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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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トニーの邸へ

 取り残された人たちはなんだか物足りないような、消化不良を起こしたような顔をしていた。

「トニーの秘書は最強だね」

 とスミス医師がおかしくてたまらないという顔で、トニーの肩を叩く。

 美貴が「ヒロ、ジィム。私たちはいつ帰るの?」と聞く。

「とりあえず今日はトニーのところだね。トニー、いいかい」

 と博樹がトニーに聞くが、返事の代わりに

「メル、ヒロが泊まるから夕食プラス三人分ね」

 と電話して、「スミス先生、メアリー、ありがとう。突然娘が一人できた父親は、若者を連れて帰るとしよう」と四人で帰っていく。

「トニーありがとう。どうしても章子を放っておけなくて。でも本当にいいの。養女ならまだしも、実子なんだよ」

「はっははは……本当になにが起きるかわからないね。大丈夫だよヒロ。僕はゆめが気に入ったし、メルも喜ぶと思うよ」

「メルが?」

 三人は車内でトニーの顔を見つめる。

 トニーはジェニーの車で来たので、博樹たちを迎えにいった大型車で自宅へ帰る。

 門から玄関までの両脇の庭にはバラが植えられていて、春から夏は見事に咲き誇っていた。

 車寄せに止まると運転席の横から若者が降りて、トニーたちのためにドアを開ける。トニーにつづいて博樹も降りて「ありがとう、アラン」と若者に声をかける。「お帰りなさいヒロ」と、にこっとする。

 玄関のドアが開いて「お帰りなさいませトニー様」と老女が出迎える。「ただいまメル」とトニーはメルに上着を脱いで渡す。博樹たちも挨拶して、それぞれの部屋へいってくつろぐ。

 車寄せから玄関のドアまでに三段の階段があり、広いポーチに大きなドアがある。なかは広い玄関ホールで、右手に行くと広間と食堂で、居間には肘掛け椅子やソファーにピアノが置いてある。食堂は二十人が座れる大きなテーブルがあった。左手に行くと二階への階段があり、博樹たちが仕事部屋に使っていた部屋がそのまま残してあって、図書室と大広間がある。昔はパーティを催していたが、いまはほとんど使われていない。会社主催のクリスマスパーティなどは社屋の一階であるホールで行われている。玄関ホールから左右にコの字型の建物で真んなかは庭になっていて、いろいろな草花や木々が植えられている。建物の右手には使用人の人たちのアパート風の二階建てがあり、独立して暮らせるようになっている。その一角に車庫がある。左手にはプールとテニスコートがあり、裏にまわると木々が自然な感じで植樹されている。そこに教会が建てられていて、月に一度、日曜日に牧師がやってくる。

 とても大都会にある個人の家とは思えない広さである。

 もともとブライス家は鉄道事業や道路の舗装事業で栄えた。いまでもつづいているが、トニーの祖父の代から繊維も扱うようになり、父の代で輸出入の事業もはじめて、大企業家になった。トニーはそれらの事業を独立させ、それぞれ社長を置いて自分は不動産業を営みながら全企業の会長としての仕事もこなしていた。

 彼は長身で鍛え抜いた体は現役のスポーツ選手のようである。所作も紳士的で女性の憧れの的である。プレイボーイとの噂もあるが……。

 夕食を食べながらゆめと里子の話になり、

「ナンシーはどう思うだろう。自分の娘がアメリカへ行って、亡くなったことになり、孫が一人増えたなんて……」

 博樹は章子の母、ナンシーのことが心配だった。

「そうね。まさか、こんなことになるなんて、私たちも考えなかったわね」と美貴。

「彼女は章子として生きるより、ゆめとして生きたほうが幸せだと思うよ」とジィム。

「明日、僕からも章子のお母さんに説明したほうがいいね」

「そうしてもらったら助かります。ナンシーも安心すると思いますから」

 トニーの言葉に博樹はほっとした。

 後ろ髪を引かれる思いで、翌日の朝食後、博樹たち三人は西海岸へ帰っていった。

 博樹は家に帰ってからも、章子、いえ、ゆめのことが頭から離れなかった。ゆめをスケッチしたものから油絵に描いてみる。そして、クリスマス休暇を待ち望んだ。

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