28 嫌みを言う令嬢から逃げられても、親からは逃げられない
ーーその後。
ラビーは両親には会う事なく、寮に帰って行った。
ラビーも家に帰れば、卒業後のアレコレや、婚約や結婚の話となるのは目に見えているので、ウンザリしているのかもしれない。
ならば、今は自由にしてあげようと、フィーナは思う。
家への帰路が憂鬱だなと思いつつ、夕方近くに家に着けば、母がエントランスまでやって来た。
「フィーナ、お父様から訊いたわよ? 自分で探すはイイけど、あの侯爵様とはどうなってるの?」
フィーナが爵位を継がない話と、結婚相手を自分で探す事は訊いたらしい。
ラビーと両親の事を話していたのに、また母からその嫌な部分が垣間見えて胃が痛くなってきた。
母的には、ルーフィスや探しているだろう結婚相手が気になって仕方ないのだろうが、その話題が嫌いなフィーナには苦痛でしかない。
「しがない地方伯爵令嬢と、王家と交流がある次期侯爵様がどうかなるとでも?」
「そんな事、分からないじゃない!」
事実交流があるのだから、分からないはあながち間違いではない。
だが、母はどの程度の交流か知らないのだから、楽観的なだけだろう。
そもそも、ルーフィスはただでさえ身分が高い方なのに、王家と繋がりが深い。普通に考えたら畏れ多くて関わりたくないのが、心情である。
もし、万が一にでも機嫌を損ねたら、我が伯爵家は終わりだ。
気軽に声をかけていい人物でもないのに、どうこうしたいと考えている母は豪胆か、考えなしかのどちらかである。
「ところでお母様、その服、新調したの?」
もう無視一択だとフィーナは決め、話題を母の好きな服に変えた。
「あら、分かる? これ、王都で流行りのワンピースなんですって!」
そう言ってスカートを広げて見せる母に、フィーナは愛想笑いを浮かべた。
歩いても農民にしかほぼ会わないのだから、その服の見せ場はない。
あったとしても、社交と言う名のお茶会しかないのだから、ただの自慢話で大した利益は生まないだろう。
ましてや、そんな高い服を普段着る為だけに買うのは、やめて欲しかった。
「この間買ったワンピースは?」
見て見てとフィーナに見せびらかす母に、フィーナは冷たかった。
先月も似た様なワンピースを、母は買っていたなとフィーナは思い出したのだ。
「やだ。アレはもう、寄付したわよ」
「せめて、古着屋に売って下さい」
考えなしの発言に、フィーナは敬語で言いたくなるくらいに、呆れてしまった。
もう少し家の経済的負担を考えて欲しい。うちは農業中心の田舎伯爵なのだ。天候に左右される事業の為、収益は安定していない。
たとえ、今年が豊作でかなりの黒字でも、万が一の場合も考え蓄えておかないとならないのだ。
安定した収入があったとしても、毎回そんな新調して欲しくないのに、母は気に入ればすぐ買い、気に入らなくなればすぐに寄付する。
寄付ではこちらにお金が入って来ないのだから、処分しているのと変わらず、ただの散財だ。
なんか毎回こんな事を言っている気がするなと、フィーナはふと思う。
「伯爵夫人が、古着屋になんて服を持って行けないでしょう!?」
先程までご機嫌だった母は、フィーナに咎められ怒り心頭である。
そんな母に、フィーナはため息を吐く。
貴族とて表立って知られていないだけで、状態のイイ服はドレス同様、リユースショップに売っている。恥ずかしいなら、本人でなく侍女を使えばイイ。
だが、母は寄付したイイ事をしたという達成感と、ちょっとした優越感を得たいのだろう。
「お母様、お金は無限に湧かないんですよ?」
ついフィーナが嫌味を言えば、母の眉間に皺が入る。
「嫌味な子ね。だからーー」
婚約者に捨てられるのだと、続けるつもりだったのかもしれない。
だが、さすがにそれは言い過ぎだと判断出来たのか、慌てて口を噤み、「用があったのを忘れてたわ」とそそくさと去って行った。
「はぁ」
フィーナは再びため息を吐いた。
蔑ろにされているのも辛いだろうが、価値観の合わない人と暮らしているのも、存外疲れるものだ。
フィーナがこうだああだと言っても、母は自分の信念を曲げない。
父も自分に従えば、家族は幸せになると考え、それを信じている。
いつも意見は至って平行線で、決して交わる事はない。
やはり、両親とはとことん合わないなと感じたフィーナ。
今度の夜会を最後に、どこかの修道院に入ろうかと真剣に考えていた。
働きに出るだけでは、世間体がなんだと両親が出しゃばりそうだ。
規律の厳しい修道院で働くなら、両親も手出しは出来ないし、世間に何か言われても「娘は神の使いとなりました」と言い訳が出来るだろう。
このままラビーがアリアナと結婚するなら、出て行くフィーナには執着する事もなさそうだ。
それは楽天的かなと考えつつ、フィーナは自室へと向かうのであった。




