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百竜王 姫王リースが行く  作者: 田松 久佳
13/13

湯治町ガラーマ・パニャカ・ジャラー 温泉宿ホタスパリンガ ウパカーラ

 ラヴィマヒナデサの城を出発した2台の馬車は順調に此度の旅路をこなす。


 街が近づけば立ち寄る街のニヤタラカ・プラムカハ(組織や市町村での統制者、代表者)の挨拶を受けつつも、先の町、茶屋、多くの丘や河川を越え、多くの場所を過ぎ去る。

 その中でもリース姫は、威風堂々としつつもヒト前、特に大衆の前ではわきまえる。

 シェスは思った。

(「姫様の存在感が素晴らしい。何者にも敵わぬ姿を感じさせられるは、見る者に畏敬の念を抱かせられよう。しかし実ののところ姫様がお取りになられる態度は、自由奔放とも思える姫様の照れ隠しの表れなので有ろうか?」)

 リース姫の近くで過ごす、シェスからの無礼ながらにも率直な感想でもあった。

 リース姫は自慢の姫様。そう思いつつもシェスのそんな気持ち、シェスの意識と繋がったエクナセラメタの一人は、苦笑いを返して来る。

 その後も、途中、シェスやズィシィの予定外のリース姫の寄り道が有りつつも、その旅程は順調に進んだ。


 ラダハー・ガフォーデシバリィのその窓から広がる景色に、リース姫王は目を奪わられ続ける。

 それは新たな扉を開いたが如く、新たに広がる景色。見る物が全て新鮮で、多くの問が発生する。

 ヒトが聞けば極ありふれた事、しかしズィシィは全てに対して答え、その言は深くまで対応する。


 リース姫のその姿が無邪気であり無防備に見えたとして、周囲には常に5騎のエクナセラメタが控えており、問題は無い。リース姫を脅かすモノは何も無い。


 馬車が進めば陽も落ちよう。

 太陽が傾き出せば、本日の宿泊地となる湯治町のガラーマ・パニャカ・ジャラーの町が近づく。


 湯治町ガラーマ・パニャカ・ジャラーへは、山岳部へ馬首を向け険しい参道を登る事となる。

 歩き進むにも少し急な斜面が続く場も在り、通常であらば馬車や荷車から人々は降り、引くべきポコダ(馬)と共に越えたる場もあるが、そこは戦馬車『ラダハー・ガフォーデシバリィ』に繋がれし、王の馬車を引く為に鍛えられたるガフォーダ(戦馬達)は物とのせずに突き進む。


 道は傾斜を持ち始め、山間部に向う事が知れる。

 そしてこの地に入れば、独特の香りが漂い、一種特殊な匂いに囲まれる。

 リース姫とシェスは、クンクンと鼻を鳴らしながらも、少し怪訝な顔をする。

「これは、この匂いは何でしょう?」

 シェスは経験した事がの無い匂い、そして戸惑った。リース姫は少し、しかめっ面のまま。

「シェス、この匂いはサルファラ(硫黄)である。」

 ズィシィは答える。

「サルファラ(硫黄)、ですか。」

 何か酸っぱい様な、鼻をつく様な、、、。


「シェスよ、サルファラ成れは匂いもきつく、少しの敬遠もされよう。しかしな、カーランジェ・サルファラ(硫黄泉)は殺菌力が強く、細菌や各種の原因物質を取り除く作用を持つ。機会あらばその湯に浸かる事は推奨されよう。」

 ズイシィの知識の一部が披露される。そこに強制力も嫌味も無く、その発せられる声色も合わせて、聞く誰もが素直に受け入れられる。ズィシィの言葉は続く。

「そのためカーランジェ・サルファラへの入浴では、各種の肉体的なトラブルへの効能が期待出来よう。」

 ここはリース姫王に向かっての事だろう。ただ、リース姫は疲れ知らずで怪我知らずでもある。

「さらにカーランジェ・ハヤドロジャナ サイファイダ(硫化水素泉)の場合は、硫化水素ガスにより痰が通り、心臓、冠状動脈や脳動脈、末梢毛細血管を拡張等、肉体のみに至らず、循環器系への効果も期待できよう。」

 ズィシィの説は続く。

「ただし、硫黄化合物のガス、特に二酸化硫黄は、呼吸器系に深刻な影響を及ぼすことを忘れては成りませぬ。その吸入がもたらす健康問題は多岐に渡ろう事、目の痛み、喉の刺激から始まり、重篤な場合には呼吸困難や肺の炎症を引き起こすこともある、ひとつ間違えば毒。注意怠らず。」

