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百竜王 姫王リースが行く  作者: 田松 久佳
4/13

宣誓 サパスァ

 四大将軍が王宮にて顔を揃えた。

 稀な時間。この様な機会が訪れたのは何年振りだろうか。

 確か10の年の前、双竜王が病に倒れ、一度目の床に着いた時以来であろう。


「新王であられます。」

 神官大臣ルールヤ。王の側近の一人であり、国内の政を一手に担う者。

 その信頼は王からも国民からも、そして兵士達、四大将軍ですら置いていた。


 神官大臣は嘘を付かない。正確には嘘が付けない。

 自身が認識を持ち、偽り也嘘を発すれば、それは命に直結する。

 その様な呪いを神官大臣ルールヤは、自分自身に課せたのだ。


 城の奥に位置する宮殿の玉座の向こう、赤き扉が開かれると、新王がその姿を現す。

「姫?!」

 白き衣服を身に纏い、美しく可憐な姿。人間の付き人をひとり従えている。

 、、、可憐。その姿を見た四大将軍は、同時に不安を抱く。


(「新王、我が王のご子息は姫であられたのか!」)

 四大将軍の驚きは隠せない。


 『新王』として神官大臣より、この場に呼び出しを受けた姫は、躊躇う事も無く、むしろ慣れた仕草で、玉座へと着いた。

「初めまして、だな。私は父であるギュプラの遺志であり意思を継いだ。そして玉座へと着くになる。」


「四大将軍か、成る程、皆なかなかに強そうな面構えだな。」

 四大将軍の誰ひとりとして、口を開かなかった。

 いや、何か声を掛けるだけの頭の整理が着いて無い。新王に対して、挨拶のひとつも行えなかった。


「この小娘の下に着く事など、華々可笑しいだろ。だから皆よ、好きにせい。」

 四大将軍は、皆言葉を失っていた。

(「可憐。可憐ではこの戦の溢れる世界では生き残れぬ。」)

(「新王は姫王と成るのか。我が王のご子息で有る事は変わらず。それは大臣が示している。しかし、、、、」)


「さ、無駄話しも何だ、この後私は民達の前で宣言を行う晴れ舞台だ。私に取って替わるなり、国を去るにしろ、その後で良かろう。良いな。」


(「我らに選択肢を与えつつ、有無を言わさぬ物言いは、先代王と変わらずか。」)


「さあ、私のお披露目だ。今暫く付き合え。」

 姫はシェスを従え、王宮の先となる、城の正面テラスへと歩み出した。


 シェスは浮かれていた。

 美しい姫様が皆の前に姿を見せる、正しくお披露目だ!

 民の皆は驚くかも知れない、姫様は喝采を受けられるであろう。自慢の姫様だ!


(「姫が新王となるのか、、、?!」)

(「うっ!姫に続く3騎の黒き騎士!あの刻の黒き騎士となるのか?!」)

 姫に続く使用人、その後ろを3騎の黒き騎士が続く。

(「ならば姫こそは『百竜将軍』であられるのか?!」)

 山硬東将軍に生じた、迷いと不安は増す。




 ラヴィマヒナデサ城には、今日も太陽と月の描かれた紋章の旗が、そよ風とも言える気持ちの良い風に乗り、大きくたなびく。

 そして城の正面テラスに新王となる、姫が姿を現す。

 周囲に集まる民達から喝采が上がる!


