
我らが版図を守るべきの争いは起ころう。
だが、我らの国土となる地への執着をするな。
避けよ逃げよ、命を繋げ。」
女。今この世界を生き延びるのに将頭となるには女王では物足りぬ。
男、女の偏見ではあるが、事実、己の肉体で戦場に立つには男に分がある。
魔性をその身に宿そう事も肉体が物を言う。
「民の皆は自身を護るを第一にせよ。
それをも敵わぬ時には、私が立つ。
取られしモノは、取り返すのみ。それは私が行おう。
私の宣誓と成る。」
「この後、外への戦を続けたる者は我が領土から出れば良いぞ。
皆が今まで行って来た事に理解する。同意する。
国を守る為、民を護る為、王の命を守る為。
多くが傷付き、多くが死んだ。
それは取り返せぬ事実として、皆が知る。
取り返せぬが、増やさぬ事は、出来まいか。」
「しからば、版図は広げず。我らは征服王とは成らず。」
「我らが目指し求むるは、死へと繋がる争いの無き世界。」
「無益な争いの無き世界。其は先代王の意思である。」
無理だ。
この場に集う、殆どの者に沸き起こる想い。
今この世が求めるのは『力』だ!
この乱世の世界を生き延びるに、女王では物足りぬ。我らが求むるは強き力を宿す者。内にも外へも強き力を示す者。
そしてなにより我らは、この後戦の渦中に、争いを避けるに舵取りすべく、方向転換の先、守りとして立つ事になるのか。
絵空事では無く、無理な話しだ。
この場に集う民、兵士、四大将軍も含め、多くの者達が落胆とも、何とも表せられない感情に包まれていた。
シェスは一気に不安に駈られる。
先程までの響かんばかりの喝采が聞こえなくなった。
それよりも、皆の表情が影を落としている事にここからでも分かる。
姫様が目指す『争いの無い世界』。皆んなだってそうじゃないのか?誰も好んで傷付いたり、傷付けたりはしたくは無いはずじゃないのか?
姫様とそんな世界を作るのが、我ら民の務めでは無いのか?
「先代王のご意志と言われるか!」
ひとりの兵士が立ち上がった。
「そう成る。」
腕っぷしには自身が有る。いや、だからこそこの乱世を潜り生きて来た。
この後、我らはこの可憐で脆弱なる者の元にて戦となるのか。
地域を版図を勢力を拡げる事は行わず、守りに着けと!
戦いの方向が180度変わる、別なる意識を持ち、従来の戦のやり方を改めろと。
何か、何故だか納得が行かぬ。
それは、この場に集う者達の代弁者であったのやも知れぬ。
「気に要らぬであれば、今この場で私を切り欠け。そしてお前が我が国を治めよ。」
姫様!突然に何を?!
シェスは不安に駆られる。
本日は、晴れて姫様のお披露目であり、それは晴れ舞台。シェスの不安は加速する。皆に姫様のお考えが伝わらない!
どこかで期待していた。姫様は皆の目に美しく映るだろう。それは喜びを与えるに繋がると。
しかし現実は違っていた。
皆が求めるのは強き者。それは見た目であり、実際にも力を持つ者。
それが王足るに位置する者なら尚更だ。一目で相手を圧倒する程の『強さ』を皆は求めていた。
姫自身が言い表した晴れ舞台、、、割って入られた形となったが、特に気持ちを害した様子も無い。
この状況を面白がっているかにさえ、感じる。
「それだけの気概を持つならば、受けて立とう。
私は覚悟を持ち、この場に立つ。
お前の覚悟を見せろ。
しかし、それすら出来ぬならば去るが良い。」
ひ、姫っ!何をお始めになられようとするのですか?
しかし、シェスが抱えた不安など姫は露ともしない。
姫が笑う。笑顔を見せる。
「ただな、お前では私を倒せぬがな。」
リース姫は自身の宣誓に対し、反する意識を持った全ての者を煽る。
それはこの場に居る、ほぼ全ての者の意識を敵に回してしまう程に。
姫〜!
「誰ぞ、剣を持て。」
姫様、今から切り合うかも知れませんのに、どうしてそんなに落ち着いて、穏やかで、、、。
「シェス、私の剣では無い。この者に得物を与えよ。私はコレで良い。」
姫はシェスが腰に据える、木剣を引き抜いた。
「姫!そんなの無茶ですっ!お止め下さい!」
「シェスよ、お前にも少し私の力を見せておかないとな。そうでないと、私の言う事を聞いては貰えぬやも知れぬからな。」
姫様には絶対服従ですよっ!この命はあなた様の物です。私の全てを捧げられますっ!
