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14 カーリーの婚約 (中編)



 どんな仕事を? という疑問を投げかける前に、ルーフィスが話を続けた。

「服飾関係の仕事をしている人だよ」

「服飾!!」

 ビルの話を聞いた時より、遥かに瞳をキラキラさせたカーリー。

 百歩譲って、その彼と合わなくても、好きな仕事が出来るかもしれないと、希望の光を見出した。



「今はまだ、商家としての規模は小さいけど……侯爵家うちが投資しているからーー」

「ルー兄様が関わっているの!?」

「さすがに関わってはないよ、サリー。関わっているのは母で、私は相談を受ける程度だよ」

「従伯母様が!?」

 ルーフィスの母が、長年色々な店でドレスを仕立てる際に目を付けたのが、今話題に上がっている商家である。

 テーラー商家は、裁縫の腕は良いのだが経営に疎く、いつもカツカツで危うい店だった。

 たまたま居合わせたルーフィス母が、察して相談に乗ったそうである。



 母は腕の良い職人が路頭に迷うのは惜しいと、夫の侯爵にどうにかならないかと話を持ち掛け、ルーフィスを含めた家族会議を開いた後、融資を決めた商家だった。

 そのテーラー家は、苦手な経営関係を一旦ハウルベック家に任せた事で、仕事に集中出来る様になり、事業は驚くくらいにV字回復。今や忙しい毎日を楽しんでいるそうだ。



 ちなみに、カーリーにロムタガ語が話せるかと訊いたのは、生地などの素材や備品を隣国から仕入れる事も多いからである。

 


「で、これから紹介しようとしているジェシー殿は、そこの長子でね。ちょっと口下手な所はあるけど、凄く真面目で好青年だと思う。合わなければ、全然断って構わないし……良かったら、一度会ってみないかな?」

「……っ!」

「まぁ、残念ながら商家に嫁げば、平民になってしまう。だけど、相手に爵位がないって事は、逆にサマセット男爵の了承を得られやすい。なにせ、サマセット男爵は長子であるカーリー嬢を、弟より格下に嫁がせたがっているんでしょう? それが、叶うんだから、彼も願ったり叶ったりじゃないのかな」

「あ!」

 貴族でも下位に位置し、平民に近い男爵。それより格下の相手など、平民以外にそうそうない。

 あったとしても、ビルみたいな準男爵家だ。

 すべての準男爵が悪い訳ではないが、父の選んだ相手なのだから、考えるまでもない。

 でも、今勧められているジェシーは?



「身分が平民になったからって、侯爵家はサリーとの付き合いにとやかく言わないよ。それに、ウチが関わっている以上、テーラー家が路頭に迷う事はないしね」

 カーリーが悩んでいると、ルーフィスが不安要素を払拭してくれる言葉を掛けてくれた。

 いくら父が娘に興味がなくとも、貴族として産まれ育ったし、最低限の生活はさせてもらえたのだ。

 平民の生活レベルは分からないが、父より信頼出来るルーフィスが、選んでくれた相手。



 しかも、聞けば割と裕福な方だという。

 そして、何より、仲の良いサリー達との付き合いが制限されないのは、素直に凄く嬉しい。



 心配事が徐々に消え去り、カーリーの未来に小さな希望が視えた。

 悩むまでもないが、すぐ喰らいつくのも恥ずかしく、一応は考える素振りを見せているカーリー。

 サリーやマーガレットが会ってみれば? と言われて、満更でもなさそうな表情をしている。



 喜ぶサリー達と、それを見て微笑むルーフィス。側から見れば、微笑ましい光景だ。しかし、何だかフィーナは素直に喜べない。

 "テーラー家が何かしない限りはね?"と言っているみたいに感じたからだ。



 気のせいかなと思い、ルーフィスから目を逸らしたが遅く、パチリと目が合う。

 その瞬間、内緒とばかりに鼻に人差し指を充てるのだから、フィーナの感じた事は気のせいではなかった。

 ルーフィスの穏やかで優しい雰囲気に、つい騙されそうになるが、彼はただの優男ではない。紛れもなく"侯爵家の息子"なのである。

 何かあれば、次期侯爵の顔を見せるだろう。



 たとえば、今後テーラー家が、勝手に手広く事業を始めるとか、ハウルベック家の"望まない"やり方をし始めたりしたら?

 フィーナはチラッとそんな事を考え、すぐに頭を振った。

 そんな事、分かりきっている。

 王家に信頼の厚いハウルベック家を敵に回したら、この国で生きて行ける訳がない。つまり、終わりだ。



 そんな侯爵家と関わるのが良いのか悪いのか、フィーナは内心小さく唸っていた。

 懐に入ればメリットは大きいだろうが、何かあった時のデメリットの方が大き過ぎる。

 こちらが何もしていなくとも、知らぬ間に侯爵家に不利益を与える様なモノに巻き込まれていたら、どうなるのかさえ分からない。



 侯爵家に関わらなければ、敵にはならないと思うが……そう考える時期は既に過ぎている。

 何故なら、隣で優しく微笑む彼がいるのだから……。



「ん?」

 視線を向けるフィーナに、ルーフィスは何だいと首を傾げる。

「ルーフィス様は侯爵家の息子なんだなと、改めて感じました」

 彼が優しいからと気を緩ませるのではなく、気を引き締めて対応しなければと、フィーナは改めて姿勢を正す。

「キミは真面目だね」

 キリリとしたフィーナの表情を見て、言葉の意味を察したルーフィスは、ため息混じりに笑っていた。

 ここで、怯えたりも甘えたりせず、しっかり今の自分の立場を見つめ直すところが、実にフィーナらしい。

 そんなフィーナの横顔を、ルーフィスは優しく、そして温かい目で見ていたのであった。





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― 新着の感想 ―
カーリーの事を純粋に心配しているサリーが尊い! と思う程、ルー兄様の腹黒度がマシマシで。 ルーフィスさん、フィーナちゃんにイイトコ見せたいという思いが一番なのではないかと。 なんだかんだいって、遠回…
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