友人との何気ない会話で
章は大学のグループで楽しく過ごしていた。
「あのね、私、彼と一緒に住むことにしたの」
「いいな〜」とほかの女子が羨ましがる。
「お家賃は半分だし、女ひとりだと用心悪いでしょう」
「私も彼に言ってみようかしら」
「私は親が許してくれないわ」と友達はいろいろと話しあっているが、章には無縁の話だった。
「私は一人暮らしだけれど彼に気を使うから、お互いに一人のほうがいいな」と言う友達に、「一人で淋しくないの」と章が聞くと「全然平気よ。それに時々彼が泊まりにくるから」と笑っている。
「章の家は大家族よね」とほかの子が聞く。
「ええ、両親と祖父母と叔父夫婦に従兄弟。それにお父さんの仕事仲間のおじさんとおばさんに息子さん、私を入れて十一人家族よ」
「すごい。章の家って広いのね」
「私、高校のときに遊びに行ったけれど豪邸よ」
「私もあるわ。章のお祖父さんはトニー・ブライスよ」と別の子が言う。
「ええ、あの大富豪のトニー・ブライス」
「そうよ。お庭も公園のように広かったわ」
皆、章がいつもブランドものを身につけていたり、高級車に乗っているわけがわかった。
「章が特定の彼氏を作らないわけがわかったわ」
「ええ、どうして」と章が聞き返す。
「お嬢様は親が決めた人と結婚するんでしょう」と言われ「そんなことないよ」と反論する。
「そうなの。でも男性のほうが気を遣って疲れそうね。あ、章の場合は違うかもしれないから、気にしなくていいと思うよ」と、それこそ気を遣ってくれる。
「ええ、ありがとう」と笑顔で言うが、心のなかで「宇宙も、私に気を遣っているのかしら」と不安になる。
「私は好きな人に、自分の全部は見られたくないから、やはり一人がいいの」
「そうね、一緒に暮らすけれど、部屋は別々にするの。一人になりたいときもあるからね」
「夜も」
「ふふふ……夜は一緒よ」
「いやだ〜」
「あら、当然よ」
「それはそうね。私の彼もよく言っているの」
「男って、皆考えることは一緒ね」
「ほんと大人なのか子どもなのかわからないのよね」
「あら、章。どうしたの。こんな話、嫌だった」
「いいえ、大丈夫よ。いつものことだもの」
「章は好きな人いないの」
「好きな人ね……家族」
「これだもの。お子様扱いされるのも無理ないわね」
「私って子どもっぽい」
「う〜ん、見た目はすごい美人で男の子は付きあいたいと思うでしょうけれど、話してみると妹キャラよね」
「そうなんだ」と改めて思う。
「宇宙も私のこと、子どもっぽい妹だと思っているのかしら。気を遣って婚約してくれたのかしら」と心のなかで考えてみる。
「ねえ、男性が結婚したいと思うのは、どんなときなのかしら」と友人たちに尋ねる。
「それは愛情があって守りたいと思って、経済力があればじゃない」
「人によっては女性もしくはその親の財力や世間的地位で決める男もいるわね」
「そうよね。男として情けないわよね」
「親同士が決めたとか、なにかの理由があってしかたなく結婚する人も世のなかにはいると思うけれど……」
「人それぞれよね」
友達の話を聞いているうちに、ほとんどが自分に当てはまるという思いにいたる。
一週間、悩んで過ごす。そして章が出した結論は……。