四大将軍は、少し遠巻きにこの出来事を見ていた。
新王と宣した姫は何を行おう。見世物気分で座に着いたままである。
双竜王の亡き後、この国を治める者も定まらぬ。増してや周辺諸国も膨大な魔性の働きによって、その動向は霧の中とも言えよう、掴めぬ。
先程の姫の宣言。この国に残るべきなのか、自身が覇者と成るべく立つべきか。
今はまだ、先代王である双竜王への忠義と恩義、王より与えられし誇りも持つ。
しかし、四者共決めかねていた。
新王と宣言し、宣誓を行った姫の技量も力量も知らぬ、分からぬ。
我が王、双竜王との比較となる事は避けられぬ。
自身がその身を捧げた者、だが、その児であるのなら尚更、王と呼ぶに値するのか。
混沌成る世界は、残酷でもあった。
忠義や情だけでは、生きては行けぬ。
ただこの場にて、山硬東将軍のみが別の思考を揺らす。
(「姫は、、、百竜将軍となるのか。」)
(「ならば、百竜将軍とは、、、どの様な力を示す?」)
「自の得意は弓か鉄砲か?好きな得物を取るが良い。」
姫に着く、数騎の黒き騎士より様々な武具に武器が運ばれて来た。
「お前達、何やってんだよ!相手が鉄砲でも手にしたら!」
シェスの反論は最後までとは行かず、黒き騎士に引き摺られて、この舞台から降ろされる。
姫と対峙と成った者は剣を選んだ。
この兵士、最早引っ込みが着かない。
手にした剣は、真っ直ぐに刃が走り、陽を強く反射する見事な一振りだ。
「構えよ。」
新王である姫は、構えもしない。
シェスから取り上げた木剣を垂らし、ユラユラと揺らしているだけであった。
そして新王は、片目の睨みを相手に行った。
その睨みを受けた者は、武器を手に構えつつも、その腕を伸ばせられなくなってしまった。
身動きすらままならず、震えながらその場に両膝を着き、平伏せた。
周囲に静寂が訪れた。
(「何があった?何が起こったのだ?」)
それは、魔性を身に宿した者でも、何も測れぬ現象であった。
「さて、次は誰ぞ?相手を致すぞ。」
ユラリと、大きな影が動いた。
「魔戦将軍よ、止すのだ!」
山硬東将軍の声は届かない。
魔戦将軍が相手となれば、見世物気分では済まされない。
魔戦将軍を諌める者など我が王しか居ない、、。しかし、その王はすでに居らず。だが、、、
(「これは新王の技量と力量を測り知る機会に変わらず。」)
四大将軍は不肖ながらにも、同じ想いを持った。
姫は無事では済まされぬ、もしや打ち果ててしまうだろう。
魔戦将軍の持つ力は、誰として測れない。
友軍である事が救われる。魔戦将軍をその元に置いた、双竜王の力量の偉大さが思い返される。
双竜王の児、可憐成る姫。しかし、可憐だけではこの世を進めぬ。この場を乗り越えてこそ、この世界と対峙と成り、我らの新王に値する。
姫は、どう出られる?
魔戦将軍。四大将軍には括られぬ、別成る戦を行う者。
身の丈は3メートル、魔性の力と引き換えに異型となった肉体を持つ。
通常であれば、魔性の持つ力に反して肉体は変異と劣化へと向う。
だが、魔性将軍は逆であった。
元々持つ素であるか、魔戦将軍の肉体は、その身に纏う魔性と共に大きく育つ。
その戦場にて相まみえる殆どは、異型の者、魔性を帯びたる者、魔獣の類。
人間の兵士では対峙と為れぬ、特異な相手。
(「新王と申す小娘。確かに先代王、双竜王にご子息がいらした事は存じる。それが女、姫であったとは。」)
(「だがオレは、双竜王にこの身を捧げ、仕えた。いくら双竜王の児とは言え、お前は我が王では無い。オレの命を捧げるべき相手では無い!確かめよう、我が王と等しきか、否か。)」
「オレの相手を頼みたい。」
うわっ、怪獣みたいなのが出て来ちゃった。こんなの私なら、目の前にして立ってられない!
「姫!」あれ、黒き騎士達の誰もが動こうともしない!
シェスは姫の元へと駆け出そうと、一歩、立ち上がったが。
「お前達、姫を護るべき存在じゃないのか!」
黒き騎士達の動きは感じられない。
あんなに大男、姫には分が悪いよ!
見た目で姫の4、いや5倍だ!大人と子供、、、いやいや、獅子と仔犬の対決を見せられる様だ!
