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ゆめの時間  作者: 秋山章子
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章、大学生になる

 章は高校最後の年を受験勉強と宇宙との時間に費やした。

 トニーや宇宙の母校である大学に受かり、新学期には宇宙が車で送ってくれた。

「帰りはエリザベスが迎えにきてくれるからね」と優しく伝えると仕事へ行く。

 高校からの友達に会うと、楽しく話しながら校舎へ入っていく。長い黒髪の美少女としてすぐに有名になり、男子学生に話しかけられることが多くなった。高校からの友達と新たに親しくなった友達たちとのグループで楽しい大学生活を送れるようになった。しばらく経つと、章は車の運転免許をとり、トニーに赤い車を買ってもらい、大学は一人で行くようになる。

「章はいいわね。すぐに新車を買ってもらえるなんて。すごいじゃない」

「章のお父さんってなにをしているの」

「お父さんは画家なの」

「ええ、なに山本なの」

「博樹・山本よ」

「あの有名な」

「お父さんって有名なの」

「章、自分のお父さんなのに知らないの」

「外国でも個展はしているけれど、私にとってお父さんは優しく頼もしい人なの」

「私は章と高校から友達だから章のご両親を知っているわ」

「えっ、どんな人」

「とっても素敵なお父さんよ。それにお母さんがね、すごく美人なの」

「そうでしょうね。章も美人だしね」

「そうなの。章はお母さんにそっくりなの」

「親子だから似ていて当然じゃない」

「それが面白いぐらい似ているの」

「面白いって失礼ね」と章は仲よしの友達に言うが、目は笑っている。

「彼氏に送ってもらう人以外で、同じ方向の人は送っていくよ」と二人の友達を乗せて帰宅の途につく。

 家に帰ると父の仕事部屋に行き、座りこんで父の仕事をしている姿を見る。

 幼いころから見慣れている姿だ。ずいぶんと年をとったと思うが、年よりも若く見えるとも思った。仕切りの向こうのジィムと美貴にも「ただいま」と聞こえるように言って、「おかえり」の言葉とともに台所の母とエリザベスにも挨拶に行く。二人にキスしてハグしてもらい、居間にいるトニーとジェニーのところへも行って、キスとハグを繰り返す。

「ねえ、トニ。お父さんって有名な画家なの」と大学での話をする。

「そうだよ。ヒロは世界的に有名な画家だよ」とソファの隣に座っている章の肩に腕をまわして、うれしそうに話す。前の椅子に座っているジェニーも「色使いがきれいなのよね」と絵の感想を述べる。

「どうして、お母さんや私の絵を個展に出さないの。皆お父さんは風景画家だと思っているの。お母さんと私はだれかわからないように描いているでしょう」と聞くと「一度、ゆめが恐い目にあってね。それからヒロは自分の奥さんの顔がわからないように描くようになったんだよ」

「恐い目に」

「そうだよ。でも大丈夫だよ。ヒロがゆめを守ってくれたんだ」

「お父さんってヒーローのような人ね」

「そうだね。ゆめにとってはヒーローだと思うよ。章にとってのヒーローは宇宙だね」

「うん、宇宙は私の願いはすべて叶えてくれるの」

「ははは……それは宇宙も大変だな」とトニーはかわいい孫娘の頬にキスしてご機嫌だった。

 ジェニーは章の艶やかな黒髪を三つ編みにして赤いリボンをつける。章はジェニーに甘えて「ジェニーの髪も三つ編みにしてあげる」と今度は章がジェニーの髪を三つ編みにして彼女の頬にキスする。

「ジェニー、若返ったよ」とトニーの声に、ジェニーが三つ編みを持ってポーズをとる。明るい笑い声に包まれていて、高齢の二人も章といると元気が出る。

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