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18 苦手な夜会と、思わぬ再会



 父にそう宣言したフィーナは、即刻修道院に入るべきか、お金を稼ぐ手段を探し、平民として生きるべきか真剣に考え始めていた。

 誰もが皆、世間体を気にする。それが貴族なら尚の事。

 娘がいつまでも結婚しないのは、父も母もヨシとしないだろう。

 いくら弟のサポート役に徹する事を決めたところで、結婚が女の幸せと豪語する母は納得などする訳はないし、何か言ってくるのは目に見えている。



 なにより、いつか結婚する弟に影響が出そうだ。

 ただでさえ姑の存在を喜ぶ嫁など少ないのに、小姑付きだなんて最悪だろう。フィーナは自分だったらと考え、伯爵家を出る事にしたのだ。

 ただ、それが誰かの家に嫁ぐという理由でないだけ。

 


「頑張ってくるのよ!」

 やっと結婚相手を、探す気になったのかと喜ぶ母に背中を押され、今夜も出席したくない夜会に出向いていた。



 ガルシア伯爵家は、我がセネット家と同じ爵位であるものの、王宮に勤めているらしく、領地は持っていない。

 最近、叙爵されたばかりの伯爵らしく、驚く事にまだ22歳である。

 叙爵自体も珍しいが、爵位が下位でない事は異例中の異例だろう。それ故に、フィーナも風の噂では聞いた事があったが、授かった経緯までは詳しく知らない。

 そんなガルシア伯爵から、夜会の招待状が届いたのには驚いたが、逆に知る機会だと興味が勝り出席したのである。



 だが、その夜会で、会っても嬉しくない者に会う事になった。

「やだ、フィーナ様じゃない」

 フィーナを見つけ、声を掛けて来たこの令嬢がそうだ。

 名前はあえて言わないが、同級生だった人。

 風の噂では子爵家に嫁いだそうだが、結婚してからも変わらずこの調子だ。フィーナとは同級生であっただけで、決して仲の良い友人ではない。

 ましてや、仮にも"次期伯爵"になるかもしれないフィーナに、学園生活そのままの感じで話し掛けて来るのだから、呆れてものが言えなかった。



「貴女、婚約破棄されたんですってね!!」

「やだぁ、可哀想ぉ」

 わざわざ声を張り上げ、言って来たのが同級生。

 その友人Aが同じく、キャハと小馬鹿にした様子で、フィーナを嘲笑している。まだ独身で婚約者すらいないフィーナに、マウントを取って楽しんでいるのだろう。

 その婚約は"破棄"ではなく"白紙"だし、最近ではなく何年も前の話。なのに、どこからともなく噂を訊いては、誰かしらがこうやって絡んで来るから面倒である。

 毎回の様に穿り返して世間に広げたいのだろうが、同時に自分達の品格を下げている事に気付いているのだろうか?



 こういう人達のせいで、婚約の白紙は破棄となって、面白可笑しく広がるばかりである。結果、いつまで経っても風化しないのだ。



 しかし、この原因の一端には両親も含まれていると、フィーナは考えていた。

 何故なら、事情を両親に言ったところで、相手に抗議する気配はない。それどころか"フィーナが結婚したら収まるから"と、放置するのだから有り得ない。



 おかげで、抗議をしない=言ってイイのだと勘違いし、ドンドン湾曲した噂が広まるばかり。いくら両親が揉め事が嫌いな人間だとしても、娘が可愛いのなら少しぐらいは抗議するのが、親というものではないだろうか。

 その内に収まると暢気にしている両親には、フィーナですらたまに殺意を覚える。恥を掻いて辛い思いをしているのは、郊外にいる両親ではなくフィーナなのだから。



 いっそ、この人達を扱き下ろす為だけに、爵位を継いでやろうとさえ考えてしまう事すらあった。

 だが、今は両親の事より、非常識な令嬢をどうするか……である。無視したところで、粘着質に絡まれるだけだ。

 どうしたものかなと、彼女のドレスに視線を落とせば、どこか見覚えのあるドレスだった。

 淡いオレンジ色のふわりとしたドレスで、胸元にあった花のコサージュがリボンに変わっているけれど……以前、フィーナが子爵に絡まれた時に着ていた、あのドレスに酷似して見えた。



「なんなの? ジロジロと! 失礼じゃない!?」

「彼女、独り身だから、ジーナが羨ましいのよ」

 フィーナがそのドレスに気に取られていたら、言い返せないと勘違いしたジーナと友人Aが、さらに嫌味ったらしく笑った。



 これは少しくらい言い返した方がイイのかな?

 そう思ったフィーナの横から、可愛らしい声が聞こえた。

「あら、やだ。こんな所に、人を貶す事でしか喜びを感じない、ゴリラがいるわ。しかも2頭も!」

「「はぁぁっ!?」」

「えぇっ!? 知らないのかしら……マウンティングするのは、ゴリラだけよ?」

「「な、なんですって!?」」

「あ、ごめんなさい? 犬もするわね」

 コロコロと笑いながら毒舌をかましたのは、ルーフィスの再従妹サリーだった。

 淡いピンク色のヒラヒラしたドレスが、より一層彼女の可愛らしさを引き立てている。その可愛らしい子が言うと嫌みが倍増するから、フィーナは思わず見惚れていた。



「失礼じゃない、あなた!?」

「どこの子なのよ!?」

 サリーに横槍した形で揶揄われ、ジーナ達は青筋を立てていたが、当のサリーは微笑みを浮かべて、余裕がある。

 さすが、あのルーフィスの再従妹と言うべきか。あの言葉選びや比喩表現も何となしに似ている。

 フィーナが思わず感心していれば、当人フィーナを無視して、ヒートアップしているではないか。



 しかも、この騒ぎに段々と視線が集まっていた。自分はともかくとして、サリーを巻き込む訳にはいかない。

 そう思ったフィーナが、サリーの前に入ろうとした時ーー




 ーー美声が聞こえた。




「随分と賑やかですね?」と。









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― 新着の感想 ―
呑気なんて生やさしいものじゃないだろ! フィーナ親!! なんとかなるさァでほっといて、自分の家の評判も落としてるということがわからないなんて、貴族失格。 ド田舎にこもって知らぬ存ぜぬで、一生過ごしてろ…
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