「姫!」
「シェスよ、私の晴れ舞台を飾るには、良き演出となりそうだな。」
姫様!何をおっしゃっているんです!私でも分かります!只ならぬ者ですよ!
シェスは黒き騎士へと振り返る。
「あー!お前達、姫を護るんだ!」
今ここに集まる数騎の黒き騎士達は、動こうともしない。
それよりも、地面や組岩に座り、凄くリラックスしていて、何かの観劇でも見ているようだ。
「もうっ!どうなってんだよっ!」
オレが行く!盾代わりぐらいにはなるだろう!姫に頂いた命だ!姫の為なら惜しくもない!
シェスが踏み出そうとした瞬間、一騎の黒き騎士に掴まれてしまった。
「なっ、何するんだ!離せ!」
「お前も座るが良い、姫もそれを望んでおろう。」
「今飛び出せば、後が怖いぞ。」
なっ、何言ってんだよ!姫っ!
魔戦将軍は姫と対峙と成る。
(「まるで喧嘩を売った様で大人気無い。しかし、今この場は我が身の明日を左右する。」)
(「何れにせよ、我が王、双竜王の亡き後に国を離れるつもりであった。」)
(「しかし戦況により、それが2の年も経過してしまった事に、今更ながら悔やまれる。」)
(「花道、、、と成ろうか、自国での最後の行いと成ろうのか。」)
魔戦将軍は大きく息を吸い、この場を戦場と同等の位置に押し上げた。
戦場には油断も驕りも不要なモノ。非情さのみが許される。
それは自身が生き残る為、引いては友軍を導く為。
明日へと続く、道を見付ける為。
「な、何だ!?」
(「何だ、この伝わり来る“圧”は?!」)
(「オレの体が身震いする。こんな事は戦地でも経験が無い。」)
(「あの、半死となったあの戦場でも無かった事。何だ?」)
(「この小娘、双竜王の児は何を持っていると言うのだ?!」)
「おい、どうした、大きいの?」
「剣を使え剣を。槍を持て、得物を取れ。」
(「何なんだ、何が在ると言うのか!!」)
魔性将軍に迷いが生じた。
(「眼前と成る者は何者なのだ?!」)
(「迷うな!欺かれるな!敵だ!オレの明日を左右しよう敵と成る!」)
魔戦将軍は、改めて大きく息を吸い込む!
魔戦将軍は、背にした大剣を取り出した。
(「腕が!震えているのか?」)
魔戦将軍が取り出した剣は魔剣。
魔剣。刃渡りは2mを有に越え、禍々しき魔精を纏い、見る者を圧倒する。
自身と相手の魔精を吸い上げ、力に変える。
その斬撃を受け、大地に立ち残った者の覚えは無い。
(「ま、魔剣が震えているだと?何だ、何なんだ、何が起ころうとしている、、、?」)
(「これは恐怖なのか!オレと魔剣が恐怖を感じているとでも言うのか?!」)
恐怖、魔戦将軍が戦地にて置き忘れて来た感情。
(「殺られる!いや、倒れるのは向こうだっ!オレは残る、残るんだ!」)
魔戦将軍が持つ強き意思。
それは本能から来る恐怖を呑み込み乗り越える。
(「引けぬ、逃れぬ、して測れぬ!眼前成る者が見えぬ!」)
(「ひと振りでは決めれぬ!尚も、全てを賭けねば届きもせぬ!」)
「な、何とっ!」
新王と宣じたリース姫と、魔戦将軍との対峙に不安と期待を抱えつつ、山硬東将軍は言葉を失った。
「魔戦将軍に魔精が取り巻く、、、」
”魔精“の多くは、魔性を宿す事に至った者が各種の魔性を発する時に使う、言わばエネルギーの一種。しかし、普段は目視されるには適わぬ。基本目には見えぬ。
だが、今の魔性将軍は自身の身体より発せられる魔精が、頭上に掲げた魔剣へと昇る!
魔性将軍と魔剣とは一体となり魔精に包まれている。
その姿は歪で、暗く妖しい光を放っていた。
妖しい光に包まれた魔性将軍の姿を見た者達は、呼吸をする事すらの困難に襲われる。
しかし、新王と魔性将軍との対峙から、誰もが目を背けられない!
魔戦将軍は、自身を取り巻く恐怖を越えようと、全ての魔精、全ての力を込めた、正に命を掛けた一撃!
自身を取り巻く全てを振り払うかの様に、両の腕で握りしめた魔剣である大剣を頭上より振り下ろした!
「ウオォォォォー!」
それは、大地までも切り裂いてしまう程の斬撃であった!
