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二度もフラれたけれど、今は次期侯爵さまに溺愛されて幸せです  作者: 神山 りお


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24/31

24 そこは""でしょうがーーーー!!!!



 ーー夜会のその後の顛末。



 流石に揉めるのを嫌う両親も、子爵家へ抗議を入れれば、後日ドレスの弁償代を含めた迷惑料が、セネット家に支払われる事に……。

 しかし、一括ではなく分割払いになったらしい。

 矜持の高いジーナが、新作のドレスを着て来ない時点でお察しである。



「トーマ子爵は、夫人とは近々離婚されるみたいだね」

 あの夜会から数日経った頃、そう言ったのはルーフィスである。

 サリーからお茶会に招待されたフィーナは、今ハウルベック侯爵家のガゼボでのんびりと紅茶を飲んでいた。

 だが、お茶会と称したガゼボには、フィーナとルーフィスの2人だけ。フィーナ母の余計な詮索を配慮し、サリー経由で誘いがあったのだ。



 サリーからでも大変なのに、ルーフィス個人からとなれば、母がどう捉えるかなんて言うまでもない。

 フィーナにちょっとでも親しい男の影がチラつけば、結婚相手に考えているのかと、結び付けるから困りものである。



 だが、フィーナ母の勘違いもあながち間違いではないと思うのは、控えていた侍女達である。

 庭園近くにある広いガゼボには、侍女が数名いるものの、フィーナとルーフィスのみ。

 サリーに言わせたら、これはお茶会ではなく、ただの恋人同士の語らいである。遠巻きで見ている侍女達も、皆そう思っていた。

 何故かその意識がないのは、この2人だけである。



「この間の夜会の件で?」

「いや、決定打になっただけで、前々から考えていたらしい」

 そんな生温かい目を向けられいるとは、まったく知らない2人。

 侍女の淹れてくれた紅茶を飲んだり、お菓子を食べたりと楽しい時を過ごしていた。

「では、ジーナ様は……」

「今は平民になるか否かの、瀬戸際じゃないかな」

 ジーナには年の近い弟がいる。

 ジーナを他家へ嫁がせたのだから、ジーナに爵位を継がせる気はないのだろう。政略か恋愛かは知らないが、女を軽んじている生家に出戻りになるなら、ジーナの扱いは酷くなりそうだ。

 可哀想とは思うけれど、自業自得である。



 結婚しているのに、他の男に色目を使うだけでなく、夫以外の男に纏わりつく女に嫉妬したジーナ。

 嫉妬したところで、ルーフィスが自分に振り向く訳ではないが、それ程までに彼の事が好きだったのだろうか?

 マックと婚約していた時はどうだったかなと、フィーナは過去へと思いを馳せていた。

 自分は彼の周りにいた女性達に、嫉妬をしていたのかなと。


 

「トーマ夫人の事はキミのせいじゃないよ?」

「え?」

「遅かれ早かれだった話で」

 別にジーナの事を考えていた訳ではない。

 だが、フィーナがぼんやりしていた為、ジーナの事を心配していると勘違いした様だった。

「あ、いえ、はい」

 まさか、元婚約者の事を考えていました……なんて言えない。

 ルーフィスが目の前にいるのに、他の男の事を考えていたとは、失礼過ぎる。



 フィーナは慌てて思考を戻すと、テーブルの上に小さな箱が置いてあった。

 手のひらサイズの上品な箱で、ベルベットの可愛いリボンが掛かっている。



「気に入ってくれるといいんだけど」

 そう言ってルーフィスが、フィーナの方へ小箱を差し出した。

「え?」

「本当はドレスを贈りたかったのだけど、キミの重荷になっては意味がないからね」

 ガルシア伯爵家の夜会で、ジーナにドレスを汚された事を言っているのだろう。

 以前、サリーからのお茶会の誘いがあった時、母がもの凄い反応をしたのだ。それが、ルーフィスからドレスなんか贈られた日には、"結婚"の二文字がチラ付いて、フィーナとて対処が大変になりそうで怖い。