 シェスは姫の後方にて、眼下の民達の喝采を聞き、誇らしかった。

 我が姫様は、素晴らしい方。そのお姿を見るなり、民達は分かったであろう。

 この喝采!シェスはまるで自分事の様に、鼻が高かった。



「我は先代王であるギュプラの一の児、ギュハラ・リースである。」

 新王の第一声。宣言であるその演説が始まる。

「此度私は王冠を継承した。」

「先代王の意志を継ぐ者と認識せよ。」


 新王の声が届く。

 それは誰も彼もが避けられない程、はっきりと届く。

 しかし、眼下に拡がる民達の顔には、歓喜する者、、、不安を抱く者、落胆する者、迷いが生じた者、、、負の感情を持った者の数が圧倒した。


「この後、我が国、我が地域より外へといくさを向ける事は無い。

 我らが版図を守るべきの争いは起ころう。

 だが、我らの国土となる地への執着をするな。

 避けよ逃げよ、命を繋げ。」


 女。今この世界を生き延びるのに将頭となるには女王では物足りぬ。

 男、女の偏見ではあるが、事実、己の肉体で戦場に立つには男に分がある。

 魔性をその身に宿そう事も肉体が物を言う。


「民の皆は自身を護るを第一にせよ。

 それをも敵わぬ時には、私が立つ。

 取られしモノは、取り返すのみ。それは私が行おう。

 私の宣誓と成る。」



「この後、外へのいくさを続けたる者は我が領土から出れば良いぞ。

 皆が今まで行って来た事に理解する。同意する。

 国を守る為、民を護る為、王のめいを守る為。

 多くが傷付き、多くが死んだ。

 それは取り返せぬ事実として、皆が知る。

 取り返せぬが、増やさぬ事は、出来まいか。」


「しからば、版図は広げず。我らは征服王とは成らず。」

「我らが目指し求むるは、死へと繋がる争いの無き世界。」


「無益な争いの無き世界。其は先代王の意思である。」



 無理だ。

 この場に集う、殆どの者に沸き起こる想い。

 今この世が求めるのは『力』だ!

 この乱世の世界を生き延びるに、女王では物足りぬ。我らが求むるは強き力を宿す者。内にも外へも強き力を示す者。

 そしてなにより我らは、この後戦の渦中に、争いを避けるに舵取りすべく、方向転換の先、守りとして立つ事になるのか。

 絵空事では無く、無理な話しだ。


 この場に集う民、兵士、四大将軍も含め、多くの者達が落胆とも、何とも表せられない感情に包まれていた。


 シェスは一気に不安に駈られる。

 先程までの響かんばかりの喝采が聞こえなくなった。

 それよりも、皆の表情が影を落としている事にここからでも分かる。

 姫様が目指す『争いの無い世界』。皆んなだってそうじゃないのか?誰も好んで傷付いたり、傷付けたりはしたくは無いはずじゃないのか?

 姫様とそんな世界を作るのが、我ら民の務めでは無いのか?


「先代王のご意志と言われるか!」

 ひとりの兵士が立ち上がった。

「そう成る。」

 腕っぷしには自身が有る。いや、だからこそこの乱世を潜り生きて来た。

 この後、我らはこの可憐で脆弱なる者の元にて戦となるのか。

 地域を版図を勢力を拡げる事は行わず、守りに着けと!

 戦いの方向が180度変わる、別なる意識を持ち、従来の戦のやり方を改めろと。

 何か、何故だか納得が行かぬ。

 それは、この場に集う者達の代弁者であったのやも知れぬ。


「気に要らぬであれば、今この場で私を切り欠け。そしてお前が我が国を治めよ。」

 姫様!突然に何を?!

 シェスは不安に駆られる。


 本日は、晴れて姫様のお披露目であり、それは晴れ舞台。シェスの不安は加速する。皆に姫様のお考えが伝わらない!

 どこかで期待していた。姫様は皆の目に美しく映るだろう。それは喜びを与えるに繋がると。

 しかし現実は違っていた。

 皆が求めるのは強き者。それは見た目であり、実際にも力を持つ者。

 それが王足るに位置する者なら尚更だ。一目で相手を圧倒する程の『強さ』を皆は求めていた。


 姫自身が言い表した晴れ舞台、、、割って入られた形となったが、特に気持ちを害した様子も無い。

 この状況を面白がっているかにさえ、感じる。

「それだけの気概を持つならば、受けて立とう。

 私は覚悟を持ち、この場に立つ。

 お前の覚悟を見せろ。

 しかし、それすら出来ぬならば去るが良い。」

 ひ、姫っ!何をお始めになられようとするのですか?

 

 しかし、シェスが抱えた不安など姫は露ともしない。

 姫が笑う。笑顔を見せる。

「ただな、お前では私を倒せぬがな。」

 リース姫は自身の宣誓に対し、反する意識を持った全ての者をあおる。

 それはこの場に居る、ほぼ全ての者の意識を敵に回してしまう程に。

 姫〜!


「誰ぞ、剣を持て。」

 姫様、今から切り合うかも知れませんのに、どうしてそんなに落ち着いて、穏やかで、、、。


「シェス、私の剣では無い。この者に得物を与えよ。私はコレで良い。」

 姫はシェスが腰に据える、木剣を引き抜いた。


「姫!そんなの無茶ですっ!お止め下さい!」

「シェスよ、お前にも少し私の力を見せておかないとな。そうでないと、私の言う事を聞いては貰えぬやも知れぬからな。」

 姫様には絶対服従ですよっ!この命はあなた様の物です。私の全てを捧げられますっ!


