25 心に決めた未来
ルーフィスがくれた小箱に入っていたのは、リリークの花がモチーフの小さな髪飾り。
銀細工で出来た花びらと葉の一ヶ所が、光に翳すとキラキラと輝いている。あのルーフィスがくれる物が、ガラスという事はないだろうから、それぞれ宝石に違いない。
花の部分はオレンジ色、葉の部分は淡いグリーンの色の宝石。
しかし、一見で分かる程、フィーナはあまり宝石に詳しくない。だからといって、鑑定してもらうのは色々な意味で失礼な気がする。
機会があったら、本人に訊いてみようとフィーナは思う。
後に知った事だが、オレンジは"ダイアモンド"、グリーンは"ペリドット"であった。
オレンジ色のダイアモンドは"不安"を取り除き、ペリドットには"嫉みや嫉妬"から護ってくれるという逸話があるそうだ。
ルーフィスはきっとフィーナを想って、この宝石を選んでくれたのだろう。
フィーナはドレッサーの鏡の前で、その髪飾りを付けて見る。
主張し過ぎない大きさの可愛らしい髪飾りは、顔を右へ左へと角度を変えると、銀細工や宝石がキラキラと光ってもの凄く綺麗だった。
身に付けただけで、側にルーフィスがいる様な、ドキドキ感と安心感があるから不思議だ。
「ルーフィス様と会う時に付けよう」
普段使いに出来る品だが、失くしたら悲しい。
小箱は小物入れにして、髪飾りは鍵付きの引き出しに、大事に大事にしまって置こうと心に留めた。
ベルベットのリボンは、髪を結ぶリボンとして使おうかなと手にした時ーー
はたとフィーナは考えた。
ルーフィスにお返しをしたいなと。
宝石が付いたカウスボタンやピンでもイイが、目利き力があるルーフィスに宝石で返すのは、チャレンジャーな気しかしない。
そこでフィーナが考えたのは、このリボンだ。
ルーフィスは少し長い後ろ髪を、麻紐やリボンで結んでいる事がある。なら、このベルベットのリボンに、刺繍を施してあげたらどうだろうか?
お世辞でなければ、ハンカチーフの刺繍の反応は良かった。
夜会などで使うのではなく、普段使いにしてくれたら嬉しい。
フィーナはそう思い、棚から裁縫道具と刺繍糸をあさる。ベルベットのリボンは落ち着いた緑色。
ルーフィスの髪は輝く様な金色だから、きっと映えるだろう。
刺繍糸は高級感ある金か銀。金色だとルーフィスの髪色に負けて、リボンが霞んでしまうだろう。ここは敢えて銀色にして、ルーフィスの髪を引き立ててはどうだろうか?
フィーナはルーフィスに想いを馳せて、刺繍糸を選んだりモチーフを考える。
この時間さえも、フィーナは楽しくて愛おしい。
フィーナは悩んだ末に、リボンの両端に刺繍を施す事にした。リリークの花部分を金糸で、葉など他の部分は銀糸にして、派手過ぎない程度に華やかにしたのである。
ーーメッセージを添えて、リボンを送ったその日。
フィーナは寮生活をしている弟ラビーと連絡を取り、とあるレストランに来ていた。
近隣の学園に通っているのなら、セネット伯爵家の領地に呼ぶのだが、ラビーが通う学園はかなり離れている。
だからといって、学園や寮に押し掛けるのは、ラビーには迷惑になる。と言う事で間を取り、レストランの個室を予約したという訳だった。
フィーナと5歳離れている弟ラビーは、幼い頃からかなりしっかりしている。
都会や田舎など関係なく、周りの子供達は親に言われるまま、ただ何となく学園に通っている者が多い。
だが、ラビーは既に将来を見据えて、自ら郊外の学園を選んで入ったのであった。
爵位を継ぐにしろ継がないにしろ、農業中心の伯爵家なら、学んでおいて困る事はないのだ。
伯爵となればその知識を生かせるし、継がなくとも食い扶持は困らないと考えたらしい。
我が弟ながらしっかりしていて、自分より伯爵に向いているとフィーナは常々思う。
その弟ラビーと会うのは久々である。
「久しぶり!」
農業科なので、自ら農地を耕す事もあるのだろう。
今年、高等部に進級する予定だったラビーは、以前会った時よりも肌が焼け逞しくなっていた。背もフィーナよりずっと大きくなっている。
「ごめんね。忙しいのに呼び出したりして」
自分よりも遥かにやる事が多いだろうラビーを、わざわざ呼び付けた事を謝罪すれば、ラビーは首を傾げていた。
「姉さん、少し痩せた? あれ? 縮んだ?」
「ラビーが成長したのよ!」
老いならともかくとして、若いフィーナが縮む訳がない。
フィーナは困った表情をしつつ、いつも通りのラビーの軽口に笑った。
「あの能天気のせいで、やつれたのかと思った」
「せめて、楽天的と言ってあげて」
「どっちもどっちだと思うけど?」
互いに席に着きながらそう言って、2人は笑い合っていた。
陰口の対象はもちろん親である。
後先考えない性格の両親に、2人は翻弄されてきたからこその言葉だった。




