10 可愛いお茶会
招かれたフィーナよりもソワソワしていた母マイラに見送られ、フィーナはハウルベック侯爵家にやって来た。
周りがソワソワしていると、何故か自分は落ち着くから不思議だ。
母のおかげで、妙な緊張感はなくなっていた。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
パーティーには身一つで、何も持って来ないでいいと記載されてあったものの、手ぶらだと何だか落ち着かない。
持参して来なかった者を皆で嘲笑する為、わざとそう教える貴族もいるからである。ハウルベック侯爵家からの招待ではなかったら、何かあるかもと持参していた事だろう。
「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。セネット家のフィーナ様ですね。どうぞ、ご案内致します」
招待状を見た執事長が、フィーナを奥の社交場へと連れて行く……のかと思ったのだが、邸から出て庭へ。
野外パーティーなのだろうか? と顔を動かさず目線だけ辺りを見渡していると、執事長が笑っていた。
「パーティーとは名ばかりの"お茶会"なので、ガゼボにお連れ致しております。フィーナ様」
フィーナが疑問に思っていたのを察した執事長が教えてくれた。
パーティーと称した、ただのお茶会らしい。
なら、ドレスアップは不必要では? と新たな疑問がフィーナに浮かぶ。
「着飾りたい年頃だと」
察してくださいと、執事長は苦笑いしていた。
まだ夜会に出る年齢ではないサリーだが、交流会を兼ねたお茶会は多少ある。しかし、お茶会はカジュアルな服装である事が多く、ドレスは着て行けない。
しかし、華やかなイメージのあるドレスアップは、どの世も女の子の憧れらしく着たいという欲が抑えられない。
だが、皆を集めるにはそれなりの理由と資金が必要で、我儘は許されなかった。
そんな欲を吐き出す場所が欲しいサリーは、親にはドレス慣れをしたいという体でドレスを作ってもらい、同じ考えを持つ友人達と度々お茶会を開いているそうだ。
……世話になっている侯爵邸で。
サリーに甘いルーフィスが、容認しているのだから仕方がない。
そのお茶会の開かれているガゼボには、すでに主催者サリーとその友人達が二名程集まっていた。
夜会とはまた違う華やかなドレスを纏ったサリー達は、フィーナを見つけると一様に席を立つ。
「フィーナ! 来てくれてありがとう!!」
淡い黄色のドレスを来ているのは、サリーだ。
フリルがたっぷり付いていて、動くとヒラヒラしてとても可愛らしい。
「素敵なドレス、そしてお茶会にお招き頂き感謝致します」
「ドレス似合って良かったわ」
フィーナが深々と頭を下げれば、サリーは笑っていた。
侯爵家の長子ルーフィスと再従妹ではあるが、サリーは子爵家の娘。立場でいうなら、伯爵家のフィーナの方が高い。なのに、ルーフィスに取り入りたい為ではなく、素で低姿勢なフィーナに思わず笑ってしまったのだ。
「さぁ、堅苦しい挨拶はともかく、皆を紹介するわね」
挨拶など早々に、サリーは友人達を紹介してくれた。
可愛らしい顔立ちの令嬢は、コーエン子爵の三女マーガレット。
少し目が吊り目の令嬢は、サマセット男爵の長女カーリー。
二人ともサリーと同じく、フリルやリボンがたっぷり付いているドレスを着ていた。フリフリ仲間といったところか。
「皆さん、フリルやリボンがいっぱいで可愛いドレスですね」
サリーを含め令嬢達は、これでもかって程にフリルがやリボンがあしらってあるドレス。
色合いやデザインが、彼女達に似合っているか微妙なところではあるものの、意外に可愛いドレスである。
もう少しデザインをこうしたらイイと思うが、フィーナは敢えて言及しない事にした。何故なら、コレはただの趣味。
本人達もそれが良く分かっているからのお茶会なのだ。
「でしょう!!」
「だけど、社交場では着れないんですよねぇ」
「リボンやフリルは幼過ぎるとか……言われるし」
「そうそう! 私は明るいピンクが好きなのに、お前には似合わないとか!!」
「ちょっとでも丈の短いドレスを着れば、場に合わないとかイチイチうるさいし」
「「「ねぇ!?」」」
やはりサリー達も、今着ているこのドレスが、社交場に合わないのは百も承知らしい。
子供同士の交流のお茶会でも、相手に馬鹿にされない様、流行や場に合ったドレスを着ているが、好みでないので気分がブルーになるそうだ。
だから、こうやってストレス発散するお茶会を開いている……という訳だった。
そこに、最近サリーお気に入りのフィーナが呼ばれたのである。
ちなみに、フィーナのドレスは丈も長い一般的なデザインだ。この女子会は初めてであるフィーナに、サリーが配慮してくれたのだろう。
「脚だって思いっきり出したいし、胸元だって出したい」
「だけど、親はうるさく言うだろうし」
「男はいやらしい」
余程、日頃の鬱憤が溜まっているのか、フィーナが来てからもブツブツと騒いでいた。
「自分の為に着て来ていても、勘違いするでしょうしね?」
サリー達の言いたい事が分かるフィーナも、思わず苦笑いだ。
確かに、ちょっと胸元や脚が見えるドレスを着ると、すぐにいやらしい目を向けて来る男がいた。
いくら自分の為だと言っても、それすら言い訳だと寄って来るに違いない。
隠さなくてもイイ。男を誘う為に、わざわざ肌が出る様なドレスを着て来たのだろうと、自分都合の解釈をした男達が現れるのが、目に浮かぶ様だった。
「「「そうなの!!」」」
フィーナの言葉に、サリー達はすぐに反応した。
そして、フィーナは自分達を理解してくれる。呼んで良かったと口々にし始めていた。