 ズィシィの説明にシェスと同じに聞いていたリース姫も納得が行ったのか、その表情に穏やかさを取り戻した様だ、、、鼻の頭には、少し小ジワが残っているが。



 第一日目の宿泊先となる宿屋ホタスパリンガ・ウパカーラに到着である。

 ホタスパリンガ・ウパカーラは、温泉の源泉が届く一種の湯治街にある一軒の宿場である。

 体調が優れぬ者、病を持った者、戦場にて負傷したる者、、、病や傷を癒す者達が1の周期に渡る程の滞在する場所である。いわゆる温泉療養を行い、自身の治癒への効能を求める。

 その他でも、疲れの溜まる者も訪れ、この世界では珍しい観光的な側面も持つ。


 しかし、自身に様々なる負荷を持とうが、この場への訪れるが可能な者など極わずか。

 それは所在地へ向かう道中の難と言えよう、高き土地位置に長き道順に代表される、徒歩にて向かうには遠き位置。それに加え何よりも其れよりの金銭である。

 湯治場は町からも離れ、道中も平坦では無い。

 

 山岳へ向かいし場成れば、様々な物資の運搬にも労力を必要とされ、手間賃工賃は上乗せされる。だがそれは仕方が無き事。そしてその金銭のそれは、平地での倍を示すモノであった。

 其れにも関わらず、常に多くの者にて賑わいし場所である。


 その中でも、ここ、ホタスパリンガ・ウパカーラは、多くの物が高額である高級温泉宿である。


 宿への受付に際し、シェスはガウナトゥスタリのズィシィに頼む事とした。

 ズィシィであれば、その知識と経験、何より年齢に関してもこの旅の帯同者の中では年長者であり適任であろう。

 ズィシィを先頭にリース姫王、続くはガウナトゥスタリのロリイ・イーとシーライ・マシナである。

 シェスは自身の事より先に、ガフォーダ達の世話をする事を決めていた。

「シェスよ、エクナセラメタと共にガフォーダ(馬)を労え。明日よりも彼の者達の力は要しようからな、頼むぞ。」

「はい、仰せのままに。」


 シェスはエクナセラメタと共に、ガフォーダ達の手綱を解いて回る。

「ガラダララ、本日はお疲れ様でした。見事な手綱捌きでしたが、『旅』はいかがと感じましたか?」

 エクナセラメタがどれ程に馬車を操れるのかは不明であった。

 しかし、ラダハー・ガフォーデシバリィと続く大型馬車は付かず離れず、一定の速度と間隔を保ったまま本日の道中を無事に過ごした。見る者が見れば、それは見事な手綱捌きであろうとシェスは思った。

「シェスよ、旅とはな、まだ理解には及ばぬ。」

 実際に本日のエクナセラメタ達は、休息の場では馬車が停まろうと御者の席より一歩も動かず、2台の馬車を守り続けた。


「この後、宿へと入りましたら、旅のひとつの醍醐味と成りましょう宿泊です。食事も頂き、湯へも浸かります。ゆっくりと休んで、続く明日の『旅』へと向かいます。」

(「そう、明日があるんだ。」)

 目的の有る『明日』を目指せる事が、シェスにとって何よりであった。

「ガフォーダ達、しっかり休んで明日も頼むぞ。」



 宿の軒を潜れば、リース姫王の帯同者として、シェスと5騎のエクナセラメタは案内を受ける。

 『宿屋ホタスパリンガ・ウパカーラ』は、入った瞬間に男と女が左右に分かれる。それは家族や恋人でも同じ事。何者に対してもの決まりであった。

(「しまった、これでは姫様の護りとはならず。如何とする!」)

「シェスよ案ずるな。姫の意識は我らに届こうぞ。」

 た、確かに、エクナセラメタが繋ぐ環に姫様が加われば良いのだが、それでは決して護衛とは成らず。

 シェスは落ち着けなかった。


 男と女がこの軒下にて顔を合わす事が可能な唯一の場所は食堂のみ。但し、その席も建物を中心とした左右に向かい合う形で分かれている。

 基本、宿屋ホタスパリンガ・ウパカーラの宿に入れば、その屋根の下では、男と女は接する事が禁じられるに同様である。


 シェスは受付の場にて、ガウナトゥスタリの副長ズィシィを呼び出してもらった。

 ズィシィは直ぐに現れた、まだ、旅支度のままであった。

「ズィシィ様、お呼び立て申し訳ごさいません。この宿がこうも男女とに別れると知れず、無知でありました。」

「シェスよ、詫びるでは無い。この仕組みをシェスに伝えなんだは私の落ち度であるな、許せ。」

(「ズィシィ様が私に許せなどと、畏れ多く。」)

