11 素敵なお邪魔虫?
自分の為にドレスアップしているのに、何をどう勘違いするのか、俺の為だろうと口にする者が現れるそうだ。
平民が着る様なちょっと脚が見える服を着ただけで、すぐ誘っただのと言われたりと、嫌な思いをした事があるらしい。
「そういう服を着るお前が悪い?」
「「「そうなの!!」」」
フィーナがなんとなく男の言い分を口にしてみれば、そうそうとサリー達は大きく頷いていた。
確かにそうやって誘う女もいるだろうが、一緒にされたくないとサリー達は文句を続ける。
フィーナに同調され、嬉しくなったサリー達がさらにヒートアップしていると、彼女達の背後から声が落ちて来た。
「まぁ、人は誰しも、自分都合で物事を考えるからね」と。
「ルー兄様!?」
「「きゃあ!」」
サリー達は思わず目を丸くし、声を上げていた。
フィーナは会話の途中、チラッとルーフィスが見えたので、驚かなかったけれど。
「女子会なのよ!?」
サリーは抗議の声を上げたが、友人達は驚きはしたものの、すぐに嬉しそうに頬を赤らめていた。
サリーの友人というのは確かだろうけど、やはりそこは年頃の女性だ。ちょっとくらいルーフィスに逢えたらと、思っていたのかもしれない。
「怖いね、サリー。そんな顔を見たら、百年の恋も冷めてしまうよ?」
サリーの剣幕に、ルーフィスはわざとらしく戯けた様子で、両手を上げた。
「〜っ!」
そんなルーフィスに何か一言でも言い返したいところだが、咄嗟に反論の言葉が浮かばない。
結果、サリーはプクリと頬を膨らませた。
サリーの友人達は、しばらくルーフィスに見惚れていたが、すぐにソワソワした様子で胸や脚を気にしだしている。
好きなドレスだとしても、胸元や脚が出ているので、ルーフィスの視線が気になるらしい。
「だ、大体ルー兄様、い、いやらしい目で見ないでくれる!? 私の友人達が怯えているでしょう!?」
ルーフィスは決して、いやらしい目で見ていた訳ではないし、サリーの友人達も恥ずかしがっているが怯えてなどいない。
だが、ルーフィスに揶揄われ、何か言い返したいと思ったらしく、サリーは半ば言い掛かりの様な言葉を発した。
「見たつもりはないのだけど……まぁ、ちょっと目のやり場には困るかな?」
「いやら〜し〜い〜ぃぃ」
揶揄われた事と恥ずかしさも相まって、サリーはわざとらしく嫌そうな顔を見せていた。
そんなはとこに「う〜ん、困ったなぁ」と言いつつ、チラッとフィーナを見た。
「でも、魅力的な女性がいたら、つい見てしまうのは男の悲しい性だからね」
「「まぁ!!」」
と嬉しそうな声を上げたのは、サリーの友人マーガレットとカーリーだ。
ルーフィスの視線は恥ずかしいが、いやらしさを感じない。むしろ、ドキドキするから困るだけ。リップサービスだとしても"魅力的"と言われ、頬が赤く染まる。
「マーガレット、カーリー、ルー兄様に騙されないで!」
意外に絆されないフィーナはともかくとして、いとも簡単にルーフィスに絆された友人達に、サリーはますます頬を膨らませた。
所詮、友人達もルーフィスに会えば、彼の虜である。
「でも、サリー。いやらしいかいやらしくないかは別として、チラッと視線が動くのは許容してくれないかな?」
「ダメ!!」
同じ女性とて、胸元が大きく開いた服を着た女性がいれば見てしまう。ならば、男性は言わずもがなである。
そのすべてを"いやらしい"で纏めらたら、ルーフィスとて困惑してしまう。
「ダメって言うけど……サリーもウチのゲーリーを見かけたら、いつも頭部ばかり見ているじゃないか。それもいかがかと思うけど?」
「え、あ、だって……それは! ハゲーー」
サリーは慌てて口を閉じたものの、既にすべてを語ったも同然だ。
ゲーリーとは、ハウルベック侯爵家の庭師の事らしい。
フィーナは会った事がないので知らないが、風に吹かれるとチラチラ頭皮が見えるそうだ。それは、見るなと言われても、つい見てしまうだろう。
ゲーリーに会う機会があった時、フィーナは目が泳ぎそうだ。
「それに、そうだな。たとえばだけど、私の鼻から毛が出ていても、チラリとも見ないのかな?」
「やだ、ルー兄様!」
そう言われたサリー達は、ついルーフィスの鼻を思わず見てしまった。
勿論、鼻毛など出ていないし、鼻筋の通った綺麗な鼻だ。
「将来、もし私の髪が薄くなってきても……頭を見ないでいられる?」
「……ダメ、絶対、見ちゃうわ!!」
あの自慢のはとこルーフィスがハゲてきたら、サリーは悲しくてもつい見てしまう。サリーはそんな自信しかない。
「なら、スラックスのボタンが開いてたら?」
「「「……っ!?」」」
サリー達は一斉に、ルーフィスのスラックスを見てしまう。
だが、そこは、男が胸元や脚を見るのと同じで、女がガン見しても恥ずべき場所。
思わず見てしまったフィーナも含め、顔を真っ赤にさせ、両手で顔を覆った。
「ね? 比べる事ではないけど、不躾な視線は男も女も変わらないんだよ。そして、キミ達がそうやって気になる以上に、男は特に目のやり場に困る。そういう生き物なんだって、ちょっとでも理解してくれたら嬉しいな。姫君」
ルーフィスは腰を曲げて目線を合わせると、やんわりとサリーを嗜めた。
男のそういう視線のすべてが、許せるものではない。しかし、見るつもりがなくても、つい見てしまった場合は許して欲しいと。
「ルー兄様も?」
とサリーが上目遣いで訊けば、ルーフィスは茶目っけたっぷりの笑顔を見せた。
「ゲーリーの頭を気にするくらいには」と。
その仕草にフィーナ達は、顔を見合わせて笑った。
たとえ他の男は許せない視線も、ルーフィスなら許してしまいそうだ。
フィーナ達が楽しそうに笑っていると、どこか遠くの方で盛大なクシャミが聞こえた気がした。