メル、困惑する
十一月の終わりに、トニーが「二人に話があるんだ」と切り出して、
「そろそろ、ゆめを連れて帰りたいんだけど、いいかな」
と話して、二人の顔を見る。
「えっ……」
意外な話だとジェニーの顔が曇る。
「トニーのお家で暮らすの? いいわよ。ねえ、ジェニーも一緒でしょう」
と屈託ない。
トニーが微笑んで「もちろんだよ」とゆめを抱き寄せて、頭を撫でる。ジェニーはこの成り行きに驚きながらも、ゆめと離れなくてよいことに安堵した。
ゆめとジェニーの部屋を整えるため、一週間後に移ることとなった。
その夜、トニーは家政婦のメルに、
「一週間後に娘が来るよ。明日から僕の隣の部屋を彼女の部屋らしくして、家具調度品を買い揃えるからね。服はジェニーにサイズを測ってもらって、ダニエルに注文してあるから。そのうちに届くと思うよ。そうそう、ジェニーも一緒だからね。彼女の部屋はジェニーの隣だね」
「娘って? どなたの娘さんですか」
メルはわけがわからず、戸惑っていた。
「僕の娘だよ」
「養女でも貰われたのですか?」
「いいや、僕と章子の子どもだよ」
「章子? だれですか」
「僕が愛した人だよ。最近亡くなってね。だから娘のゆめを引き取ることにしたんだ」
「本当にトニー様のお子様ですか」
「そうだよ。彼女に会ったら、僕の子どもだとすぐにわかるよ。スミス先生もご存知だよ」
「スミス先生が?」
メルはよけいにわからなくなるが、スミス先生がご存知なら本当のことなのだと考えられた。