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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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ハッピーエンド

 ブライス邸へ帰ると、二人は博樹とゆめに会って、入籍してきたことを報告していた。

「帰ってくるなり入籍したんだね」と博樹がびっくりしていた。

「はい、章は僕の妻です」

「また急いだんだね。章に急かされたのかい」

「いえ、仕事があるからいつも構ってあげられないし、ほっておくとどこかへ行ってしまいそうで心配だし。結婚すれば、章も落ち着いて家にいてくれるだろうから僕も安心して仕事ができますからね」と宇宙の説明に「うん、奥さんだから家で待っているね」とうれしくてたまらないという顔をする。

「二人ともおめでとう。私もうれしいわ」とゆめの微笑む顔に宇宙は母親を感じて心が安まるのを覚えた。

「章はいままでどおり大学へ行ってもらって、卒業してもらいます。それでお願いがあります。生活はいまのまま暮らしたいのです。章に学生と主婦の両方は大変だと思うのです。卒業したら挙式をして、新居に移るつもりです。勝手な話だと思うのですが、お願いします」と真剣な顔になる。

「いいよ。宇宙、ありがとう。章のことを大切に考えてくれているのがわかるよ。僕たちにできることは、なんでもお手伝いするよ。遠慮なく言ってくれ」と博樹もうれしくてしかたがないという様子である。

「よかった。話をするまえに入籍したことを咎められるかと……」宇宙の心配をよそに、博樹は「君にもらってもらうのが、章の幸せだし、僕たちの望みでもあるんだよ。宇宙、章のことをよろしく頼むよ。章、宇宙と二人で幸せになるんだよ」

「お父さん、ありがとう。お母さん、私とても幸せよ」とゆめの胸に甘える。

「ヒロ、いえ、お父さん。お母さん。これからもよろしくお願いします。章と二人で幸せになります」宇宙と博樹が握手してハグをする。

 ゆめは愛娘を抱きしめて、「章、あなたならいい奥さんになれるわ。でも困ったことがあったら相談してね。いつまでも私はあなたの母親だから、私にできることは力になるわよ」と娘の幸せを願う。

 そばでずっと話を聞いていたトニーとジェニーも二人を祝って、「長生きをしていてよかった」と満面の笑みである。

 夕食時にはジュニアとエリザベスにウィルが祝福してくれる。

 ジィムと美貴もうれしくてたまらないようである。

 美貴は宇宙に「イギリスへも連絡してね。華もエルたちも喜んでくれるわ」と言う。

「私はルウシィに連絡するわ。彼女にはお世話になって心配をかけたから」

「そうね、章の一番仲よしの友達ですものね」とゆめもうなずいている。

 食後、トニーとジェニーが自室に戻り、あとに残った女性たちは章と宇宙の新居の間取りや家具の話で賑やかである。

 新居の建設は章が三年生になったらはじめることになっている。テニスコートとプールの場所に建てることになっていた。はじめの予定の家のうしろへテニスコートとプールを移動させることにもなっていた。これから子どもが増えることを想定していたので、プールとテニスコートを残すことにしたのだ。

 ジュニアとウィルは会社の経営の話を食堂のテーブルについたままで話していた。博樹とジィムと宇宙は、居間のテーブルを挟んで話していた。

「僕は小さいときにお父さんとお母さんが二人ずついると思っていたけれど、本当にそうなってうれしいよ」と宇宙は二人の父親と談笑していた。

 しばらくすると「お父さん」と章が呼ぶので、博樹がそちらを見るとゆめが座ったまま眠っていた。博樹はうなずくと、ゆめのそばに行って抱き上げる。そのまま皆に「おやすみ」と言って自室へ戻る。

 部屋に帰ると「章のことで心配して疲れたんだね」と彼は愛妻を寝かせて、自分は絵画の雑誌を読んでいる。そして、ゆめと出会えて結婚し、章が生まれたことなどを思い返して、しみじみと幸せを感じる。

 いつのころからか、ゆめの心臓はしっかり働いていて、服薬しなくてもいいとスミス医師からお墨つきをもらっていた。最近は息子の若先生がブライス家の主治医となり、老医師と妻のメアリーは自分たちの趣味を楽しんでいる。

 トニーのボディガードをしていたビルは、トニーが引退したのを機に、護身術を子どもに教える道場を開いていた。アランのほうはシアトルの実家に帰り、両親のレストランを一緒にして、かわいい妻や子どもに囲まれて暮らしている。

 ジュニアは自分かウィルの運転で通勤していて、ボディガードや運転手を雇うことはなかった。ウィルは取引先の社長の誕生パーティで知りあった令嬢の友人と気があって、お付きあいをはじめていた。彼女の家は両親が小さな本屋さんを営んでいる。読書が好きなウィルにはうってつけの彼女だった。

 ゆめは自分の幸せを感じるたびに、もう一人の娘、里子の幸せも願わずにはいられなかった。毎年、クリスマスに娘一家にプレゼントとカードを送っている。里子のお誕生日には手作りの服や彼女に似合いそうな帽子やバッグを送っていた。博樹とスチュアート夫妻やトニーとジェニー以外の人たちは、ゆめが異父姉妹に贈りものをしていると思っていた。

 そして、ゆめはジィムに自分がトニーから譲り受けた財産を管理してもらうように頼むと、昔、トニーから二つの銀行にゆめの口座を作って、大金が振りこまれていることもわかり、彼女はそれらを二人の娘に等分に譲った。

 ゆめは長く生きてきた幸せな時間を神に感謝して、これからも皆の幸せを願っていた。

これにて完結です。

母が残した物語を読んでくださり、ありがとうございました。

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