 四大将軍は、少し遠巻きにこの出来事を見ていた。

 新王と宣した姫は何を行おう。見世物気分で座に着いたままである。


 双竜王の亡き後、この国を治める者も定まらぬ。増してや周辺諸国も膨大な魔性の働きによって、その動向は霧の中とも言えよう、掴めぬ。

 先程の姫の宣言。この国に残るべきなのか、自身が覇者と成るべく立つべきか。

 今はまだ、先代王である双竜王への忠義と恩義、王より与えられし誇りも持つ。

 しかし、四者共決めかねていた。


 新王と宣言し、宣誓を行った姫の技量も力量も知らぬ、分からぬ。

 我が王、双竜王との比較となる事は避けられぬ。

 自身がその身を捧げた者、だが、その児であるのなら尚更、王と呼ぶに値するのか。


 混沌成る世界は、残酷でもあった。

 忠義や情だけでは、生きては行けぬ。

 

 ただこの場にて、山硬東将軍のみが別の思考を揺らす。

(「姫は、、、百竜将軍となるのか。」)

(「ならば、百竜将軍とは、、、どの様な力を示す?」)




うぬの得意は弓か鉄砲か?好きな得物を取るが良い。」

 姫に着く、数騎の黒き騎士より様々な武具に武器が運ばれて来た。


「お前達、何やってんだよ!相手が鉄砲でも手にしたら!」

 シェスの反論は最後までとは行かず、黒き騎士に引き摺られて、この舞台から降ろされる。


 姫と対峙と成った者は剣を選んだ。

 この兵士、最早引っ込みが着かない。

 手にした剣は、真っ直ぐに刃が走り、陽を強く反射する見事な一振りだ。


「構えよ。」

 新王である姫は、構えもしない。

 シェスから取り上げた木剣を垂らし、ユラユラと揺らしているだけであった。

 そして新王は、片目の睨みを相手に行った。

 その睨みを受けた者は、武器を手に構えつつも、その腕を伸ばせられなくなってしまった。

 身動きすらままならず、震えながらその場に両膝を着き、平伏せた。

 周囲に静寂が訪れた。

(「何があった?何が起こったのだ?」)

 それは、魔性を身に宿した者でも、何も測れぬ現象であった。


「さて、次は誰ぞ?相手を致すぞ。」



 ユラリと、大きな影が動いた。

「魔戦将軍よ、止すのだ!」

 山硬東将軍の声は届かない。

 魔戦将軍が相手となれば、見世物気分では済まされない。

 魔戦将軍を諌める者など我が王しか居ない、、。しかし、その王はすでに居らず。だが、、、


(「これは新王の技量と力量を測り知る機会に変わらず。」)

 四大将軍は不肖ながらにも、同じ想いを持った。

 

 姫は無事では済まされぬ、もしや打ち果ててしまうだろう。

 魔戦将軍の持つ力は、誰として測れない。

 友軍である事が救われる。魔戦将軍をその元に置いた、双竜王の力量の偉大さが思い返される。

 双竜王の児、可憐成る姫。しかし、可憐だけではこの世を進めぬ。この場を乗り越えてこそ、この世界と対峙と成り、我らの新王に値する。

 姫は、どう出られる?



 魔戦将軍。四大将軍には括られぬ、別成るいくさを行う者。

 身の丈は3メートル、魔性の力と引き換えに異型となった肉体を持つ。

 通常であれば、魔性の持つ力に反して肉体は変異と劣化へと向う。

 だが、魔性将軍は逆であった。

 元々持つ素であるか、魔戦将軍の肉体は、その身に纏う魔性と共に大きく育つ。


 その戦場にて相まみえる殆どは、異型の者、魔性を帯びたる者、魔獣の類。

 人間の兵士では対峙と為れぬ、特異な相手。


(「新王と申す小娘。確かに先代王、双竜王にご子息がいらした事は存じる。それが女、姫であったとは。」)


(「だがオレは、双竜王にこの身を捧げ、仕えた。いくら双竜王の児とは言え、お前は我が王では無い。オレの命を捧げるべき相手では無い!確かめよう、我が王と等しきか、否か。)」



「オレの相手を頼みたい。」

 うわっ、怪獣みたいなのが出て来ちゃった。こんなの私なら、目の前にして立ってられない!

「姫!」あれ、黒き騎士達の誰もが動こうともしない!

 シェスは姫の元へと駆け出そうと、一歩、立ち上がったが。

「お前達、姫を護るべき存在じゃないのか!」

 黒き騎士達の動きは感じられない。


 あんなに大男、姫には分が悪いよ!

 見た目で姫の4、いや5倍だ!大人と子供、、、いやいや、獅子と仔犬の対決を見せられる様だ!

「姫!」

「シェスよ、私の晴れ舞台を飾るには、良き演出となりそうだな。」

 姫様!何をおっしゃっているんです!私でも分かります!只ならぬ者ですよ!


