宇宙からのプロポーズ
日本へ着いた章はまえもって知らせておいたので、ルウシィに迎えに来てもらい、彼女のマンションへ連れてもらう。都内の高層マンションでアメリカ人と日本人の女の子三人でシェアしていた。
「楽しそう」と章は喜んで、彼女たちとも仲よくなった。
ルウシィの彼氏は実家に一人暮らしをしていた。彼の両親と弟はまだイギリスで、彼は日本の大学を出て、日本の企業への就職を希望していた。
食事の支度は順番にしていたが、今日は四人で用意をした。章もゆめの手伝いをしたりするので慣れていた。ルウシィは章がお料理できることにびっくりしていた。ルウシィは慣れた手つきで野菜を切る章に、「日本料理も美味しいわよ」と味噌汁を教える。自分もさせてもらい喜んでいろいろ聞きながら覚える。
「しばらくここにいてもいい」と三人に尋ねると、三人とも「いいよ」との返事なので安心する。その夜はお風呂に入ると、章は疲れていたので、すぐにルウシィのベッドで眠ってしまう。
ルウシィたち三人はお喋りを楽しんでいたが携帯が鳴るので、ルウシィが出ると、宇宙だった。
「夜にごめん。章は無事に着いた」と章の安否を尋ねる。
「宇宙おじさま。ええ、章は大丈夫よ。さっき寝てしまったわ。なにかあったの。章はなにも言わないし、ただ私に会いたかったからと言うだけなの」
「ええ、構わないけれど。九時ぐらいに学校へ行くから八時半ぐらいに来てもらっていい」
「わかった。八時三十分に行くよ。僕が行くことは、章には言わないで。それじゃあ、おやすみ」と電話が切れる。
「明日の朝、八時半ぐらいに伯父が来るけれど、章に用事があるみたいだから、さきに学校へ行ってくれる。すぐあとから行けると思うわ。それからいまの話は章には言わないでね」と友二人に話しておく。
翌朝、朝食の片付けをしているとチャイムが鳴り、ルウシィがすぐに出る。入ってきた宇宙を見た二人の女子は、若く見えるうえに美男子な伯父にびっくりしていたが、さきに出かけてしまう。
「ルウシィ、おはよう。章はどうしている」
「朝食の片づけをしているの」
「章が」
「そうよ。昨日からね。どうやら面白いらしいわ」と微笑む。
宇宙はルウシィの後ろから台所の入り口に立って、章を見る。彼女は無心にお皿を洗っている。一枚一枚、丁寧に水で流して、食器乾燥機に入れている。
「章、私も学校へ行ってくるね。鍵はテーブルのうえに置いておくから。出かけるときは閉めてね」
「はーい、わかったわ。行ってらっしゃい」と洗いながら返事をする。
「行ってきます」とルウシィも出かけてしまう。
章は一人、楽しく片づけを終えて、振り返ると、そこに宇宙が立っていてにこにこしているのにびっくりする。
「宇宙、どうしてここにいるの」
「さっきからずっといるよ」
「ルウシィはどうして言ってくれなかったのかしら」
「僕が言わないように頼んだんだよ。そうしないと章はまたどこかへ行ってしまうかもしれないと思ったからね。僕が来たわけはわかっていると思うけれど、君から手紙のことを聞きたかったんだ」
「手紙に書いたとおりよ。私は自分が愛していることを宇宙に押しつけて、あなたの気持ちを聞きもしないで、勝手に愛してくれていると思っていたの。自分のことばっかり考えて、本当に馬鹿な子どもだと気がついたの。ごめんなさい。だから宇宙は、宇宙の好きになった人と幸せになってね」
「そうするよ。君は僕が大切に子守をしたのに、僕の気持ちがわからないお馬鹿さんな子だね。章、愛しているよ。僕と結婚してください」
「えっ」章の大きな目が、いっそう大きく見開いている。
宇宙は「君が言ったとおり、僕は僕の好きな章と一生を共に暮らしたい」
「宇宙も私のことを愛しているの」
「そうだよ。愛している。誓いが必要なら、神に誓って、章を愛している。帰ったらすぐに結婚しよう。君を一人にしておくと、どこへ行ってしまうかわからないから。僕は落ち着いて仕事ができない。入籍しても生活はいままでどおりで、君は大学へ行くこと。卒業したら挙式しよう」
「うれしい」と章が泣きだしたので、宇宙は愛しい恋人を抱きしめて口づけをする。
章はルウシィに手紙を書いて、テーブルに置き、宇宙と一緒にニューヨークへ帰る。
機内で宇宙が日本で生まれ、五才までいたことなどを話してくれたので、日本へまた来たいと思った。自分の父と宇宙の母の国でもある。