「姫っー!」
「と、止まった、、、新王は、止められたのかっ?!」
魔戦将軍の必殺の斬撃は止まった。
「新王は、あの斬撃を止めてしまわれた!」
(「新王は、あれ程の魔精を纏い、振り出された魔性将軍の斬撃を止めてしまわれた、、、新王はあれ成るを安々と越える魔性をお持ちと成るのか?どの様な技也、どの様な術也をお使いになられたのだ?!」)
シェスは見た。
「姫っ、、、あの大男が振り下ろした、あの大剣を手の平で受けちゃったよ!?」
この対決とも言えようか、一騎打ちと表すが適当か、極近場で見ていた者は理解出来た。
リース姫は何も魔性を働かしてはいない。
ただただその身で、魔性将軍の斬撃を受け止めた。
新王と成るリース姫はその場に立ったまま、微動作もしていない!
「どうした?手加減は要らぬぞ。」
(「ドレガナ(龍)!?」)
(「姫は龍なのか?!」)
この世に斬れぬモノが在ると聞いている。
それは“龍”であると。
(「オレも力を付け、こんな姿になりながらも魔性を身に宿し、魔精を生み、魔剣をも手にし、魔戦将軍と呼ばれるまでになった!」)
(「しかし“龍”との対峙となった事は無い。だが、今のオレであれば例へ“龍”でも斬れると思っていたが、、、。」)
(「姫か、、、囲いも無ければ分散、弱行、盾も、弾き、結界すら何も魔性が働いておらず、、、ただ単に、正しく受け止められてしまったか。」)
(「我の全力、この先も後も無い。」)
今の一撃、魔戦将軍は力尽きた。
(「双竜王の児では括れぬ!我が王よ、オレは負けた。オレの負けは死と直結しよう。其れは王との誓いだ。」)
(「悔しい。オレはこの先この者に続け無い。この者の背を追えぬ己が悔しい。」)
魔戦将軍は平伏せた。自らの意志でうら若き姫の前に平伏せた。
「大きい体のお前、名を何と申す。」
「ガイロ、と申します。」
魔戦将軍ガイロ。自身の名など双竜王に名乗った時以来、忘れていた。
「ガイロ、ひとつ頼まれてくれぬか?」
「な、何也と。」
「うん、お前の馬鹿力で、我らの民を守って欲しい。」
、、、民を守れと、、、。
「流石に私も身ひとつだ。全てを網羅するには足らぬ事も出よう。だからな、力を貸せ、手伝え。」
「あ、有り難き。然し、しかしながら、私は去らねば成りません。敗れし己は前王に掲げた誓いが有ります。」
「前王は、既に居ないぞ。」
「だ、だがしかし、」
「私は先代王の意思を継ぐ、と言った。故にお前の誓いは却下する。どうだ?」
他者に敗れし後に、魔戦将軍ガイロが持つ唯一のモノ。それは自身の最期であった。
先代、双竜王に立てたる誓い。
だが先程、自身が眼前となった者が大き過ぎた。
魔戦将軍ガイロは震えた。
恐怖からでは無く、自身の内から奮い立つモノ。
そして、その瞳が揺れ、涙が流れた。
戦場に置き忘れてしまっていた、感情を取り戻したかの様に。
「姫、、、」獅子と仔犬が入れ替わっちゃったよ。
シェスは知っている。
姫様はおひとりで、この国を網羅してしまう事が出来るだろう。尚も100騎の黒き騎士を駆る。それは国を越え、この世界を蹂躙する事も可能であろう。姫に敵わぬ事など無い。
「シェス、あたしを買い被るな。」
私などの拙い考えは、姫様には筒抜けだ。
「だって、ひとりであれも、これも、何でもやったら大変でしょ。」
(「姫王、、、姫様はやはり『百竜将軍』なのか。あれらの“力”は百竜将軍の片鱗を見た、と成るのか。」)
しかし『百竜将軍』とは、、、言葉でのみ知るであり、姿も実体も見てはいない。
山硬東将軍の姫に対する興味は膨らみ加速する。
(「我は、、、決まる。姫王に続こう事!許されるのであらば、我も双竜王の遺志を継がれる姫王と共に行く!」)
「どうした?」
「震るっておる、、、。」
此奴も恐怖を感じたか。
「奮う、奮う、武者震いだ!我らは新たな王を得たのだ!」
風格。姫は先代王をも越えよう、王としての風格を既にお持ちになられる。
尚も、それを自ら現した。
割れん様な喝采が上がる!
新王と成るリース姫王、この場に集う全ての者を魅了した。