「いえ、滅相もございません。この後の予定となりますが、」


 ズィシィは、この温泉宿をシェスに伝え、自身の来訪が適う事を喜んだ。増してや、我が王の直接成る来訪である、貸し切り状態で在るやも知れず?との期待を持ったのは言うまでも無い。

 しかし、目に入る情景は他者より聞きし景色と変わらず。

「シェスよ、多くの民達にて賑わう様であるが?」

 そう、ズィシィは『貸し切り』状態を想像し、期待もしていた。

「はい、此度は宿の者に無理を言い、何とか我らを擦り込んで頂きました次第です。」

「何故だ、我が王の来訪ぞ、人払いも辞さぬであろう。」

 『貸し切り』では無かった。ズィシィは納得が行かなき、少し憤慨した。

 それは我が王に対して軽視してはいないのか、宿側の配慮が足りないと。自身の期待感は横に置いておいた。


「はい、ズィシィ様の申す事、最もでございます。」

「成らば、尚も、」

「いえズィシィ様、リース姫王が許しません。自身の都合で他者に影響を及ぼそう事であらば、そもそも行きはせぬと。尚も国中くになかを見て周るに際し、飾られし物は違うと申され、お許し頂けませんでした。」

(「ははは、リース姫王らしい。私の考えは只の卑しく浅ましい者。」)

「あーシェスよ、実はな、我が王の来訪と成らば『貸し切り』を期待してしまった。私の拙い想いでは、最早私では姫王のお相手は務まらぬな。」

(「この道中にて、一時的は『教育係』的に周囲の情景をリース姫王に説明申し上げた。」)

(「リース姫王は驚く程に素直に私の言葉に耳を傾けて下さった。それは愛しく愛らしい姿。

 私は一時的であれ、リース姫王に対しての物事を伝えし立場に満足をした。」)

(「だが姫王は、既に成長されていた。見た目も何時かの幼き姿は現しておらず、その中身も大きく既にお育ちであられていたのだ。私こそが自惚れだ。」)


「そんな事を、、、ズィシィ様のこの場での想いはご内密に。ズィシィ様は数少なきリース姫王を留めさそう事が適う者のお一人です。」

「その様な事、畏れ多かろう。」

 リース姫の自由奔放さは、ズィシィも知る所である。


「だがな、この宿場に来れた事を私は隠し無しに喜んでいる。それは感謝だ。リース姫王に、そしてシェスにもな。」

「私もですか?」

「ああ、姫王が国中を見て周るなどと申さねば、尚もシェスが私を誘いし無ければ、私はこの場には来れず。」

「いえ、ズィシィ様の知見を当てにしましたのは私の方。私こそ浅ましく、ズィシィ様を利用したと同等となります。お許し下さい。」


「足りぬば調べ様。それが書籍からなのか、他者からなのかは同じであろう。故にシェスが私に取った行為に負いは無い。ただな、」

「はい。」

「自身が得た情報の正確さを吟味するは自身ぞ。何事も鵜呑みにするは、浅はかであろう。」

「ごもっともです。しかし、信頼ある者より得た情報は信頼に値します。」

「シェスは私を信じると申すか。」

「ズィシィ様と私は接する機会も少なく、過ごしたる期間も短いですが、僭越ながら信頼出来る者との認識を得ています。」

「そうか、でも私からは何も出ぬぞ。」

「はい、それが信頼です。自身が信を置く者より、そもそも見返りなど何も求めません。」


(「この者は、どう育って来た、何を教わってきたのだ。」)

 ズィシィの中で、シェスに対する見方が変わった。

 シェスはそもそも、何時しかリース姫王が連れて来られし、近きに置く者。その目的も役割も知らず。姫王の剣持ちか、単なる雑用要員であろうかとの思いであった。我らが王の気まぐれであろうと。

 しかしリース姫王の周りにはエクナセラメタ達が居る。それ故、ますますシェスの存在に疑問を持っていた。

 ズィシィは、リース姫王が近くに置かれるシェスの存在を不思議に感じていたが、この様な思考を持つ者をリース姫王のお側に置かれる事も有り要だと思うに至った。

(「此の者は、グリャバ様のご配慮か?シェスは忠実である。人間として忠実である。」)


「ズィシィ様、この後の予定と明日の事につきまして、」

 シェスとズィシィの打ち合わせは続く。





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