 シェスは黒き騎士へと振り返る。

「あー!お前達、姫を護るんだ!」

 今ここに集まる数騎の黒き騎士達は、動こうともしない。

 それよりも、地面や組岩に座り、凄くリラックスしていて、何かの観劇でも見ているようだ。

「もうっ!どうなってんだよっ!」


 オレが行く!盾代わりぐらいにはなるだろう!姫に頂いた命だ!姫の為なら惜しくもない!


 シェスが踏み出そうとした瞬間、一騎の黒き騎士に掴まれてしまった。

「なっ、何するんだ!離せ!」

「お前も座るが良い、姫もそれを望んでおろう。」

「今飛び出せば、後が怖いぞ。」

 なっ、何言ってんだよ!姫っ!




 魔戦将軍は姫と対峙と成る。

(「まるで喧嘩を売った様で大人気無い。しかし、今この場は我が身の明日を左右する。」)

(「何れにせよ、我が王、双竜王の亡き後に国を離れるつもりであった。」)

(「しかし戦況により、それが2の年も経過してしまった事に、今更ながら悔やまれる。」)

(「花道、、、と成ろうか、自国での最後の行いと成ろうのか。」)

 魔戦将軍は大きく息を吸い、この場を戦場と同等の位置に押し上げた。


 戦場には油断も驕りも不要なモノ。非情さのみが許される。

 それは自身が生き残る為、引いては友軍を導く為。

 明日へと続く、道を見付ける為。



「な、何だ!?」

(「何だ、この伝わり来る“圧”は?!」)

(「オレの体が身震いする。こんな事は戦地でも経験が無い。」)

(「あの、半死となったあの戦場でも無かった事。何だ?」)

(「この小娘、双竜王の児は何を持っていると言うのだ?!」)


「おい、どうした、大きいの?」

「剣を使え剣を。槍を持て、得物を取れ。」


(「何なんだ、何が在ると言うのか!!」)


 魔性将軍に迷いが生じた。

(「眼前と成る者は何者なのだ?!」)

(「迷うな!欺かれるな!敵だ!オレの明日を左右しよう敵と成る!」)

 魔戦将軍は、改めて大きく息を吸い込む!


 魔戦将軍は、背にした大剣を取り出した。

(「腕が!震えているのか?」)

 魔戦将軍が取り出した剣は魔剣。

 魔剣。刃渡りは2mを有に越え、禍々しき魔精を纏い、見る者を圧倒する。

 自身と相手の魔精を吸い上げ、力に変える。

 その斬撃を受け、大地に立ち残った者の覚えは無い。


(「ま、魔剣が震えているだと?何だ、何なんだ、何が起ころうとしている、、、?」)


(「これは恐怖なのか!オレと魔剣が恐怖を感じているとでも言うのか?!」)

 恐怖、魔戦将軍が戦地にて置き忘れて来た感情。


(「殺られる!いや、倒れるのは向こうだっ!オレは残る、残るんだ!」)

 魔戦将軍が持つ強き意思。

 それは本能から来る恐怖を呑み込み乗り越える。


(「引けぬ、逃れぬ、して測れぬ!眼前成る者が見えぬ!」)

(「ひと振りでは決めれぬ!尚も、全てを賭けねば届きもせぬ!」)


「な、何とっ!」

 新王と宣じたリース姫と、魔戦将軍との対峙に不安と期待を抱えつつ、山硬東将軍は言葉を失った。

「魔戦将軍に魔精が取り巻く、、、」

 ”魔精“の多くは、魔性を宿す事に至った者が各種の魔性を発する時に使う、言わばエネルギーの一種。しかし、普段は目視されるには適わぬ。基本目には見えぬ。

 だが、今の魔性将軍は自身の身体より発せられる魔精が、頭上に掲げた魔剣へと昇る!

 魔性将軍と魔剣とは一体となり魔精に包まれている。

 その姿はいびつで、暗く妖しい光を放っていた。

 妖しい光に包まれた魔性将軍の姿を見た者達は、呼吸をする事すらの困難に襲われる。

 しかし、新王と魔性将軍との対峙から、誰もが目を背けられない!


 魔戦将軍は、自身を取り巻く恐怖を越えようと、全ての魔精、全ての力を込めた、正に命を掛けた一撃!


 自身を取り巻く全てを振り払うかの様に、両の腕で握りしめた魔剣である大剣を頭上より振り下ろした!

「ウオォォォォー!」

 それは、大地までも切り裂いてしまう程の斬撃であった!