「お気持ちだけで充分ですわ。ドレスを汚したのはジーナ様ですもの」

 フィーナはその小箱を、申し訳なさそうにルーフィスの前に戻した。

 張本人が謝罪1つしないのに、何も悪くないルーフィスが代償を払う必要など、どこにもない。

 ルーフィスに群がる女性達なら、嬉々として受け取るだろうが、フィーナは受け取る理由がなければ、過剰なプレゼントは貰いたくなかった。



 そんなフィーナの心情を察してか、ルーフィスは優しい口調で話を続ける。

「でも私としてはね。キミとの思い出までもが、穢された気分なんだよ」

「え?」

「夫人が着ていたあのドレス。私と初めて会った時に、フィーナが着ていたドレスだよね?」

「……っ!」

 確証はないが、確かにあの夜会でジーナが着ていたドレスは、ルーフィスと初めて会った時に、フィーナが着ていたドレスに酷似していた。

 ルーフィスはジーナを見かけた時に、アレ? と気付いたのだ。



 実際持っていた本人だけではなく、ルーフィスが気付いていた事に、フィーナは驚愕する。フィーナとて、あんな出来事があったからこそ、ドレスの色やデザインを覚えていたのだ。

 でなければ、記録していても記憶には残っていなかっただろう。



 だが、ルーフィスはフィーナがあのドレスを見たせいで、フラッシュバックを起こしていないか心配した様だった。

 でも、フィーナの記憶は絡んで来たあの子爵ではなく、ルーフィスが助けてくれた嬉しい記憶で、即刻上書きされている。

 ルーフィスが心を痛める必要などなかった。



「ただでさえ辛い過去なのに、あの夫人のせいで……」

「ルーフィス様」

 小箱を返そうとしていたフィーナの右手に、ルーフィスの右手が重なった。

「あの時の私の記憶は、既にルーフィス様との素敵な出会いとして、上書きされていますわ」

 そのルーフィスの右手に、フィーナの左手が重なる。

 あの時、子爵が絡んで来なければ、きっとルーフィスと出逢えなかった。もしどこかで出逢っていたとしても、数多の令嬢達の1人で終わっていただろう。




 子爵に絡まれたのは、ルーフィスに出逢う為の軌跡。

 フィーナの"運命"に必要な要素だったのだ。




「フィーナ」

 と囁く様な甘い甘い声で、ルーフィスが見つめーー

「はい」

 とフィーナがふわりと微笑んだ。

「なら、今回も私で上書きさせてくれないか?」

 ルーフィスの左手が、フィーナの左手に自然と重なった。

 ルーフィスの大きくて温かい手が、フィーナの心ごと温める様に……。



「上書きは物でなくとも出来ますよ?」

 ルーフィスのエメラルドの様な瞳に、フィーナが上目遣いで見つめ返すと、ルーフィスは蕩ける様な笑顔を向ける。

「そうだね。私の可愛い小鳥」

 さらに極上に甘い声で囁くと、身を乗り出しフィーナの額にコツンと、自分の額を充てた。

 息が触れるくらいの……もどかしい距離感。

 そして、どちらかともなく目を閉じれば、互いの唇は触れていなくとも、まるでそこにある様な温かさを感じる。

 数秒もないこの時間が、2人の間で止まって見えた。



「上書きは出来たかな?」

 とルーフィスの声がフィーナの唇に掠めればーー

「出来ましたわ」とフィーナの声もルーフィスの唇を掠めた。

 キスよりも甘い、その時間がとてつもなく愛おしい。

 2人は自然に目が合うと、クスクスと笑い合うのであった。





 * * *





 『『『いやいやいや、そこは"キス"でしょうがーーーーっ!!!!』』』

 節度を守り過ぎる2人に、侯爵家が震えたのは……言うまでもない。







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― 新着の感想 ―
激甘回にニヤニヤ
貴族女性の夜会用ドレス···ユニクロ、しまむら派の私から想像もつかないお値段だろうなぁ。 それ込の迷惑料なんて一体おいくら?! チョイと傾きかけた家にこれは痛い。 おまけに迷惑料払ったという事は自分…
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