「姫っー!」



「と、止まった、、、新王は、止められたのかっ?!」

 魔戦将軍の必殺の斬撃は止まった。


「新王は、あの斬撃を止めてしまわれた!」

(「新王は、あれ程の魔精を纏い、振り出された魔性将軍の斬撃を止めてしまわれた、、、新王はあれ成るを安々と越える魔性をお持ちと成るのか?どの様な技也、どの様な術也をお使いになられたのだ?!」)


 シェスは見た。

「姫っ、、、あの大男が振り下ろした、あの大剣を手の平で受けちゃったよ!?」

 この対決とも言えようか、一騎打ちと表すが適当か、極近場で見ていた者は理解出来た。

 リース姫は何も魔性を働かしてはいない。

 ただただその身で、魔性将軍の斬撃を受け止めた。


 新王と成るリース姫はその場に立ったまま、微動作もしていない!

「どうした?手加減は要らぬぞ。」


(「ドレガナ(龍)!?」)


(「姫は龍なのか?!」)


 この世に斬れぬモノが在ると聞いている。

 それは“龍”であると。

(「オレも力を付け、こんな姿になりながらも魔性を身に宿し、魔精を生み、魔剣をも手にし、魔戦将軍と呼ばれるまでになった!」)

(「しかし“龍”との対峙となった事は無い。だが、今のオレであれば例へ“龍”でも斬れると思っていたが、、、。」)


(「姫か、、、囲いも無ければ分散、弱行、盾も、弾き、結界すら何も魔性が働いておらず、、、ただ単に、正しく受け止められてしまったか。」)

(「我の全力、この先も後も無い。」)

 今の一撃、魔戦将軍は力尽きた。


(「双竜王の児では括れぬ!我が王よ、オレは負けた。オレの負けは死と直結しよう。其れは王との誓いだ。」)

(「悔しい。オレはこの先この者に続け無い。この者の背を追えぬ己が悔しい。」)

 魔戦将軍は平伏せた。自らの意志でうら若き姫の前に平伏せた。


「大きい体のお前、名を何と申す。」

「ガイロ、と申します。」

 魔戦将軍ガイロ。自身の名など双竜王に名乗った時以来、忘れていた。


「ガイロ、ひとつ頼まれてくれぬか?」

「な、何也と。」


「うん、お前の馬鹿力で、我らの民を守って欲しい。」

 、、、民を守れと、、、。


「流石に私も身ひとつだ。全てを網羅するには足らぬ事も出よう。だからな、力を貸せ、手伝え。」


「あ、有り難き。然し、しかしながら、私は去らねば成りません。敗れし己は前王に掲げた誓いが有ります。」

「前王は、既に居ないぞ。」

「だ、だがしかし、」


「私は先代王の意思を継ぐ、と言った。故にお前の誓いは却下する。どうだ?」

 他者に敗れし後に、魔戦将軍ガイロが持つ唯一のモノ。それは自身の最期であった。

 先代、双竜王に立てたる誓い。

 だが先程、自身が眼前となった者が大き過ぎた。


 魔戦将軍ガイロは震えた。

 恐怖からでは無く、自身の内から奮い立つモノ。

 そして、その瞳が揺れ、涙が流れた。

 戦場に置き忘れてしまっていた、感情を取り戻したかの様に。


「姫、、、」獅子と仔犬が入れ替わっちゃったよ。

 シェスは知っている。

 姫様はおひとりで、この国を網羅してしまう事が出来るだろう。尚も100騎の黒き騎士を駆る。それは国を越え、この世界を蹂躙する事も可能であろう。姫に敵わぬ事など無い。


「シェス、あたしを買い被るな。」

 私などの拙い考えは、姫様には筒抜けだ。


「だって、ひとりであれも、これも、何でもやったら大変でしょ。」



(「姫王、、、姫様はやはり『百竜将軍』なのか。あれらの“力”は百竜将軍の片鱗を見た、と成るのか。」)

 しかし『百竜将軍』とは、、、言葉でのみ知るであり、姿も実体も見てはいない。

 山硬東将軍の姫に対する興味は膨らみ加速する。

(「我は、、、決まる。姫王に続こう事!許されるのであらば、我も双竜王の遺志を継がれる姫王と共に行く!」)


「どうした?」

「震るっておる、、、。」

 此奴も恐怖を感じたか。

「奮う、奮う、武者震いだ!我らは新たな王を得たのだ!」


 風格。姫は先代王をも越えよう、王としての風格を既にお持ちになられる。

 尚も、それを自ら現した。


 割れん様な喝采が上がる!


 新王と成るリース姫王、この場に集う全ての者を魅了した。





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